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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
44/110

遊戯対決

 館内にある遊戯施設には、クレーンゲームやもぐら叩き等の子供から楽しめる最新のゲーム機がある他、ビリヤード台や卓球台など幅広い世代が楽しめる物まで沢山あった。

 私達はその遊戯施設に着くと、思い思いに遊びだしたのだ。

 まず私と委員長はクレーンゲームに向かった。

 最初に私からやってみる事にし、お金を入れボタンを押してアームを狙っている猫のぬいぐるみの真上まで移動させる。

 私は横から見たりして位置を調節し、そして狙いを定めて下ろすボタンを押す。

 するとアームはゆっくりと猫のぬいぐるみに向かって降りていった。


「よし!位置ピッタリだ!!」


 私はワクワクしながらアームが到達するのを目で追い、そしてそのアームが猫のぬいぐるみに到着すると、今度は上昇を始める。


「あっ!!」


 アームは一度猫のぬいぐるみ持ち上げたのだが、すぐにするりとアームから抜け落ち無情にも元あった位置に転がり落ちてしまったのだ。


「早崎君、惜しかったね~」

「くっそーーー!もう一度だ!!」

「・・・程ほどにね」


 委員長の忠告に耳を貸さず、その後まあまあのお金を注ぎ込んでしまったが結局何も取れなかったのだった。


「・・・絶対これ取れないようにされてるよ!」


 私はほぼ負け惜しみのような言葉を吐き、少し涙目になりながら悔しそうにクレーンゲームを睨み付けていた。

 すると、それまで呆れた様子で黙って見ていた委員長が、スッと私の横に立ち、眼鏡を押し上げ不敵な笑みを向けてきたのだ。


「委員長?」

「まあ、僕に任してよ」


 そう委員長が言うと、クレーンゲームにお金を入れ真剣な表情で中を見据える。

 そして、ボタンを見ずに押してアームの動きをしっかり目で追い、そしてアームが猫のぬいぐるみの所まで到達したのだった。

 ここまでは私でも出来る事なので、そんなに驚かなかったのだが次の瞬間、アームは猫の頭の上を掠め過ぎたのだ。


「あ~あ・・・」

「・・・まあ、黙って見ててよ」


 私は委員長の言う通りじっと成り行きを見守っていると、上がっていくアームの先に紐みたいなのが引っ掛かっている事に気が付いた。

 するとその紐に引っ張られるように、猫のぬいぐるみが浮き上がったのだ。


「おお!!凄い!!!」


 私が感嘆の声を上げている内に、猫のぬいぐるみはアームに吊り下げられた格好になり、そして取り出し口に繋がる筒の上に到着すると、アームが開いてぬいぐるみがその筒の中落ちていった。

 そしてボトッと言う音が、取り出し口から聞こえてきたのだ。

 委員長は屈んで取り出し口に手を突込み、中から取れたばかりの猫のぬいぐるみを取り出す。


「委員長、本当に凄い!!」

「そんな事無いよ。これアームの強度強めだから取り易かっただけだよ。それよりも、はい。これ欲しかったんだよね?あげるよ」

「え!?良いの!?せっかく取ったのに?」

「うん。べつに僕クレーンゲームは好きだけど、ぬいぐるみには興味無いからさ」

「そうなんだ!?じゃあ遠慮無く貰うね!ありがとう!!」


 そう委員長にお礼を言って、猫のぬいぐるみを受け取った。

 そうして暫く、委員長の意外な特技であったクレーンゲームテクニックを堪能させて貰ったのだ。



 両手一杯のぬいぐるみを持ち、ホクホク顔で委員長の隣を歩いていると、突然同じクラスの男子から声を掛けられた。


「よう早崎!良かったら卓球やらないか?」

「卓球か・・・小さい時にやったきりだからな~」

「お?それなら尚更やろうぜ!俺卓球は得意だから、もしかしたらこれなら早崎に勝てるかもしれんしさ!」

「・・・やるからには負けないよ?」

「おう良いぜ!本気出してくれよ!」

「その言葉、後で後悔しても知らないからな」


 そうして、私は持っていたぬいぐるみを近くの椅子に置いてから、浴衣の袖を肩まで捲り上げて固定し卓球のラケットを手に持って、委員長に審判を頼んで私は不敵な笑みを溢しながら卓球台の前に立ったのだった。



────数分後。


 目の前には、ぐったりとしゃがみ込んでがっくりと項垂れながら肩で荒い息をしている、先程私に勝負を仕掛けてきた男子の姿があったのだ。

 そして委員長の目の前にある得点表には、大差で私の勝ちが表示されていた。

 私はしゃがみ込んでいる男子を、持ったラケットで自分の肩を叩きながら見下ろす。


「は、早崎~!お、お前・・・小さい時に・・・しか・・・ハァハァ・・・やった事無いなんて・・・嘘だったろ!!」

「え?嘘じゃ無いよ?本当に小さい時にしかやって無いよ?まあ、その時ほとんど屋敷中の人と勝負して、全勝はしてたけどさ。ただ、その後は何故か誰も相手してくれなくて、結局やらなくなっただけだよ」

「そ、それ先に言えーーーーー!!!」


 そう男子の叫び声が、遊戯施設の中に響き渡ったのだった。


「・・・一体何の騒ぎだ?」


 突然そんな鋭い声が聞こえてきたので、遊戯施設にいた生徒皆その声に身を固くする。


「き、桐林先輩!!」

「・・・そうか、この騒ぎの元凶は早崎君・・・君か」

「・・・っ!」


 私は突然現れたスーツ姿の桐林に、眼鏡を掛けた目を細められながら見られ、ふと深夜の温泉での出来事が頭を過り、一瞬で顔が熱くなったのを感じた。


「どうした早崎君?顔が赤いが熱でもあるのか?」


 そう言って、桐林は不思議そうに私の顔を覗き込んできたのだ。

 その近付いてきた顔であの温泉での至近距離の顔を思い出し、私は顔をさらに熱くして一歩下がり桐林と距離を開ける。


「い、いえ!べ、べつに大丈夫です!ただ、今動いたから暑くなっただけです!そ、それよりも桐林先輩・・・あの温泉で・・・」

「・・・温泉で?」

「あ!い、いや、やっぱり何でも無いです!気にしないで下さい!!」


 私は桐林に、あの温泉で私の後ろ姿の裸を見たか確認しようとしたのだが、すぐに男が男の裸を見たか確認するなんて変な事だと気が付いたのだ。


「早崎君?」

「ほ、本当に何でも無いんです!気にしないで下さい!それよりも桐林先輩お一人でどうしたんですか?昨日は沢山の大人の方と一緒でしたのに?」


 なんとか動揺を抑えようと、桐林に別の話題を振る事にした。


「ああ、俺の仕事は昨日で全て終わったからな。それで今日もうすぐ帰る予定だから、最後に一人で館内を見回っていたんだ。そしたらこの遊戯施設から、騒がしい声が聞こえてきてな。どうも気になったから来てみたんだ」

「そう、だったんですね。すみません!騒がしくしてしまって・・・」

「いや、特にトラブっている訳でも無く、楽しんでいただけのようだから特に問題無い」

「ありがとうございます!ここの遊戯施設とても楽しいです!」

「それは良かった・・・しかし、早崎君は今卓球をしていたのか・・・そして、圧勝か」


 桐林は私の持っている、卓球のラケットと卓球台とうずくまる男子を順番に見て、大体の状況を把握したような表情になったのだ。


「桐林先輩!良かったら早崎と勝負しませんか!!出来れば俺の仇を討って下さい!!」


 突然うずくまっていた男子が立ち上り、桐林に真剣な顔でラケットを両手で桐林に差し出す。


・・・そんなに悔しかったのかよ!


 私はそう心の中で、思わずツッコミを入れてしまった。


「・・・良いだろう。帰る前に少し遊んでいくか」

「桐林先輩!?」


 まさか桐林が引き受けると思っていなかったので、私は驚きの声を上げたのだ。


「しかし、ただ勝負をするだけでは面白く無いな・・・そうだ。もし早崎君が勝ったら、何か君の言う事を一つ聞いてやろう」

「えっ!?」


 私はその言葉を聞いた瞬間、すぐ桐林に私を生徒会に入れようとしてくる事を止めさせる望みが浮かんだのだった。


「じゃ、じゃあ桐林先輩が勝った場合は?」

「俺が勝ったら・・・早崎君、君には俺の事をずっと名前で呼んで貰う事にしよう」

「へっ?そんな事で良いんですか?」

「ああ。何か不満か?」

「い、いえ!それで良いです!!」


 これ以上何か言って、内容が変わっても困るので私は勢いよく首を縦に振り肯定の意思を示したのだ。


こんな美味しい話し逃してなるものか!!


 そうして桐林は男子からラケットを受取り、委員長に引き続き審判を頼んでから、着ていたスーツのジャケットを脱ぎネクタイを外して椅子に置き、シャツの袖を捲ってから卓球台を挟んで私の対面に立つ。

 そして、委員長の開始の合図と共に試合が始まったのだった。



 桐林はやはり運動も良く出来る人だったようで、なかなか強かったのだ。

 私達は真剣に玉を打ち返し、とても良い勝負を繰り広げていた。

 気付くといつの間にかギャラリーが増えていて、その中には旅館の従業員も混ざっていたのだ。

 私と桐林は額から汗を滴ながら、お互いに点を取り合いずっと同点の状態が続いていた。

 そしてとうとう同点のまま、後一点どちらか取れば勝ちが決まる所まできたのだ。


絶対勝つ!!!


 そう心の中で誓い、私は真剣な表情でサーブを打って来ようとしている桐林を見つめる。

 するとその時、桐林が少し口角を上げた事に気が付く。

 私はそれを不思議に思って見ていると、桐林がおもむろに口を開いてきた。


「・・・早崎君・・・そう言えば、あの温泉での君の後ろ姿なんだが・・・」

「っっ!!!」

「貰った」

「ああ!!!!!」


 突然の桐林の発言に思わず動揺してしまった私は、桐林がサーブを打ってきた事に一瞬反応が遅れてしまい、急いでラケットを振ったがすでに玉は卓球台の外に落ちていってしまったのだ。


「ゲーム終了!桐林先輩の勝利です!」


 無情にも委員長の声が辺りに響き渡る。その瞬間、周りから歓声が沸き上がったのだ。

 私は卓球台に両手を付き、じろりと桐林を睨み付ける。


「桐林先輩・・・ずるいですよ!!」

「これも作戦の内だ。俺の戦略に動揺した君が悪い」

「くっ!!」

「さあ約束だ。俺の名前を呼んで貰おうか?」

「・・・・」


 べつに名前を呼ぶ事自体は苦では無いが、なんだか素直に呼ぶのが悔しくて私は口を閉ざす。


「早崎君・・・良いのか?ここで温泉の時見た、君の裸体の詳細を話しても」

「・・・っ!」


 桐林は私に近付いてきて、楽しそうに口角を上げながら小声で囁いてきたのだ。

 私はキッと桐林を、赤い顔になりながら睨み付けた。


「・・・・・豊先輩」

「宜しい」

「くっ!そ、それよりも豊先輩!あの時、僕の後ろ姿ハッキリ見えたんですか!?」


 私は小声で桐林に詰め寄るが、桐林はとても楽しそうな目で私を見てくる。


「・・・さあ?どうだったかな?」

「豊先輩!!」

「ああ、もう時間だ。ではこれで失礼するよ・・・君達、そろそろ持ち場に戻るように!」


 桐林は私の声を無視すると、観戦していた従業員に戻るよう鋭く指示を出し、そして脱いだジャケットとネクタイを手に持って遊戯施設から去ろうとしていたのだ。


「ちょ!豊先輩ーーー!!」


 私はその去り行く背中に向かい呼び止めたのだが、桐林はその声に振り向こうとはせず、そのまま去っていってしまった。

 ただ、去り際に桐林の肩が小刻みに震えているのが見えたので、どうやら笑っていたようだ。


むきぃーーー!!気になるーーーーー!!!


 そう心の中で悶えるが、結局答えを知る事など出来る筈も無かったのであった。

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