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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
43/110

桐林 豊サイド

     ◆◆◆◆◆


 桐林は早崎達を出迎えた後、旅館のマネジャー達と経理等の資料を確認したり、各部署の代表から今の問題点や前回の視察時に出た問題の改善状況を確認し、そして館内の設備や各場所の清掃状況、調理場の衛生状態や調理の様子を確認して回った。

 そして桐林は用意された部屋で、一人黙々とノートパソコンを開いて残りの仕事をこなし、漸く仕事が全て終わったのが他の従業員達も皆ほとんど寝入った深夜だったのだ。

 仕事を終えた桐林は仕事の疲れを取る為、寝る前に温泉に入る事にし着替えを持って露天風呂に向かったのだった。



 桐林は暖簾をくぐり脱衣場に入ると、予想通り他に人は誰もいなかったので、特に周りを気にする事もせず慣れた様子で手早く服を脱ぎ、目線の高さにある籠に服を入れる。

 そして腰にタオルを巻いた後、少し考えてから眼鏡を外して籠の中に入れたのだ。


「確か・・・今の時間は冷え込んでいるはずだからな。多分、眼鏡を掛けていても役に立たないだろう」


 そう独り言を言い、ぼやける視界の中微かに分かる物の輪郭と手探りと、幼い頃から慣れ親しんだ場所に対する勘を頼りに、露天風呂に続く扉まで辿り着きその扉を開いた。

 すると、予想した通り目の前は白い湯煙が漂っていて、さらに視界が悪くなったのだ。

 だが桐林はここも何度も来ていたので、大体の場所の位置は把握していた為、特に迷う事なく洗い場まで足を進め微かに見えるシャワーの持ち手を取り蛇口に手を掛け、まず自分の体の汚れをお湯で洗い流した。

 桐林は一通り体を洗い流した後、目的の露天風呂に入る為そちらの方向に歩き出す。

 そうしてぼんやりと露天風呂の縁の岩が見えてきたので、腰のタオルを取って濡れない位置に置き、そしてゆっくりと足からお湯に入っていった。

 桐林はお湯の温度も丁度良いと心の中で確認し、朝起きたらここの担当者に、このまましっかりとこの露天風呂の管理をするように言おうと思ったのだ。

 するとそこでふと何かの気配を感じ、桐林は怪訝な表情でその気配のする方にゆっくりと、お湯に身を沈めながら近付いた。

 そして漸くその気配の主を視界に捉える事が出来る距離まで近付き、その輪郭からどうやら深くお湯に潜っているようだが人だと認識出来たのだ。

 桐林はその人物の顔をなんとか確認しようと、じっと目を細めて見ていたその時・・・。


「・・・も、もしかして桐林先輩ですか!?」


 突然、相手から聞き覚えのある驚きの声が聞こえてきたのだ。

 その声にさらに目を細めて顔を確認しようとしたが、やはり眼鏡が無いのと、湯煙が多い事でしっかりと確認する事が出来ないでいた。

 結局桐林は目で確認するのを諦め、直接相手に問う事にする。


「・・・その声は・・・もしや早崎君か?」


 そうして相手から肯定の返事を貰い、目の前の人物が早崎だと確信する事が出来たのだった。



 その後早崎は桐林が眼鏡を掛けていない事に驚きを見せ、そのまま視力の事とか色々と話しをしていたのだが、突然早崎が何故か急に黙り込み、次の瞬間顔の辺りが赤くなったように見えてきたのだ。

 桐林はその様子を怪訝に思い、早崎の顔を良く見ようと目を細め体を浮かすようにして早崎に顔を近付けた。

 その時何故か早崎は酷く慌てた声を出してきたが、それよりも早崎の様子が心配でさらに顔を寄せその顔色を確かめる事に集中する。

 漸く視認する事が出来る距離まで顔を近付けると、やはり早崎の顔が真っ赤になっている事が分かり、もしや湯に浸かり過ぎてのぼせてしまったのではと思ったのだ。

 そしてその事を早崎に尋ねると、それを上ずった声で認めてきたので、それならば早く上がらせようと体を離そうかとした時、ふと早崎の頭が白い事に気付いた。

 桐林はその頭にある筈の無い白さが気になり、体を離す事も忘れ手でその白い頭を触って確認する。

 するとその手の感触からタオルを頭に巻いている事が分かり、すぐに髪を濡らさない為だと察した。

 ただ桐林は、そんな事を男がするのは珍しいなと思いながら、珍しい物を見る目で頭に手を乗せたままじっと早崎の事を見ていたのだ。

 するとふと桐林は早崎の首の後ろ、髪の毛の生え際辺りに黒い物がある事に気付き、頭に乗せてた手に力を入れて早崎の顔を横に向かせその黒い物を確認する。

 しかしよくよく見てみると、何かのゴミか虫かと思ったそれはホクロだった事が分かり、早崎に見間違えだった事を伝え首が痛いと訴える早崎に謝罪し、頭から手を離しながら近付けていた体も一緒に離した。

 体を離しもう一度早崎の顔を見ると、だいぶ顔の赤さが収まってきたみたいに見えたが、それでものぼせている可能性があるので、早く上がらせようと言葉を発する為口を開き掛けたのだが、桐林より先に早崎が声を発してきたのだ。


「・・・桐林先輩、あ、あそこに何か見えるのですが・・・」

「ん?どこだ?」


 その早崎の驚いた声と、微かに見える早崎の手が桐林の後ろを指差していた為、桐林はその指差す先を目を細めながら振り向いて確認する。

 するとその時、突然後ろから水音と共に石の床をパタパタと走る足音が聞こえ、すぐさま桐林は早崎がいた所に視線を戻すがそこには早崎の姿が無く、足音のする方を見るとどうやら早崎が脱衣場に向かって走って行っているのが見えた。

 桐林はその突然の早崎の行動に驚いて早崎の名を呼ぶが、早崎がこちらを振り向いた様子も無く、たださっきのは見間違いだったと謝罪の言葉を残し湯煙の中に消えていく。そしてすぐに脱衣場の扉を開閉した音だけが辺りに響いた。

 桐林は暫く、呆然と早崎の去っていった方を見つめていたのだ。

 ただその時の桐林は、早崎が去っていく時にほんの一瞬だがぼんやりと見えた、早崎の美しいボディーラインが脳裏から暫く離れてくれなかったのだった。



     ◆◆◆◆◆


 私はお風呂場から急いで部屋に戻ると、まだ温泉と羞恥と走った事による体の火照りもそのままに、敷いてある布団に倒れ込むように横になり枕に顔を埋める。


ぎゃーー!!きっとあの声の様子から、桐林先輩がこっち見ている状態で裸の後ろ姿晒しちゃったよーーーー!!!覚悟はしていたけどやっぱり恥ずかしいーーー!!!で、でも!相当視力悪そうだったし、あの湯煙ならきっと見えてない筈!!そう信じよう!!!


 そう自分に言い聞かせながら、枕に顔を埋めたまま暫く布団の中でのた打ち回っていたのだった。

 ちなみにさっきの風呂場での作戦はとても古典的だった為、桐林が引っ掛かってくれるか不安だったが、意外に成功して桐林の注意を反らす事が出来たのだ。

 そして少しでも注意を反らす事が出来れば、桐林の視力と湯煙の状況からして走って逃げれば、ほとんど裸を見られずに済むと踏んだのだった。

 ただこれはほとんど賭けのような物だったので、ただただ裸の後ろ姿をしっかり見られていない事を願うばかりだ。

 そうして悶々とした気持ちでいた事で、なかなか寝付けなかったのだが、結局いつの間にか睡魔に襲われ朝までぐっすり眠ったのだった。



 そして朝になり、温泉で体が温まっていたせいかぐっすり熟睡していた事で、意外に朝の目覚めはとても良かったのだ。

 私はう~んと背伸びをしてから布団の中から出て、洗面所で歯磨きと顔を洗いブラシで髪の毛を梳かしてから身支度を整えた。

 とりあえず今日ももう一泊するので、館内で着たまま出歩いて良い男物の浴衣を着ている。

 ただ一応一番小さいサイズの浴衣にして貰ったがそれでも少し大きい為、もし浴衣がはだけても困らないように、ちゃんと中にベストとTシャツを重ね着し下は黒いスパッツを履いていた。

 私はもう一度洗面所の鏡を見て、ちゃんと着れているかはだけて無いか確認してから、朝食を取る為昨日行った宴会場に向かう事にしたのだ。

 そうしてそこでまた皆と美味しい朝食を頂いた後、私は委員長の誘いでクラスの一部の生徒と共に、旅館の中にある遊戯施設に向かったのだった。

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