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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
15/110

天使の歌声再び

 私は急いで通話ボタンを押し携帯を耳に当てた。


「あ、詩音?誕生日おめでとう!」

「・・・・・響ーーーーーー!!!!」


 電話越しからは長年聞き慣れた双子の片割れ・・・響の明るい声が聞こえてきたのだ。


「詩音、声大きい!耳痛くなったよ~・・・ねえ?詩音は僕にお祝い言ってくれないの?」

「あ、お誕生日おめでとう・・・て、そうじゃない!!響、今どこにいるの!?」

「う~ん・・・秘密!」

「はぁ~!?!?」

「だって、簡単に教えたら面白く無いじゃん!」

「面白いとか面白く無いとかの問題じゃ無い!私が今、どれだけ大変な目に遭ってるか知ってる!?」

「う~ん、多分僕の身代わり?」

「分かってるじゃないの!ならとっとと帰って来なさいよ!!」

「え~まだ自分探し中だからか帰れないよ」

「そもそもその理由も良く分からないんだけど!?」

「まあ、それは帰ったら説明するよ!・・・あ、そろそろ時間だ!僕もう行くから電話切るね。じゃあ詩音、後はよろしく!」

「あ!ちょ、ちょっと響まだ話が・・・」


 慌てて止めるが、響は私の返事など聞かずに電話を切ってしまった。私はすぐにリダイアルボタンを押し響の携帯に掛けなおすが、電話先から聞こえてくるのは「現在電波の届かない所か電源が入っていない為お繋ぎする事が出来ません」と言うアナウンスだったのだ。

 その後何度も掛け直してみたが、結局電話は繋がらなかった。


「響の馬鹿野郎!!!」


 私はそう怒鳴りながら携帯をベッドに投げつける。

 そして、肩で荒い息をしながらこのままでは眠れないと思い、気分を落ち着かせる為バルコニーに続く扉を開けて外に出た。



 バルコニーに出ると雲一つ無い綺麗な満月が登っていて、心地よい風が顔に当たり少し気持ちが落ち着いてくる。


「・・・響、元気そうだったな」


 手摺に寄り掛かりそうポツリと呟いた。

 あんな兄だが、やはり行方がずっと分からなかった事で、本当は無事かどうか心配していたのだ。

 だけど相変わらず自由奔放な響の様子を思い出し、段々収まってきていた怒りが込み上げてきた。私はその怒りを発散する為、想いのままその場で歌い出したのである。



     ◆◆◆◆◆


 高円寺達はまだ眠れそうに無かったので、四人で早崎邸の中庭を散策していた。


「ここ緑が多くて綺麗な庭だね~!」

「確かに良く整備され、管理が行き届いているのが分かる」

「俺、今度ここで合宿させて貰えないか早崎に聞いてみようかな?」

「それ良いな~僕も行きた~い!」

「お?誠、やっと俺と一緒に運動する気になったか?」

「・・・健司の運動、ハード過ぎるから嫌だ」

「まあ確かに、健司の体力には私も付いていくだけで精一杯だからな」


 榊原と桐林が話していると藤堂がポツリと言い、それを聞いた榊原が一度賛同するが、藤堂のハードな運動に付き合わされそうになったので榊原がすぐに否定する。その二人を苦笑しながら見ていた高円寺が、榊原の意見に賛同したのだった。


「お前ら体力無さ過ぎなんだよ!」

「健司が体力馬鹿過ぎなんだ。俺達は普通だ」

「豊・・・お前は勉強馬鹿だけどな!」

「なんだと!?」

「まあまあ二人共、こんな所で喧嘩を始めるな」


 そう言って睨み合いを始めた藤堂と桐林の間に、高円寺が割って入って二人を宥めていたその時、榊原が突然周りをキョロキョロと見回し始める。


「・・・あれ?なんかどこかから歌声が聞こえない?」

「歌声?」

「・・・ああ、確かに聞こえる!」

「この歌声は・・・」


 榊原の声に桐林は怪訝な表情で周りを見て、藤堂は耳に手を当て微かに聞こえてきた歌声を確かめた。そして高円寺は、その聞こえてきた歌声にある人物を思い浮かべる。

 四人はその歌声に誘われるように進み、早崎邸の三階にあるバルコニーに人が立っている事に気付いた。どうやらこの歌声はその人物から発せられているようだ。

 その人物は月明かりに照らされ、穏やかな風になびく髪を片手で押さえながら、月の光に反射して輝く淡い水色のドレスを着て目を閉じ気持ち良さそうに歌っていた。


「響・・・君?」

「・・・いや、ドレスを着ているから・・・多分妹の方だろう」

「あれ?体調良くなったのかな?しかし、三階だから良くは見えないが・・・遠目でも兄にそっくりなのが分かるな」

「確かに!月の光に照らされて凄く綺麗だよね・・・」

「ああ、それもこの歌声・・・まるで天使の歌声のようだ」

「なんだか心が洗われていくようだな・・・俺、出来れば一度ちゃんとあの子に会ってみたい」

「それは僕も思った!」

「俺も少し興味が湧いた・・・雅也、お前はどうだ?」

「・・・・」

「雅也?」

「・・・あの歌声・・・さすが双子だ・・・」

「どうした雅也!?」


 榊原、桐林、藤堂がバルコニーに立つ人物に見とれながら話していたが、全く話そうとしない高円寺が気になり桐林は声を掛ける。だが、桐林の声に気が付かない高円寺の様子に怪訝な表情になり、桐林は高円寺の肩に手を置いてもう一度今度は強く呼び掛けた。


「・・・っ!あ、ああ豊か。いや、何でもない」

「一体どうしたんだ?それに・・・双子がどうとか言ってたが?」

「いや・・・ただ単に、見た目が兄そっくりで可憐で美しいなと思っただけだよ」

「まあ、それは俺も思ったが・・・本当にそれだけか?」

「ああそうだ」


 高円寺の態度に桐林は怪しむが、高円寺は微笑みを浮かべ桐林を見る。桐林はそんな高円寺の態度に、腑に落ちない表情を浮かべていたが高円寺がこれ以上何も言う気が無いのを悟り、さらに追求するのを止めてもう一度バルコニーに目をやった。

 高円寺はその桐林の様子に内心ホッとしながら、高円寺もバルコニーを見上げその姿と歌声に魅入る。

 だが実は、その時高円寺は自分の気持ちに戸惑っていた。なぜか学園の裏山で見て聞いた早崎の姿と歌声を、他の誰にも教えたく無かった。

 高円寺はあの初めて早崎の歌声を聞いてから、時々早崎が裏山に入って行くのを見掛けると、そっと気付かれないよう付いていき、木の影に隠れてその歌声を聞き癒されていたのだ。

 この自分でも理解出来ない感情に疑問に思いながらも、今はただこの兄と同じ天使の歌声に聞き入る事にしたのだった。



 暫く四人はその歌声に黙って聞き入っていたが、歌い終わった事でバルコニーの人物は部屋に戻っていってしまう。

 四人の表情には、まだ聞いていたかったと言う思いが現れていたが、さすがにこれ以上は待っても再び出てくる気配は感じられ無かったので、四人は歌声の余韻に浸りながらそれぞれ与えられた部屋に帰って行ったのだった。

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