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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
22/110

思い出作り

「そ、それはさすがに遠慮します!」

「そんな事言わずにやってみてよ~!楽しいよ~?」

「いや、しかし・・・雑誌に載るのはちょっと・・・」

「ああ、それなら大丈夫だよ!響君のは雑誌に載せないからさ。ただの思い出作りの為の撮影だよ!」

「え?」

「どうせなら、響君にもっと楽しい思い出を作って欲しいからさ~!」

「榊原先輩・・・」

「駄目かな?」

「・・・はぁ~分かりました。ただし条件があります!人に肌を見られるのが苦手なので着替えは一人でしたいのと、露出の多い服・・・特に胸元が大きく開く服じゃ無い事が絶対条件です!」

「うん!分かった!それで良いよ!じゃあ、さっそくハルさんにお願いしてくるね~!」


 そう言って、榊原は笑顔でハルに撮影を頼みに行ったのだった。



 私は渡された衣装を、乗ってきたクルーザーの一室で着替え撮影に挑んだ。

 ちゃんと要望通り、露出の少く胸元も隠れた少し厚手の衣装にして貰えていた。

 ハルさんの指示で撮影ポイントに立ち、とりあえずさっきの榊原を思い出しながら、それっぽくポーズを取ってみるのだが自分でも分かるくらいに変だったのだ。


「う~ん響ちゃ~ん・・・ちょっと動きがぎこちないわね~それに表情も固いわよ~?」

「そ、そう言われても、こんな事したの初めてなので・・・」

「でも、これじゃ~良いのが撮れないのよね~・・・そうだわ!響ちゃん、何か楽しい思い出とか思い出してごらんなさいな~!」

「・・・思い出ですか?」

「そうよ~特に最近あった事の方が、思い出しやすいかもね?」

「最近あった楽しい思い出・・・」


 そう言われてふと思い出したのが、今年の誕生日パーティーの事だったのだ。

 確かにいきなり四人が来た時は正直げんなりしたが、その後の誕生日パーティーはいつも以上に賑い、とても楽しいものになった。さらに、四人が連れてきてくれたシェフが作ってくれた料理は、どれも凄く美味しく大満足であったのだ。

 そんな事を思い出し、私は自然と頬が緩んでいったのだった。


「そうそう!それで良いわよ~!」


 そうハルさんが、ファインダー越しに微笑みながらシャッターを切っていく。

 それを切っ掛けに、私の緊張も解れその後順調に撮影が進んだ。



 何着か衣装を着替え撮影して貰った後、楽しそうに私の撮影風景を見ていた榊原がハルに提案をしてきた。


「ハルさ~ん!僕、響君と一緒に写りたいんだけど良いかな~?」

「あら!それは良いかも!じゃあ、今度は二人揃った所を撮っていきましょうね~」

「やったー!」


 そうして私と榊原は一緒に撮影する事になったのだ。




「良いわ~!そうそう!二人寄り添って!素敵だわ~!」


 テンションの高くなったハルの指示で、私と榊原は様々なポーズを取らされ撮影が進んでいた。

 そして今は榊原が私の後ろに立ち、私の肩を抱いて仲の良い二人に見えるような構図になっている。

 私達の近くには、ホースから水を出し人工的に作り出した虹があった。


「凄く良いわ~!それじゃ~響ちゃ~ん!そこで満面の笑顔よろしく~!」

「あ!ハルさん!それ駄目・・・!」


 だいぶ楽しくなっていた私は榊原の声をよく聞かず、その指示の通り満面の笑顔を浮かべたのだ。


「・・・っ!!」


 その瞬間カメラのシャッター音だけが響き渡り、辺りは静寂に包まれた。

 よくよくハルを見ると、ファインダーを覗いた状態で固まっており、カメラから少しはみ出して見える頬が赤く染まっているように見えたのだ。

 さらに私は周りを見回すと、他の撮影スタッフも呆然とこちらを見て頬を染めながら固まっていたのだった。

 私はその状況を不思議に思い小首を傾げていると、頭上から榊原の呆れた声が聞こえてくる。


「あ~あ。だから駄目だと言ったのに~」

「榊原先輩?」


 榊原にその言葉の意味を聞こうと、私は顔を上に向け榊原を見ようとしたその瞬間、それは起こった。


「うわぁぁ!」

「ひやぁぁ!」


 虹を作る為に使っていたホースを持っていた人が、呆然としたままその持っていたホースを手から落としたのだ。その瞬間ホースは出ている水の勢いで、縦横無尽に水を辺りに撒き散らせながら暴れだした。そして、その水が勢いよく私と榊原に掛かったのだ。

 私達の悲鳴で、我に戻ったスタッフ達の手によりホースの水は止められたが、私は頭からずぶ濡れになてしまった。

 私はすぐに自分の着ている服を見る。今着ている服は厚手の黒い半袖Tシャツに半袖のパーカーを着ていたので、水に濡れたぐらいでは中が透けなかったようだ。私はそれにホッと胸を撫で下ろす。


「響君・・・大丈夫?」


 榊原の心配そうな声が近くから聞こえたので、私は濡れた髪を片手で後ろに撫で上げながら顔を上げ、安心させるように微笑んだ。


「大丈夫です」

「・・・っっ!!!」


 榊原と目が合った瞬間、榊原は驚愕に目を見開きみるみるとその顔を赤く染め上げていったのだった。


「・・・榊原先輩?」

「そ、それはさすがに反則だよーーーー!!!」


 榊原の絶叫と同時に、至る所でバタバタと何かが倒れる音がし、その音の方を見ると何人かのスタッフが赤い顔でその場に倒れていたのだ。その中にはハルも混ざっている。


・・・ど、どうしたんだろう?あ!もしかして!暑いから熱中症に!?


 私はそう思い至ると、慌てて倒れている人々に近付き看護を始めたのだ。


「・・・あ~あ。これはもう、今日は撮影続行不能だね」


 そうまだ赤ら顔で、呆れながら榊原が言ってたのだった。



 結局ハルを含め撮影スタッフの昏倒により、撮影はそれ以上続行不可能になってしまったのだ。

 熱中症かと心配していたのだが、どうやらそうではなかったそうでホッとした。

 その後ホテルに戻り、私は榊原に明日家に戻る事を告げる。


「そっか~僕、明日は朝早くから撮影があるからお見送り出来ないんだ。ごめんね~。今回撮った写真は出来たら渡すね!」

「お見送りは気にしないで下さい。ありがとうございます。今日はとても楽しかったです」

「・・・良い思い出になった?」

「はい。榊原先輩、ありがとうございました!」

「なら良かった~!・・・そうそう、前から思ってたんだけど、僕の事名前で呼んで欲しいな~」

「名前で?・・・う~ん、誠・・・先輩?」

「うん!これからはそう呼んでね~!」

「・・・分かりました」


 そして私は榊原に挨拶を済ませ、部屋に戻ってぐっすりと寝て、次の日ホテルをチェックアウトし帰路についたのだった。



 家に帰った私は、心配していたお父様に笑顔を向け安心させ、お母様はニコニコとしながらどんどん近付いてきたので、その笑顔の圧力に顔を引きつらせながら、大量のお土産をお母様に渡したのだ。


「あら~!こんなに大量じゃ無くても良かったのよ~?でも詩音ちゃん、ありがとうね~」

「・・・・」


・・・そう言いながらも、絶対お土産の量が少なかったら不満そうにしたんだろうな~。


 そうして残りの夏休み特にこれと言った事も起こらず、そして夏休みが終わるまでに響が見付かる事も無かったので、結局二学期も響の振りをする事が決定しながら学園に戻っていったのだった。

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