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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
39/110

社交ダンス

「早崎君・・・」

「ん?」


 高円寺達の様子を見ていたら、私を呼ぶ声が後ろから聞こえてきたので、私はその声がした方に振り向いた。

 するとそこには私に声を掛けてきた松原を筆頭に、足立と菊地が綺麗に着飾り素敵なドレスを着て三人並んで立っていたのだ。


「わぁ~!三人共凄く素敵だね!そのドレスも良く似合ってて綺麗だよ」

「「「・・・っ!!」」」


 私は素直に思った感想を言い微笑んだのだが、何故か三人は顔を真っ赤にさせ俯いてしまった。


「どうかした?僕何か変な事言ったかな?」

「いや、その格好でその微笑みされたらそりゃそうなるよ」

「うん?委員長どう言う意味?」

「・・・相変わらず気が付かないんだね」

「???」


 委員長が呆れながら私に言ってきたのだが、その意味がさっぱり分からず首を捻って困惑する。


「あ、あの!早崎君!」

「・・・松原さんどうかした?」


 松原は顔を真っ赤にさせたまま、意を決した表情で顔を上げ私を見てきた。


「早崎君!良かったら私達と踊って下さい!」

「えっ?」

「「お願いします!」」


 私が驚いて松原を見ると、俯いていた足立と菊地も顔を上げ真剣な表情でお願いしてくる。

 このクリスマスパーティーは、有名な楽団も呼ばれており今も生演奏で音楽が流れている。そしてその音楽に乗って、ホールの中心でダンスを踊っている男女がいるのだ。

 ちなみにダンスは得意な方である。何故なら、小さい時にお父様の友人である音楽家一家がよく家に遊びに来て演奏会を開いてくれ、その演奏を聞きながら家族皆で社交ダンスを踊っていたのだ。

 さらにその時、遊びで響と男女のパートを入れ替えて踊っていたので、今ではどちらのパートでも踊る事が出来るようになっているのだった。


「・・・べつに踊っても良いけど・・・本当に僕で良いの?僕よりもっと踊りの上手い人他にいると思うし、なんだったらせっかくこんな機会だし、あの四人に声を掛けても良いと思うけど?」


 そう言ってチラリと高円寺達の方を顔で示す。


「ううん!私達は早崎君と踊りたいの!むしろ早崎君だからこそ意味があるの!!」

「「うん!!」」

「そ、そう?まあ良く分からないけど、そんなに言うなら良いよ」

「「「ありがとう!!」」」


 三人の必死な迫力に押され、私はたじろぎながらもその申し出を受ける事にしたのだ。


「それじゃ、とりあえずホールの中心に行こうか」

「「「はい!」」」

「委員長、そう言う訳だからちょっと僕行ってくるよ。すぐ戻ってくるから適当に好きな事してて」

「ああ・・・うん・・・多分、暫く戻って来れなくなると思うけど頑張ってね~」

「ん?そんな時間掛からないと思うけど?まあ良いや。じゃ行ってくるよ」


 委員長が私を何故か哀れんだ表情で見てくるのを不思議に思いながらも、私は三人と連れ立ってホールの中心に向かったのだった。



 ホールの中心に着いた私達は、あらかじめ順番を決めていたらしくまず松原と一緒に踊る事となったのだ。

 最初にお互い距離を取り、お辞儀をし合ってから再び近付いて私は松原の手を取り腰に手を回した。そして音楽に合わせて足を動かし始める。

 松原はどうも緊張しているのか少し動きが固かった為、男性パートの私がリードするように踊ると、次第に緊張が解れてきて軽やかに踊れるようになってきた。


「松原さん上手だね」

「そんな事無い・・・早崎君のリードが上手いからよ」

「そうかな?」

「そうよ!」


 そうして、踊りながらも話せるぐらいに余裕が出てきた松原と暫く踊って話していると、松原が段々思案するような表情で黙り込んでしまう。


「松原さん、どうかした?」

「・・・早崎君、一つ聞いても良い?」

「うん?何を聞きたいの?」

「ねぇ、早崎君はその胸のコサージュを・・・誰かと交換する約束ある?」

「えっ?・・・特に無いけど?」


 このコサージュに関わる伝説を、ついさっき委員長に聞いたばかりなのだからそんな約束ある筈も無く、そもそも今男と偽っているのでそんな事出来る訳も無いのだ。

 私は苦笑しながら何も約束無い事を告げると、途端に松原は目を輝かせ頬を蒸気させて私に迫ってきた。


「そ、それなら!良かったら私と交換して!!」

「ええ!?」


 松原の突然の申し出に、私は目を見開き驚きの声を上げたのだ。


「駄目・・・かな?」


 そう言って松原は瞳を潤ませ、上目遣いで私を見てくる。多分普通の男子ならこの表情を見てコロッと了承の返事をしてしまうんだろうけど、なにぶん私は普通の男子では無いと言うか女だからそんな事にはならなかったのだ。

 私は凄く困った表情になりそんな松原を見返す。


「・・・ごめんね。松原さんの気持ちは凄く嬉しいけど・・・僕は誰ともこのコサージュを交換する気は無いんだ」

「早崎君・・・」

「松原さんには、僕なんかよりももっと良い人が絶対見付かるよ。だから・・・本当にごめん」

「・・・いいえ、私の方こそ無理言ってごめんなさい」


 松原がそう言って、無理に笑顔を作って私に謝ってきた。私はその様子にとても心が痛くなる。

 そんなタイミングで丁度曲も終わり、私達は無言で離れお互いにお辞儀をし待っている二人の下に戻ったのだ。

 二人の下に戻る時、松原は二人に向かって軽く首を横に振ると二人はなんとも言えない表情をする。

 そして次に踊る予定の足立が、顔を引き締め松原と入れ替わって私に近付いてきたのを見て、私はとても嫌な予感がしたのだった。

 やはり案の定、足立も松原と同じように私のコサージュと交換を希望してきたのだ。

 結局足立にも断りと謝罪の言葉を言い、その後の菊地も同様だった為同じように断ったのだった。

 そうして三人踊っただけでどっと気疲れした私は、これで終わったと思い三人に別れの言葉を言い、とっとと委員長の下に戻ろうとしたのだが、三人と離れた瞬間私はあっという間に沢山の女生徒に取り囲まれてしまったのだ。


「へっ?」

「早崎君!今度はわたくしと踊って下さらないかしら?」

「いえいえ!私と踊って下さいな!」


 そう口々に誘いの言葉を言いながら、ギラギラした目で迫ってくる彼女達に私は頬を引きつらせながら、ドン引きしていたのである。

 そこでふとあの委員長の見送り時の言葉の意味を察し、委員長はあの時点でこうなる事を予想していたんだと分かったのだ。

 そうして凄い迫力で迫る彼女達の申し出を断る事が出来ず、結局仕方がなく何人も代わる代わる彼女達と踊ったのだった。



 漸く人の波が切れたタイミングで、さっさとホールの中心から逃げ出し委員長の下に戻る。


「早崎君、お疲れ~」


 委員長は苦笑しながら、手に持っていたジュースの入ったグラスを手渡してくれたので、私はそれを受取りグッと一気に全部飲み干してから委員長をギロっと睨んだ。


「・・・委員長~!こうなる事分かってたんだろ?何で教えてくれなかったんだよ!!」

「う~ん・・・でも、もし教えても、あの三人の必死なお願いを断らなかったよね?」

「うっ!」

「だったら知らない方が楽しく踊れるかな?と思ったんだ」

「・・・・」


 委員長の言う事も確かにそうだと思った。多分聞いてても、あの三人の懇願を断る事など出来なかったと思ったからだ。

 私は一つ大きなため息を吐いて、空になったグラスを近くのテーブルに置きチラリと会場内を見渡す。

 すると何人かの女生徒が、やはりこちらをチラチラ見ている事に気付き、このままここにいてはまたさっきの二の舞になると感じたのだ。

 私は視線を委員長に戻し小声で話し掛ける。


「ごめん委員長、僕ちょっと休憩がてら外の空気吸ってくるから、後の事頼んで良いかな?」

「ああ・・・うん、分かった。もし早崎君の事聞かれたら、適当に言っておくからゆっくり休んできなよ」

「委員長ありがとう!じゃ行ってくるね!」


 委員長がチラリと私が見ていた方を見て全てを察してくれたので、私は委員長に後を頼み気が付かれないようにそっと静かにパーティー会場を抜け出したのであった。

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