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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
36/110

姫と生徒会長

「高円寺先輩!どうしてここに?それに何言ってるんですか!?」

「実は丁度仕事が一区切りついたから、ちょっと休憩しようと早崎君のクラスに行ったんだ。そしたらそこで早崎君がここで休憩していると聞いてね、様子を見に来たら早崎君が学園祭を一人で見て回ると言うのが聞こえてきて、それなら折角だし一緒に見に行かないかと思ったんだよ」

「いやいや、高円寺先輩お疲れでしょ?そのまま休憩してて下さい!僕一人で行ってきますから!」

「そんな事言わずに一緒に行こう。それに、私は生徒会の仕事で見回っているからどこにどんな出し物があるか把握しているから、効率良く案内出来るよ?さっきの話では、早崎君はまだ他の所を回っていない様子だったしね」

「うっ!」


 高円寺の言う通り、私は自分のクラスの事でいっぱいいっぱいだった為、どこになにがあるのかさっぱり把握していなかったのだ。


「早崎君良いんじゃない?折角だから高円寺先輩に案内して貰いなよ」

「委員長・・・」

「それに、次のお菓子が出来るまで約一時間ぐらいしか無いから、その間に回るとしても場所を把握して貰えてる高円寺先輩が一緒だと楽だと思うよ?」

「それは確かにそうなんだけど・・・」

「ほら、悩んでても休憩時間がどんどん減るだけだからさ!行ってきなよ」

「・・・分かったよ。では高円寺先輩、僕制服に着替えてくるのでちょっとだけ待ってて貰えますか?」

「・・・いや、そのままで良いと思うよ」

「へっ?いやいや!この服だと動き難いし、そもそも僕が恥ずかしいので!!」

「だがしかし、あまり時間が無いのだろ?それを脱いで、また後でもう一度着るとなると殆ど休憩時間が無くなると思うのだけど?」

「それはそうなんですけど・・・」

「早崎君もう諦めて、その格好で高円寺先輩と行ってきなよ。それにその格好で校内歩けば、さらにうちのクラスの宣伝にもなるからさ!」

「そ、そこまで僕にさせるのか・・・分かったよ!もうこうなりゃ自棄だ!ついでにガンガン宣伝してくるよ!と言うわけで、高円寺先輩も一緒に行くなら宣伝付き合って下さいね!」

「ああ、出来るだけ手伝うよ。では、足元危ないだろうから・・・さあ行こうか『姫』」

「・・・っ!」


 自棄糞気味に高円寺に言うと、高円寺は私をとても楽しそうに見てきて、そして優雅にお辞儀をし微笑みながら手を差し伸べてくる。

 まるで私をお姫様のように扱ってくるその姿に、本当の王子様のようだと思わずドキッとしたのだった。


・・・あれ?何でドキッとしたんだろう?・・・ああそうか!ずっと女として扱われていなかったから、久しぶりの女扱いに動揺しちゃったんだな。


 私はそう心の中で納得し、もうドキッとしないのを確認してから高円寺の手を渋々取り、エスコートされるように学園祭に繰り出したのである。



 やはり着なれてないドレス姿なので、校内を長距離歩くにはまだ慣れていない。その為高円寺が私の手を取り、私の歩調に合わせて横を歩いてくれるのは正直助かっていたのだ。

 その高円寺はと言うと、終始ご機嫌な様子で私の横を歩いている。

 時折障害物や対面から人が来ると、さりげなく私を安全な方に移動させてくれ、その紳士的な対応に学園中の生徒が高円寺に憧れを抱くのがなんとなく分かったのだ。

 ちなみに高円寺とこのお姫様の格好で歩いていると、どうも周りからため息と共に感嘆の声が漏れ聞こえてきて居心地が悪かった。

 そうして、高円寺の案内の下様々な出し物に案内して貰えた。

 そしていくつか回った所で、廊下の向かいから見知った二人組が歩いて来ている事に気付く。


「あ!高円寺先輩!お疲れ様です!」

「お疲れ様です!」

「日下部君と駒井君お疲れ様。見回りご苦労だね。もう少ししたらまた私も戻るよ」

「いえ、まだ俺達でも大丈夫なので、高円寺先輩はゆっくり休んで下さい!」


 そう元気良く日下部が言うと、駒井もそれに同意するように頷く。すると、日下部がふと隣にいる私に気付き目を瞠って顔を赤くしたかと思うと、次の瞬間口を大きく開け驚愕の表情で私を指差してくる。


「ま、まさかお前・・・早崎か!?」

「え?あ!本当だ!早崎君だ!!」

「・・・気付いて無かったのか」

「そ、そんなに変われば気が付く訳無いだろう!」

「凄い綺麗!本当に気が付かなかったよ!でもそう言えば、三浦君が早崎君凄い事になってるから一度見に来てと言ってたけど・・・言ってる意味が良く分かったよ!」


 駒井が赤い顔で興奮しながら言ってきたのだ。


「そんなに凄いかな?ただ、女装してるから皆珍しがってるだけだと思うんだけど・・・」


正直、女なのに男の振りをして女装と言わなければいけないのが、ちょっと泣けてくる・・・。


「そんな事無いよ!自信持って良いと思うよ!ね?日下部君もそう思うよね?」

「あ、ああ。正直そのまま女と言われても通用する程の出来だからな」

「・・・アリガトウ」


女なんですけどね・・・。


 そうして少し日下部達とその場で話した後、日下部達はまだ見回りが残っていると言う事でその場で二人と別れ、そのまままた高円寺と他の出し物を見に行ったのだった。



 さらにいくつか回り、そして外の模擬店を堪能したぐらいでそろそろ時間だから戻ろうかと言い、二人で校舎内に戻ろうと足を進めたのだ。

 だがその時どこからか、微かに小さな泣き声が聞こえたような気がして私は足を止める。


「早崎君?」


 高円寺が突然足を止めた私を不思議そうに見てきたが、私はそれを気に止めずキョロキョロと辺りを見回し耳を澄ます。

 するとやはり泣き声が聞こえてきたので、私はその声のする方に足早に歩き出した。

 高円寺もそんな私を訝しがりながら、黙って私の後を付いてくる。

 私は校舎裏の人気の無い所に付くと、そこにはうずくまりながら両手を目に当てて泣いている、小さな女の子を発見したのだ。

 側に寄ると、小さな声でママと言いながら泣いているのが聞こえ、どうやらお母さんと一緒に来てはぐれてしまったのだと分かった。

 私は女の子の前にしゃがみ、ツインテールの頭を優しく撫でて声を掛ける。


「大丈夫?」

「ひっく・・・あ!おひめさまだ!」


 女の子は泣き顔のまま顔を上げると、目の前にいた私を見て潤んだ目を瞬かせ驚いていた。しかしどうも驚いた事で涙は止まったようだ。


「どうしたの?ママとはぐれちゃったの?」

「・・・ママ・・・ひっく」


 私が訊ねた事で女の子はお母さんを思い出してしまい、また表情を曇らせ今にも泣きそうな顔になってしまった。

 その表情を見て私はしまった!と思い、オロオロと動揺してしまう。

 すると高円寺がスッと片膝を折って女の子と目線を合わせ微笑み、ポケットから出したハンカチで女の子の涙に濡れた頬を拭ってあげたのだ。


「わぁ~!おうじさまもいる~!!」

「ふふ、安心して良いよ。王子の私が君と一緒に、君のママを探してあげるから」

「ほんとに?」

「ああ本当だよ」

「わぁ~い!・・・ねぇ、おひめさまもいっしょ?」

「勿論一緒に探してあげる」

「やったー!!」


 高円寺の優しい微笑みと言葉に、女の子の涙はすっかり止まり笑顔で喜んでくれた。私はその笑顔を見てホッと胸を撫で下ろす。

 そうして女の子は、すっかり元気になり立ち上がったので私と高円寺もつられて立ち上がった。


「ねぇねぇ?おうじさまとおひめさまは、こいびとどうしなの?」

「えっ?」

「そうだよ。恋人同士だよ」

「なっ!?」


 女の子は、こちらを見上げながら興味津々にそう訊ねてきたので驚き、そして高円寺の肯定の返事にさらに驚いて高円寺を見ると、高円寺はこちらに視線を送りながら口に人差し指を当てたのだ。


・・・ああそう言う事。物語りの中の王子様とお姫様は、ほとんど恋人同士だもんね。どうも女の子は私を本物のお姫様と思っているみたいだし、ここで否定して夢を壊しちゃったら可哀想だよね。よし分かった!女の子のお母さんが見付かるまで、お姫様の振り頑張るよ!!


 私はそう心の中で決意し、高円寺に了解と言う意味で頷く。

そして、女の子と手を繋ぎニッコリと微笑む。


「おひめさま・・・すごくきれい!!」

「ありがとう。そう言えば、お名前聞いても良いかしら?」


 女の子は頬を染めながらポーと私を見つめそして誉めてくれたので、私は素直にその言葉を受けお礼を言い女性の言葉使いを使って名前を訊ねる。


「ゆず!5さいだよ!」

「ゆずちゃんか可愛い名前だね。それじゃあ、一緒にママを探しに行こうか」

「うん!」


 そうして高円寺がゆずの名前を誉め、そして私が繋いでいる手と反対のゆずの手を取って繋ぎ、私と高円寺の間にゆずが両手をそれぞれの手と繋いだ状態で歩き出したのだった。

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