両親とカメラマン
私は勿論二人に学園祭の招待状は送ってあった。
しかしお父様は、あまり都会のこう言った人混みの多い所が好きでは無いので、来ないだろうと思っていたのだ。そして、お父様が来ないならお母様も一人で来る事は無いので、私は二人が来る事を期待してなかったのである。
その二人が私を見付け笑顔で手を振ってくるので、一瞬本物なのかと目を疑ってしまったのだ。
「し・・・響~!」
「お父様・・・」
相変わらず私を詩音と呼びそうになるお父様に、やはり本物だと実感した。
二人は私の所まで来ると、繁々と私の姿を上から下までじっくりと見てきたのだ。
「くっ!響・・・そんなに王子様の姿が似合って・・・お父さんは・・・」
「まあまあ、奏一さん泣かないの。それにしても、さすが奏一さんと私の子供ね~!良く似合っているわ~!」
「お母様・・・正直もうその台詞聞き飽きたよ」
「あら~?そんなに皆に誉められているのね~!良かったわね~!」
「・・・・」
もうお母様には、何も言わないでおこう・・・。
「早崎さん、お久しぶりです。その節は大変お世話になりました」
「ああ、確か高円寺君でしたね。皆さんもお変わり無いようで良かったです」
さっきまで泣きべそかいていたお父様は、高円寺の挨拶に涙を拭いてすぐキリッとした表情に変わり、まるで何事も無かったかのように微笑んで高円寺達と会話を始めた。
私はそのあまりの豹変ぶりに唖然としたが、よくよく考えたらどんな状況でも瞬時に対応出来るからこそ、敏腕社長と言われているのだと思ったのだ。
「あ~ん!待って~!」
突然どこかで聞いた事のある声が、お父様達が来た方から聞こえてきた。
その声がした方を見ると、丁度人垣がザッと割れた所だったのだ。しかしその道を開けた人達は、皆一様に奇妙な物を見る目である一点を見つめている。
私はその視線の先を追うと、そこには笑顔で手を振りながら首にカメラをぶら下げているハルが、こちらに駆けてきていたのだ。
ハルの男の容姿にオネイ言葉と言うアンバランスに、道を開けた人々はだいぶ引いているようだった。
「あ!ハルさ~ん!お久しぶり~!来てくれたんだね~!」
「誠ちゃ~ん!招待状ありがとうね~!来ちゃったわ~!」
ハルの姿を見た榊原が嬉しそうに手を振り返していたが、他の三人は初めてハルを見たのか若干表情が引き気味だったのだ。
私は一度面識があったものの、やはりあのオネイ言葉は久しぶりに聞いても慣れなかった。
「あの方、話しやすくて面白い人よね~」
「お母様?もしかしてハルさんとお知り合いだったの?」
「いいえ、今日初めてお会いした方よ?先程校門の所で、お父様と一緒にいた時にお声を掛けて下さったの。そこから一緒にここまで来たのだけれど、途中の人混みで離れてしまっていたみたいね~」
「ハルさんから声を?何で?ハルさんお母様達知ってたのかな?」
「あ~ら~!響君~!お久しぶり!っと言うか、なんて素敵な姿なの~!!!」
お母様と話している所に、私の存在に気が付いたハルが近付いて来たのだが、私の姿を確認すると目をキラキラ輝かせ首に掛けていたカメラを手に持ち、こちらの許可も取らずにバシャバシャと写真を撮り出したのだ。
「ちょ、ちょっとハルさん!落ち着いて!!」
「あら!ごめんなさいね~。あたしどうしても美しい物を見ると、我慢出来なくなっちゃうのよ~」
「はあ・・・」
「うふふ。本当に面白い方ね~」
「そう言えば、そちらのとてもお美しい女性は響君のお知り合い?確か、お美しい旦那様と一緒だったと思ったけど?」
「主人はそちらにいますわ」
「あら!本当だわ~!気が付かなくてごめんなさいね~!」
「いえ、私は気にしてませんので」
「やっぱりいい男!笑顔が素敵だわ~!」
「うふふ、あげませんわよ?」
「ふふ、分かっているわ~!私美しい物が大好きだから、お二方はセットでいるのが最高に美しくて素敵ですもの!」
「まあ~ありがとうございます」
「あ、あの~・・・」
私を無視しどんどん二人で盛り上がってしまい、躊躇いながらも声を掛ける事にした。
「ご、ごめんなさいね響君~!」
「べつに良いですけど・・・では、紹介させて頂きます。こちらは僕の母で、向こうで誠先輩と話しているのが僕の父です。そしてこちらが、誠先輩がモデルの時にカメラマン兼ファッションデザイナーをしているハルさんです」
「挨拶が遅くなってごめんなさいね~!ハルです!しかし、お二方は響君のご両親でしたのね~!なるほど~!響君のご両親だからそんなにお美しいのね~!だからあたし、あまりのお二方の美しさに思わず声を掛けてしまったのよ~。出来ればお二方にはあたしの専属モデルになって欲しかったんだけど・・・」
「うふふ。せっかくですけど、ごめんなさいね~」
「すまない。私は仕事があるし、妻の美しさは私だけが知っていれば良いのでそれはお受けできないんだ。しかし、あなたがハルさんでしたか・・・お話は響から聞いていましたよ。その節は息子が大変お世話になりました」
「まあ~ラブラブね~!それなら残念だけど諦めるわ~。それにしても素晴らしい息子さんよね~」
そうして、お父様とハルは話し出したのだ。
「本当に響ちゃんの回りは、面白い人が集まるわね~」
「・・・望んで無いんだけど、なぜかこうなっているんだよね」
「うふふ・・・それにしてもその格好・・・本当に良く似合っているけど・・・」
「お母様?」
お母様は私の姿をもう一度じっくり見た後、なにか思い付いたように笑顔で私を見てきた。私はその笑顔にとても嫌な予感を感じたのだ。
「ハルさ~ん!ちょっと良いかしら~?」
「何かしら?」
「実はお願いがあって~・・・」
お母様はハルに近付くと小声で何か言い出した。
最初は不思議そうに聞いていたハルも、話を聞いている内に段々表情が楽しそうに輝きだしたのだ。
「それ良いわね~!是非とも手伝わせて~!!」
「ありがとうございます~では、早速行きましょうか~」
「ええ良いわよ~!」
「咲子?」
「奏一さんごめんなさ~い。ちょっとハルさんと行ってきますわ~。暫くここで高円寺さん達とお話ししてて下さいね~」
「え?いや、ちょっ!咲子!?」
驚くお父様をその場に残し、笑顔のお母様とハルが私に近付いてくる。
「お母様?ハルさん?」
「響ちゃ~ん!ちょっと私に付き合ってね~!」
「へっ?は?ちょっ!お母様なんですかーーー!?」
私は何故か、お母様とハルに両サイドから腕を取られその場から連れ出されてしまったのだった。
お母様達に連れ出され、私は仮装喫茶用の衣装を保管してある教室に案内させられたのだ。
「お母様・・・ここで一体何を?」
「うふふ。楽しい事よ~!」
「ねえねえ!これなんか響君に似合うと思うんだけど、どうかしら~?」
「あら~!さすがセンス良いですわね~!」
ハルが嬉々として手に持ってきた物を見て私は目を瞠る。
「そ、それは!?」
「ええ、ドレスよ~」
「なんでーーーー!?」
私はハルが持ってきた、お姫様衣装の豪華な装飾の付いた淡いピンク色のドレスを見て絶叫したのだった。