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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
46/110

最終確認

 実家で年を越した後、すぐに三学期が始まるので私は学園に戻っていったのだ。

 ちなみに玄関先でお見送りしてくれたお母様は、ニコニコしながら『頑張るのよ~』と学業以外の事も含んでいるような意味ありげな笑顔で手を振られ、その隣のお父様は『頑張らなくて良いぞ~』ととても不安そうな顔で手を振っていたのだった。



 三学期が始まり、すぐにあった中間試験も難無く終えて数日が経ったある日、私はボーと窓の外を見ながら考え事をしていたのだ。


あんなに寒かったのに、最近では段々と暖かくなってきてるな~・・・もうすぐ春か~。それにしても後約二ヶ月もしたら、もう二年生・・・結局一年間も響の振りをさせられたよ・・・本当に、響は今何処にいるんだろうか・・・。


 あの夏の接触以来、響を見付ける事が出来ないでいた。一応時々、響らしい情報が入ってくるので無事ではいるようなのだが、すぐその場所に捜索部隊を向かわせてもいつも去った後だったのだ。


はぁ~私は、いつまで響の振りを続けないといけないんだろう・・・。


 そう心の中で思い、ガックリと項垂れながら小さくため息を吐く。


「はぁ~もう二ヶ月程したら、高円寺先輩方のお美しい白い制服姿もう見られなくなるのね・・・」

「そうよね~とても残念だわ~。出来れば三年生になられても着ていて欲しかったですわ~」

「それはさすがに無理ですよね。三年生は生徒会役員になれないのですから・・・」


 私の近くでため息混じりに、とても残念そうな声で話している二人組の女生徒の声が聞こえてきた。


ああそう言えば、もうすぐ高円寺先輩達の生徒会役員の任期終わるんだったね。生徒会役員は一年生と二年生だけと決まっているから、三年生に進級すると同時に生徒会役員は終了するんだった。そっか、それで最近委員長凄く急がしそうなんだ。


 そう思いながら教室内を見回し、やはり休憩時間なのに委員長の姿は無かったのだ。


ああ確か次の生徒会長て、今の一年生生徒会メンバーの中から全校生徒が投票して決めるんだったよな~。よし!私はやっぱり委員長に入れよう!・・・あれ?そう言えば、生徒会役員って最低でも四人必要じゃ無かったけ?今は一年生だから補佐するだけで役職は無いけど、二年生は役職に就くから四人必要な筈なのに・・・いまだにまだ三人だけだよね?そりゃ~私が断り続けているのも原因だろうけど、いい加減諦めて他の人誘えば良いのに・・・。


 そう一人苦笑しながら、もう一度窓の外に顔を向ける。すると突然、教室の入口辺りから黄色い声が聞こえてきた。

 私はその声に、深くため息を溢しながらゆっくり入口の方を見る。

 やはり予想した通り、いつもの二年生生徒会メンバー四人が私の方に向かって歩いて来ていたのだ。

 私はうんざりしながらその四人を見ていたのだが、ふと四人の後ろに委員長と日下部と駒井の一年生生徒会メンバーも付いてきている事に気が付く。

 まさかの生徒会メンバー総出に、遠巻きに見ていた同じクラスの生徒達や廊下から見ている他のクラスの生徒達も、その只ならぬ雰囲気にざわつき始めた。

 私は一体何事かと思いながら、怪訝な表情で生徒会メンバーを見ていると、私の前で立ち止まり皆じっと私を見てきたのだ。


「な、何か僕に用ですか?」


 そのあまりの威圧感に、私は思わず椅子を引いて距離を取る。

 するとそんな私の様子を見て、桐林が面白そうに口角を少し上げ一歩前に進み出てくる。


「早崎君・・・今日は君に大事な話があって皆で来たんだ」

「大事な話?豊先輩、それは一体何ですか?」

「豊・・・先輩?」


 そう横から、怪訝な声を出してきたのは榊原だった。榊原は明らかに不機嫌そうな表情になり、私と桐林を見比べている。

 私はチラリと高円寺と藤堂の方も見てみると、二人は意外な物でも見たかのように驚きの表情をしていた。


「・・・響君~。いつの間に名前で呼ぶほど、豊と仲良くなったの?」

「えっ?仲良くなったと言うか・・・」

「例の温泉旅行で仲良くなったんだ」


 卓球勝負に負けたから、名前で呼ばされていると言おうとしたのだが、私の言葉を遮るように桐林が話し出してきたのだ。

 そこでそう言えば、榊原に名前を呼ぶのは仲良くなってからと約束させられていた事を思い出す。


「・・・響君、本当の事なの?」

「ああ・・・はい。そうなんです」


 一瞬本当の事を言おうかと思ったが、ここでそんな事言うと色々面倒な事になりそうな予感がした為、私は桐林の言葉に同意する事にし、委員長にも目配せした。

 私の目配せを見た委員長が、意図を察してくれ小さく頷き返してくれたのだ。

 それを見てホッと安心し、もう一度まだ怪しむ榊原を見る。


「俺があの旅館を提供し、冬休みに早崎君達が泊まる日に合わせて視察に行っていたのは知っているだろう?そこで早崎君と一緒に過ごし、卓球等をして仲良くなったんだ。それに・・・俺と早崎君は、一緒に温泉へ入った仲なんだぞ」

「「「「一緒に温泉!?」」」」


 桐林の発言に、榊原、高円寺、藤堂そして委員長までもが同時に声を上げたのだ。


「そ、それは偶然一緒になっただけです!!!僕、人に裸見られるの苦手だから、一人で温泉入ってたら後から豊先輩が入ってきたんですよ!!・・・だから委員長、わざとじゃ無いんだ!お願いだからそんな傷付いた顔しないで!!ごめんよ!!!」


 明らかに傷付いた表情で落ち込んでいる委員長に、私は必死に謝る。そしてその後、私の必死な説得に漸く委員長も納得してくれたのだった。

 私達の話し合いがなんとか終わり、再び榊原の方を見るとこちらも桐林に色々説明を聞いたらしく、渋々ながら納得してくれていたのだ。


「・・・まさか豊に先越されるとはな。私も頑張らないと・・・」

「俺も頑張るかな・・・」


 高円寺と藤堂がそんな事を言っていたが、私は敢えて聞かなかった事にした。


「あ~それで、大事な話って何ですか?」

「ああそうだったな」


 すっかり脱線してしまった話を元に戻す為、私はそう声を掛けると桐林が思い出したように、再び私を見てきたのだ。


「まず話をする前に確認したいのだが、やはり早崎君は生徒会に入る気は無いのか?」

「全くありません!」

「そうか・・・なら致し方ないな」

「良かった~漸く諦めてくれたんですね・・・でも、それと大事な話って何か関係あるんですか?」

「その大事な話と言うのは・・・早崎君には、強制的に生徒会に入って貰う事になると言う話だ」

「・・・はい?な、何でそうなるんですか!?僕、今キッパリと断りましたよ!?」

「だから『強制的』と言っただろ。実はこの学園の生徒会には、あまり知られてないがある決まりが存在している。それは・・・もし二年生が進級するまでに、一年生の生徒会メンバーが四人以上揃わなかった場合、生徒会長の権限で足りない人数分強制的に指名して入れる事が出来るんだ」

「えっ!?」

「勿論、強制的にだから断る事は不可能だ」

「そ、そんな!・・・こ、高円寺先輩!本当なんですか?」


 私はその言葉に驚き、真実かどうか高円寺の方を見て尋ねた。


「すまない早崎君・・・本当の事だ」

「えええ!!」


 高円寺はとても申し訳なさそうにしながら、桐林の言葉に同意する。


「まあ俺としては出来れば、早崎君の意思で生徒会に入って欲しかったのだがな」

「豊先輩・・・そもそも、どうして僕じゃ無いといけないんですか?僕なんかよりももっと相応しい人、他にもいると思いますよ?」

「・・・確かに多少優秀だと思われる者は他にもいた・・・だがやはり、早崎君の能力を一度見てしまっては他の者を入れる気にならなかった。それはここにいる生徒会メンバー全員同じ意見だ」


 そう言いながら桐林は周りを見ると、他の生徒会メンバー全員が頷いてきた。


「そ、そんな~!!」

「しかし、散々生徒会に入るのを拒んでいた早崎君を、無理矢理入れるのも此方としてはさすがに気が引けるからな・・・そこでだ、早崎君には最後の逃げ道としてここは一つ我々と勝負をしないか?」

「・・・勝負?」

「ああ、俺達二年生生徒会メンバーの四人とそれぞれ勝負をし、一度でも我々の誰かに早崎君が負ければ生徒会に入って貰う。そしてもし全員に勝つ事が出来れば、もう二度と入るようには言わないし強制的に入れる事もしない」

「・・・もしその勝負を断ったら?」

「勿論有無を言わさず、強制的に生徒会に入って貰う」

「やっぱり・・・」

「さぁ早崎君どうする?」


 そう聞いてくる桐林の顔は、もう私の返事など予想しているかのようにとても楽しそうにニヤリと笑っていたのだ。

 私はその表情を見て大きなため息を一度吐いた後、意を決した表情で生徒会メンバー全員を見渡す。


「・・・分かりました。その勝負受けて立ちますよ!そしてやるからには絶対勝ちます!!」


 そうして私は生徒会強制入会を賭けた、四番勝負をする羽目になったのだった。

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