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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
11/110

勧誘

 期末試験も終わり暫くたったある日の放課後。

 私は鞄に教科書を入れ帰支度を始めていた。するとその時教室の入口から黄色い声が上り、教室内がざわめきだしたのだ。

 その声に私は一つ大きなため息を吐きながら、そちらを気にしないようにして急いで帰支度を進める。

 そうして教科書を全て仕舞い終え、急いで椅子から立ち上がろうとしたが、肩を掴まれ再び椅子に座り直されたのだ。


「早崎~まだ帰ったら駄目だぞ?」

「・・・藤堂先輩、手を離して下さい」

「嫌だ。今手離したら早崎帰るだろ?」

「当たり前です」

「まあまあ響君、そんなに焦って帰らなくても良いでしょ?」

「・・・榊原先輩も、笑顔で手を握って来るの止めて下さい」

「え~だって響君の手、綺麗でスベスベで触り心地良いんだもん!」


 後ろに藤堂が立ち私の肩を押さえ込んでいて、前には机を挟んで榊原が私の左手を両手で掴んで手の平を擦ってくる。

 するとその時、鞄を握っていた手をやんわり開かされ鞄を奪われ、何も持たなくなった手を持ち上げられた。


「確かにきめ細かく、吸い付くような滑らかな肌だ」

「・・・高円寺先輩も何してるんですか!」

「ふむ、しかしこの絹のように滑らかな髪質も凄いぞ」

「・・・桐林先輩まで・・・私の髪触って楽しいですか?」


 高円寺が私の右横に立ち、私の右手を持ち上げてしげしげと眺め。桐林はその反対、私の左横に立ち私の髪を撫でるように触っていたのだ。


一体この可笑しな状況は何なんだ!!!


 私はガッチリと生徒会メンバーに周りを囲まれ、体に触れられているこの状況に泣きたくなってきた。


「・・・それで、先輩方は一体何しに来たんですか?」

「そう言えば、まだ本題に入っていなかったな・・・雅也」

「ああ、分かった」


 桐林が私の髪を撫でたまま高円寺に声を掛けると、高円寺は一度頷き持っていた私の手を握りしめニコリと微笑んでくる。


「早崎君・・・君に生徒会へ入って欲しいんだ」

「え?・・・ええええ!!!」


 突然の申し出に私は思わず絶叫してしまった。


「いやいやいや!生徒会に相応しいのは委員長・・・三浦君が適任だと思うのでそちらを誘って下さい!」

「三浦君なら既に誘ってある」

「え?」

「あ!僕その申し出もう受けたけど、早崎君が一緒に生徒会に入ってくれると嬉しいな~」

「委員長!!」


 間髪入れずに桐林が委員長は誘ってあると言うと、ひょっこり当の委員長が姿を現しニコニコとしながら言ってきたのだ。

 委員長とはあの一件以来何かと話す機会が増え、今ではすっかり友達のような関係となっている。


「僕、そんなに生徒会入れる程優秀じゃ無いし、皆の代表みたいな生徒会なんて絶対無理ですから!」

「五教科全部満点取れるのは優秀じゃ無いのか?」

「うっ!」

「颯爽と馬を操り、さらに運動能力に自信のある俺から走って逃げ切れる奴を、優秀とは言わないのか?」

「うっ!」


 桐林と藤堂が面白そうに笑みを見せながら詰め寄ってくる。

 すると私の左手を握っていた榊原が、握る手を強め私に詰め寄ってきた。


「僕、響君ともっと一緒にいたいから生徒会に入って欲しいな~。ね?お願い!」


 そう言って、キラキラした満面の笑顔を見せてきたのだ。多分、普通の女子ならこの笑顔にコロッと堕ちるんだろうけど、私は顔を引きつらせ体を引く。


「それに早崎君、君には人を惹き付ける魅力がある。それだけで充分生徒会でやっていける素質があるよ。それに・・・私ももっと君と一緒にいて、まだ私の知らない君を見てみたいんだ」


 私の右手を掴んでいた高円寺が、私の手を自分の顔まで持っていき、魅惑的な微笑みを浮かべて私をじっと見つめてくる。

 その瞬間、教室のあちこちで顔を赤らめたままその場に気を失う女子が続出した。

 しかし私はその高円寺の表情に何も感じず、怪訝な表情で見返したのだ。


「正直、僕のどこを見て人を惹き付ける魅力があると思われたのか知りませんが、そんなの僕にはありません!それに高円寺先輩の知らない僕を見たいと言われても、僕は僕なのでこれ以上何も無いですよ!」


・・・まあ、女と言う秘密はあるけど。


 その思いを表に出さないようにしながら、周りに立っている人達を見回し、そして真剣な表情でキッパリと言う。


「僕は絶対生徒会に入りません!」


 そう言うと素早く身を屈めて肩に置かれた藤堂の手から逃れ、掴まれていた両手をサッと引き、高円寺に奪われていた鞄を奪い戻すと脱兎の如く教室から逃げ出したのだった。



     ◆◆◆◆◆


「あの身のこなし・・・やっぱり只者じゃ無いな。俺の見込んだ通りだ!」

「確かに、健司の隙をついて逃げ出せる者などそうそういないからな。・・・ますます興味深い」

「やっぱり響君、面白い!」

「早崎君・・・君のその行動が、どんどん人を惹き付けている事に気が付いていないんだね」


 そう生徒会メンバーの四人は口々に言い、早崎の去っていった方を面白そうに見ていたのだ。


「・・・早崎君。君、大変な人達に気に入られちゃったね」


 四人から少し離れた所に立って様子を見ていた委員長が、そう呟き少し同情した表情をしていたのだった。



     ◆◆◆◆◆


 あの生徒会への勧誘をされた日から、生徒会メンバーが私に絡んでくる頻度が格段に上がったのだ。

 私が構内のどこかにいると、必ず生徒会メンバーの誰かが私の前に現れ生徒会へ入るように言ってくる。その度に私はその場からサッと逃げ出し、構内を逃げ回る羽目になっているのだ。

 そんな日々を繰り返しているせいで、教室ではいつもぐったりと机に突っ伏していた。


一体何で私がこんな目に遭わなければいけないんだ!・・・くっ!だけどもうすぐこの状態から、暫く解放されるんだ!それまで頑張れ自分!!


 そう、もうすぐ夏休みに入る。その間全生徒は実家に戻る事になっているので、夏休みの間だけでもあの生徒会メンバーの勧誘攻撃から解放されると思い、今頑張って堪えているのだ。

 机に突っ伏したまま夏休みを心待ちしていると、ガタリと前の椅子が鳴ったのでまさかまた生徒会メンバーの誰かかとうんざりしながら顔を上げると、そこには心配そうに見てくる委員長が座っていた。


「早崎君、大丈夫?毎日大変そうだね」

「・・・そう思うのなら、委員長から生徒会メンバーに勧誘を諦めるように言って下さい」

「う~んそれは無理かな。僕にはあの人達を止める事なんて出来ないし・・・それに僕も、早崎君に生徒会へ入って欲しいからさ」

「委員長ーー!!」

「ごめんね。そうそうもうすぐ夏休みだけど、早崎君は夏休み何する予定なの?」

「話し変えたな・・・はぁ~まあ良いや。夏休み僕は実家で基本的にのんびり過ごすつもりだよ」

「そうなんだ。どこにも行かないの?」

「う~ん、特にこれと言って・・・。ただ、その夏休みの間に僕の誕生日があるから、家族だけで誕生日パーティーする予定があるぐらいかな」

「早崎君って夏生まれなんだ!」

「うん。暑い夏に双子を産んだお母様は、大変だったみたいだけどね」

「それは確かに大変そうだ・・・」


 その時の事を想像したのか委員長は苦笑を浮かべていた。


「そうか・・・夏休みに誕生日パーティーか・・・」

「委員長?どうしたの考え込んで?」

「ああごめんね。僕は夏休み中親と一緒に海外に行くから、早崎君の誕生日お祝いしに行けそうに無いなと思って」

「いや、気にしなくて良いよ。それに毎年家族だけで開く小さなパーティーだからさ。その気持ちだけで充分だよ。ありがとう!」

「でもそれじゃ僕の気が収まらないよ。早崎君には例の件で凄くお世話になったからさ・・・そうだ!早崎君、君の誕生日と住所教えてくれないかな?その日に届くよう誕生日プレゼント送りたいからさ」

「別にそんな気を使わなくても良いよ!」

「僕が上げたいんだ。お願い!教えて!」

「・・・仕方がないな。ただ、そう大した物じゃなくて良いからね」

「ありがとう!なるべく早崎君が気に入る物を考えるよ!そう言えば、君の誕生日と言う事は妹さんも誕生日だと言う事だよね?なら妹さんの分も合わせて送るね!」

「・・・ありがとう。きっと妹も喜ぶと思うよ」


 私は複雑な表情でお礼を言い、机の引き出しからノートを取り出し、一枚紙を破ってそこに誕生日と実家の住所を書いて委員長に手渡したのだった。

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