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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
37/110

迷い子

「ゆずちゃんは、ママと二人で来たの?」

「うん!だって・・・パパきょうおしごといそがしいからって・・・」

「そっか・・・もしかしてゆずちゃんそんなパパの事嫌い?」

「ううん。ゆずパパのことだいすきだよ!いつもゆずにやさしくしてくれるし、おしごといそがしくないときはいっしょにあそんでくれるから!あ!もちろんママのこともだいすきだよ!」

「そうなんだ。ゆずちゃんは二人の事大好きなんだね」

「うん!」


 そう言って、ゆずは満面の笑顔で私を見上げてきたのだ。

私はその笑顔に心がほっこりし、つられるように私も笑顔を返す。高円寺はそんな私達を見つめ優しく微笑んでくる。

 こんな風に三人で手を繋いでいたら、ふと私は昔の事を思い出した。

 私と響がまだゆずぐらいの歳の時、両親と一緒に四人で出掛けその時私の右手をお父様が繋いでくれ、左手を響と繋ぎ響の左手をお母様が繋いで四人並んで歩いていた時を思い出したのだ。


懐かしい~。私皆で手を繋いで歩くの好きで、良くお願いしてたな~。そう言えば、その時も皆こんな風に笑顔で歩いていたな~。


 私はその時の情景が頭に浮かび、自然と頬を緩めこの状況が楽しくなってきた。


「私達、まるで親子みたいに周りから見えるのかな?」

「えっ!?」


 突然高円寺がそんな事を言い出し、私は目を瞠って高円寺を見る。


「わ~ほんとうだ~!!おうじさまがパパでおひめさまがママみたいだ~!」

「ふふ、そうだね」


 キラキラとした目で、嬉しそうに私と高円寺を見てくるゆずに高円寺は楽しそうに微笑む。

 しかし私は、その時心の中で大きく動揺していた。


親子みたいって・・・それじゃ私と高円寺が夫婦のように見えるって事!?いやいや、さすがにそれは無い!・・・ってあれ?何で私こんなに動揺してるんだろう?


 自分でも良く分からない程動揺している事を不思議に思い、何故か動悸が激しくなった胸を空いてる手でそっと押さえる。


「おひめさまどうかしたの?」

「・・・もしかして、どこか体調でも悪いのか?」

「い、いえ!だ、大丈夫!ちょっと胸元が苦しくなっただけですから!」


 怪訝な表情で見てくる二人に私は慌てて言い繕い、作り笑顔を見せ謎の動揺を隠したのだった。


「さ、さぁ!早くゆずちゃんのママを見つけましょうね!」

「う、うん・・・でもおひめさまムリしちゃダメだよ?」

「ありがとう。無理してないから大丈夫よ」

「・・・本当に体調悪いようなら言うんだよ?あとは私一人でも大丈夫だから」

「だ、大丈夫です!さあ行きましょう!」


 私はそう言って少し足を早め進み出す。二人はまだ心配そうに私を見てくるが、もうそれ以上言ってこず私に合わせて少し早く歩き出したのだった。



 そうして暫く三人で学園内を歩き、途中模擬店のゲームの景品でクマのぬいぐるみをゆずが見付け、凄く欲しそうにしているのに気が付いた高円寺が軽々とそのゲームをクリアし、手に入れたクマのぬいぐるみをゆずにあげていたのだ。

 私はその優しい姿に、不覚にも少し格好良いと思ってしまったのだった。

 ゆずは私の手を握りながら、もう一方の手でそのクマのぬいぐるみを大事そうに抱え持ち、凄く嬉しそうな笑顔で高円寺にお礼を言っていたのだ。

 高円寺はそんなゆずの頭を優しく撫で、また三人で歩き出したのだった。

 そして暫く歩いていると、向こうの方から必死にこちらへ掛けてくる女性の姿が目に入ったのだ。


「ゆずーーーー!!!」

「あ!ママ!!」


 ゆずはそう言うと、さっきまで笑顔だったのが途端に表情を崩し、ボロボロと涙を溢しながら私の手を離しその女性の下に駆け出して行った。

 私は離れてしまった手の温もりを、少し寂しく思いながらもゆずの後ろ姿を黙って見送る。


「ママ!ママ!うわぁーーーん!!」

「ああ、ゆずごめんね!ママが目を離してしまって!」


 ゆずのお母さんはそう言いながらしゃがみ込み、泣きじゃくるゆずを胸に抱きしめ優しく何度も背中を撫でて慰めていた。

 暫く泣き続けたゆずは段々落ち着きを取り戻し、まだ涙で濡れている目を手でゴシゴシと拭いながらお母さんの顔を見上げる。


「ママ、あのね。おうじさまとおひめさまが、ゆずといっしょにママのことさがしてくれたの!」

「王子様とお姫様?」

「うん!ほら!」


 ゆずはそう言うと、お母さんの胸の中にいながら私達に振り向き、笑顔で手を振ってきた。


「あら!本当だわ!」


 ゆずのお母さんは、改めて私の姿をじっくり見てゆずの言葉の意味を理解する。そして、立ち上りゆずの手を取って私達に近付いてきた。


「すみません。ゆずが大変お世話になったみたいで、ありがとうございました」

「いえいえ、無事に見付かって本当に良かったです」

「それにこのクマのぬいぐるみも頂いたようで、本当にありがとうございました」

「お気になさらず。ただ、まだ構内は人が多くいますので、もうはぐれられないように気を付けて下さいね」

「はい!今度こそ気を付けます!」


 ペコペコと頭を下げてお礼を言ってくるゆずのお母さんに、高円寺は笑顔を見せながらも、気を付けるよう注意を促していたのだ。

 私は生徒会長である高円寺にこの場を任す事にし、ゆずに笑顔を向け黙ってその様子を見守っていた。

 そしてもう一度、ゆずのお母さんが私達に頭を下げてお礼を言い、そうしてゆずを連れ離れて行こうとした。

 私達はそんな二人に笑顔で手を振り見送っていると、お母さんと手を繋いで嬉しそうに歩いていたゆずが、ふと何かに気付いたのか私達に振り返り笑顔を向けてくる。


「おうじさま!おひめさま!けっこんしきにはゆずよんでね~!!」


 そう言って無垢な笑顔のまま、クマのぬいぐるみを持った手を私達に振り去っていったのだった。

 しかし私は、ゆずの言葉にピシッと笑顔を顔に張り付けた状態で固まってしまったのだ。


・・・私と高円寺の結婚式?


 その瞬間頭の中に、大きなチャペルで白いタキシードを着て私に微笑んでくる高円寺と、純白のウェディングドレスを着た私が式を挙げている映像が浮かんだのだった。


いやいやいや!!!絶対無いからーーーー!!!


 私は激しく頭を振って、その映像を打ち消そうとしたのだ。


「早崎君?どうした?」


 高円寺は突然頭を振りだした私に驚きながらも、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。


「・・・っ!!」


 突然目の前に高円寺のドアップが現れ、その瞬間先程頭に浮かんだタキシードの高円寺の姿と重なり、私は一気に顔が熱くなったのを感じ一歩後ろに下がった。


「早崎君、本当にどうしたんだい?なんだか顔も赤いようだし・・・やはり体調良くないのでは?」

「い、いえ!大丈夫です!あ!さすがにもう戻らないと、委員長達が困っているかも!」


 私は早口にそう言うと、この良く分からない動揺を悟られないように、急いで踵を返しこの場を早く立ち去ろうと足を踏み出す。しかし、今着ているのが裾まであるドレスだった事を忘れていた為、その踏み出した足でドレスの裾を踏んでしまったのだ。


「あっ!」

「早崎君!!」


 そのまま地面に倒れると思い、思わず目を瞑って痛みに備えたのだが、その痛みは一向に訪れずその代わりお腹の辺りに温かさと共に圧迫感を感じそっと目を開ける。

 目を開けると、視線の先には地面が見えるが直接付いていない事がハッキリ分かり、私はゆっくりとお腹に感じる熱と圧迫感の原因を確認した。

 私のお腹には、白い袖の腕がガッシリと腰まで回って掴んでいたのだ。


「・・・早崎君、大丈夫か?」


 この状況に頭が混乱していると、私の後ろからそう心配そうな声で高円寺が声を掛けてきたので、その瞬間どうしてこんな状況になっているのか察したのだった。


「こ、高円寺先輩!あ、ありがとうございます!!」


 どうやら私がドレスの裾に躓き、地面に倒れる直前高円寺が咄嗟に私のお腹に腕を回し助けてくれたようなのだ。

 私はすぐさま立ち上り、高円寺にお礼を言って離れようとしたのだが、何故か高円寺は私を離してくれなかった。

 さらに有ろう事か、もう一方の腕も腰に回してきて後ろから抱きしめられるような体勢になったのだ。


「こ、こ、こ、高円寺先輩!?は、離して下さい!!」

「・・・もう少しこのままで」

「っっ!!」


 高円寺の美声が耳元で囁かれ、私の胸は早鐘を打ち始める。


何で!?どうしたの私!?後ろから抱きしめられた事なら、撮影の時に誠先輩にもやられた事あるでしょう!?何で今はこんなに心臓の音が煩いの?どうして?


 そうグルグルと頭の中で疑問が渦巻きながらも、とりあえずなんとかこの体勢を崩したいと藻掻き出すが、そうするとさらに腕の力を強められた。


「こ、高円寺先輩!どうしたんですか!?とりあえず離して下さい!!」

「・・・何でだろう?どうも早崎君の体は抱き心地が良いんだ。しかし体育祭の時も思ったのだが、早崎君・・・君本当に男にしては華奢だよね?・・・まるで女の子みたいだ」

「っ!!」


 耳元でそう囁く高円寺のその言葉に、心臓が止まるかと思うほど大きく心臓が跳ねた。そして、私は顔面の血の気がサッと引くのを感じたのだ。


そ、そうだった!今女の格好していたからすっかり忘れてたけど、私男としてここにいるんだった!!駄目だ!このままこの体勢でいると女とバレてしまう!!


 私はそう焦り、咄嗟に高円寺のお腹を肘で打った。


「うっ!」

「ご、ごめんなさい!あと、僕は男なのでそんな事言われても嬉しく無いです!!すみませんが、僕もう教室に戻ります!では失礼します!!」


 痛みで腕の力が抜けた隙を突いて、高円寺の腕の中から逃げ出した私は、そう捲し立てて言い高円寺の返事を聞かずに踵を返し、今度は踏まないようドレスの裾を上げその場から逃げ出す。

 その時、踵を返す瞬間高円寺をチラリと見たのだが、私の肘打ちが相当痛かったのか、お腹を押さえ苦悶の表情をしながら私を見ていたのだ。


手加減出来なくて、ごめんなさーーーーい!!


 そう心の中で謝りながら、その場を後にしたのだった。

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