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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校二年生編
53/110

嵐の復学者

 朝のHRが始まるチャイムと共に私は教室に駆け込んだ。

 そして急いで自分の席に着くと、ホッと一息吐く。


「早崎君ギリギリだったね。何かあったの?」

「まあ、ちょっとね」


 隣の席に座っていた三浦が、心配そうに尋ねてきたが私は苦笑を浮かべて話を濁した。

 さすがに藤堂兄弟と別れた後、暫く藤堂弟を思い出し一人ニヤニヤしてて遅くなったとは言えなかったからだ。

 ちなみに二年生になってクラス替えがあったが、三浦とはまた同じクラスになる事が出来たのである。

 その後少し三浦と話していると、教室の扉が開きそこから担任の男の先生が入ってきた。

 そして教壇に立ち最初に全員の出席を取った後、徐に私達を見回してくる。


「え~今日は、このクラスに新しい仲間が加わる事になった」


 突然の先生の言葉に、教室内が一気にざわめき出す。

 ここは特殊なシステムの学園なので、転校生と言う事はまず有り得ず、そうするとこんな時期に入ってくる者は例のシステムを使って休学していた『復学者』となるのだ。

 その考えに思い至った、三浦を含め数人のクラスメイトが一斉に私を見てきたが、私はその視線に勢いよく首を横に振って否定した。


いやいやいや!休学中の『詩音』はここにいるので、それは絶対無いから!!


 そうして少しざわつきが落ち着いてきたタイミングを見計らい、先生が再び話し出す。


「今日仲間になるのは、皆が考えている通りあの休学システムを使って休んでいた者だ。だがべつに体の不調で休学していたのでは無いぞ?去年一年間は、本人の都合でどうしても学園に通う事が出来なかったんだ。まあ、詳しい説明は本人から聞くと良いだろう。・・・じゃあ入ってきなさい」


 そう先生が閉まっている扉に向かって声を掛けると、ガラリと扉が開きそこから背の高い一人の男子生徒が入ってきたのだ。

 すると教室内は皆息を呑みシーンと静まり返る。

 そうして男子生徒が、先生の横に並んでこちらに顔を向けた次の瞬間、女生徒から大きな黄色い声が響き渡ったのだ。

 その男子生徒は背がとても高く、大人の先生が見上げなければいけない程だった。

 さらに女生徒の目を釘付けにしているのは、その整った美しい顔である。

 髪はサラサラの黒より赤茶色に近い色をしており、その瞳は綺麗な青い色をしていた。

 そして顔立ちは彫りが深く外国の人に見える。

 そんな男子生徒を、女生徒達は頬を染めながらポーと見つめていたのだが、その中の一人の女生徒がある事に気付き興奮した様子で落ち着かなくなり始めたのだ。


「も、もしかして・・・あの世界的有名なヴァイオリニストのカルロス様では!?」

「え?その方って、確か最年少で数々の賞を受賞したあの天才ヴァイオリニストの!?」


 一人の女生徒が驚きに目を瞠りながら声を上げると、近くにいた他の女生徒もその言葉に驚きの声を上げたのだった。

 するとその声を聞いた男子生徒が、その声を出した女生徒達を見てニコリと頬笑む。

 その瞬間、再び教室内に黄色い声が響き渡ったのだ。


「あ~静かに!他のクラスに迷惑だろ!じゃあ自己紹介をしなさい」

「はい。皆初めまして。オレの名前は藤原 カルロスです。この顔立ちと瞳の色は、お祖母様が外国の人だった影響です。ちなみにさっきそこの彼女が言われた通り、オレはヴァイオリン奏者をしていて、去年一年間は世界ツアーがあった為休学してました。漸くそのツアーも終わったので、復学し今日からこのクラスに入る事となりました。これからどうぞよろしくお願いします」


 そう一通り自己紹介を終え、再びニコリと微笑んできたのだった。

 さすがに先生に注意されていたので、黄色い声が上がる事は無かったが、女生徒はうっとりとした表情をしていたのだ。

 しかしそんな騒然としている教室内で、私はその男子生徒が教室に入ってからずっと呆然とその男子生徒を見つめていた。

 そしてその呆然としたまま、思わず呟いていたのだ。


「カ、カル・・・」


 普通なら聞こえない程の私の呟きに、そに男子生徒はピクリと反応し視線を私に向けてきた。

 そして私と視線が合うと、パーーーと表情を明るくし右手を上げて私に手を振ってきたのだ。


「おお!!響久しぶり!!・・・・・ん?ひび・・・き?あれ?もしかして・・・しお」

「おおおお!!カ、カ、カル久しぶりだね!!僕だよ!!『響』だよ!!!」


 男子生徒改めカルは、明るい表情から段々怪訝な表情に変わり、そして私を詩音と呼びそうになった為、私は大慌てで席を立ってその言葉を遮り響である事を強調する。

 そんな私をカルは目を瞬かせて驚いているが、それを無視し先生に顔を向けた。


「先生!僕、カル・・・藤原君とは幼馴染みなんです!だから、席も僕の近くの方が彼も安心すると思うので、丁度僕の後ろ空いてますから、そこに座って貰っても良いでしょうか?」

「あ、ああそれはべつに構わんぞ。じゃあ藤原、席はあの早崎の後だ」

「・・・はい」


 先生は私の迫力に圧倒されながらも、なんとか気を取り直しカルに私の後ろの席に着くように促す。

 そしてそのカルもまだ困惑した表情のまま、言われた通り私の後ろの席に移動したのだった。

 そうしてカルが席に着いた事を見届けた先生は、そのままHRの続きを始めたのだ。

 しかしそのHR中、私は後ろから痛い程の視線を受け背中に大量の冷や汗をかく事となったのだった。



 HRの終わりを告げるチャイムが鳴り、先生が教室を出ていったと同時に私はすぐさま席を立つ。

 そして他の生徒に囲まれる前に、すぐにカルの下に行きその手を取る。


「カル!まだ校内よく分からないよね?短い時間だけど、僕がちょっと案内して上げるよ!!」

「・・・ありがとう」


 勢いよく捲し立てて言う私を、驚いた表情でカルが見てきたがすぐに表情を緩め、頬笑みながら私の手を握り返し立ち上がった。

 そうして唖然とした表情で私達を見てくる生徒を教室に残し、私はカルを連れて教室を後にしたのだ。



 カルと手を繋ぎながら、私は引っ張るようにカルの前をどんどん歩いている。

 しかし先程から、その握った手をギュウギュウとまるで遊んでいるかのように、握り返してきている事に気が付いていた。


・・・あ~これは完璧バレてるな・・・。


 そう心の中で落胆しつつ、それを表情には出さないようにしながら廊下を歩いていたのだ。

 そうして人気の無くなった廊下を通り、今は使われていない空き教室の前まで来ると、静かに扉を開けて中に人がいないか確認してからカルと共にその教室の中に入っていった。

 そして扉を閉める前に、もう一度廊下に人がいないか確認してからしっかり扉を閉め、念の為にと教室の奥に移動する事にしたのだ。

 教室の奥まで移動し、私はカルと向かい合わせて声を潜め話し出した。


「カル・・・僕は、誰だと思っている?」

「勿論詩音だと思ってるよ!」

「・・・やっぱりバレてたか。よく分かったね」


 ある程度予想はしていたカルの言葉に、私はガクリと肩を落としたのだ。

 藤原 カルロス

 代々続く大富豪であり音楽家一家の御曹司。

 早崎 奏一とカルロスの父親が古くからの友人だった為、昔から家族ぐるみで付き合いがあった。

 詩音と響とは同い年だった事で、小さい頃からよく一緒に遊んでいた幼馴染みである。

 家族全員音楽の才能があったが、特にカルロスはヴァイオリンの才能が天才的だった為、今ではプロとなり世界中で活躍している。

 超絶対音感の持ち主で、どんな小さな音も聞く事が出来る聴力の持ち主。


・・・そう言えば、昔よく私と響が入れ替わって遊んでいた時、両親以外には全然バレなかったのに、何故かカルにだけはすぐバレちゃったんだよね。そしてその度に毎回何で分かったの?って聞くと・・・。


「愛の力だよ!」


 そう昔も今もカルは笑顔で、キッパリと同じセリフを言ってきたのだ。

 私はその訳の分からない理由に、今回も呆れた表情を向けながら、とりあえず何故私が響の振りをしているのか説明する事にしたのだった。



「・・・と、言う訳なの。カル分かった?」

「・・・大体理解したよ。しかし、相変わらず詩音は響に振り回されてるね」

「そう!そうなのよ~!!そしてそのせいで、今では生徒会長までやらされる羽目になったんだよ!!」

「・・・多分それは、詩音だった場合でも変わらなかったような・・・」

「へっ?何か言った?」

「ううん、何でも無いよ。しかしなるほど、だから詩音は皆と違う色の制服を着てるんだ。あれ?確か詩音の隣にも同じ色の制服着てた男子いたよね?」

「ああ彼は三浦君と言って、一年生の時からの私の友達で副会長やって貰ってるんだ。他にも別のクラスに書記の日下部君と会計の駒井君がいるよ。今度紹介するね」

「ありがとう。・・・だけど皆『〇〇君』呼びしてるって事は、詩音以外は全員男なのか?」

「うんそうだよ?何か問題でも?」

「べつに問題って訳では無いけど・・・」

「まあ、確かに女子もいて欲しかったけど、前期の生徒会メンバー関係でちょっとね・・・」

「ん?」

「まあ、それはおいおい教えるね。それよりも、そろそろ戻らないと授業始まっちゃうよ」


 さすがに教室を抜け出してきてから、だいぶ時間が経ってしまっているので、もう戻らないと授業に間に合わなくなってしまう。

 私は少し焦りながら、カルと共に扉に向かおうとした。

 だけどすぐに足を止め、再びカルに顔を向ける。


「そうそうカル、私が響の振りをして男装してる事は絶対秘密だよ!!だからこの教室出てからは、私を響と思って接してね!お願い!!」

「・・・良いよ。これは詩音とオレだけの秘密だね。オレ絶対守るよ」

「ありがとう!!」


 カルの言葉にホッと胸を撫で下ろした後、私達は教室から静かに抜け出し自分達の教室に戻る為、人気の無い廊下を二人並んで歩いていった。

 そうして暫く歩いている時、私はある事を思い出し歩きながら横を歩くカルを見上げる。


「そう言えば、まだ言ってなかったね」

「何が?」

「カル、世界ツアーお疲れ様!そしておかえり!!」

「・・・っ!」


 私は満面の笑顔を、久しぶりに会えた幼馴染みに向けたのだ。

 だがその瞬間、カルは目を見開き顔を真っ赤に染めて言葉を詰まらせる。

 私はその様子を不思議に思い、小首を傾げてカルを見上げた。


「ああ~もう!やっぱりその笑顔反則だ!!・・・ただいま!!」

「うゎぁ!」


 カルが嬉し恥ずかしそうに叫び、その声と共に思いっきり私はカルに腕を引かれ、その胸の中に閉じ込められたのだ。

 そして私がカルの固い胸に顔を埋めさせられると、カルは私の頭の上に頬擦りをしだしてきたのだった。


「ちょっ!カル!!」

「う~ん!久しぶりの感触!気持ち良いな~!!」


 そう言ってカルは、さらに頬擦りしてきて全く離してくれそうに無かったので、私は諦めて満足するまで放置する事にしたのだ。


はぁ~本当に昔から、カルはよく私に抱き着いてくるんだよな~。


 そう心の中で私はため息を吐いていた。

 するとその時・・・。


「早崎君!!」


 突然鋭く私の名を呼ぶ声が後ろから聞こえ、私はその声に驚きながら全然離してくれないカルの腕の中で、なんとか身を捩り後ろを振り向く。


「こ、高円寺先輩!!」


 そこには私達から少し離れた廊下の先で、鋭くこちらを睨みながら高円寺が一人立っていたのだった。

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