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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校三年生編
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事件勃発!?

 冬休みに入り年末年始を実家で過ごした私と響は、三学期が始まる前に学園に戻り、そして始業式を終えて高校生最後の学期が始まった。

 私は席に座って次の授業の準備をしながら、ぼんやりと教室の中を見回す。


この学園で勉強するのもあと数ヵ月か・・・長かったような短かったような・・・あれ?そう言えば私、卒業したらどうしよう?


 その事にふと気が付き、私は神妙な面持ちになって顎に手を添えながら考え出したのだ。

 この学園に通っている生徒は、基本的に御曹司やご令嬢それか御曹司の兄弟であるご令息なので、殆どの生徒は卒業したら家業の手伝いをするか、自分で選択して大学に進学するかであった。

 しかし私は響の振りをする為男装して必死に学園に通ったり、女に戻ったら戻ったで学園生活を満喫する事に頭が一杯だったので、すっかり卒業後の事を考えていなかったのだ。


・・・ヤバイ、よく見ると明らかに大学受験の為に必死に勉強してる人や、聞こえてくる会話からして、卒業後は父親に付いて家業の手伝いをするような人が沢山いる・・・どう見ても何も考えていなかったの私だけっぽい!!


 私はその事実に今更ながら気が付き、頭を抱えてうなだれる。


「・・・詩音、どうかしたの?」


 そう私の隣に座ってる響が、不思議そうに尋ねてきたのだ。

 私はそんな響の方に、落ち込んだ顔を向ける。


「・・・響、あんたってさ・・・高校卒業したらどうするの?」

「へっ?まあ、さすがにお父様の手伝いをしながら会社の勉強をするよ?」

「・・・そうだよね・・・はぁ~」

「一体どうしたの?そんな大きなため息吐いてさ」

「いや・・・私、今更ながら自分の卒業後の事考えていなかった事に気が付いてさ・・・」

「ああなるほど。でも・・・詩音はそんな心配しなくても良いんじゃない?」

「え?」


 響がニヤニヤしながら言ってきたので、私は意味が分からずキョトンとした顔で響を見たのだ。


「どう言う事?」

「だって・・・詩音の卒業後は決まってるもんだろう?」

「???」

「も~相変わらず鈍いな~!高円寺先輩の為の花嫁修業だよ!・・・いや、もしかしたら即結婚も有り得るかもね!」

「・・・っ!ま、まさかそんな早くは無いはずだよ!!」

「そうかな?正直男の僕から見ても、高円寺先輩結構頑張って堪えてると思うよ?だから、お父様の約束である高校卒業が過ぎたら多分、一気にタガが外れると思うな~」

「なっ!ひ、響!何言って!!」

「ふふ、僕の甥か姪楽しみにしてるね!」

「っっ!!」


 その悪戯っ子のような顔で言ってきた響の言葉に、私は顔を熱くさせ言葉を詰まらせてしまったのだった。



 結局響と相談してもどうするか思い浮かばなかったので、とりあえず一旦保留にして、次の休み時間に藤之宮の下に向かう事にしたのだ。

 私は一年生の教室に向かう為、人気の無い中庭を一人で歩いていると反対方向から高円寺を連れた藤之宮が歩いてくる事に気が付く。


「お~い!麗香さ~ん!雅也さ~ん!」

「あら?詩音さんごきげんよう」

「やあ、詩音」


 手を振って近付く私を見て、藤之宮と高円寺は挨拶をしてくれたのだ。


「これから麗香さんの所に行くつもりだったんだけど・・・もしかして移動教室?」

「ええ、そうですわ。次は科学教室で授業ですの」

「そっか・・・なら途中まで一緒に行くね」

「べつに構いませんわよ」

「ふふ、私も少しでも、詩音と一緒にいられて嬉しいよ」

「雅也さん・・・」

「・・・私、お邪魔虫かしら?そうでしたなら、先に行っててもよろしいですわよ?」

「いやいや一緒に行こうよ!」

「そうだよ麗香。一人は駄目だよ」


 呆れた表情を私達に向け言ってきた藤之宮に、私は慌てて否定し高円寺は苦笑を浮かべる。

 そうして私と藤之宮と高円寺は、科学教室のある校舎に向かって歩き出したのだ。

 しかしその時、その科学教室のある方角から黒い煙が上がっているのに気が付いた。


「あれ?・・・もしかして、火事!?」


 私はそう口に出し、驚いた表情のまま高円寺の方に顔を向けると、高円寺は耳に掛けていた無線機に手を添え、真剣な表情で話をしている所だったのだ。


「私だ、状況を・・・何だと!?・・・分かった、すぐに向かう・・・頼む」

「・・・雅也さん?」

「・・・すまないが詩音と麗香、少しだけここで待っていてくれないか?」

「え?」

「雅也、一体何がありましたの?」

「う~ん・・・どうもこれから向かう予定だった、科学室の近くでボヤ騒ぎがあったらしいんだ。幸いすぐに消し止められたから大した事にはならなかったらしいんだが・・・」

「その燃え方に、不審な点があったのですわね?」

「まあね。・・・そこには元々燃えるような物なんて無い場所だったから、明らかに誰かの手による仕業だと思われる燃え方だったんだ」

「それって、放火!?」


 高円寺の言葉に、私は驚きの声を上げる。


「まだハッキリとは断言出来ないから、とりあえず私に一度現場を確認して欲しいらしい。だから、安全が確認出来るまで二人はここで少しだけ待っていて欲しいんだ。念の為、私の代わりに警護の者を呼んである。その者達が来てから私は行くよ」

「・・・雅也、急ぎなのでしょう?なら私に構わず、行ってよろしいわよ」

「いや、しかし・・・」

「雅也さん大丈夫ですよ!私も付いてますし、それにすぐにSPの人が来てくれるんですよね?だったら行ってください!」

「・・・分かった。行って確認したらすぐ戻るよ。二人共、絶対ここを離れないでね!」

「はい!」

「分かってますわ!」


 私と藤之宮が返事を返したのを見届けた高円寺は、心配そうな顔を私達に向けてから今だ黒い煙が立ち上っている方に走って行ってしまったのだ。


「・・・何事も無いと良いけどね」

「そうですわね・・・」


 そう高円寺の後ろ姿を見つめながら私達は呟く。

 しかしこの時、私はあの倒木事件から何も起こっていなかった事ですっかり油断していたのだった。



 そうして少ししてから、全身黒服のサングラスを掛けた二人組のSPが私達に近付いて来たのだ。


「ああ来た来た・・・ん?」


 私は警護の人が来てくれた事にホッと安心したのだが、なんだかその二人から漂ってくる雰囲気に違和感を感じ首を捻る。

 するとその時、突然それは起こったのだ。


「きゃあ!!!」

「え!?麗香さんどうし・・・!!」


 突然私の斜め後ろにいた藤之宮の叫び声が聞こえ、私は慌てて振り返るとそこにはすでに気を失ってぐったりとSPの人に抱えられている藤之宮がいた。

 私は一体何が起こったのか分からず、動揺しながら急いで気を失っている藤之宮に近付こうとして、ハッと気が付く。


あれ?この人って、さっきの二人組のSPの人とは違う人だよね?・・・何で後ろから、SPの人が黙って近付いて来たの?


 そう疑問に思っていると、その藤之宮を抱えている手とは別の手に、スタンガンを握っている事に気が付いたのだ。


「ま、まさか、あなたが!・・・っ!!」


 思わぬ事実に気が付き、私は驚愕の表情で藤之宮を抱えているSPを見たその時、首に何かが当てられた感触とすぐに強い衝撃がそこから与えられた。


「くっ・・・あ、あなた達・・・・・」


 私はその衝撃で意識を失いかけ倒れていく瞬間、なんとか気力を振り絞り後ろを振り返ると、私達の下に近付いていたSP二人組の内の一人の手にもスタンガンが握られていたのが薄れゆく目に映ったのだ。


雅也さん・・・・・。


 そう心の中で愛しい人の名を呼びながら、私はそのまま意識を失ったのだった。



     ◆◆◆◆◆


 高円寺は急いでボヤ騒ぎのあった現場に到着すると、すでにそこには数人のSPと何故か響の姿があったのだ。


「響君!?」

「ああ高円寺先輩」

「どうして君がここに!?」

「廊下を歩いていたら、この黒煙が見えて気になったから来ちゃいました!」

「来ちゃいましたって・・・」

「雅也様すみません!近付かないように注意したのですが・・・」

「・・・いや良い、どうせ無理だろうから」


 そう高円寺は言い、呆れた表情を響に向けたのだった。


「それで状況は?」

「はっ!調べました所、やはり焦げ後から紙屑と油の匂いがした事から、人為的に起こされた物だと断定出来ます!」

「・・・そうか。しかし、一体何故このような事を・・・ん?私にここへ、確認しに来て欲しいと言った者がいないがどうした?」

「それが・・・私共もここに集まるように連絡を受けたのですが、その連絡してきた者の姿が何処にも見えないのです」

「何だと!?どう言う事だ!?」


 そのSPの困惑した報告に、高円寺は目を見開いて驚きの声を上げる。

 するとそれまで黙ってじっと燃えた場所を見つめていた響が、何かに気が付いてキョロキョロと回りを見回す。


「・・・あれ?高円寺先輩、麗香ちゃんは何処?」

「ああ麗香か、麗香なら途中で会った詩音と一緒に・・・っ!!」


 響の質問に、高円寺は何気無く答えようとしてある事実に気が付きハッと目を見開く。


「しまった!!そうか、これはそれが狙いか!!」

「高円寺先輩?」

「くっ!響君、今は説明している暇はない!麗香と詩音が危ないんだ!!」

「っ!!」


 高円寺はそう叫ぶと、この場をSP達に任し急いで詩音達の下に向かって走り出す。

 するとその後を、真剣な表情で響も付いて走っていたのだ。

 そうして二人が、詩音達に待っているように指示を出した場所に到着すると、そこには誰一人いなかったのである。

 その状況に、高円寺は呆然と立ち尽くしていたのだ。

 しかしその時、響はある物に気が付きそこに近付いて地面からそれを拾う。


「これは・・・麗香ちゃんの教科書・・・」


 響は教科書に掛かれていた名前を見て、眉間に皺を寄せる。

 そこに高円寺も近付いて来て、その響の手元を覗き込んだ。


「やはり二人は・・・しかし一体誰が?」

「た、大変です!!」


 高円寺が険しい表情で考えていると、慌てた様子でSPの男が高円寺の下に駆け込んできたのだ。


「次は何だ!!」

「た、たった今、校門から我々の車が一台物凄い早さで出て行きました!しかも、その車の中には・・・麗香様と雅也様の婚約者である詩音様の姿があったそうです!!」

「何だと!?何をしている!すぐにその車を追い掛けるんだ!!」

「そ、それが・・・他の車全てのタイヤに穴を開けられており、すぐに出す事が出来ません!!さらに、何名か我々の仲間が負傷させられており、その者達の証言によると・・・同じSPの仲間が突然襲ってきたそうです!!」

「くっ!内部に犯人がいるとは思っていたが、まさか信頼していたSPだったとは!油断した!!」

「どういたしましょう?」

「なんとしても追い掛けるんだ!本部にも連絡を入れて至急応援を要請するように!」

「はっ!」


 高円寺の指令を受け、SPの男は急いでその場を去る。

 そうしてその場に残ったのは、ただじっと教科書を見つめる響と悔しそうな顔で手を握りしめている高円寺だけとなったのだ。


「詩音!無事でいてくれ!」


 高円寺はそう切実に願い、愛しい人の顔を思い浮かべながら空を見上げていたのだった。

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