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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校三年生編
102/110

高校生最後のクリスマスパーティー

 学園祭が終わり、期末試験も終わって今年もクリスマスパーティーの時期がやって来た。

 今年は例年より気温が低かった事で、クリスマスパーティーの前日に雪が降りだし当日は真っ白な銀世界が広がっていたのだ。

 私は実家から送られてきた、響と同じ生地を使った淡い紫色のドレスを身に纏い、高円寺からのプレゼントである月のネックレスと蝶の髪飾りを身に付け、胸に赤いダリアのコサージュを付けてパーティー会場である講堂に入っていった。

 その講堂内は毎年の事ながら、色とりどりの衣装に身を包んだ男女や会場内の飾り付けでとても華やかな雰囲気に包まれている。

 私はその様子を見ながら、これも今年で最後なのかと感慨深く感じていた。

 するとその時、私の下に近付いてくる二人組の男子生徒に気が付く。

 その二人は、胸元に其々黄色い花のコサージュを付けている事から、どうやら一年生の男子生徒だと言う事が分かった。

 私は一体何の用事だろうと思いながら、その二人が近付いてくるのを不思議に見ていたのだ。


「あ、あの!早崎先輩!!」

「ん?どうしたの?」


 そうして私の下までやって来た二人の内一人が、もう一人に肘で小突かれ意を決した表情で私に声を掛けてきた。


「せ、先輩には婚約者がいるのは知ってますが・・・良かったら、僕のコサージュと先輩のコサージュを交換して下さい!!」

「え?・・・えええ!?」


 まさか今年もこんな申し出をされると思って無かったので、私は驚きの声を上げてしまったのだ。


「僕には望みが無いのは分かっているので、出来れば思い出として先輩とコサージュを交換したいんです!」

「いや、でも・・・」

「お願いします!!」


 そう言ってその男子とその友達だと思われる男子が、私に向かって頭を下げてきた。

 私はその様子に戸惑いどうしようかと悩んだが、もう高円寺とは恋人同士でさらに婚約しているので、まあ問題ないかと判断したのだ。


「・・・さすがに交換は無理だけど、私のコサージュをあげる事で良いなら出来るよ?」

「・・・そ、それで良いです!それだけでも、充分思い出になります!!」

「そう?それじゃ・・・」

「駄目だよ」

「え?」


 男子のその興奮した様子に、私は苦笑しながらも自分の胸元のコサージュ外そうと手を伸ばしたその時、突然後ろから手が伸びてきて私の手を掴まれてしまう。

 私は驚いて後ろを振り向くと、明らかに目が笑っていない微笑みを浮かべた高円寺が、私の後ろに立って私の手を掴んでいたのだ。


「ま、雅也さん!?」

「君・・・思い出が欲しいのは分かるが、私の婚約者の物は君にはあげられないよ。・・・他を当たってくれ」

「「す、すみませんでした!!」」


 高円寺がすっと目を細めその男子生徒達を見つめたので、二人はその眼差しに震え上がり、声を裏返させながら謝罪の言葉を述べ慌てた様子で私達の下から去っていってしまった。

 私はその様子を呆然と見つめながら、ぎこちなく高円寺に顔を向ける。


「え、えっと・・・雅也さん?」

「・・・まだあんな虫がいるのか・・・やはり卒業まで気を付けなければ・・・」


 そんな事を真顔で高円寺はブツブツ言っていたので、私はそんな高円寺を見て頬を引きつらせていたのだ。


「あの~そろそろ、手を離して貰えませんか?」

「・・・詩音、今度あんな事があっても、絶対私以外には渡しても貰っても駄目だよ」

「・・・はい」


 後ろから私を見下ろすようにして真剣な表情で言われてしまったので、私は身を縮こませコクりと頷く。


「分かってくれたのなら良いよ」

「あの~分かったので、そろそろ離れてくれませんか?さすがにこの場所で、この体勢は恥ずかしいです」


 端から見ると、後ろから抱きしめられているように見えるこの体勢が、とても恥ずかしかったのだ。

 すると高円寺は、やっと私の手を離してくれたので私はホッとしたのだが、今度はその手が私の腰に回り本当に後ろから抱きしめられている体勢になってしまった。


「ま、ま、雅也さん!!」

「ん?詩音なんだい?」


 私が動揺しながら上擦った声で高円寺の名を呼ぶと、高円寺はとても甘い声で返事を返し、そして私の頭に軽くキスを落としてきたのだ。

 その瞬間、至る所から女性の黄色い悲鳴が聞こえてきた。


「っ!!ま、雅也さん!!み、皆が見ていますので離して下さい!!」

「駄目、わざと見せ付けているんだよ。もう詩音に悪い虫が寄って来ないようにね」


 そう言って高円寺は、さらに腕の力を強めて私を抱きしめてくる。


「ちょっ!雅也さん!本当にお願いだから離して下さい!!」

「・・・仕方がない。出来ればずっと、詩音を抱きしめていたかったんだけどね」

「いやいや!さすがにそれは困りますから!!」


 私の必死の抵抗に、高円寺は漸く私を解放してくれたのだ。

 なんとかこの恥ずかしい状態から脱する事が出来た私は、ホッと息を吐いてから高円寺の方に向き直る。

 そしてまじまじと、高円寺の姿を見たのだった。

 今の高円寺の格好は、パーティー用の薄い紫色の礼服をスマートに着こなしていたのだ。

 しかしまさか私と、同じような色になっているとは思っていなかったので驚きに目を瞠る。


「ああ、私達の服の色同じ系統だね。まるでペアルックみたいだ」

「っ!!」

「ふふ、それにしても・・・やはり今日の詩音も素敵だね。とても綺麗だよ。それに、私があげたネックレスと髪飾りもしてくれているんだ。嬉しいよ、ありがとう」

「ま、雅也さんこそ素敵です!とても格好いいです!!」

「ありがとう・・・ああそうだ、私もこの会場に入る為にコサージュを義務付けられていてね。色は黄色、青色、赤色以外なら何でも良いと言われたから、これにしてみたんだ」


 そう言って高円寺は自分の胸元に視線を向けたので、私もその視線を追ってその胸元を見た。

 するとそこには、濃い紫色の芍薬のコサージュが付いていたのだ。


「濃い紫色ですか・・・その服にとてもお似合いですね」

「ありがとう。だけど、詩音の胸元でもきっと似合うよ」

「え?」

「と言う事で詩音、私のコサージュと君のコサージュを交換してくれないか?」

「あ・・・はい。勿論良いですよ」


 やはり高円寺と交換出来るのが一番嬉しかった私は、はにかんだ笑みを浮かべ返事を返した。

 そうして私と高円寺は、お互いの胸元からコサージュを外したので、私は赤いダリアのコサージュを高円寺に差し出そうとしたのだが、何故か高円寺はそれを受け取ってくれなかったのだ。


「雅也さん?」

「詩音、それを私の胸元に付けてくれないか?」

「え?ああ良いですよ」


 高円寺のその申し出に私は何も疑問に思わず了承の返事を返し、少し身を屈めてくれた高円寺の胸元に慎重に付けた。


「ありがとう。それじゃ今度は、私が詩音に付けてあげるね」

「え?いや、自分で付けますよ?」

「良いから良いから、ほらじっとしてて」

「・・・・・はい」


 そうして高円寺に、紫色の芍薬のコサージュを付けて貰う事になってしまったのだが、正直落ち着かなかったのである。


・・・なんだかこれ・・・まるで・・・。


「まるで、結婚式の指輪の交換みたいだね」

「!!!」


 私が今まさに思った事を高円寺が嬉しそうに言ったので、私は驚きに目を見張り顔へ一気に熱が集まったのだ。

 そんな私の様子を見て、高円寺は嬉しそうに頬笑みを浮かべた。


「私達、同じ事を思ったみたいだね。それじゃこのまま、次の誓いのキスをしてみようか」

「っっ!!!」


 高円寺は頬笑み浮かべながらそんな事を言ってきたので、私の顔はさらに熱くなってしまう。


「ふふ、冗談だよ。さすがにそれは、本番まで取っておく事にするよ」

「ほ、本番って!?」

「勿論、私達の結婚式だよ」

「・・・っ!!」


 その高円寺の言葉に、一瞬で私の頭の中に高円寺との結婚式の様子が思い浮かび、顔から火が出るんじゃ無いかと思うほど熱くなってしまったのだ。

 そんな私の様子を、高円寺は楽しそうに見つめてきていたのだった。


「・・・相変わらずラブラブだね~」


 するとそんな声が後ろから聞こえ私はすぐに後ろを振り向くと、そこには私と同じ淡い紫色の礼服を着た響が、苦笑を浮かべながら立っていたのだ。


「響!?」

「やあ、響君」

「どうも!・・・正直、すっかり二人の世界になっていたから声掛けづらかったよ。・・・そうだよね?麗香ちゃん」

「え?」

「ええ、全くその通りですわ」


 響の言葉に驚いていると、今度は横から藤之宮の呆れた声が聞こえてきた。

 私はその声に驚き横に顔を向けると、そこには真っ赤なドレスを違和感無く着こなしている藤之宮が、呆れた表情を私達に向けながら腕を組んで立っていたのだ。


「れ、麗香さん!?い、いつからそこに!?」

「随分前からいましたわ」

「そ、そうなの!?」

「ええ、まあ詩音さんは気が付かれていなかったようですけど・・・雅也は多分気が付いていたわよね?」

「さぁ~どうだったかな?」


 藤之宮の冷たい視線に、高円寺はとぼけた様子で笑っていたのだった。

 まさかそんな前から、こんな近くで見られていたと思わなかったので、私は恥ずかしさに穴があったら入りたくなった。

 そうして私と高円寺が藤之宮と話していると、ニコニコとした笑顔を浮かべて響が藤之宮に近付いていったのだ。


「それにしても麗香ちゃん、そのドレス姿凄く似合うね!とても綺麗だよ!!」

「っ!!あ、貴方こそ似合って無くも無いですわよ!」

「ふふ、ありがとう。そうだ!麗香ちゃん、その胸元の黄色い薔薇のコサージュ僕にくれないかな?」

「え?これが欲しいんですの?ただの入場証明の物ですわよ?」

「うん!それ凄く綺麗だから欲しいんだ~!お願い!!」

「・・・そんなに欲しいのでしたら、譲って差し上げてもよろしくてよ」

「わあ!ありがとう!・・・あ、そうなると、今度は麗香ちゃんの胸元が寂しくなるよね?それなら代わりに、僕のこの赤い雛菊のコサージュをあげるよ」

「え?そんな気を使わなくても結構よ?」

「ううん。だって、麗香ちゃんに貰ったこの薔薇を僕の胸元に付けると、この雛菊が今度は余っちゃうからさ」

「・・・まあ、そう言う訳なら貰って差し上げてもよくってよ」

「うん!じゃあよろしく!」


 私の目の前でそんなやり取りが行われ、二人はコサージュを交換して其々の胸元に付けたのだが、私は何の躊躇いも無く胸元にコサージュを付けた藤之宮を複雑な表情で見つめ、そっと私の横に立っている高円寺に小声で話し掛けた。


「ねえ雅也さん、もしかして麗香さんって・・・」

「ああ、多分伝説を知らないんだと思うよ」

「やっぱり・・・だって知ってたら、あんなにあっさり交換するはず無いですもんね」

「そうだね」


 そう小声で高円寺と話していると、響のコサージュを胸元に付け意外と満足そうにしている藤之宮の耳元に、笑顔の響が顔を近付けて何か囁く。

 するとみるみる内に藤之宮の顔が赤く染まり、目を見開いて驚きの表情に変わった。


「そ、その私のコサージュ返しなさい!!」

「え~もう貰ったんだから、僕の物だよ~!」

「な、なら!この貴方のコサージュ返しますわ!!」

「それは麗香ちゃんにあげた物だから、もう僕いらな~い!!」

「ちょっと!お待ちなさい!!」


 響はニコニコと笑いながら会場内に走って行ってしまったので、藤之宮はその響を焦った様子で追い掛けて行ってしまったのだ。


「・・・あれは多分、響が伝説の事教えましたね」

「そうだろうね」


 そうしてその場に残された、私と高円寺は去っていった二人を見つめながら苦笑いを浮かべていたのだった。

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