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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
32/110

仮装喫茶

「姫・・・待たせてごめん。来てくれて本当に嬉しいよ」


 私はそう言って柔らかく微笑んで優雅にお辞儀をし、ポーと顔を赤らめ私を見つめている女生徒を、室内にエスコートした。

 そう私は今、クラスの出し物である『仮装喫茶』が行われている教室の入り口で、呼び込み兼案内係をやらされている。

 最初は他の皆と一緒に中でウェイターをしていたのだが、来る客来る客皆私ばかりに注文や接客を頼んできて大変な状態となってしまった為、仕方がなく私はフロア担当を外されたのだ。

 私はこれを密かに喜びそれなら裏方に回ると言ったのだが、クラスの皆から即座に却下を食らい結局この場所をやらされる羽目になってしまった。

 そうして今ほとんど自棄糞気味状態になった私は、どうやってもやらされるならこの際人気投票1位を獲得してやると意気込み、本当の王子になったつもりで来た客を案内する事にしたのだ。

 そのお陰かまだ学園祭が始まって間もないのに、客が途切れる事無くやってきていたのだった。



 私は一人の女生徒を席まで案内し、持ち場に戻ろうとした所で肩を叩かれる。


「早崎君お疲れ!それにしても早崎王子効果のお陰で、予想以上の盛況ぶりだよね!」


 そう嬉しそうに声を掛けてきたのは、魔法使いの格好をしている委員長だった。

 足まである長いローブに、腰に金糸の紐を結んであるだけのシンプルな衣装だが委員長に良く似合う。フードも付いているようだが邪魔なのか下ろしていた。

 私はその姿を見て羨ましいと思ったのだ。


「委員長・・・やっぱりその衣装良いな~」

「そう?着心地は良いけどあまり目立たないよ?」

「むしろそれが良いんじゃないか!正直そのフード被った状態で着たい!なんだったら、今からでも僕のと交換して欲しいよ!」

「いやいや、無理だから。と言うか、そこまでその格好が似合うの、多分このクラスでは早崎君しかいないよ!」

「そんな事無いって・・・」

「それに、そんな事したらクラスの皆から恨まれるよ。だって、今日の早崎君いつも以上に凄く格好良いからさ!」

「・・・・」


 確かに学園祭が始まる前この衣装に着替えた時、さらに髪型も弄られたのだ。ワックスで軽く後ろに流れるように整えられてから皆の前に出ると、何故か称賛の嵐と拍手を貰ったのだった。

 それからクラスの皆と撮影大会が始まってしまい、もうすぐ学園祭が始まるとの放送が掛かり皆慌てて準備を始めるまでそれは続いたのだ。

 私はその時の事を思いだし苦笑いを浮かべた。


「まあ早崎君には悪いけど、クラスの為だと思って頑張って!」

「・・・はぁ~分かったよ」

「ありがとう!」


 もう一度軽くため息を吐き、委員長と別れ持ち場に戻ろうとした時、ふと席で美味しそうに紅茶を飲んでいる女生徒の足元に、一枚のハンカチが落ちている事に気が付く。

 私は足早にそちらに近付くと、サッとハンカチを拾い片膝を付いて恭しく女生徒にハンカチを差し出した。


「姫・・・こちらのハンカチは姫の物ですか?」

「あ!は、はい!私のです!あ、ありがとうございます」

「良かった。姫の大切な物が無くなる前で」


 そう言って、ハンカチを受け取ろうとしていた女生徒の手を片手で優しく掴み、その手にハンカチを落ちないように乗せ微笑んだ。

 その瞬間、教室中から割れんばかりの黄色い声が上がったのだった。

 私はその声に驚き回りを見回すと、客として来ていた人やクラスの皆が赤い顔で興奮しながらこちらを見ていたのだ。

 チラリと委員長を見ると、委員長は少し顔を赤らめながらも苦笑してこちらを見ていた。

 私はこの状況に目を瞬かせていると、ふと手が熱くなってきたので、ハッと私はまだ女生徒の手を掴んだままだった事に気が付く。

 女生徒を見ると、林檎のように真っ赤っ赤に顔が染まり、恥ずかしさで俯いてしまっている姿を見て、すぐさま手を離し立ち上がった。


「ご、ごめんね」

「・・・・いえ」


 女生徒に悪い事したと思い謝ると、首を横に振り小さな声で応えてくれたのだ。

 そしてハンカチをギュッと胸に寄せたと思ったら、バッと赤い顔を上げ潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。


「私、このハンカチ一生の宝物にします!!」

「そ、そう・・・大事にしてね」

「はい!!」


 女生徒の迫力に押されながらも、そんなに大事なハンカチなんだと不思議に思ったのだった。



 そんな女生徒に困惑していたその時、入口の方からクスクスと忍び笑いが複数聞こえてきたのだ。

 私はその声に怪訝な表情で振り向くと、そこには二年生生徒会メンバーの四人が口に手を当てて面白そうにこちらを見ていたのだった。


「げっ!!」

「こらこら、王子様がそんな言葉使っちゃ駄目じゃないか」

「・・・好きでやってる訳じゃ無いです」

「その割りには、凄くノリノリでやってたように見えたけど?」

「・・・自棄糞です」


 面白そうに言ってくる高円寺の下に近付き、小声でそう答える。


「それにしても響君~!本当にその姿良く似合ってるよね~!前僕と撮影した時も色んな衣装着こなしていたけど、ある意味これが一番似合っているかも!」

「誠先輩・・・それ、あまり嬉しく無いです」

「まあ元々中性的で綺麗な顔立ちだったがその姿だと、本当にどこかの国の王子様と言われてもおかしくないな」

「藤堂先輩・・・」

「口コミで、このクラスの王子様が凄いと広まっていたが・・・これは確かに言われているのも頷ける」

「桐林先輩・・・と言うか先輩方は一体何しにここに来たんですか!?」

「ああ、生徒会の仕事で各出し物の見回りをしているんだ」

「・・・四人揃って?それ効率悪くないですか?」


 高円寺の言葉に、私は目を据わらせ四人に視線を向けた。


「・・・正直に言うと、私達皆君のその姿を見にきたんだ」

「やっぱり・・・」

「そんな顔しないでくれ。私も本当に良く似合っていると思うよ」

「それならむしろ高円寺先輩の方が・・・いや、四人共凄く良くお似合いになると思いますよ!なんだったらまだ王子様衣装あるので、それ着て見回りしませんか?」

「いや・・・」

「う~ん・・・」

「それはちょっと・・・」

「さすがに・・・」


 高円寺、榊原、藤堂、桐林の順に言い淀み、自分が王子様の格好をして見回りしている所を想像したのか、皆凄く嫌な顔をしていたのだ。


私の気持ち分かったかーーーー!!!


「まあ・・・その、すまなかった」

「・・・分かって貰えたなら良いです」


 高円寺の謝罪に他の三人も頷いたので、とりあえず許してあげる事にした。


「はぁ~とりあえず僕の所は特に問題無いですし、先輩方がここにいると他のお客さん達が入ってこれないので、お引き取り願えませんか?」


 そう言って私はチラリと回りを見ると、四人を遠巻きに見るようにぐるりと人集りが出来ていたのだ。


「ああ確かに・・・邪魔してすまないね。それじゃ私達はこれで失礼するよ」


 私の視線に気付いた高円寺が、チラリと回りを見て状況を察してくれたのか、申し訳なさそうな顔で辞する言葉を言ってくれた。


「え~!僕まだここに残って、響君に接客して貰いたいな~!」

「誠!駄目に決まっているだろう!まだ生徒会の仕事中だ!」

「豊のケチ!」

「まあまあ誠、後で俺と一緒に来ようぜ!」

「健司!うん!」


 正直もう来て欲しく無いのだが、今ここでそれを言うと色々めんどそうになりそうだったので、私は口を噤み四人を見送る事にしたのだ。

 そうして四人が移動を開始しようとしたその時、廊下の向こうからザワザワとざわつく声が聞こえてきた。

 私と生徒会四人はその声を不思議に思い、そちらの方に顔を向けると、そのざわつきが段々こちらに近付いて来ているのが分かる。

 私が怪訝な表情でその方向を凝視していると、突然人垣が割れそこから見目麗しい二人の男女が現れた。私はその二人を見て目を大きく瞠ったのだ。


「お父様!お母様!」


 そこに現れたのは、私の両親である早崎 奏一とその妻である咲子だったのであった。

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