第四十四章 同居生活十二日目 『観測者』拠点・2
今回もよろしくお願いします。
「はあぁぁっ!」
ガキィンッ!と金属音が響いて、フィリエスが持っていた剣が宙を待った。
「成長したねぇ、少年。」
そう言いながらフィリエスは俺の頭を撫でてきた。
「私に勝てるようになるとは、大したもんさね。」
そんな風にフィリエスは続けて言う。実際、自分でもよく勝てたものだと思う。そう思うくらいにフィリエスは強かった。
「ご主人様~!やりましたね!」
そんな風に言いながら、コロンが後ろから抱き着いてきた。
「ああ、やっと勝てたよ。」
そう言いながら俺はコロンの頭を撫でる。メアもコロンの後ろから
「………雄我、すごい。」
と褒めてくれた。
「ありがとな、二人とも。」
コロンとメアに礼を言う。
「さぁ、少年、後は決戦のときを待つだけさね。」
そんな俺たちの様子を見ながら、フィリエスが言ってくる。
「君がこれから戦う相手は本当に強大さね。当然、私の何倍も強い相手だ。」
真剣な顔でフィリエスが続ける。
「だが、私に勝つまで成長した君だ。戦う相手が代わっても基礎をしっかり押さえていれば、戦えないことはないさね。だから…。」
そう言いながらフィリエスは俺の背中を鼓舞するように叩いて
「しっかりやっておいでよ、少年。」
そう言った。
「ああ、もちろんだ。本当にありがとう。」
そう言って俺はフィリエスに頭を下げる。
「ははっ、よしておくれよ。私たちが君たちに力を貸すのは当然のことなんだからね。」
フィリエスはそう言ってくれた。
「さて、魔法使いちゃんと巫女ちゃんも到着したようだよ?」
そう言ったフィリエスが俺たちの後ろに目線を送る。見れば、そこにはリルと凛の姿があった。
「あ!リル~!凛~!」
二人を見たコロンが駆け寄っていく。
「…雄我、行こ?」
そう言ってメアが俺の服の袖を引っ張ってくる。
「そうだな。」
メアに引っ張られるように俺はリルと凛の元に歩み寄った。
「久しぶり…かしらね?」
リルが俺にそう声をかけてくる。
「ああ、そうだな。そっちはうまくいったか?」
俺がそう聞くとリルは得意げに先端に琥珀の球がついた杖を見せてきた。
「ばっちりに決まってるでしょう?雄我こそどうなのよ?」
「少年もうまくやったさね。」
俺たちの後ろからついてきたフィリエスがリルに答える。
「もう、私は雄我に聞いたのに…。」
そう言いながらリルは頬を膨らませた。
「はは、俺もちゃんと成長できたよ。」
俺はそう言いながらリルの頭を撫でる。リルは嬉しそうに笑ってくれた。
「…凛は、どうなの?」
珍しくメアが自分から凛に声をかけた。
「私も、戦うための力を手に入れることができました。メアはどうですか?」
「うん、私も、ばっちり。」
メアは普段あまり自分から喋ることがないからこういう様子を見ると安心する。
「ふふ、コロン、あなたはどうなのかしら?」
「私だってちゃんと訓練しました!」
リルの質問に対してコロンは胸を張って答える。
実際、コロンとメアは俺が訓練している間に俺よりも多くの訓練を積んでいた。二人とも強くなっているのは見ていた俺が保障できる。
「さて、じゃあ全員が揃ったところで、気合を入れるために食事でもどうだい?腹が減っては戦はできぬってね。」
フィリエスがそう提案してきた。俺たちはフィリエスの意見に賛成して、食事をすることにした。
「まだ決戦までには時間があるさね。それまでに済ませておきたいことがあったら、ちゃんとやっておくことをおすすめするよ。」
「本当、『観測者』は何でもありなのね?」
そんな風に言うフィリエスにリルが茶々を入れる。
「はは、都合が良いに越したことはないさね。そうだ、少年。呪槍・黒竜を少しの間貸してくれるかい?」
「ああ、構わないが、どうしてだ?」
「少しそいつに話があるのさ。」
「わかった。いいよな、黒竜。」
『いいだろう。』
俺は黒竜の返事を確認して、フィリエスに呪槍・黒竜を渡した。
「ねぇ、雄我。」
フィリエスに黒竜を渡した俺にリルが声をかけてくる。
「ん、どうした?」
「二人きりで話したいことがあるんだけど、いいかしら?」
「ああ、わかった。コロン、凛、メア、悪いんだけど先に行っててくれるか?」
「わかりました!食事の用意をして待ってますね!」
コロンが俺にそう返し、俺とリル以外のみんなは『観測者』の施設の中の食事ができる場所に向かった。
「それで?話っていうのは?」
コロンたちを見送りつつ、俺はリルに訪ねる。
「話っていうのは、これのこと。」
リルは回収してきたという杖を俺に見せてきた。
「これがどうかしたのか?」
「この杖、まだ完全状態じゃないのよ。」
俺の質問にリルは答える。
「この杖の力はまだ覚醒状態じゃないの。私が持ってるこのネックレスと合わせないとだめなの。」
「ああ、なるほど…。レイスが関わってるんだな?」
俺はリルが持っているネックレスを見ながら考える。かつてリルと愛し合っていた、彼のことを。
『リルを、よろしく頼む。』
彼の魂が消えるとき、彼の最期の言葉を思い出す。
「それで?具体的にはどうするんだ?」
「この杖の琥珀の中に、レイスが残してくれたネックレスの琥珀を融合させるの。彼の魔力が、この魔術の鍵なのよ。」
「そうなのか…。それで?どうしてそれを俺に言うんだ?」
「…。」
俺の問いに対して、リルは黙って俺を見つめてきた。
「はぁ…。貴方って鈍いところあるわよね…。」
リルがそんな風に言う。
「いーい?このネックレスの琥珀はレイスの形見なの。それを使ってまで、私は魔術を解放する。でも、不安なのよ。わかるでしょう?」
「ああ、そうだな…。」
リルに言われて、俺は気付く。自分の大切な人の形見を融合させる…。つまり、形見は消えるわけではないが、形が変わってしまうのだ。それはやっぱり、辛いことだと思う。
「いいのか?形見が消えるわけじゃなくても、それは…。」
辛いんじゃないか?と言おうとした俺の口をリルが自分の唇を重ねることでふさいできた。
「ん…。」
俺は言葉を失う。そんな俺にリルは顔を赤くしながら、目を潤ませながら言う。
「その先は、言わないで頂戴…。辛くなるから、気持ちが揺らぐから…。」
「リル…。」
「私は貴方を守る、そう誓ったの。だから、貴方に確認したい。雄我、私のこと、これからも大切にしてくれる?一緒にいてくれるかしら?」
「ああ、当然だ。」
俺はリルにそう答えて、彼女を抱きしめた。
「ふふ、優しいのね。」
そう言いながら、リルが俺を抱きしめ返す。
「ありがとう。大好きよ、雄我。」
そう言いながらリルは俺を離して、自分が持っている杖の先端についた琥珀の球に自分のネックレスの琥珀を近づけていく。
すると、琥珀が光って、溶け合った。
「できたのか?」
俺はその様子を見て、リルに聞く。
「ええ、これで私はこの魔術を使えるわ。」
「そうか。」
俺たちがそんな会話を交わす中、杖の琥珀はとても温かい光を放っていた。
「レイスの魔力は、温もりは、確かにここにある。」
リルは自分に言い聞かせるようにそう言って杖をしまった。
「ふふっ、貴方の黒竜と同じで、必要なときだけ取り出せるの。便利でしょう?」
そして、俺に向かって得意げにそう言ってくる。
「じゃあ、みんなのところに行きましょう?」
「ああ。そうだな。」
そして、リルと俺は施設内に向かって歩き出した。
「…。」
俺はなんとなく、リルの手を握ってみた。
「あら、どうしたの?」
リルは少し驚いたが、俺の手を握り返しながら、そう言ってきた。
「いや、こうしたらお前の不安が和らぐかなって…。」
俺はそう返した。俺も正直どうしてリルの手をとったのかはわからない。ただ、そうしなければならないような気がした。
「ふふっ、やっぱり優しいわね。」
リルはそう言って、嬉しそうに笑ってくれる。
「おかげで、不安も和らいできたわ。ありがとう、雄我。」
「ああ。」
そして、俺とリルは手を繋いだまま、歩いていくのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。次回もよければ読んでくれると嬉しいです。




