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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
49/110

会計との対決

 藤堂との対決を終えて数日後。

 私は放課後に、榊原から呼び出しを受けとある教室に赴いた。

 そうしてその教室の前に到着し扉を開けると、中にはすでに榊原が待っており私の姿を見て笑顔で手を振ってきたのだ。


「響君~!待ってたよ~!さあ、こっちこっち!」


 そう榊原に手招きをされ、私は教室内に足を踏み入れた。

 誘われるまま教室に入り、ふと人の気配を感じ教室の後ろを見ると、そこには榊原を除いた生徒会メンバー全員が壁を背に立っていた事に気が付く。

 だがさすがにこの前みたいに、沢山の人が見に来ていないようなのでホッとしていたのだが、突然廊下からざわざわとざわつく声が聞こえてきて、私はその声に廊下の方を振り向いた。

 するとそこには、教室の扉や窓からこちらを覗き見ている沢山の生徒がいたのだ。

 私はその人々を見て、頭が痛くなり思わず手で額を覆ったのだった。


「あ~皆ごめんね~。見学するのは良いけど、教室には入らないでね~。それにこれから真剣勝負するから、静かにしててね!」


 そう榊原は廊下にいる人々に、笑顔でウインクしながら唇に人差し指を当ててお願いする。

 するとその姿を見た、特に女生徒は頬を染めてコクコクと頷き、他の生徒もそれに従うと言う意思を示してくれたのだ。

 私はその相変わらずの様子に呆れながらも、指定された席に座ったのだった。


「それで誠先輩、一体何の対決をするんですか?」

「まあまあ、そんな慌てなくても~。まず準備するからちょっと待ってね~。ああそうそう、先にこれ渡しておくよ」

「へっ?・・・フリップサイズのホワイトボード?それに黒ペンと手の平サイズのホワイトボード用イレーザー?・・・何ですかこれ?」

「いいからいいから~。すぐ準備終わるからそのまま席に座って待っててね~」


 そう言って榊原は、いそいそと準備をし始める。

 榊原は正面にある黒板に近付くと、横に付いているボタンを押した。すると黒板の上辺りから大きなモニターがゆっくり降りてきたのだ。


ああそう言えば、ここ視聴覚室だった。・・・でも何でモニターを?誠先輩は、一体どんな対決するつもりなんだろう?


 私は榊原の行動の意味が分からず、益々困惑する。

 その時、教室内に一人の男の先生が入ってきた。


「榊原君、こちらは準備出来たがそっちはどうだ?」

「こっちも準備終わりました~!」


 そう二人で話し出したので、私は本当に何なんだろうと戸惑うばかりである。

 すると先生と話し終わった榊原が、ニコニコしながらこちらに近付いてきたのだ。


「響君~!お待たせ~!さあ、準備が整ったから早速始めようか~!」

「いやいやいや!まず説明して下さい!!」

「ああごめんね~。え~と・・・まず先に、僕が計算得意な事は知ってる?」

「そう言えば・・・確か誠先輩は、計算能力に優れていると聞いた事があったような・・・」

「僕、モデルの仕事は勿論好きだけど、それとは別で計算問題を解くのも好きなんだ~!それも特に暗算が好き!!」

「はぁ・・・」

「まだ分からない?今回の対決内容は、その暗算だよ!それも、フラッシュ暗算での対決なんだ~!」

「フラッシュ暗算!?」


 私はニコニコとしながら私を見てくる榊原を、唖然と見返していたのだった。



 全ての準備が終わったので榊原も席に着き、机の上にホワイトボードと黒ペン等を用意して開始の合図を待っている。

 私は横目で榊原を見て、その顔が自信満々の表情をしている事を確認し正面を向いた。

 先程入ってきた先生は、黒板の横に用意してあった席に座り、机の上にノートパソコンを置いて画面を開き何か操作しているようである。

 するとその動きに連動して、モニターに黒い画面で『3』と言う数字だけが現れたのだ。


「・・・3?」

「ああ、あれはカウントダウンの数字だよ。あのカウントダウンが終わってからすぐに、いくつかの数字が現れて消えるからそこに出てきた数字を全て足して、その答えをこのホワイトボードに書くんだよ~」

「なるほど」

「数字の現れるスピードやどんな数字がいくつ出てくるかは、全て先生に任せてあるからね~。あ!ちなみに勝敗の付け方は、どちらかが先に答えを間違えた方が負けだよ~。ただ同時に間違えた場合は、ドローでそのまま次の問題に進むから。・・・これはお互いの、暗記力と計算力が勝負の分かれ目になるからね~!」

「・・・・」


 そう言って不適に笑ってくる榊原を見て、これは相当自信があるのだと伺い知れた。

 しかし私もここで負ける訳にはいかないと思い、真剣な表情で正面のモニターを凝視する。


「では始め!!」


 そう先生が言って、ノートパソコンのキーボードを押す音が聞こえたと同時に、モニターのカウントが動き出した。

 そうして『1』の数字が消えた次の瞬間、物凄い早さで数字が切り替わって表示されたのだ。


おいおい!!最初っから四桁の数字で始めていくのかーーーー!!


 私はそう心の中でツッコミを入れながらも、目まぐるしく変わる数字を目で追いながら、頭の中でどんどん計算をしていったのだった。


「終了!では答えをホワイトボードに書きなさい」


 先生の終了の合図と共に、私と榊原は無言でホワイトボードに数字を書いていく。

 ちなみに私と榊原の席は離れており、書いている数字はお互い見えないようになっている。

 私達は、ほぼ同時に書き終わりペンを机に置く。


「では、同時にホワイトボードを上げなさい」


 その先生の声で、私と榊原は同時にホワイトボードを手に持って先生に見せた。


「・・・二人共、同じ数字だな・・・正解だ」


 その瞬間、静かに見ていた生徒達から『おお!』と言うどよめきの声が上がる。


「うわぁ~!さすが響君!僕の予想通り、難しいフラッシュ暗算も出来ちゃうんだね~!実は先生に、最初っから難しいのでとお願いしておいたんだ!・・・やっぱり問題無かったね!」


 榊原そう言って、全く悪気の無さそうな笑顔を私に向けてきたのだ。


・・・最初っから飛ばしまくってた問題は、誠先輩のせいか!!


 私はそう心の中で唸り、目を据わらせ榊原を睨んだのだった。

 しかし榊原は、そんな私の視線を気にする事無くさっさと視線をホワイトボードに戻し、書いた数字をイレーザーで消し始める。

 その榊原の様子に小さくため息を吐きながら、私も自分のホワイトボードの数字を消す事にしたのだった。



 それから私と榊原は、モニターに映し出された数字を見てホワイトボードに答えを書くを繰り返していったのだ。

 しかしお互い、一問も間違えずにどんどん答えていった為、開始からだいぶ時間が経ったのだがなかなか決着がつかないでいた。


「響君~なかなかやるね~!まさかこんなに間違えず、正解し続けていくなんて思ってもいなかったよ~!」

「・・・ここで負ける訳にはいかないからです。しかし、誠先輩もさすがに凄いですね!」


 そうしてお互いの実力を認め合ったのだ。


「あ~まさかここまで勝負がつかないとはな~。しかし、さすがに時間もだいぶ経っているし、そろそろ勝敗を決めて貰いたいから次の問題はスピードも問題も超難問を出すぞ!」


 あまりにも勝負がつかない事に、痺れを切らした先生がそう言い出した。


「よ~し!響君勝負だ!!」

「はい!絶対負けません!!」


 先生は私達を呆れた様子で見ながら、ノートパソコンのキーボードをカチャカチャと操作し始める。


「じゃあ始めるからな!」


 そう先生の声と同時に、モニターにカウントダウンの数字が現れそしてカウントが始まった。

 そしてカウントが終わった次の瞬間、今までのスピードより遥かに早い速度でどんどん数字が切り替わっていく。それにその画面へ表示された数字は、桁数が半端無く多かったのだ。

 しかし私は、その数字を一つも見落とさないよう必死にモニターから目を離さないでいた。

 そして瞬時に記憶した数字を、どんどん頭の中で足していく事に集中する。


「終了!では答えを書きなさい」


 先生の終了の合図と共に、私と榊原は同時にペンを持ちホワイトボードに向かう。

 なんとか頭の中で計算出来た数字を、私はホワイトボードに書き込んでいったのだが、そこでふと榊原がなかなか答えを書き始めていない事に気が付いた。

 私はチラリと榊原の顔を覗き見ると、榊原には苦悩と焦りの表情が浮かんでいるように見えたのだ。

 その表情からさすがに榊原でも、この問題は相当難しかったのだと伺い知れたのだった。

 私は答えホワイトボードに書き終わった後、もう一度その答えを確かめてから一つ頷き、そしてペンを机に置く。

 榊原もなんとか答えを書き終え、私から少し遅れてペンを机に置いた。しかしその表情は、あまり納得がいってない様子だった。


「では、二人共答えを見せなさい」


 その先生の声を聞き、私と榊原はホワイトボードを先生に見せる。


「・・・初めて答えが分かれたな。そして、片方の答えは・・・正解だ」


 私はゴクリと唾を飲み込みながら、先生が正解者の名前を言うのを黙って待つ。

 チラリと榊原の方を見ると、榊原も真剣な表情で先生を見ていた。


「では、正解者の名前を言う・・・・・正解者は、早崎君だ!」


 そう先生が私の名前を言った瞬間、廊下で私達の様子を見ていた生徒達からどよめきと歓声が聞こえてくる。

 しかし私はその声を気にする事無く、小さく手を握り勝利を喜んだ。


よし!あと一勝!!


 そう心の中で自分を奮い立たせていると、いつの間にやら榊原が他の生徒会メンバーと一緒に私の側に立っていた。


「響君~!本当に凄いね!僕の完敗だよ~!」


 榊原はそう言って、とても晴々とした表情で敗けを認めてくれたのだ。


「さて・・・最後は私だね。ちなみに私との対決は、今までと全く違う趣向の勝負になるから楽しみにしててよ」

「高円寺先輩・・・」


 高円寺のその何かを含んだ楽しそうな笑顔に、私は何だか高円寺との対決が一番厄介そうな予感がしたのだった。

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