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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校二年生編
63/110

高円寺 雅也サイド①

今回思いの外長くなったので、二つに分けました。

     ◆◆◆◆◆


 夏休みも明け、いつも通り桐林達と早崎のいる生徒会室で寛いでいると、ヴァイオリンの手入れを終えたカルロスが早崎に近付き、今度行く修学旅行の話をし出した。

 高円寺はその二人の距離が少し近い事に、どうしてだか分からないがムカムカする。

 どうもカルロスが現れてから、このムカつきがよく起こっているのだ。

 それも、カルロスと早崎が一緒にいる時が一番酷くなる。

 自分でも抑えきれないこの感情に戸惑いながらも、どうしても二人を極力近付けさせたく無くて、ほぼ毎日この生徒会室に通っているのだ。

 そんな思いもあり、高円寺は楽しそうに話している二人を眉間に皺を寄せて見つめる。

 するとさっきから、カルロスがわざと大きな声で早崎と一緒に過ごす旅行の計画を、こちらにチラチラ視線を寄越しながら話している事に気が付く。

 そしてその視線が合う毎に、自慢顔でニヤリと笑ってくるので益々高円寺の眉間の皺が深くなった。

 チラリと桐林達の様子を横目で見てみると、そちらも高円寺と同じように眉間に皺を寄せカルロスを睨み付けている。

 そんな高円寺達の様子を分かっていながらも、カルロスはその自慢顔を止めようとしなかったのだ。


「・・・なあ雅也・・・ちょっと相談があるんだが」

「・・・豊?どうした?」


 高円寺がカルロスを睨み続けていると、横にいた桐林が小声で話し掛けてきた。

 そんな様子に高円寺は怪訝な表情で桐林の方を向くと、すでに藤堂と榊原が真剣な表情で桐林に顔を寄せていたのだ。

 その様子に、高円寺も真剣な表情になり桐林に顔を寄せると、桐林はチラリとカルロス達の様子を確認してから、さっきよりもさらに小声で話し出した。


「今、健司と誠にはもう話したんだが・・・早崎君達の修学旅行に俺達も行かないか?」

「・・・はっ?私達は三年生だから、修学旅行に参加する事など出来ないぞ?」

「そう言う意味では無い。俺達が個人的に行くんだ」

「・・・どう言う意味だ?」

「え~とね~。僕その日にその国で、モデルの仕事出来ないか両親に聞いてみるつもりなんだ~」


 桐林の言ってる意味が分からず怪訝な表情で問いかけると、桐林の向かいに座っていた榊原が話に割って入ってくる。


「俺もその国に親父の知り合いがいて、その知り合いに前々から子供に剣道を教えて欲しいと頼まれていたから、俺親父に頼んでその日に行こうかと思ってるんだ」

「・・・健司?」

「そして俺も、その国に俺が経営してる会社の支店があるから、その日に視察を入れようと思っている。・・・どうだ?ここまで言えば、察しの良い雅也なら分かるだろう?」

「・・・ああ。私も確かその国に親戚が住んでいた筈だから・・・会いに行ってみるか」


 高円寺がそう言い口角を上げると、それを見た三人も揃って口角を上げたのだ。

 そうして高円寺達は実家と学園側に許可を取り、早崎達が修学旅行に出発して少し遅れてから、高円寺達も学園から出発したのだった。



 高円寺達は予め修学旅行の旅程を確認してあった為、とりあえず早崎達が二日目に泊まるホテルに前日から泊まる事にしたのだ。

 そして到着したその日は四人で夕食を食べた後、すぐ部屋に戻り次の日に備えてゆっくり睡眠を取った。

 そうして十分な睡眠を取った高円寺達は、早崎の自由時間の時間になるまで各々好きに過ごし、ホテルで昼食を食べた後四人で街へ繰り出したのだ。

 一応早崎とカルロスが話していたのを聞いていた事で、自由時間の予定は大体把握していた高円寺達は、早崎達がいるであろう街中を四人で歩く。

 暫く四人で歩いていると、現地の女性や観光客の女性達が高円寺達に気が付き、あっという間に取り囲まれてしまった。

 女性達は黄色い声を上げ興奮気味に話し掛けて来るので、高円寺達は皆苦笑の表情で困っていたのだ。

 すると高円寺はその女性達の集団の向こうに、カルロスの顔が微かに見えたのを確認し、他の三人に声を掛け女性達に断りを入れて道を開けて貰う。

 そうして人垣を抜けた先に、目的の人物である早崎達を見付ける事が出来たのだ。

 そして予想通り、高円寺達の姿を見て早崎達は驚きの表情で固まっていた。

 高円寺達はその様子にしてやったりの笑顔になり、手を振って早崎達に近付く。

 早崎達の下に着いた高円寺達は、戸惑っている早崎にここにいる理由を話すと、早崎は呆れた表情を高円寺達に向けてくる。

 しかしそれよりも高円寺達は、カルロスがとても不機嫌そうに高円寺達を睨み付けてきている事に気付き、ニヤリと笑ったのだった。

 その後高円寺達は、自由時間が終わるまで早崎達と一緒に街を散策し、そして早崎達と別れた後一足先に早崎達が泊まる予定でもある、自分達が泊まっているホテルに帰りホテルのロビーで早崎達を出迎える。

 そしてそこでも、高円寺達の姿を見て驚く早崎達の様子に、高円寺達は満足気な表情をしたのだった。

 そうして一緒のホテルに泊まった事で、高円寺達はトランプ大会をしようとしていた早崎達に無理矢理混じり、楽しい夜を過ごしたのだ。



 次の日になり、学園を休む口実に使った用事を済ませる為、高円寺達はそれぞれ目的の場所に出掛けていった。

 高円寺もこの国にいる親戚の家に向かうと、そこで今年生まれたばかりの赤ちゃんを見せて貰い、そして昼食を一緒に食べてからあまり長いしては悪いと言って、引き留めて来る親戚に別れの挨拶をしてから、車に乗って親戚の家を後にしたのだ。

 そうして帰り道にある街を通った時、そこが今日早崎達の自由時間に回る街だった事に気が付いた。

 そして何気に窓の外を眺めると、道の向こうにチャラチャラしたこの国の男と、その男に手首を捕まれ嫌そうな顔で足早に連れられている早崎の姿が見えたのだ。

 高円寺はその様子に驚き、さらによく見ようと窓の近くに身を乗り出すと、その二人が今まさに暗い裏路地の中に消えていく瞬間を目撃した。

 その様子を見てとても嫌な予感を感じた高円寺は、すぐ運転手に車を止めさせ近くに待機しているように指示を出してから、急いで早崎達が入っていった裏路地に向かう。

 そして高円寺がその裏路地に足を踏み入れた瞬間、その先に見えた光景を見て一気に頭に血が上った。

 何故ならそこには、男に羽交い締めされた状態で壁に体を押し付けられた早崎の姿があったからだ。

 そして恐怖で、目を強く閉じているであろう早崎の白い首筋に、今まさに男が舌を出して舐めようとしている瞬間を目の当たりにする。


『その汚い手を離せ!!』


 そう高円寺は怒りを滲ませ叫ぶと同時に、一瞬で男との距離を縮めると、間髪入れずに右足で男の脇腹目掛けて蹴り上げたのだ。

 すると男はその突然の蹴りに対応する事が出来ず、蹴られた勢いのまま凄い勢いで路地の奥に山積みにされていた木箱に激突した。

 高円寺は暫し崩れた木箱の方を見つめ、男が立ち上がって来ない事を確認すると早崎の方を向く。

 早崎は、呆然と崩れた木箱の方を見て動く気配を見せなかったので、高円寺は心配になり声を掛けると、その声に驚いたのか体をビクリと反応させゆっくりとこちらを見てきた。

 しかし早崎は、信じられないものでも見たような表情で高円寺を見つめ、何故ここにいるのか尋ねてきたのでその理由を答えようとした時、邪魔するように男の声が被さってくる。

 高円寺はその声の主が蹴飛ばした男だと分かり、さらに良い所を邪魔しやがってと言う男の発言に、先程の早崎が襲われている光景が脳裏に蘇り、殺意にも似た怒りが腹の底から沸き上がってきた。

 男はそんな高円寺の様子に気付きもせず、拳を振り上げ殴り掛かって来た為、高円寺は容赦無くその男を叩きのめしたのだ。

 そしてすぐ近くに待機させていたSPを携帯で呼び、慌ててやって来たSP達に地面で昏倒する男を連れていかせた。

 暫く路地の入口を見つめた後、もう心配は無いと言う意味を込めて笑顔で早崎の方を振り向くと、漸くホッとした表情を見せてくれたのだ。

 しかし次の瞬間、早崎はズルズルと足から崩れその場に座り込んでしまった。

 高円寺はその様子に驚き急いで早崎の下に駆け寄ると、地面に片膝を着き早崎の顔を伺い見る。

 するとそんな高円寺を安心させようと、早崎は笑顔を作ろうとしたようだが上手く出来ていなかった。

 そして次第に早崎の体が激しく震えだし、その震えに早崎は戸惑いの声を上げ自分の体を抱きしめたのだ。

 よく見ると早崎の目から涙が溢れ、その頬を濡らしている事に気が付く。

 どうも本人は、涙を流している事に気が付いていなかったのか、自分の頬に手を当て驚きの表情をした。

 そのあまりにも痛々しい姿に、高円寺は思わず早崎を抱きしめ頭を胸に抱き込んだ。

 その突然の行動に最初早崎は激しく抵抗したが、高円寺の言葉で大人しくなり次に胸の中で声を上げて泣き出した。

 高円寺はそんな早崎の背中や頭を優しく撫で、落ち着くまでずっとそうして上げたのだ。

 暫くして落ち着きを取り戻した早崎は、高円寺の胸に手を突いて体を離そうとしたが、高円寺は何故か早崎の温もりが離れる事が嫌だと思い、背中に回している手の力を緩めなかった。

 早崎はそんな高円寺の様子に戸惑い、高円寺の顔を見上げながら何か色々言っているが、あまり耳に入って来なかったのだ。

 そうして早崎の顔を無意識に見つめ続けていると、痺れを切らした早崎が耳元で声を掛けてきた。


「高円寺先輩~?・・・聞こえてますか~?」


 そう囁かれ高円寺はハッと我に返り、すぐに謝罪の言葉と共に早崎の体調を確認すると、少し名残り惜しい気持ちもありながら早崎の背中から手を離し、早崎が立ち上がるのを手助けする為その場で立って手を差し出す。

 すると一瞬早崎の表情が少し寂しそうに見えたのだが、すぐに無くなり高円寺の手に自分の手を添えてきたので、その手を握り引っ張って立たせた。


「っ!」


 その瞬間早崎が苦悶の表情を見せた為、高円寺は慌てて早崎の手首を確認し、そこに真っ赤に付いた手の跡を見付ける。

 早崎はその跡を見て、さっきの男が強く握っていた事で付いた跡だと聞いた高円寺は、再びあの男に対し殺意に似た怒りが込み上げてきたのだった。

 その後早崎から何故こんな状態になったのか聞き出し、そして早崎は三浦達が心配してるだろうからと言って急いで戻ろうとしていたのだが、高円寺は咄嗟に早崎の腕を掴み引き留める。

 そしてそんな高円寺に戸惑う早崎を説得し、二人で街を見て回る事にした。

 ただ早崎には目が凄く真っ赤だからと言って引き留めたが、実際はそこまで赤く無く暫くすればすぐ治まるレベルだったのだ。

 だが何故そんな嘘までついて引き留めたかと言えば、高円寺はまだ早崎と離れたく無いと思ってしまったからであった。

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