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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校二年生編
54/110

ヴァイオリニストと旧生徒会メンバーとの出会い

 まさか高円寺がここに現れるとは思わなかったので、私は驚きの表情のまま固まってしまう。

 するとカルが私の耳元に顔を近付け、小声で話し掛けてきた。


「ねえ、あの人は君の秘密知ってるの?」

「し!・・・知ってる訳無いよ!この学園内で知ってるのはカルだけだよ!」


 動揺で一瞬大きな声を出し掛けたが、なんとか声を抑え私も小声でカルに答える。

 しかしその私の答えを聞いたカルは、何か思案した後高円寺に視線を向けニヤリと口角を上げて笑った。


「ふ~んそっか。じゃあ・・・あれは無意識か。でも、秘密を知ってるオレの方が断然有利だな」

「・・・カル?」


 そんなカルを私は不思議そうに見上げると、カルはニコリと私に微笑みを返しさらに抱きしめる力を強めてきたのだ。


「ちょ!カル!いい加減に離してよ!!」

「ダ~メ~」


 カルはクスクスと笑いながら全く腕の力を緩めてくれず、私は身を捩りなんとかその腕から逃れようとしていた。

 するとその時、私を抱きしめていたカルの腕が別の人物に掴まれる。


「・・・いい加減にしないか。早崎君が嫌がっているだろ?」


 そのとても近くから聞こえた静かだが怒気を含んだ声に、恐る恐る声のした方を見上げると、そこにはいつの間にか近くまで来ていた高円寺が、カルの腕を掴み鋭くカルを睨んでいたのだ。

 その今まで見た事の無い高円寺の表情に驚きながら、今度は腕を掴まれている方のカルを見上げると、何故かカルは不敵な笑みで高円寺を見ていた。

 そしてその表情のままカルは、視線だけ私に向けてくる。


「ねぇ響・・・オレの事嫌がってた?」

「・・・『響』?」

「え?べつにカルの事嫌がってた訳じゃ無いよ?ただ、ちょっと恥ずかしいから離しては欲しかったけどね!」

「・・・『カル』?」

「・・・って、高円寺先輩どうかしたんですか?」


 私とカルの会話に、何故か高円寺がポツポツと呟きさらに表情を険しくしていったのだ。


「・・・早崎君、君はこの彼に名前を呼び捨てにされているのか?それに、君もその言い方からして彼の名を呼び捨てにしているような?」

「ああ、私達幼馴染みなんです」

「幼馴染み?だが、初めて見る顔なんだが・・・」

「それはですね・・・ってカル!いい加減離してくれないと、僕本気で怒るよ!!」

「う~ん、さすがに響に怒られるのは嫌だからな~仕方がない・・・と言う訳なので、先輩?腕離して貰えませんか?」

「・・・分かった」


 そうして高円寺はカルの腕を離し、カルは私を胸の中から離してくれた。

 漸く解放されホッとしながら、私はカルの横に立ち高円寺と正面から向き合う。


「え~と、では改めて紹介しますね。こちらは藤原 カルロスと言って、今日から僕のクラスに復学者として入ってきました。ちなみにこう見えてもプロのヴァイオリニストなんですよ。ですから今まで休学していた理由なんですが、去年一年間世界ツアー行っていた為休学してたんです。そして、僕のお父様とカルのお父様が友人同士だった関係で昔から交流があり、それでカルとは幼馴染みなんです」

「・・・なるほど」

「そしてカル、こちらが去年まで生徒会長をされてた高円寺 雅也先輩だよ。去年一年間、何かとお世話になった人なんだ」

「へぇ~この人が響の言っていた高円寺先輩ね・・・藤原 カルロスです。去年一年間オレがいない『代わり』に、響をお世話して頂きありがとうございました」

「君にお礼を言われる筋合いは無いんだが・・・私は高円寺 雅也だ。去年は早崎君と、とても『仲良く』させて貰ってたよ」


 そう言ってお互い名乗り合い、微笑みながら握手を交わしたのだが、どうもお互い言葉に刺があるような言い方だった気がした。

 それにお互い微笑んでいるが、どうも目が笑っていないような気がするのだ。

 その険悪な雰囲気に居たたまれなくなってきた時、突然授業の始まるチャイムが鳴り出した。


「ヤバイ!授業始まっちゃう!すみません高円寺先輩!僕達もう教室に戻りますね!!」

「・・・そうだね。じゃあまた放課後で」

「放課後って・・・また生徒会室来るつもりですか・・・ってそんな事言ってる場合じゃ無い!カル行くよ!!」


 そう言って私は再びカルの手を取り、急いで教室に向かってカルと共に走り出す。

 ただその私達を、険しい目でずっと高円寺が見ていた事など気付いていなかったのだった。



 あの後、チャイムが鳴り終わったと同時に教室に駆け込んだが、すでに教室に来ていた先生に二人して怒られてしまったのだ。

 そうしてその日一日の授業が全て終わり、私は生徒会の仕事がある為三浦と共に生徒会室に向かった。

 だがそこに、どうしても生徒会室を見てみたいと言い張ったカルが一緒に付いてきているのだ。

 ちなみにカルは昔から誰とでもすぐ仲良くなれる人だったので、クラスにもすぐ馴染み三浦とも普通に話せる程仲良くなった。

 そうして三人で話しながら生徒会室の前まできたので、私が先頭で生徒会室の扉を開ける。

 するとそこには、予想した通り高円寺達四人がすでに中で寛いでおり、それを見た私は大きなため息を吐いたのだ。

 そして日下部と駒井はと言うと、それぞれ自分の席で大量の仕事を黙々とこなしていた・・・と言うか、こちらと関わらないよう仕事に集中しているように見える。

 私はそれを飽きれながら見つつ、諦めて生徒会室の中に足を踏み入れた。

 すると私に気付いた高円寺達四人が、一斉に座っていたソファから立ち上りこちらに近付いてきたのだ。ただ何故か皆険しい表情をしていた。


「・・・早崎君、僕もう自分の席で仕事するね」

「あ!ちょ三浦君!!」


 何かを察した三浦は、苦笑しながらそそくさと自分の席に行ってしまったのだ。


「・・・響?」


 私が慌てて三浦を呼び止める声を不思議に思ったカルが、入口からひょっこり顔を出し私の名を呼んでこちらを伺い見てきた。

 すると近付いてきた四人が、ピタリとその場に立ち止まりお互いを見る。


「・・・雅也・・・あれか?」

「ああそうだ」

「ふ~ん。確かに初めて見る顔だね~」

「それに、身長も一番背の高い雅也とそう変わらんぐらいだな」


 そうこそこそと桐林、高円寺、榊原、藤堂の順でカルを見ながら話し出す。

 私はそんな四人の様子を訝しがっていると、いつの間にかカルが私の横に並んで立っていたのだった。

 そしてそんなカルを私は見上げると、何故かじっと四人を凝視していたのだ。


「・・・どうやら敵は、あの高円寺先輩だけじゃ無さそうだな・・・」

「・・・カル?」


 私はそのカルの呟きを不思議に思い、小首を傾げて伺い見る。

 するとカルはそんな私の様子に気付き、私を見下ろして微笑んできたのだった。

 そうしてそんなやり取りをカルとしていた内に、四人は私達のすぐ近くまで来ていたのだ。


「・・・早崎君。雅也から一応話しは聞いているが、俺達にもその彼を紹介して貰おうか」

「あ、はい。元々そのつもりでしたので良いですよ」


 桐林がクールな表情のまま私に尋ねてきたので、私はそれに答えるようにカルをまだ紹介していない桐林、榊原、藤堂とついでに日下部、駒井にも紹介し、逆にカルに一人づつ紹介していったのだった。



「・・・と言う訳でこちらの四人が、去年まで生徒会メンバーだった先輩方だよ」

「なるほど・・・でも、もう生徒会メンバーでは無いんだよね?何でここにいるの?」

「・・・さぁ~?私にも、それはさっぱり分からないんだ」

「ふ~ん・・・まあ、理由は何となく分かっているけどね。しかし・・・無意識でも凄いな・・・まあ良いや。え~と、オレは藤原 カルロスと言います。響とは、一緒にお風呂に入った事がある程昔から仲良しです!どうぞよろしくお願いします」

「ちょ!カル!いきなり何言い出すんだよ!それはまだ小さかった頃の事だろ!!」


 カルが不敵な笑みを浮かべ先輩に挨拶をしたのだが、何故かまだ幼稚園ぐらいの時に一緒にお風呂に入った事を言い出し私は酷く動揺したのだ。

 しかしそのカルの言葉を聞いた四人の眉がピクリと動き、皆眉間に皺が寄り出す。

 だがその中で桐林が、眉間に皺を寄せながら口角を上げてカルを見てきた。


「そうか・・・しかし俺は、去年の年末に早崎君と一緒にお風呂に入ったぞ?」

「なっ!!」

「ちょ!豊先輩も何言い出すんですか!!それは事故です!たまたま一緒に入っちゃっただけです!!と言うかいい加減忘れて下さい!!!」


 桐林の発言を聞き隣のカルが驚きの声を上げたので、私は必死にその時の状況をカルに説明し、渋々ながらなんとか理解して貰う事が出来たのだが、どうしてかカルまで眉間に皺を寄せる事になってしまったのだ。

 その後先輩達三人とカルが挨拶を交わし合い、そして高円寺を入れて話をしているのだが、何故だかどんどん雰囲気が険悪になってきているように感じた。

 それに話の内容も、どうしてか私とどう関わっていたかの話ばかりしていたのだ。


・・・誰とでも仲良くなれるカルが珍しい・・・と言うかなんか、カルとこの四人・・・相性悪いような。


 そう心の中で思い苦笑いを浮かべていると、突然館内放送が掛かりカルが職員室まで呼び出しを受けてしまった。


「う~ん、何だろう?・・・まあ仕方がない。じゃあオレ行ってくるよ。響・・・仕事頑張ってね!」

「!!」

「「「「なっ!!」」」」


 去り際に突然カルが、私の顔に自分の顔を近付けてきたかと思ったら、私の頬にチュッとキスを一つしてから生徒会室を去っていってしまったのだ。

 その突然の行動に私は体が固まり、高円寺達四人は驚きの声を上げ、そしてカルが出ていった入口をじっと睨み付けていたのだった。

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