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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
40/110

ホワイトクリスマス

 パーティー会場の喧騒から逃れ、私は中庭にあるお気に入りのベンチに腰掛ける。

 皆パーティー会場にいる為、ここは今人気が無く夜と言う事も相まってとても静かだった。

 外の空気は冬だからとても冷たかったが、沢山踊って火照った私の体にはこの冷たさが心地良かったのだ。

 私はボーと中庭の風景を眺めながら、大きなため息を吐く。


「・・・私、一体何やってるんだろう」


 そう一人呟き、膝の上で繋いだ両手に視線を落とす。今私の頭の中には先程の松原達の事が浮かんでいるのだ。

 あの純粋に私を男だと思って好意を寄せてくれてる事に、私は罪悪感で一杯になっていた。


・・・もし私が本当の男だったら、こんな罪悪感なんて感じなかったんだろうな~。それか、これが響本人だったらもっと違う展開になってただろうに・・・。


 私は今ほど、この身代わりと言うこの状況が嫌だと感じた事は無かったのだ。

 そうしてもう一度大きなため息を吐いた時、ふと手に何か冷たい物が当たったのを感じじっと手を見つめる。

 するとそこにフワフワと白い物が落ちてきて、私の手に付くとあっという間に溶けて消えてしまった。


「雪だ!」


 私はハッと正面を向くと、空から白い雪が降ってきている事に気が付いたのだ。


「わぁ~!ホワイトクリスマスだ!!これ積もるかな?」


 どんどん降ってくる雪に、私はさっきまで落ち込んでいた自分を忘れワクワクしたのだった。


私、雪大好きなんだよね~!よく実家でも、雪が積もったら響と一緒に雪遊びしてたな~。


 そうして昔を懐かしみながら、ボーとシンシンと降ってくる雪を眺めていると、突然肩に暖かい何かが掛けられたのだ。


「えっ?」


 私は驚いてその肩に掛けられた物を見ると、男物の礼服の大きなジャケットだった事に気が付く。


「早崎君、そんな格好でここにいると風邪引くよ?」

「こ、高円寺先輩!?」


 唐突に後ろから声が聞こえ、その声の主が高円寺と知り驚きの声を上げた。

 私が驚きで固まっている内に、高円寺は後ろから前に回り込み自然な動作で私の横に座って脚を組んだ。

 その高円寺の姿をよくよく見ると、ジャケットを脱いだ格好でいるので、どうやらこの肩に掛けられているジャケットは高円寺の物だと伺い知れる。


「こ、これお返しします!それじゃ高円寺先輩の方が、風邪引いちゃいますよ!!」

「いや、私は大丈夫だよ。それはそのまま早崎君に貸してあげる」

「し、しかし!!」


 私が急いで肩に掛けられたジャケットに手を掛けると、高円寺がやんわりと手でそれを制してきたのだ。


「・・・そんなに返したいのなら、代わりに私が早崎君を抱きしめて暖めるけど?」

「・・・せっかくのご厚意であるこのジャケット、ありがたく受け取らせて頂きます」

「そっか、残念だ」


 そう言いながらも、高円寺は全然残念そうでは無くむしろ楽しそうに私を見てきたのだった。

 私は高円寺に良いように言いくるめられた事に、憮然としながらもジャケットの暖かさにホッと心が安らいだ。

 そうして暫く私達は何も話す事はせず、二人でボーと雪景色を眺め続ける。

 ただ二人だけで眺めているこの時間が、何故か私は嫌では無くとても穏やかな気持ちでいたのだった。


「・・・早崎君・・・君、何か悩みでもあるの?」

「え?」


 突然ポツリと高円寺がそんな事を聞いてきたので、私は驚いて高円寺の方を見る。


「さっき、深刻な顔で大きなため息を吐いているのを見たから」

「・・・あれ見られていたんですか」

「声を掛けるのも、躊躇われる程に落ち込んでるように見えて、なかなか声を掛けられなかったんだ」

「・・・そう言えば、どうしてここに高円寺先輩がいるんですか?」

「ああ私も君と一緒で、あのパーティー会場から息抜きで外に出たんだよ」

「どうして僕が息抜きで外に出たと?」

「あの沢山の女性達と踊った後に、コッソリと会場から抜け出す君を見掛けてね。それで大体予想出来たよ」

「ああなるほど・・・」


 先程のダンスの事を思い出し、またズンと気分が落ち込んでしまった。


「早崎君・・・良ければ君の悩み、私に話してくれないか?」

「・・・・」

「一人で悩むより人に相談した方が、良い解決策が見付かるかもしれないよ?」

「・・・・」


 高円寺が心配そうに聞いてくるが、さすがにこの悩みを高円寺に話す訳にもいかず、私は黙り込むしか出来なかったのである。


「・・・まあ、どうしても話したく無いようだからもう無理には聞かないけど・・・私は早崎君の味方だから、いつでも頼ってくれて良いからね」

「・・・っ!」


 そう言って高円寺は、私の頭を優しく撫で微笑んできた。

 私はその微笑みに今まで堪えていた様々な思いが一気に溢れ、目からボロボロと涙が溢れ出したのだ。


「っ!あ、あれ?・・・な、何で涙が出てくるんだろう?」

「早崎君・・・」

「っっ!!」


 止めどなく溢れ出る涙に動揺し、手で涙を必死に拭うが一向に止まってくれなくて慌てる私を、突然高円寺がその胸に引き寄せ優しく抱きしめてきたのだった。


「こ、高円寺先輩!?」

「・・・何も聞かないから、このまま私の胸で好きなだけ泣いて良いよ」

「・・・っ」


 高円寺の突然の行動に私は慌てて離れようとしたが、高円寺はそれを許さず抱きしめる力を強め離してくれなかったのだ。

 そして優しい言葉を掛けてくれ、背中をあやすように擦ってくれた事で、私は体の力が抜けそのまま高円寺の胸で泣き続けてしまったのである。

 私は暫くの間泣き続け、そして漸く落ち着きを取り戻し泣き止む事が出来た。ちなみに、高円寺は私が泣き止むまでずっと背中を擦り続けてくれたのだ。

 そうして落ち着きを取り戻した私は、冷静に今の状況を理解出来るようになり、次第に羞恥で顔が熱くなっていくのを感じた。


わ、私、一体何やってるのよ!!高円寺先輩の前でボロボロと泣き出して、挙げ句に抱きしめて貰ってさらに慰められるなんてーーーー!!!


 私は心の中で叫び、羞恥で真っ赤になった顔のまま腕を突っ張って高円寺の胸から離れる。

 どうやら私が泣き止んだ事でもう無理に抱きしめてこようとはせず、簡単に高円寺から距離を取って離れる事が出来たのだ。


「こ、高円寺先輩!あ、あ、ありがとうございました!!」

「・・・もう大丈夫?」

「は、はい!大丈夫です!!」

「そう・・・ただもしまた泣きたくなったら、いつでも私の胸を貸すからね」

「い、いえ!もう結構です!」

「そんな事言わずに、いつでも待ってるから」

「ほ、本当にもう大丈夫ですから!!」


 私が動揺している姿を、高円寺はそれはとても楽しそうに見てきたのである。

 ただこのやり取りで、さっきまで沈んでいた心がすっかり浮上し、さらに悩んでいた自分が馬鹿らしくなってきて頑張る気力が湧いてきたのであった。


「高円寺先輩!本当にありがとうございました!正直、僕の悩みはどうしても言う事は出来無いのです。それに簡単に解決出来る事でも無いのですが、僕なりに頑張っていく事にします!!」

「・・・分かった。もう私は何も口出さないよ。ただ、一人で無理だけはしないようにね」

「はい!ありがとうございます!」


 そう言って高円寺は笑顔を見せてきたので、私もつられて笑顔を見せる。すると、高円寺が頬を薄く染め苦笑を溢してきた。


「早崎君・・・いい加減その笑顔を振り撒くの気を付けた方が良いよ」

「へっ?」


 その言葉の意味が分からず小首を傾げて高円寺を見ると、高円寺は諦めた様子で苦笑してきて私の頭に積もった雪を手で落とし、そして頭をワシワシと撫でてきたのだ。


「うわぁ!」

「まあ、これが早崎君らしいから仕方が無いか」

「な、何言ってるんですか!?よく意味が分からないですけど?それよりもそんなに頭撫でないで下さい!髪がグシャグシャになっちゃうじゃ無いですか!!」


 そう私が抗議するも、高円寺はこれが気に入ったのか暫く撫でるのを止めてくれなかった。

 そして私も口では嫌がっているが、正直ちょっと撫でられるのが気持ち良く本気で抵抗しなかったのだ。

 そうして暫く撫でられた後、私はすぐに髪を直しさすがに寒くなってきたのでパーティー会場に戻る事にして、私は羽織っていたジャケットの雪を叩いて落としてから高円寺に返し、二人並んで会場に戻って行ったのだった。



 パーティー会場に戻ると、高円寺は他の三人の下に向かう為私から離れて行ったが、去り際にもう一度私の髪をクシャリと撫でてから去って行ったので、私はキッと高円寺の後ろ姿を睨みつけ髪を直しながら委員長の下に戻ったのだ。


「委員長お待たせ~!」

「・・・早崎君・・・何か良い事でもあったの?」

「へっ?」

「だって・・・なんだか頬が緩んで嬉しそうだよ?」

「な、何も無かったよ!!」


 委員長の指摘に、何故か無意識に緩んでしまったらしい頬を手で押さえ、マッサージしてなんとか平静な顔に戻した。


別に嬉しい事なんて何も無かった筈!・・・だよね?


 私は自分の気持ちに自信が持てず、自分に疑問を投げ掛けるが当然答えが返ってくる筈も無く、とりあえずこれ以上この事は考えないようにしようと思い、私は元気良く近くのテーブルに置いてあった取り皿を手に取る。


「それよりも委員長!こんなに美味しそうな料理が沢山並んでいるんだ、食べなきゃ勿体無いよ!!」

「・・・色気よりも食い気か。まあ、早崎君らしくて良いけどね」

「委員長?何か言った?」

「いや、それじゃその食い気に付き合うよ」

「よし!目指せ!全制覇!!」

「ええ~!?」


 呆れる委員長を無理矢理引き連れ、私達は美味しそうな料理が並んでいるテーブルに向かったのだった。

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