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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
21/110

兄の行方

 中心街に着くと、私はバス停を探して走り回った。

そして漸くバス停を発見したのだが、そこには既にバスが停車しており、今まさにドアが閉まって発進しようとしていたのだ。

 私はさらに走る速度を上げバスまで追い付いたが、目の前で動き出してしまった。

 呆然と動いていくバスを見上げると、窓際に目的の人物・・・響が座っているのが見えたのだ。

 思わずバスに向かって手を差し伸べたのだが、当然バスは止まるわけもなく響もこちらに気が付かなかった。

 私は走り去るバスをじっと見つめ、表示されている行き先を確認する。響が乗ったバスは空港直通となっていたのを確認し、私はすぐに走っているタクシーに手を上げて止め、そのタクシーに乗り込もうとしていた。


「ひ、響君~!!待って~!!」


 その声がした方を見ると、榊原が苦しい表情でこちらに走ってくるのが見えたのだ。


「榊原先輩・・・」

「はぁはぁはぁ・・・ど、どうしたの?何かあったの?」

「・・・・」


 榊原は私の所まで来ると、膝に手を置き荒い呼吸を繰り返しながら、私に戸惑った表情で聞いてくる。

 だけど正直今、榊原に言い訳をしている暇も惜しいと心の中で焦っていた。

 私はもう一度バスが走り去った方を見てから、固い表情で榊原に振り向く。


「すみません、榊原先輩!僕、緊急の用事が出来たのでこれで失礼します!」

「えっ?響君!?」


 驚く榊原の声を無視し、私は急いでタクシーに乗り込むと空港に向かって発車して貰ったのだった。



 空港に到着した私は、空港ロビーを走り回って響の姿を探す。

ロビー内を駆け回り、漸く響の姿を見付ける事が出来たのだが、響は既に搭乗ゲート内にいてエスカレートで降りようとしていたのだ。


「響ーーーーーー!!!」


 私は人目も気にしず大声を上げて響の名を呼ぶ。すると響はその声に気付きこちらに振り返る。そして私の姿を確認すると能天気そうな笑顔で私に手を振ってきた。


「詩音~!まったね~!」


 そうヘラヘラと笑いながら、響はそのままエスカレートに乗り下に降りていってしまったのだ。


「ちょ!響!待ちなさい!!」


 私の声は虚しく辺りに響き渡るだけで、響は戻って来なかった。

 私は急いで搭乗ゲートまで近付くが、飛行機のチケットを持っていない私はその先に進めない。

 すぐにチケットを買う為受付まで向かうが、そこでハッと足が止まる。よくよく考えたら、私は響がどの便に乗るのか知らないのである。

 ここは国際線もあり、響がどこに行こうとしているのか全く予想出来なかった。

 私がどうしようかと迷っている内に時間はどんどん過ぎ、あっという間に何便か出発してしまったのだ。

 結局響の行方は、このまま分からなくなってしまったのだった。



 日も暮れたぐらいに、私はとぼととホテルに戻る。

 あの後、あともう一歩の所で響を取り逃がした事で私は酷く落ち込み、日が暮れるまで空港ロビーの椅子に座り愕然としていたのだ。

 私はホテルのエントランスをくぐり、エレベーターに向かっていると、ソファに座っていた人物が立ち上り私に近付いてくる。


「響君!!」

「・・・あ、榊原先輩・・・」

「こんな時間までどこ行ってたの?なんかあの時凄く焦っていたけど・・・それに、今は元気が無いように見えるけど・・・大丈夫?」

「・・・・」

「響君?」

「・・・いえ、大丈夫です・・・あの時、たまたま今まで連絡取れなかった知り合いを見付け、慌てて追いかけていたんです。だから、先輩に対してあんな態度になってしまいました。どうもすみませんでした」

「べつに謝らなくて良いよ~。それで、その知り合いと会えたの?」

「・・・結局会えませんでした」

「そうなんだ・・・」

「じゃあ僕は部屋に戻ります・・・おやすみなさい」

「あ、響君・・・」


 そこで話を切り上げ、私は榊原に軽く頭を下げてその場を辞したのだった。



 部屋に戻ると、私はお父様に電話を掛け響に逃げられた事を報告する。


「・・・そうか。まあ、相手はあの響だから仕方が無い。詩音はよく頑張ったと思うよ。後はお父さんの方で探すから、詩音は明後日のチェックアウトまでそこでゆっくりと楽しんできなさい」

「・・・はい」


 そうして電話を切り、だけど明日一日楽しむ気持ちにならないままベッドに入り就寝したのだった。

 そうして翌朝、まだ気分が落ち込んだままホテルの朝食を取り、もう今日一日部屋で過ごすつもりで部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、前から榊原がこちらに向かってくる。


「響君~!」

「榊原先輩・・・」

「今日はこの近くにある、僕の家が所有している小島で撮影するんだけど、響君も一緒に行こう!」

「いや・・・僕は・・・」

「響君・・・その様子だと、今日は部屋から出ないつもりでしょ~?」

「うっ!」

「やっぱり~・・・結局昨日何があったかはもう僕は聞かないけど、せっかくこの島に来たんだから楽しい思い出にしないと!」

「・・・・」

「と言うわけだから、さっそく行こう!」

「さ、榊原先輩!僕まだ行くとは!」

「良いから良いから!」


 そう言って困惑する私を無視し、榊原にホテルから連れ出されたのだった。



 榊原の家が所有するクルーザーに乗り、人の住んでない小さな島に着く。その島に到着すると、一緒に来ていた撮影スタッフはすぐさま準備に取り掛かり始めた。


「・・・あれ~?なんか撮影スタッフ増えてない~?」


 榊原はそう言いながら撮影スタッフの人達を見渡す。


「そうなのよ~誠ちゃんが急にこの島で撮影したいって言い出すから~人のいない島で人手が必要だと思って、急遽人を集めたのよ~」

「ハルさんごめんね~。でも、急だったのによく人集まったね~?」

「それがね~島でたまたま手の空いてたスタッフが数人いたらしいのよ~ラッキーだったわ~!」


・・・SPさん、ご苦労様です。




 そうして昨日に続き榊原の撮影が始まった。

 やはり何度見ても、撮影に入った時の榊原は凄いと思う。その撮影風景を見ていたら、段々と落ち込んでいた気持ちが薄れていったのだ。


・・・なんか落ち込んでるのが馬鹿らしくなってきたな~。確かに榊原先輩の言う通り、せっかく素敵な島に来たのに楽しまないなんて勿体ないよね!・・・まあ、今回響を逃がしたのは残念だったけど、でも次は絶対逃がさない!


 そう心の中で誓いすっきりした表情になると、撮影を終えた榊原が私の下にやって来た。


「響君、表情明るくなったみたいで良かった~!」

「・・・もう大丈夫です。ご心配お掛けしました。・・・そう言えば、先程ハルさんが言ってましたけど、急に榊原先輩がここで撮影したいと言われたようですが、何かここでないといけない理由でもあったのですか?」

「あ~う~んと・・・響君に、元気になって貰いたかったからなんだ~」

「えっ?」

「ここほぼ手付かずの島で、自然豊かだからきっと響君気に入ってくれると思ったんだ~!」

「榊原先輩・・・」


 この島に着いた時、自然溢れるこの島が一目で気に入っていたのだ。確かに、滞在している方の島も色々あって良い所だったのだが、やっぱり慣れ親しんでいる自然が多い方が落ち着くのであった。そんな榊原の気遣いに嬉しいと感じていると、突如榊原がとんでもない事を言い出したのである。


「ねえ、響君~!せっかくだし、響君も一緒に撮影しようよ!」

「ええ!?」


 榊原のその発言に、私は驚きの声を上げたのだった。

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