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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
10/110

勝負の行方

 それからと言うもの、学校が終わってから真っ直ぐ寮に戻り自室で勉強をする日々を過ごしていた。

 教室で勉強をしていると、委員長が心配そうに見てくるのでなるべく学校ではやらない事にしているのだ。

 そして時々廊下で明石とすれ違う事があるのだが、その時明石は鼻で笑いながら「下僕の約束忘れるなよ」と、小さな声で念を押して行くのだった。

 その時のムカつきも糧となり、毎日遅くまで勉強に没頭している。

 ただそう言えば、最近生徒会メンバーが誰も絡んで来なくなったなとふと思ったが、まあ飽きたんだろうと思う事にして気にしないようにした。

 そうして期末試験当日。私は今回だけ手を抜く事を止め本気でテストに挑んだのだ。



────期末試験順位発表当日。


 私は順位表が貼り出された廊下に向かう。

 そこには沢山の生徒が順位表を見上げていた。しかし、何故か前の順位発表よりザワついている事に不思議に思いながらそこに近付いていく。

 すると一部の生徒が私に気付き、驚きの表情のまま私に道を開けてくれた。そしてそれは他の生徒にまで伝染し、何故か私の周りから人が離れていっていまったのだ。


・・・何でだ!?とうとう私学年中から嫌われてしまったのか!?


 そう思い愕然と落ち込みながら、順位表が見える位置まで近付いていった。

 しかしその時私は分かっていなかったのだ。私を遠巻きで見ている生徒の目は、嫌悪ではなく羨望の眼差しだった事に。



 とりあえず落ち込む気持ちを忘れる事にし、順位表を見上げる。



1位 早崎 響

2位 三浦 章太

11位 明石 剛士


 その順位を見てほくそ笑み、私は周りを見回して目的の人物を探す。そして程なくして目的の人物を見付け、私はそちらに近付いていったのだ。

 目的の人物・・・明石は、順位表を見上げたまま驚愕の表情で固まっていた。


「やあ、明石君。『11位』おめでとう」

「っ!!」


 私が嫌味を込めて11位と言う部分を強調しながら声を掛けると、明石は肩をビックと震わせてゆっくりこちらを見てくる。


「早崎・・・」

「結果はハッキリ出たけど・・・約束覚えているよね?」

「・・・・」

「まさかこの結果見てもまだゴネるの?むしろ前より順位を下げた君は何をしてたんだ?多分、僕が前中間ぐらいの順位だった事に余裕かまして、殆ど勉強してなかったんじゃ無いのか?」

「・・・っ!」

「・・・どうやら図星のようだね。そんな事じゃ将来家業継いでも、今回のように足元すくわれてしまうよ?」

「くっ!!」

「まあ今回の事を、君がどう受け止めるかは君次第だから、これ以上僕は何も言わないけどね。でも約束だけはしっかり守ってくれよ」

「・・・そんな約束覚えて無い!」

「・・・・」


 ある意味予想通りの往生際の悪さに小さくため息を吐き、私はしっかりと明石を見据え声を出そうと口を開いたその時。


「俺はその約束覚えているがな」


 突然私の後ろから聞き慣れた低い声で、そんな言葉が発せられたのだった。

 明石は瞠目しながら私の後ろを見ていたので、恐る恐る後ろを振り向く。

 するとそこには案の定、桐林が眼鏡を手で軽く上げながらいつものクールな表情で立っていたのだった。


「君は確か、明石君だったな?」

「は、はい!」


 桐林が声を掛けた事で、明石は緊張しながら上ずった返事をしピシッと姿勢を正す。


「君がこの早崎君と約束する流れになった状況を、俺は一部始終見ていたのだが?」

「「えっ!?」」


 私と明石はその言葉に同時に驚きの声を上げた。そして私はそのまま桐林に詰め寄る。


「き、桐林先輩!あの時何処かにいたんですか!?」

「ああ二階の廊下を歩いている時、丁度明石君達の声が聞こえて来たから、そのまま廊下の窓から君達の様子を伺っていたんだ」

「何でそのまま見てたんですか!僕の代わりに桐林先輩が出てくれれば、話が早かったじゃないんですか!むしろ生徒会なんですからそれぐらいして下さい!」

「いや、さすがに酷くなるようなら出ていくつもりではあったのだが・・・早崎君がどう言う行動をするか興味が湧いたので、そのまま観賞する事にしたのだ」

「観賞って・・・僕は動物園の動物じゃ無いです!」

「動物園の動物・・・くくく・・・面白い事を言うな」

「笑うな!!」


 私が目くじらを立てて桐林を睨むが、桐林は珍しく表情を崩し口元を拳で隠して笑いを堪えていたのだ。


「あ、あの~・・・」

「ああ、明石君すまない。君の事忘れていたよ」

「なっ!」


 私達のやり取りに恐る恐る声を掛けてきた明石だったが、桐林の言葉にショックを受けていた。


「そう言えばまだ話の途中だったな。確か君が早崎君との約束を覚えて無いと言っていたが・・・第三者の俺がその約束を覚えている事で、この約束は有効だと思うのだが?」

「そ、それは・・・」

「まあ、君がそれでもまだ認めないのであれば仕方がない。俺はあの時の事を全て学園側に報告する事にしよう」

「っ!!」

「その場合、君は停学・・・もしくは退学になるかも知れないがな」

「そ、そんな!!」

「さあどうする?俺は別にどちらでも構わないが?」

「・・・・」


 さっきまでの表情から一変し冷たい眼差しで明石に詰め寄る桐林に、明石は顔面蒼白で見上げ絶句している。そんな明石がさすがに可哀想になり、私は桐林の前に出て明石と顔を向かい合わせた。


「明石君・・・約束守ってくれたらもう何もしないからさ」

「・・・っ!」


 そう言って明石を安心させるように笑顔を向ける。すると明石は目を見開き顔を赤らめて固まってしまった。


「・・・え~と、良いかな?」

「は、はい!」


 明石の様子に困惑しながら首を傾げて確認すると、明石は首を縦に勢い良くブンブンと振って頷いてくれる。私は素直に認めてくれた事にホッとし顔を緩めて微笑んだ。


「ありがとう!」

「!!!!」

「・・・明石君?」

「お、俺・・・お前に認めてもらえるよう勉強頑張るから!」

「そ、そう?・・・頑張ってね」

「おう!それじゃ俺、教室戻るから!」


 明石は何故かさらに顔を赤らめた後、真剣な表情で私に詰め寄り宣言してきたので、その勢いに圧倒されつつ応援すると嬉しそうに顔を綻ばせながら教室に帰っていったのだ。

 私は急に変わった明石の態度に、唖然としながらその後ろ姿を見送った。

 すると私の後で忍び笑いが聞こえてくる。振り向くと桐林がまた口元を拳で隠しながら笑いを堪えていた。私はそんな桐林をジロリと睨み付ける。


「・・・何ですか?」

「くく・・・いや、すまない。しかしあれは・・・堕ちたな」


 桐林はよく分からない事を言いながら、明石が去った方を見てニヤリと笑っていたのだった。

 そして何かを思い出したのか、桐林はもう一度私を見てくる。


「そう言えば早崎君・・・君、頭良かったのだな」

「え?」

「普通どれだけ勉強頑張っても、あそこまでの点数は取れないぞ?」


 そう言って桐林は順位表を見上げた。それにつられるように私も順位表を見上げる。


1位 早崎 響 500点

2位 三浦 章太 485点


「・・・・」

「五教科全部満点か・・・」


しまったーーーーー!!本気出し過ぎたーーーーー!!!


 明石がどれだけ頑張ってくるか分からなかった為、本気を出してテストに挑んでしまったのだ。

 私は内心大焦りしながらなんとか言い訳を考える。


「え~と・・・たまたまですよ!たまたま今回ヤマ張った所が全部出たんですよ!」

「・・・ほぉ~それで中間の順位から、一気に満点で1位になるとは大したヤマ勘だな?」

「そ、そうなんですよ~。僕のヤマ勘時々良く当たるんですよ~」

「なら、今度俺の時もそのヤマ勘でテスト範囲教えて欲しいものだな?」

「い、いや~桐林先輩に教えられる程凄く無いですから・・・あ!委員長だ!桐林先輩すみません!ちょっと委員長に用事がありますのでこれで失礼します!」


 段々言い訳が苦しくなりどうしたものかと困っていた時、目の端に委員長の姿が見えたのでこれ幸いと思い、委員長を理由にして桐林に軽く頭を下げてから急いでその場から逃げ出したのだ。



「なるほど。実は運動も出来て勉強も出来るか・・・なかなか興味深い」


 そう言いながら、桐林が何か企むような顔でニヤリと口角を上げていた事など、その場から逃げ出していた私は知る良しも無かったのであった。

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