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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
34/110

華麗なる変身

 お母様は私の着替えを手伝うと言って、私を連れ更衣室に一緒に向かった。

 それだったらハルも一緒に入ると言ってきたが、お母様が更衣室に三人は狭いし、母親が手伝った方が安心するからと言ってハルの申し出をやんわり断り、その変わり教室に用意されていた化粧台を示しそちらの準備をお願いしていたのだ。

 そう言う事ならと納得したハルをその場に残し、お母様はハルの持ってきたドレスを手に持ち、楽しそうに私と一緒に更衣室に入る。


「お母様!一体何を考えているの!?」


 外にハルがいるので、なるべく大きな声を出さないように気を付けながら問い詰めると、お母様はニコニコとしながら小さな声で答えてくれた。


「だって~詩音ちゃんの王子様姿も良いけど、お姫様姿も見てみたかったから~」

「はぁ~!?」


 私は思わず大きな声が出てしまい、慌てて口を手で押さえる。

 更衣室の外に聞き耳を立てると、ハルが鼻歌を歌いながら何か準備している音が聞こえてくるので、どうやらこちらの様子を不審には思わなかったようだ。

 私はその様子にホッと息を吐き、もう一度お母様を見て声を潜める。


「お母様分かってるの?私は今響として男の振りをしてここにいるんだよ?」

「ええ、分かっているわよ~」

「だったら!こんなドレス着て外に出たら、女とバレちゃうよ!」

「う~ん、多分大丈夫だと思うわよ?だって、今は学園祭ですもの~。皆面白がってくれるだけで、バレる事は無いと思うわ~」

「面白がるって・・・それはそれで嫌なんだけど・・・」

「詩音ちゃ~ん?あなた本当にお姫様の格好したく無いの~?」

「うっ!」


 実は、他の女子がお姫様の仮装をしているのを、密かに羨ましと思っていたのだ。

 お母様はそんな私の様子にさらに笑顔になり、持っていたドレスを広げて見せてきた。


「ね?一度着てみましょ?」

「・・・うん」



     ◆◆◆◆◆


 高円寺達は、早崎があっという間に母親達に連れていかれ呆然としている早崎の父親をこの場に残しておく訳にもいかず、とりあえず皆困惑したままこの場に止まる事にしたのだ。


「響君、どこ連れて行かれたんだろうね~?」

「さぁ?とても楽しそうなお母様に連れていかれたからな」

「なんでかハルさんも、一緒に行っちゃったんだよね~」

「しかし、二人共良い笑顔だったのが逆に怖かった・・・」

「うん・・・」


 榊原と藤堂の二人が話しているのを横で聞きながら、まだ呆然としている早崎の父親に高円寺は声を掛ける。


「早崎さん・・・大丈夫ですか?」

「・・・え?あ!す、すみません。お見苦しい所お見せしてしまって」

「いえ、私は気にしていませんので。しかし、奥様は一体どうされたのでしょうか?」

「すみません。私でも分からないのです。実は時々、妻はあのように突然思い付いた行動をする時があり、私でも一体何をしだすのか予想出来ない時があるのです」

「そうなのですか?とてもお淑やかそうに見えていたのですが?」

「ええ、普段はその通りお淑やかでとても出来た妻なのですが・・・何か妻の楽しみが見付かると、途端あのように・・・お恥ずかしい限りです」

「それはそれは・・・苦労されたでしょう?」

「いえ、私はそんな妻も全て分かった上で愛していますので、全く苦労しているとは思っていないのですよ」

「そうですか。お幸せなのですね?」

「はい。とても幸せですよ」


 そう言って、早崎の父親は幸せそうに微笑んだのだった。


「そう言えば早崎さんは、確かこの学園で奥様と出会われたとお聞きしましたが?」

「ええ、そうです」


 高円寺と早崎の父親が話している所に、桐林が会話に参加してくる。


「確か、俺達のだいぶ前の先輩に学園を巻き込んだ大恋愛の末、結ばれたカップルがいたと伝説になっているのですが・・・」

「ああ、昔そんな事もありましたね。今思えば懐かしい思い出ですよ」


 そう言って、昔を思い出したのか懐かしそうに笑った。

 そうして、高円寺達は早崎の父親と話をしている時、教室の入口からひょっこりと三浦が顔を出しキョロキョロと回りを見回す。


「三浦君どうかしたのか?」

「あ、高円寺先輩・・・すみません、早崎君見ませんでしたか?」

「ああ早崎君なら、お母様に連れられ何処かに行かれたようだよ?ちなみにこちらが早崎君のお父様だ」

「あ!初めまして!早崎君とはいつも仲良くさせて頂いている、三浦 章太と言います!」

「君が三浦君か。よく息子から話を聞いているよ。そうそう、息子達の誕生日プレゼントありがとう。娘も大変喜んでいたよ。これからも息子の事よろしく頼みます」

「はい!僕の方こそよろしくお願いします!」

「・・・そう言えば三浦君、早崎君探しているのでは?」

「あ!そうだった!そろそろ、呼び込みと案内の仕事に戻ってもらおうと思ってたんだけど・・・お母様に連れていかれちゃったのか・・・」


 早崎の父親に挨拶していた三浦が、高円寺の言葉に本来の目的を思い出し、困った表情で回りを見る。

 高円寺もそれにつられ回りを見ると、高円寺達を遠巻きに見ている人集りはいるが、三浦のクラスの仮装喫茶に入っていく人がいない事に気が付く。


「・・・すまない。どうも我々が邪魔をしているようだね。さすがに他の場所へ見回りをしに行く事にするよ」

「そんな!べつに高円寺先輩達のせいじゃ無いですから、気にしないで下さい!」

「それでも、長く居過ぎた事には変わり無いからね。正直早崎君は気になるがここで失礼するよ。早崎さん、我々はこれで・・・」


 そう言って高円寺は早崎の父親に、辞する言葉を言おうとしたその時、早崎が連れていかれた方から人のざわめきが波のように、段々近付いて来ている事に気が付いた。


「なんだなんだ?」

「どうしたんだろう?」


 少し離れていた藤堂と榊原も、高円寺達の近くに寄ってきてそのざわめきを不思議そうに見る。

 すると突然人垣が割れ、そしてそこから現れた人物に高円寺達を始め、その場に居た全ての人々が息を飲んで言葉を無くし、その人物に魅入っていたのだった。

 そこに現れたのは、早崎の母親に手を取られ淑やかに歩いてくる一人の美しい女性だったのだ。

 その女性は腰まである長い髪を揺らし、左右の顔の横にある一房の髪を三つ編みで結んで後ろに一つに束ね、そこにピンクの薔薇が飾られている。

 そして胸元にも大きなピンクの薔薇が飾られた、豪華な装飾の付いた淡いピンク色のドレスを着ていたのだ。

 さらに恥じらっているのか、頬をほんのり赤く染め軽く俯くその姿は可憐でとても神秘的に美しく、まるでおとぎ話に出てくるお姫様が現実に現れたのかと思ったのだった。

 高円寺達はその女性を見て、胸の動悸が激しくなり皆無意識に心臓を押さえていたのだ。

 その横で早崎の父親だけは、何故か酷く感動したようにボロボロと涙を流している。


「お待たせしてごめんなさいね~!どうかしら?この響ちゃんは?」

「「「「「・・・えっ!?」」」」」


 高円寺、藤堂、桐林、榊原、三浦の五人はその言葉を聞き、同時に驚きの声を上げたのだった。

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