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それは確かに、此処に在った。  作者: 四季 いろは
1/3

prologue

 目の前に広がる青黒い空。 それに散りばめられたように煌めく、沢山の星々。

 蒼い月が、雲一つない其処から私たちを見下ろし、照らしている。

 少しだけ肌寒いような、しかしそれほど気にならないような、そんな心地よい空気の中。私と私の愛する友は、何を語る訳でもなく、ただただ佇んでいた。


「……」

「……」


 口にしたいことは沢山ある。愚痴りたいことも、怒りたいことも、問い詰めたいことだって、沢山ある。

 恐らく、彼女もそうだろう。


 それでもお互い口にしないのは、きっと。

言葉にしてしまえば、別れはもうすぐそこにあるという事実が、今よりもずっと心に重くのしかかってくると感じているからなのだろう。

 認めても認めなくてもどうせやって来る別れなら、それを認めたくないと、お互いが思っているのだろう。


 話したくない。けれど、何か話さなければと思う。

 話したい。けれど、何も話さなくたっていいじゃないかと思う。

 自分でも良く分からない。迷っているのだろう。

どうするべきか分からないから、ただ此処に佇んで、月を見上げて、そしてまた思案する。


 --…ああ、もどかしい。


 ただただ月を見上げ、迷い、思案するというのは手持ち無沙汰すぎる。

 それを誤魔化すかのように零れかけた言葉は、鼻腔を擽る甘い香りによって遮られた。

 私には少し甘ったるく感じるほどの、しかし嫌いでもないこの匂いは、彼女の好きな月下美人のものだろう。

 こんなところにも月下美人があったのだなぁ、と思いつつ彼女の様子を窺う。


「月下美人だ!こんなところにも咲いているんだね。」


 嬉しそうに微笑み、私に話しかけてくる彼女。その表情は驚く程穏やかで、むしろ私の方が険しい表情をしているのではないかとさえ思われた。

 彼女の方が余程辛いのだろうと分かっていたし、気丈に振舞う彼女のその気持ちを無駄にする訳にはいかないと、私も彼女に笑顔を向けることにした。


「そうだな。何度見ても、やはり美しい花だ。」


 白く大きく、臆することなく咲くその姿は、美しいとしか形容できない。

 少なくとも私はそう思うし、彼女もそう言っていた。


「うん。……なんだか懐かしいね。わたしたちが出会った時も月下美人が咲いてた。」

「言われてみれば、そうだな。お前が良からぬ奴らに追い回されていたのを私たちが助けたのがきっかけだったか。」


 彼女の言葉を受け、出会った頃の事を思い出す。


 ……ああ、そうだ。

 折角の機会だし、別れの前の語り合いには丁度良い。


「「--……昔話を、しようか。」」


 重なった声に微笑みあい、空を見上げた。

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