捜索開始
まず私は沢山の人で賑わうビーチにやって来た。
今日は快晴。透き通るように青い海が、太陽の光に反射しキラキラと輝いている。そこには水着姿の男女や家族連れが海水浴を楽しんでいた。
私も、響を捜す為に来たので無ければ正直泳ぎたかった程だ。
とりあえず私は、ビーチに併設されている売店に入っていく。
「へい!いらっしゃい!」
そう声を掛けてきたのは、店先で鉄板を使い焼きそばをヘラで豪快に作っている茶髪のお兄さんだった。
肌は小麦色に焼けていて、笑うと歯の白さがよく目立つ。
私はその笑顔の似合うお兄さんに近付き声を掛けた。
「すみませ~ん!ちょっとお尋ねしたい事があるんですけど良いですか?」
「おう、良いぜ!なんだい?」
「え~と・・・僕と同じ顔をした人見掛けませんでしたか?」
「同じ顔・・・?」
「はい。僕の双子の兄なんですけど・・・迷子になったみたいで探しているんです」
「迷子・・・まあ、確かにこの人の多さだと仕方がないのかもな。しかし、携帯持ってないのか?」
「・・・どうも電源切れちゃってるみたいで繋がらないので、地道に聞いて探してるんです」
「そうか~大変だな。う~ん・・・君の顔に似た人・・・あ!」
「何か知っているんですか!?」
お兄さんは私の顔をじっと見ていたが、何か思い出したのか声を上げる。
「そう言えば・・・確か午前中に、君に似ているような男の子を見掛けたぞ?」
「本当ですか!?」
「ああ、その時も店先でこうして焼きそば作ってたんだが・・・丁度その時、店の前を美人なお姉さん達に囲まれて歩いて行く奴がいてな。ちょっと羨まし・・・いや、気になって見てみたら、若い男の子だったから印象に残ってて覚えていたんだ」
「美人なお姉さん達・・・」
「まあただ囲まれていたから、しっかりとは顔が見えなかったんだけどな。だからそいつが、君の顔にそっくりだったとはハッキリとは言えないんだ。すまないな~」
「・・・いえいえ、今はどんな些細な情報でも知りたかったので、正直ありがたいです!それで、その男の子はどこに行きましたか?」
「確か・・・中心街に向かって行ったぞ?」
「中心街か・・・ありがとうございます!行ってみます!」
「おう!早く見付かると良いな!」
私は教えて貰ったお礼に、お兄さんの作った焼きそばを買って食べ、その味に満足しつつ中心街に向かって行ったのだった。
教えて貰った中心街に着くと、私はとりあえず建ち並ぶ商店を外からチラチラと確認し響の姿を捜す。
しかしどれだけ探しても、それらしき姿を発見する事が出来なかったのである。
仕方がないと思い、私は近くにあった雑貨店に入って話を聞く事にした。
「すみませ~ん!」
「は~い。いらっしゃいませ~!・・・あれ?」
店の奥から可愛らしい声と共に、三つ編みがよく似合う素朴で笑顔の可愛いお姉さんが出て来たのだが、私の顔を見ると驚いた表情を浮かべる。
「どうしたの?何か忘れ物あった?」
「えっ!?」
「え?」
お姉さんのその言葉に疑問の声を上げると、そんな私の様子にお姉さんも疑問の声を上げた。
「も、もしかしてこのお店に、僕と同じ顔の人が来たんですか!?」
「同じ顔って・・・じゃあ、さっきの男の子とは別の子なんだ!しかし、凄く顔そっくりね~」
「やっぱりそうなんだ!」
「うん。二時間ぐらい前かな~?君にそっくりな男の子が、年下の可愛らしい女の子達を引き連れてこの店に来たんだよ」
「可愛らしい女の子達・・・」
「凄く綺麗な顔立ちが印象的だったし、笑顔で一緒にいた女の子達に、このお店の商品を買って上げてたからよく覚えていたんだよね~」
「・・・ちなみに、その男の子がどこに行ったか分かりますか?」
「う~んと・・・確かその時の会話で、この島の水族館に行くとか言ってたような・・・」
「水族館ですね?分かりました。ありがとうございます!」
「・・・よく分からないけど、大変そうね。頑張ってね!」
私はお姉さんにお礼を言い、店を出る前に目について気に入った可愛らしい馬の置物をちゃっかり購入し、教えて貰った水族館に向かったのだった。
中心街から水族館までは少し距離があった為、私はタクシーに乗り水族館に向かったのだ。
漸く到着した頃には日もだいぶ傾いていたので、私は急いで水族館の中に入って行く。
入場券を購入し館内に入ったが、そこで私は一瞬あまりの美しさに言葉を失いその場で呆然と立ち尽くした。
入ってすぐに見上げる程大きな水槽があり、そこに様々な種類のお魚が優雅に泳いでいたのだ。
館内は薄暗くその為水槽の青さが一際際立ち、まるで海の中にいるような錯覚に陥る。
暫し時を忘れその水槽の美しさに魅入っていたが、ハッと我に返り本来の目的である響探しを再開した。
私は薄暗い館内を急ぎ足で進み、人を見付けるとじっと響では無いか確認する事を繰り返したが見付けられず、結局出口まで来てしまったのだ。
出口を出て私は深くため息を吐く。
響・・・あんた一体どこにいるのよ・・・。
私は響を見付けられない事に落ち込みつつ、出口にあるお土産コーナーに入っていった。
「いらっしゃいませ~!」
お土産コーナーのカウンター内で、おばちゃんが元気良く挨拶してくれる。
私はとりあえずそのおばちゃんに近付き、私の顔と同じ人を見てないか尋ねた。
「あら?その子なら、ついさっき見たわよ?」
「え?本当ですか!?」
「ええついさっきここに、妖艶な熟女達に囲まれながら買い物に来てくれたんだよ」
「今度は妖艶な熟女達・・・」
一体何やってるんだ響・・・。
「そ、それで、その男の子はどこに行きましたか?」
「さぁ~?ただ、その時夕食の話をしていたから、多分繁華街に向かったんじゃ無いかしら?」
「繁華街・・・分かりました。ありがとうございます!」
結局ここでも見付けられなかった事に落胆しながらも、なんとか気力を振り絞っておばちゃんにお礼を言い、去り際に触り心地の凄く良い大きなクジラのぬいぐるみを買って水族館を出たのだった。
その後もう一度タクシーに乗って繁華街に向かい、響を探しつつ夕食を食べる為に和食のお店に入ったのだ。
そこで美味しい海鮮丼に舌鼓を打ちながらお腹一杯食べた後、とりあえず店の大将に響の事を聞いてみると、偶然にもこの店に響が来ていたらしい。しかし既に店を去った後らしく、その後どこに行ったか分からず情報がそこで途絶えてしまう。
ただそこで分かった事は、今度はお淑やかで美しい年配のおばあさま達と一緒だったと言う事だった。
響・・・あんたどれだけ守備範囲広いのよーーーー!!!
私は今日一日で、響の周りにいた女性がコロコロ変わっていた事実に飽きれてしまっていたのだ。
ある意味響に振り回され、すっかり疲れてしまった私はもうホテルに戻って休む事にした。
ホテルに着き、ロビーを抜けてエレベーターに向かっていたその時・・・。
「あれ~?そこにいるの、もしかして響君?」
「・・・・・えっ!?」
後ろから聞こえたその聞き慣れた声に、恐る恐る後ろを振り返ると、そこにいた人物を見て私は目を瞠り驚きの声を上げたのだった。