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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校二年生編
58/110

氷の大将との決勝戦

今回も剣道の試合は想像で書いているので、色々おかしい点が多々あると思いますが、気にしないで読んで下さい。

 私は自分の竹刀を持ってその場に立ち、チラリと藤堂弟を見る。

 その藤堂弟は正座の格好で俯いていて、膝の上に置いてある手を力一杯握りしめていた。

 その様子を見て、私は思わずギュッと唇を噛み締める。


「早崎・・・」


 近くで聞こえたその声に下を向くと、私と同じように藤堂弟を見ていた日下部が不安そうに私を見上げてきたのだ。

 私はその日下部に無言で頷き返し、敢えてそのまま試合場に向かわず遠回りして藤堂弟の横に立つ。

 そして私が横に立っても、俯き続けている藤堂弟の肩に正面を向いたままポンと手を置く。

 その瞬間、藤堂弟が肩をビクッと震わせたのが手から伝わってきた。


「大丈夫、僕を信じて!」


 そう力強く言うと、ハッと息を飲む音と共に私をじっと見上げてきている気配を感じたが、私は敢えて藤堂弟の方は見ず正面にいる皇を凝視していたのだ。

 そして藤堂弟の肩を軽く叩いた後、私は試合場で待つ皇の前に向かっていったのだった。



 すでに主審の前で待っている皇と、対峙する位置に私は立った。

 しかし私が試合場に出ると、会場内の雰囲気はほとんど私を哀れんでいるような空気が漂っていたのだ。

 確かに、今まで無敗だった藤堂弟が皇を相手にした途端あっという間に敗れ、その後の選手も誰一人として皇を追い詰める事無く簡単に敗れてしまい、さらに大将として出てきたのが皇と体格差がある細身の選手ならば、誰しもどちらが勝つかなんて予想出来てしまったのだろう。

 そんな空気をひしひしと体に感じながらも、私は主審の指示で一礼し竹刀を構え開始の合図を待った。

 そして私は、竹刀を構えながらギュッと持ち手を強く握りしめ、一度深く深呼吸をしてからスッと表情を無くし皇を見据える。

 するとそんな私の様子に、皇はピクッと眉を動かした。


「では、東城高校対星蘭学園の大将戦・・・始め!!」


 その主審による、開始の合図が会場内に響き渡る。

 しかしその開始の合図が上がったのに、私達はお互い間合いを開けたまま一気に距離を縮めず、一定の距離を保ったままお互いを見てゆっくり円を書くように横に歩を進めていた。

 そうして暫く竹刀を構えた状態でグルグル回っていたが、皇がピタッと足を止め一気に間合いを詰めて私に迫ってきたのだ。

 私もその動きに合わせ、素早く足を踏み込み間合いを詰めて行く。


「はぁぁーーーー!!」

「やぁぁーーーー!!」


 皇と私が気合いの声を上げさらに距離を詰めると、皇が一歩早く竹刀を振り上げ私の頭を狙ってきたのだ。

 そのあまりに素早い打ち込みに、皇本人も含め会場内の殆どの人が皇の『面』一本勝ちを確信しただろう。

 しかし私は、その動きよりもさらに早く動き、サッと身を低くして皇の竹刀を避けると同時に、グッと足に力を込めて低い姿勢のまま皇の横を素早く走り抜けた。


「胴ーーーー!!」


 そして走り抜けながら、凪ぎ払うかのように竹刀を皇の胴に打ち付け叫んだのだ。


「い、一本!それまで!!」


 一拍遅れながらも、主審は私の学校の色である赤い旗を上げ試合終了を宣言した。

 私はその声を聞き、スッと打ち込んだ低い姿勢から立ち上り皇を見る。

 その皇はと言うと、私に胴を打たれた格好のまま何が起こったのか理解出来ないでいるらしく、そのまま固まってしまっていた。

 しかし主審の開始位置に戻るようにと言う声に、ハッと我に返った皇は無言で開始位置に戻っていく。

 私もその様子を見ながら、しっかりとした足取りで開始位置に戻ったのだ。

 そして開始位置に立ち皇の表情を見ようとしたが、顔を少し下に向けていてその表情を見る事が出来なかったのだった。

 ふと私は会場内がシーンと静まり返り、観客席にいる人々が呆然とした表情で私達を見ている事に気付いたのだ。

 そうして私達が開始位置に戻ったのを確認した主審が、もう一度赤い旗を上げる。


「決勝戦勝者、星蘭学園!」


 そう主審が高々と宣言すると、次の瞬間割れんばかりの拍手と大歓声が会場内に響き渡ったのだ。

 そして主審の指示でお互い一礼し、私は皆の待つ待機所に戻ろうと踵を返したその一瞬、チラリと見えた皇の目が私を鋭く見つめていたのだった。



 私は皆の下に戻ると、すでに立ち上がって喜んでいた皆に取り囲まれ、肩や頭を叩かれたり撫でられたりしながら感謝されたのだ。

 そしてふとその輪の中にいない藤堂弟を目で探すと、少し離れた場所でその場に立ち尽くし、目を潤ませながら呆然と私を見ている事に気が付く。

 よく見ると、頬が上気しているかのようにほんのり赤く染まっていた。

 私はそれを不思議に思いながらも、まだ叩いてくる皆に暑いからと断りを入れ面と頭に巻いてたタオルを取り、日下部から手渡されたタオルで顔の汗を拭って藤堂弟の下に近付く。


「藤堂君、勝ったよ!見ててくれた?」

「・・・はい」

「言っただろ?大丈夫!って。ねぇ信じてくれてた?」

「・・・はい」

「・・・お~い!藤堂君どうしたの?」


 どうも上の空で私に返事を返す藤堂弟の様子に、私はさらに顔を近付け藤堂弟の顔を伺い見る。

 すると突然藤堂弟はハッとした表情になり、慌てた様子で体を離すとさっきより赤くなった顔のまま、いきなり私に向かって頭を下げてきたのだ。


「と、藤堂君!?どうしたの!?」

「すみません!今まで早崎先輩の事、散々悪く言ってしまって!」

「いやべつに、僕全然気にしてないから良いよ。だから、頭上げて!」

「でも俺が気にするんです!それに、今回は早崎先輩のお陰で優勝出来たようなもの!本当にありがとうございました!」

「いやいや、僕は一回しか出てないからさ。それに優勝出来たのは、決勝まで藤堂君が頑張ってくれたおかげだよ!こちらこそありがとうね!」

「っ!早崎先輩!!」


 藤堂弟が勢いよく顔を上げ、キラキラした目を私に向けてくる。

 そのあまりにも真っ直ぐな目に、私は若干引き気味になり思わず後ろに一歩下がると、代わりに藤堂弟がグッと距離を縮めて私を見上げてきたのだ。


「と、藤堂君?」

「俺・・・早崎先輩の強さと優しさに感動しました!なので・・・早崎先輩の事、響兄様と呼んで良いですか?」

「えっ!?」

「・・・駄目ですか?」

「うっ!」


 突然の申し出に驚いていると、藤堂弟が潤んだ瞳で私を見上げてくるので、そのあまりの可愛さに言葉を詰まらせた。


ヤ、ヤバい!!ハッキリ言って嬉しい!!でも・・・出来れば詩音姉様と呼んで欲しいーーーーー!!!


 そう心の中で身悶えながら、それを表情に出さないようふわりと頬笑みを浮かべる。


「良いよ。なら僕も、健斗君と呼ぶね」

「・・・っ!は、はい!ありがとうございます!」


 藤堂弟は私の顔をポーと見つめ、顔を真っ赤に染めながら嬉しそうにしていたのだった。



 その後表彰式があり、私が代表として優勝旗を受け取ったのだ。

 そして閉会式を終え私達は学園に戻る為、会場の外でバスを待っていた。

 するとそこに、観客席にいた藤堂兄達四人とカル達三人が来て私達の優勝を祝ってくれたのだ。

 そうして暫く皆で話していると、また藤堂兄が困った表情で私の後ろの方を見ている事に気付き、何だか嫌な予感を感じながら後ろを振り向いた。

 そしてそこには予想した通り、制服姿に着替えた皇がじっとこちらを見ながら立っていたのだ。


「皇!何しに来た!!」


 そう言って藤堂弟が、私の前に立ち手を広げて皇を睨み付ける。

 その私を守るような行動に、思わず顔がにやけてしまった。

 正直今すぐ藤堂弟の頭を、撫でぐり回したい気持ちで一杯であったのだ。

 だが皇はそんな藤堂弟を一瞥すると、すぐに視線を外し私を見てくる。


「・・・藤堂の弟、お前に用は無い。俺が用があるのは・・・お前だ」

「僕?」

「ああ、お前・・・名は何て言った?」

「えっ?僕の名前?僕は早崎 響だけど?」

「そうか・・・早崎 響・・・覚えておこう」


 それだけ言って皇は、踵を返して去っていってしまったのだ。

 その皇の行動が全く理解出来ず腕を組んで首を傾げていると、藤堂兄が私の横にきて苦笑しながら私を見てきた。


「あ~あ、ありゃ皇に名前覚えられたな」

「へっ?それがどうかしたんですか?」

「いや、あいつな・・・昔っから興味の無い人の名前は覚えない奴だったんだが・・・一度興味を持った人の名前だけはしっかり覚えて、その後しつこく絡んで来るんだよな~」

「昔っからって・・・藤堂先輩と皇さんは知合いだったんですか?・・・って、名前覚えられるとしつこく絡まれる!?」

「ああ、皇とは中学まで一緒の学校だったんだ。そこで同じ剣道部に所属していてな・・・まあ色々あって、俺の名前覚えたあいつがしつこいぐらいに俺との勝負を熱望してきたんだ。だから・・・多分早崎も、俺と同じ事になると思うぞ」

「うげ!・・・名前教えるんじゃ無かった!」

「まあまあ、あいつ口は悪いがそんなに悪い奴じゃ無いからさ」


 そう藤堂兄は言うが、私としては面倒くさそうな人が増えたようでうんざりしたのだった。


「それよりも健斗君、僕を庇ってくれてありがとうね!」

「いえいえ!響兄様の為ですから!」

「お?お前達、いつの間にかそんなに仲良くなったんだな。それに健斗・・・お前、早崎に名前で呼ばれるようになったのか?」

「はい!」

「そうか・・・」

「あれ?兄様は名前で・・・あ!呼ばれて無かったんでしたね・・・」

「あ~なんかごめんなさい!もうこの際折角だし、藤堂先輩も名前で呼びますね!」

「えっ?」

「健司先輩!」

「・・・っ!」


 私が名前で呼ぶと、藤堂兄は一瞬固まりすぐに口許を手で覆い隠し目線をさ迷わせたのだ。

 そしてよく見ると、耳まで真っ赤に染まっていたのだった。

 どうやら私が突然名前を呼んだ事で、すっかり照れてしまったようなのだ。

 私はその姿にムクムクとイタズラ心が湧き、ニヤニヤしながら藤堂兄に顔を向ける。


「健司先輩!!」

「っ!」

「健司先輩!健司先輩!」

「あ~!わ、分かったから!早崎もう止めろ!」

「え~健司先輩どうしたんですか~?」


 そうして私は、バスが来るまで照れる藤堂兄をからかい続けていたのだった。

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