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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
30/110

体育祭後

「早崎~!!」


 私が藤堂の問い詰めを無視していると、日下部が喜びの表情で手を振りながら、私の名を呼びこちらに走ってきた。その後ろからは一緒に出場した一年生のメンバー達が続く。


「早崎!お前凄いな!まさかあんなに距離が離れていた藤堂先輩に追い付き、さらに追い抜いて勝つなんて!俺には絶対無理だった。ありがとうな!」

「べつにお礼なんて良いよ。僕は無我夢中で走っただけだし、それに僕一人の力で勝てたんじゃ無く、皆が頑張ってくれたお蔭で勝てたんだよ!」


 興奮気味にお礼を言ってくる日下部に続き、他の人達までお礼を言ってきたので、苦笑しながら言ったのだ。

 そこでふと、皆に遅れて他の女子に付き添われながら、こちらに向かって歩いてきている足立に気が付く。

 もう涙は止まっていてホッとしたが、私は少し足立の歩き方に違和感を感じたのだった。


「早崎君・・・ごめんなさい!私のせいで大変な状態にしてしまって・・・そして、ありがとう!」

「足立さんも気にしなくて良いよ。結果はちゃんと勝てたんだからさ。それにあそこで諦めず、僕の所にバトンを運んでくれたからこの結果に繋がったんだよ。僕の方こそありがとうね」

「早崎君!」


 私の言葉に感動したように目を潤わす足立だったが、やはり立ち方にも違和感を感じたのだ。どうも右足を庇っているような気がして、私は足立の前でしゃがみこむ。


「早崎君?」

「足立さん・・・ちょっとごめんね」

「えっ?・・・き、きゃっ!」

「・・・やっぱり」


 足立の右足のジャージズボンを裾から膝まで一気に捲ると、膝に酷い擦傷があったのだ。さらにそこは結構血が滲んでいてとても痛そうだった。


「あの転倒した時に怪我したんだ・・・これだと相当痛かっただろうに、よく我慢してたね。きっと自業自得だと思って黙っていたんだろうけど・・・これは早く治療した方が良いかも・・・・・足立さん?」


 何も反応の無い足立を不思議に思い見上げると、足立は顔を真っ赤にさせその場に固まってしまっていたのだ。

 私は嫌な予感がしゆっくり周りを見回すと、男子が顔を赤らめて別の方向に顔を背け、女子は同情しているような表情をしている。

 そして、日下部と藤堂が呆れた表情で私を見ていたので、そこでこの状況を理解したのだった。


「足立さんごめん!!」


 私は傷に気を付けながらも、すぐにズボンの裾を下ろし立ち上がったが、足立は真っ赤な顔のまま俯いてその場から動かなくなってしまったのだ。


「本当にごめん!でも、この傷はすぐに治療した方が良いから、医務室行こう?」

「・・・・」


 そう私が言っても足立は動く気配を見せなかったので、私は申し訳ないと思いながらも足立の横に回った。


「・・・足立さん、恥ずかしいと思うけどごめんね?」

「えっ?あ!きゃぁ!」


 私は足立の膝裏に手を差し入れると、もう片方の手で背を支えてお姫さま抱っこの形で抱き上げたのだ。

 足立はバランスを崩しそうになったようで、咄嗟に私の首に腕を回して抱きついてくる。


「うん。落ちないように、そのまま僕の首に掴まってて良いよ」

「は、早崎君・・・恥ずかしいよ・・・」

「その気持ちはよ~く分かるけど、傷を悪化させない為にも我慢してね。まあ、僕に抱き上げられて嫌だと思うけどさ」

「そ、そんな事無いです・・・むしろ嬉しい・・・」

「ん?最後の方よく聞こえなかったんだけどなんだった?」

「な、なんでも無いです!」

「そう?なら良いけど。じゃあ、このまま医務室向かうけど恥ずかしかったら、僕の肩に顔埋めて隠してて良いよ」

「は、はい・・・ありがとう」


 足立はさらに顔を真っ赤にさせ動揺しながらも、私の言葉に従ってくれ私の肩に顔を埋めた。


「と、言うわけだから、日下部君後の事まかすよ!」

「お、おう!任せておけ」


 そうして日下部に後の事を任し、私は足立を抱えながら急いで医務室に向かったのだ。


「・・・あれを何も考えず素でやれるあいつ・・・やっぱすげえ」

「確かに・・・雅也のあれは絶対わざとだったからな」


 日下部と藤堂が、私達を見送りながらそんな事を話していたなど露知らず、さらにその時早く足立を連れていかねばと言う思いから、全校生徒から注目されている事をすっかり頭から抜け落ちていたのだった。



 医務室に足立を連れて行くと、保険医の女の先生がみえたので後の治療を任せ、私は再びグランドに戻っていったのだ。

 去り際、足立がさらにお礼を言ってきたので、気にしなくて良いよと言い笑顔を見せその場を去ったのだが、その時恥ずかしがっていて顔の赤かった足立は勿論だが、保険医の先生まで顔が赤くなっているように見えたのは気のせいだっただろうかと不思議に思ったのだった。

 そうして急いでグランドに戻り、なんとか閉会式に間に合う事が出来たのだ。

 結局、一年生の中で優勝したクラスは日下部がいたクラスだった。

 確かに日下部は色々な競技に出場し、勝利していたのでそれが優勝に繋がったようだ。

 そんなこんなで、大盛り上がりだった今年の体育祭は終わったのだった。



───体育祭が終わり、数日経ったある日の昼休みの教室。


 お昼も食べ終わり、教室は生徒の話し声でとても賑やかである。ただ、その賑やかさは廊下からも聞こえてくるのだ。

 私はチラリと教室内と窓越しに見える廊下を見て、小さくため息を吐く。

 教室内にいる男女の生徒は、遠巻きにチラチラとこちらを気にするように見てくるし、廊下にいる男女の生徒は窓際に沢山集まって私の事を見てくるのだ。

 まるで動物園の檻の中で、見世物になっている動物になったような気分で正直うんざりしている。


「いやぁ~今日も凄いな~。前も凄かったけど、その時は比較的女生徒が多かったのに、体育祭の活躍のお蔭かそこに男子生徒も増えてさらに多くなってたよね」

「・・・委員長~!他人事だと思って面白そうにしないでくれよ」


 この状況を面白そうに見ながら委員長が私に近付いてきたので、私はギロリと委員長を睨み付ける。


「ごめんごめん。でも、本当にあの体育祭での活躍で今早崎君、学園中から羨望と憧れの的になってるよ」

「そんなの全く望んで無いし、嬉しく無いんだけど!!!」


 私は頭を抱えて唸り机に突っぷしたのだった。だけど、私の悩みはこれだけでは無かったのだ。


「お~い!早崎!」

「・・・っ!」

「あ、藤堂先輩」


 あまり聞きたくない声が聞こえ、その声に肩をビクッと震わせると、委員長がその声の主の名を呼ぶ。

 私は恐る恐る声のした方を振り向くと、藤堂が良い笑顔で手を振りながら近付いてくるのが見えたのだ。


「早崎~!腹ごなしにちょっと一勝負しよう!」

「嫌です!」

「そんな事言わずにやろうって!・・・日下部、お前もやりたいよな?」

「はい!俺、藤堂先輩と早崎で勝負したい!」


 藤堂が後ろに声を掛けると、その後ろから日下部が出てきて藤堂の意見に同意する。

 そう最近の悩みは、あの体育祭の一件以来前よりもしつこく藤堂が勝負をしたがるのと、さらに日下部と言う仲間を増やし二人掛かりで迫ってくるのでとても鬱陶しいのだ。


なんでもう一匹増えたんだーーーー!!!


 そう心の中で嘆いていると、二人はニコニコ面白そうにしながらさらに近付いてくる。


「ほら早崎、昼休み終わる前にグランド行って勝負しよう!」

「やろうぜ早崎!藤堂先輩の次で良いから、俺とも差しで勝負しようぜ!」

「い~や~で~す!!!」


 私はそう言うとサッと椅子から立ち上り、二人の横をすり抜け教室から逃げ出したのだ。


「よ~し!追いかけっこだな!日下部行くぞ!遅れるなよ!」

「はい!」


 藤堂の言葉に、日下部は良い返事をし二人は私を楽しそうに追いかけてくる。

 こうして昼休みが終わるまで、二人から逃げ続ける羽目になったのだった。

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