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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
27/110

体育祭

 あれから、リレーの練習が毎日放課後にあった。

 当初リレーの練習があると言う事で、生徒会の仕事は出来ないと委員長に伝えた所、あの時と同じ・・・いやそれ以上に絶望的な表情を向けられたので、仕方がなくリレー練習が終わった後に生徒会の仕事を手伝う事になったのだ。勿論、逃げようとしていた日下部の首根っこ掴まえ、引きずるように生徒会室に連れていったのだった。

 そうしてそんな日々を二週間過ごし、明日高円寺達が修学旅行から帰ってきて学園に登校する日となったのだ。

 私は漸くお役御免となるので、最終日に生徒会の仕事をさっさと終わらせ、晴々とした気持ちで生徒会を後にしようとした。


「じゃあ今日で約束の二週間だから、明日からは自分達で頑張ってね!」

「早崎君、ありがとう!本当に助かったよ!」

「おい早崎、なんだったらこのまま生徒会に入っちゃえよ!」

「僕もそれが良いと思います!」


 委員長にお礼を言われた後、続いて日下部と駒井が誘ってくるが、私は頑として首を縦に振らなかったのだ。


「高円寺先輩達にも伝えてあるけど、僕は生徒会に入るつもり無いからさ。ごめんね!」


 そう言って、残念そうに見てくる三人を生徒会室に残し、寮に帰っていったのだった。



 そして次の日、委員長は生徒会室で帰ってきた高円寺達と引き継ぎをする為早めに登校したので、私は一人で登校し教室に向かって廊下を歩いていたのだ。

 すると、廊下の向こうから段々と黄色い声が近付いてくる事に気付く。


・・・あぁ・・・私の平穏な日々(あまり平穏では無かったような気もするが・・・)終了。


「響君~!帰ってきたよ~!!」

「・・・お帰りなさい」

「ただいま~!はい、これお土産!このチョコ美味しかったよ~!」

「ありがとうございます。後で委員長達と一緒に食べますね」

「出来れば、響君だけに食べて欲しかったんだけど・・・まあ良いか!」

「こら誠!廊下ではしゃぐな!」


 榊原が一人先に私の下に走り寄ってきて、綺麗な包装紙で包まれたお土産を手渡してくれた。そして、その後に続くように高円寺、桐林、藤堂が歩いて近付いてきたのだが、桐林はテンション高くはしゃぐ榊原を目を吊り上げながら注意する。


「も~!豊、学園に帰ってきても口うるさいな~!」

「俺も好きでこんな事言ってるのでは無い!そもそも、誠が修学旅行先でも落ち着きが無く、勝手に行動するのが悪いんだろう!」

「おいおい、二人共朝ぱらからこんな所で喧嘩すんなよ~」

「健司は黙ってて!」

「健司は黙っていろ!」


 険悪な雰囲気になってきた榊原と桐林を、仲裁しようと割って入った藤堂に二人は同時に声を上げた。そんな二人に藤堂はタジタジとなる。

 私は二週間ぶりに見るこのいつもの光景に、頬をヒクつかせ呆れた表情で見守る事にしたのだ。

 するとそんな私の側に、高円寺が微笑みながら私を見つめて立っている事に気が付く。


「・・・高円寺先輩?」

「ああ、ごめんね。やはり君の顔を見て、帰ってきたんだと実感しているんだ」

「・・・はぁ」

「そんな変な者を見るような目で、私を見ないで欲しいな。ああそう言えば三浦君達に聞いたけど、私達が修学旅行に行っている間、生徒会の仕事手伝ってくれていたそうだね?ありがとう」

「いえ、大した事はしていませんので・・・」

「いや、あれは充分大した事だったと思うが?」

「桐林先輩・・・」


 さっきまで榊原と険悪な雰囲気だった桐林が、いつの間にか何も無かったかのようにいつものクールな顔に戻って、私と高円寺の話に混ざってきた。


「さすがに今年は、一年生の生徒会が三人しかいなかった事だから、きっと大量に仕事が溜まっているだろうと、俺達は急いで生徒会室に向かったのだ。だが、いざ生徒会室に入ってみれば特に悲惨な状態にもなっておらず、キッチリと書類が整理されてる事に驚き、そしてよくよく話を聞いてみたら、早崎がほとんど一人でやってくれたとか。やはり俺の目に狂いは無かったようだな」


 桐林はそう言いながら、ニヤリと口の端上げ眼鏡を押し上げて私を見てきたのだ。

 私はそんな桐林を見て、背中がゾクリとしたのだった。


「あ!そうそう、そこで日下部から聞いたんだが、今年の体育祭の学年別男女混合対抗リレーのアンカー、早崎お前らしいな?」

「ええ・・・一応・・・」

「そうか!これは今から体育祭が楽しみだ!」

「僕は憂鬱です・・・」


 藤堂が楽しそうにニヤニヤしながら私を見てくるが、私はそれを迷惑そうな顔で見返す。


「響君、リレー出るんだ~!僕、応援するね!」

「いや誠、そこは同じ学年の俺を応援しないと意味無いだろう?」

「え~健司を応援しても楽しく無いもん!」

「おいおい誠~」

「確かに、気持ちとしては健司より早崎君を応援したいな」

「豊!」

「まあ今回私はリレーに参加しないから、私も早崎君を応援する事にするよ」

「雅也まで!?」


 そして私の目の前で、またいつものように四人の言い合いが始まったのであった。



 二年生が修学旅行から帰ってきてから、本格的に体育祭の練習と準備が始り、学園内はにわかに活気づく。

 そうして、各クラス、各学年が練習に明け暮れ、そしていよいよ体育祭本番の日を迎えたのだった。


「これより体育祭を開催します」


 生徒会長の高円寺による宣言により、体育祭が始まったのだ。

 この体育祭は各クラス毎に得点を競うものとなっており、各クラスそれぞれ熱気に溢れていた。

 順調にプログラムは進み、私の出場する玉入れの番が回ってくる。

 私は出場するメンバーと共にグランドに出て、皆とワイワイ騒ぎながらも頑張ってカゴの中に玉を投げ入れた。

 そして終了の合図で皆玉を入れるのを止め、カゴの中の玉を数えたのだ。

 なんとか僅差で私のクラスが多く玉を入れる事が出来たので、皆喜びに沸いた。

 そうしてさらにプログラムが進み、次は二年生の借り物競争が始まるようだ。

 借り物競争に出場するメンバーがグランドに入ると、一際大きな歓声が上がった。

 何故そんな歓声が上がったのかと言うと、高円寺が出場メンバーと共にグランドに入っていったからだ。


「意外・・・高円寺先輩が借り物競争に出るんだ」

「僕も最初、出場メンバー表見て驚いたよ」


 私の隣に座って一緒に競技を見ていた委員長と、高円寺の姿を見つめながら会話する。


「それで思わず、高円寺先輩に何で借り物競争に出るのか確認したんだ」

「高円寺先輩は何て?」

「ただ単に、面白そうだったからだって」

「そ、そうなんだ・・・」


 そう聞いて、呆れながら楽しそうに微笑みながら入場している高円寺を見ていたのだった。

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