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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
23/110

夏休み明け初日の登校日

 今日から二学期が始まる。

 私は鏡に映る自分の姿に深くため息を吐く。また今日から響の振りをするのかと思うとうんざりするが、だからと言って学校に行かない訳にもいかない。


「よし!行くか!」


 そう掛け声を自分に掛け、鞄を手に持って部屋から出ていったのだった。



 寮のエントランスを抜けた所で、委員長が誰かを待ってるように立っている。

 すると、委員長は私に気付くと笑顔で駆け寄ってきた。


「早崎君!おはよう!」

「委員長、おはよう!あれ?もしかして僕を待ってたの?」

「うん。一緒に校舎へ行こうと思ったからさ」

「良いよ!一緒に行こう!」


 そうして私は委員長と校舎に向かおうとしたのだが、ふと委員長が足を止め表情を曇らせる。


「委員長?」

「・・・あの・・・誕生日の件なんだけど・・・メールでも言ったけど、本当にごめんね!!」


 そう言って委員長は深々と頭を下げてきた。


「委員長・・・顔上げてよ。もう僕怒ってないからさ」

「早崎君・・・」


 委員長は恐る恐る顔を上げたが、その表情はまだ曇ったままである。


「委員長!僕もメールで言ったけど、もう気にしてないから委員長も気にしないで良いよ!」

「でも・・・」

「だからその代わり、学園のカフェで一番高いの奢ってね!」


 そう言いながら、委員長に悪戯っぽくウインクをした。

 委員長は私の表情を見て、少し表情が解れ笑顔を見せてくれたのだ。


「・・・分かったよ。早崎君ありがとう。・・・しかし、カフェの一番高いのって何だったけ?」

「う~ん・・・確か、高さ50㎝ぐらいあるフルーツパフェだったような?」

「・・・それ、食べ切れるの?」

「多分無理!だから、その時は委員長も一緒に食べるの手伝ってよね!」

「うっ・・・頑張ります」

「楽しみにしてるよ!」


 その時の事考え今から胸やけしている委員長を見て、私は笑い声を上げそして委員長の背中をバシバシ叩いて歩くように促し、二人で校舎に向かったのだった。



 校舎の玄関に近付くと、黒山の人だかりが出来ている。

 その人だかりから沢山の黄色い声が聞こえて来るので、その中心にいるのが何か容易に予想が出来た。

 私はそれから見付からないようにと、委員長の影に隠れコソコソと玄関に入ろうとしたのだ。


「あ!響君!いた~!!」


 その声にビクッと肩を震わせ、ゆっくりと声のした方に振り向く。

 視線の先には、こちらに向かって笑顔で手を振ってくる榊原を筆頭に、いつもの生徒会メンバーがこっちに歩いてきていたのだ。さっきまで周りを囲っていた人だかりは、生徒会メンバーに道を譲るように左右に開けていった。


「やあ、早崎君おはよう」

「高円寺先輩、おはようございます」

「早崎!おはよう!」

「藤堂先輩、おはようございます」

「早崎君、おはよう」

「桐林先輩、おはようございます」

「響君~!おはよ~う!」

「誠先輩、おはようございます」

「「「誠先輩!?」」」


 私が一人づつ朝の挨拶をしただけなのに、何故か榊原に挨拶すると、他の三人が驚きの声を上げたのだ。


「な、何故、誠だけ名前で呼ばれているんだ!?」

「へっへ~ん!雅也良いでしょ~!」

「誠!?一体どう言う事なんだ!?」

「へ~豊がそんなに驚くなんて、面白いな~!」

「誠!!!」

「おいおい、豊そんなに怒るなって。それよりも誠・・・本当にどうしてだ?夏休み中に早崎と何かあったのか?」

「え~?健司も知りたいんだ~。う~ん、教えるのどうしよっかな~?」


 榊原に三人が驚いた表情で詰め寄っているが、榊原はそれを面白そうに見ながら教えるのを焦らしていたのだ。

 そんな四人の様子に呆れつつ、何が一体私が榊原を名前で呼んだだけでそんなに動揺するのかが分からなかった。


「・・・ただ単に、夏休み中に旅行先でばったり誠先輩と会い、その時に名前で呼んで欲しいと頼まれたからです。ああ誠先輩、その節は大変お世話になりました」

「ああ・・・うん。言っちゃった・・・」


 目の前で揉め始めそうだったので、とっとと話を切り上げて教室に行きたかった私は、簡単に何故名前を呼んでいるか説明をすると、榊原は凄く残念そうな顔を私に向けてきたのだった。


「そうか・・・誠に頼まれたからか・・・なら、私の事も名前で呼んで欲しいな?」

「・・・俺も、名前で呼んでくれても構わない」

「あ、俺も名前で呼んでくれ!」

「べつに良い・・・」

「駄目ーーーー!!!」


 私がべつに良いですよと言おうとするのを遮って、榊原が眉を吊り上げ叫んだ。

 そして私を背に隠し、頬を膨らませて三人を見る。


「響君とは、夏休み中に凄く仲良くなったから名前を呼んで貰ってるんだ!だから、名前で呼ばれて良いのは僕だけだよ!」


・・・なんだその理由は・・・それに、そんなに仲良くなった記憶は無いんだが・・・。


 そのよく分からない理由に呆れていると、クルリと榊原は私に振り返り、真剣な表情で見つめてきた。


「響君も、僕以外の人の名前は仲良くならない限り簡単に呼ばないでね!」

「・・・はぁ~分かりました。まあ正直僕はどっちでも良いんですけどね。でもそんなに真剣に頼むなら、まああの時お世話にもなったしその約束守りますよ」

「わ~い!ありがとう響君~!」

「・・・それなら、仲良くなれば名前を呼んで貰えるのか・・・」

「ふむ、それはそれで名前を呼ばせる為に行動するのは面白そうだな」

「俺、名前呼んで貰いたいし頑張ろうかな~?」


 高円寺、桐林、藤堂の順に何か恐ろしい事をブツブツ言ってるようだったが、私はそれをあえて聞こえていない振りをしたのだ。

 私が顔を引きつらせていると、榊原が喜びの余り笑顔で私に抱きついてこようとしていた。しかし、ふと左手にずっと持っていた茶色の大きな封筒の存在を思い出し、その動きを止めたのだ。


「あ!そうだった。これあの時の写真出来たんだよ~!はい、どうぞ!」

「ああ、あの時の。ありがとうございます」


 私は榊原からその封筒を受け取った。持ってみると、意外にしっかりとした固さに、中身がただ写真だけがそのまま入っていない事を知る。

 私が不思議そうに榊原を見ると、何を言いたいのか分かったのか中身を教えてくれた。


「せっかく色々撮ったし、ちょっと写真集ぽく作って貰ったんだ~!」

「・・・アリガトウゴザイマス」


・・・何ですかその写真集ぽくって・・・なんだか逆に見るのが怖くなったよ!・・・よし!見るとしても自室でコッソリ一人で見よう!


そう心の中で決め、私は急いで鞄に封筒を仕舞おうとしたのだが、別の手にヒョイと封筒を取り上げられてしまったのだ。

 私は、慌てて封筒を取った人物を見ると、藤堂が不思議そうに封筒を眺めながら持っていた。


「写真集?」

「それね~例の旅行先・・・僕はモデルの仕事だったんだけど、その僕の撮影の合間に響君を撮って貰ったんだ~!凄い良い出来だよ~!」

「それは気になるな」

「あ!ちょ!勝手に開け・・・!」


 私の制止の声を無視して面白そうに藤堂が笑うと、勝手に封筒を開けて中身を取り出してしまったのだ。


「おお!本格的だな!」

「でしょ~?」


 表紙にはデカデカと私のドアップが写っているのが見え、凄く恥ずかしくなった。

 藤堂が写真集をめくり出すと、高円寺と桐林も興味を持ったらしく一緒に覗きだしたのだ。


正直、穴があったら入りたい・・・。


「こ、これは!」

「おお!すげ~!」

「実物では無いのにこの迫力か・・・」


 あまりの恥ずかしさに俯いていると、三人が驚きの声を上げる。

 私は、何かそんなに凄いものが写っていたのかと、怪訝な表情で顔を上げ開かれていたページを覗き見た。

 そこには地面に座っている私が、満面の笑顔で写っていただけである。まあ、おかしな点と言えば、後ろから私の肩を抱いている榊原が、撮影中にも関わらず何故か焦った表情で写っていたいたぐらいだ。


「・・・これが何か?自分で言うのも何ですが、結構良い表情で撮れていると思うのですが?」

「・・・やはり、客観的に見ても気付かないのか・・・」


 そう高円寺が言うと、他の三人が微妙な表情で私を見てくるのだった。

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