第三章 同居生活二日目
かなり久々の投稿となってしまいました。今回もよろしくお願いします。
目が覚める。カーテンはすでに開いていて、窓から太陽の光が差し込んでいた。時計を見ると時刻は午前8時を少し過ぎている。まぁ、学校に行かずに引きこもっている俺には関係のない話だが。とりあえず朝食をとることにして、俺はリビングに向かった。
リビングに向かうとテーブルの上には昨日と同じサンドウィッチが置いてあった。サンドウィッチが載っている皿の隣に書置きがあり、そこには
『買い物に行ってきますね、ご主人様。』
ふむ。ちょっと考えてみる。コロンは俺の家に来てから街に出たことがあっただろうか?いや、ずっと家にいたよな…。
少し心配になった俺はコロンが使っている部屋に行き、ノックをする。返事はなかった。
「本当に一人で買い物に行ったのか?」
本当に大丈夫だろうか。コロンはなんとなく道に迷っていそうなイメージがある。
「はぁ…。世話の焼けるメイドだな。」
俺はそうぼやきつつ、コロンを探しに行くことにした。そんなことをするまでもないのかもしれないが、それでも今は、なんとなく探しに行くべきだと思ったのだ。
一週間ぶりに家から出る。今日は平日だからこの時間帯に同級生に会うなんてことはないだろう。とりあえず俺はいつも買い物をしている商店街に向かうことにした。
平日の商店街はタイムセールに走るオバチャン達であふれていた。ここの商店街は中々活気がある。俺も昔からこの商店街の人たちにはよくしてもらったものだ。
「こんなに混んでちゃ、コロンがいても見つからないかもな…。」
少し考えなさすぎだったかもしれない。よく考えればコロンは俺の家の鍵を持っていないし、もし入れ違いになっていたら困っているだろう。
「ここはいったん帰るかな…。」
そう独り言を言いつつ、俺は家に帰ることにして、家に向かって歩き出した。
その瞬間、見覚えのあるメイド服が視界の端に映った。俺は足を止める。気のせいかとも思ったが、そんな筈はないとなぜか確信できた。
「あっちって裏路地だよな?危ないだろ…っ!」
俺はコロンが入って行った道に向かって駆け出した。裏路地は不良やヤクザのたまり場だ。コロンのような女の子が行くには危険すぎる。
案の定というか、予想通りというか、コロンは不良に絡まれてしまっていた。
「お嬢ちゃん可愛いね~。ちょっと俺らと遊んで行かない?」
「えっ?あの、困ります。私買い物に行かないとなので…。」
不良を絵にかいたような絡み方だ。そりゃ不良だし、仕方ないか。とにかく俺はコロンと不良の間に割って入った。
「すいません、この子は俺の連れなんです。ちょっとはぐれてしまって…。」
そう不良たちに切り出す。さり気なくコロンに黙っているよう目配せをする。
「あぁん?なんだてめぇは…?」
本当に絵にかいたような不良だな。対応がまさにそれである。俺はそんなことを顔に出さずに、
「すいません。失礼しますね。」
そう言ってコロンの手を取り、戻ろうとする。だが不良は回り込んできた。
「待てや。俺らはお前みたいな男に用はねぇんだよ。目ぇ付けた子を連れてごうとしてんじゃねぇよ。」
そういいながら不良に腕をつかまれて突き飛ばされてしまった。
「ご主人様!」
コロンが駆け寄ってこようとするが、不良たちに腕をつかまれてしまう。
「離してください!」
コロンが悲鳴を上げる。すると、不良たちは笑い出した。
「ギャハハ、聞いたか?この子今あいつの事を『ご主人様』って呼んだぞ?どんなプレイだよ、しかもよく見たらこの子メイド服じゃねぇか。こりゃ傑作だな。ギャハハハ!」
周りにいる不良たちも合わせて笑い出した。コロンは顔を赤くしてうつむいてしまう。
「んじゃま、俺らの事をご主人様って呼べるようにしてやるか。行こうぜ。」
そう言って不良たちはコロンを連れて行こうとする。コロンはもう抵抗しようとしない。完全にうつむいてしまっている。さっきの不良たちの言葉に傷ついてしまったのだろう。
俺の中にものすごい怒りが込み上げてくる。俺を突き飛ばしたことは許してもいい。だが、コロンを傷つけたことは許せない。
「今自覚したよ。俺はコロンの事がやっぱり大切なんだな…。すっかり毒されちゃったよ。本当、やれやれだよなぁ…。」
俺は不良たちに聞こえないような声でそうつぶやく。立ち上がって不良たちに向かって駆け出す。
「お前みたいなやつが俺の大切な子の腕をつかんでんじゃねぇよ!」
そう叫びながらコロンを傷つけた不良たちのリーダーに向かって全力で拳を繰り出した。後ろからの奇襲だったので不良のリーダーは思った以上に吹っ飛んでくれた。
「てめぇ!やりやがったな!」
だがそこまでだった。俺は別に格闘技をしているわけではないし、護身術の心得もない。あっさりと不良に取り囲まれてしまう。不良のリーダーも戻ってきてしまった。
「てめぇ、なかなかいい度胸してんじゃねぇか?あぁん?よくもやってくれたなぁ?オラァ!」
俺は不良のリーダーに蹴り上げられた。強い。伊達にリーダーをやっているわけではないのだろう。自分でも死ぬのではないかというほど吹っ飛ばされた。
「ぐうぅぅ…!」
思わずうめき声を漏らす。まずいな。本当に殺されてしまうんじゃないだろうか?そう思って不良たちを見ると、どこから出したのか全員が鉄パイプのようなものを持っていた。
不良たちの後ろにはコロンがいる。コロンは泣きそうな顔でこちらを見ていた。俺は目ではっきりと伝える。
『俺の事はいいから逃げろ。』
だがコロンは首を振る。俺はコロンをきつく睨む。
『さっさといけ!逃げろ!』
コロンはそれでも首を振り、あろうことかこちらに駈け出してきた。
不良たちも突然のことに対応できなかったようで、コロンは俺のもとに駆け寄ってきた。しかも彼女は目に涙をためていた。
「なんで逃げないんだよ!バカなのか?今なら逃げられたのに!」
「だって!ご主人様が傷ついてるんですよ!それなのに逃げることなんてできるわけないじゃないですか!私がご主人様の事をどれだけ大切にしてるか、わかってますか!?」
コロンは俺より大きな声でそう叫んでくる。
「でもなぁ…だからって突っ込んでくることはないだろ…。」
俺はせめて意地を張ろうと立ち上がる。勝ち目なんてない。でも、俺の大切な女の子が目に涙を浮かべて駆け寄ってきてくれた。今までコロンの事をここまで大切だなんて思ったことはなかった。だって俺にコロンを愛することなんてできないと思っていたから。
それでも…、なんていうか、コロンが傷つけられた時に俺は確かに怒りを感じた。その瞬間にコロンが今まで俺を愛そうとしてくれたことが頭の中にハッキリと浮かんできた。
こんな俺を、こんなバカな俺を愛そうと、いや、確かに愛してくれた。そんな女の子が俺のために泣いてくれている。ここまでされたらもう、この子のために立ち上がるしかないじゃないか。
「コロン、お前は逃げろよ。俺もすぐ後を追うからさ。心配すんなよ。だって俺は…お前が愛してくれたただ一人の男だろ?」
コロンは俺の言葉にうなずく。でも彼女はその場から逃げようとしない。そして何か強い決意をしたような顔をして俺のそばに来る。
「ご主人様、私決めました。もう逃げるのはやめます。本当はもっとしつこく言おうと思ったけど、あえてやめていたんです。ご主人様に嫌われてしまうんじゃないかって、そう思ったから。でも、今だからもう一度言います。私と契約してください。私にご主人様の事を守らせてください。もっと愛させてください。だってあなたは私の…たった一人のご主人様だから…!」
「そっか…うん。いいよ。契約しようか。もう最後かもしれないからね。」
俺は微笑む。こんな状況なのについ口元が緩んでしまう。コロンが愛しくて愛しくて、自分のためにここまで言ってくれるのがものすごくうれしいから。
「最後になんてさせませんよ。絶対助けて見せます。だから、ご主人様。私とキスしてください。それで契約が成立します。契約をしたら、私たちはもう二度と離れることができません。それでもいいなら、そこまで私の事を愛してくれるなら、さあ、契約を。」
コロンは俺に向かって目を閉じる。
「もちろんいいよ。俺は君の事が、コロンの事が大好きだから。愛してるよ、コロン。」
俺はコロンの唇に自分の唇をそっと重ねる。すると、利き手の甲が熱くなって、少し痛みが走ったような気がした。
そこで俺とコロンを唖然と見ていた不良たちが我に返った。
「なにしてんだ!やっちまえ!」
不良たちが駆け出してくる。俺はコロンを背に隠そうとする。だがコロンは俺の前に出て
「よくもご主人様を傷つけてくれましたね。絶対に許さないです。もう謝っても許しません。ご主人様を傷つけた事、後悔してもらいます。」
彼女は空をつかむ動作をする。すると、何もないはずの空間からモップが出現し、コロンの手に収まっていた。
「そんなもんで受け止められるかよっ!オラァ!」
不良が鉄パイプをコロンに向かって振り下ろす。さすがに間に合わない。俺は目を覆ってしまう。
だが、コロンが殴られたような音はしなかった。代わりに鉄パイプが落ちた音がした。見ると、不良の手にしていた鉄パイプが真っ二つになっていて、その片方が地面に落ちたようだった。コロンを見ると、彼女が手にしていたモップはブラシの部分が外れて、刃がでていた。あれは、薙刀のようだ。
「そんな鉄パイプ、切ることなんて容易いです。次はあなたを切ればいいんですか?」
「ひっ、ひいぃ!」
不良はそんな素っ頓狂な悲鳴を上げて逃げ出す。ほかの不良たちもすでに逃げ出していた。
「逃がすと思ってるんですか!」
コロンが叫んだ次の瞬間、不良たちのが止まる。
彼らの目の前の地面にはコロンが握っていた薙刀の刃が突き刺さっていた。
「絶対許さないって言ったはずです。ご主人様が味わった痛みをあなた達にも味わってもらいますから…。」
そう言ったコロンの手には薙刀の柄に仕込まれていたと思われる刀が握られていた。
そしてコロンは不良たちに近づいていく。まさかとは思うが、あの刀で不良たちを切るつもりだろうか?不良たちはすっかり怯えて、腰を抜かして座り込んでしまっていた。
俺は当然コロンを止めることにする。コロンを後ろから抱きしめる。
「コロン、もういいよ。こんな奴らのためにコロンが手を汚すなんて間違ってるから。俺は大丈夫だからさ。な?」
「でも、それじゃ私の気が収まりません!止めないでください!」
コロンは俺を振りほどこうとする。でも、ここでコロンを離すわけにはいかない。あんな奴らのためにコロンに手を汚させるわけにはいかないから。
「もういいよ。早く家に帰ろう?お腹もすいてきたし、コロンの料理が食
べたいな。」
「………わかりました。ご主人様がそこまで言うなら、帰りましょう。」
そしてコロンは不良たちに向かって言う。
「今度ご主人様に何かしたときは見逃しません。もう関わらないでくださいね。」
不良たちは首を縦にブンブンと振ってうなずいた。
するとコロンの手から刀が消え、地面に刺さっていた薙刀も消える。
「それじゃ、帰りましょ。ご主人様♪」
そして彼女はいつものように俺に優しい笑顔を向けながら手を握ってくる。
「そうだね、早く帰ろうか。」
◇◆◇◆◇
そして俺たちは家に帰ってきた。今日は本当に疲れた。コロンに聞きたいことはたくさんある。でもそれは後の話にしよう。時間はいくらでもあるんだ。これから、彼女と過ごす時間はたくさんある。
そしてなにより、今は彼女と幸せな時間を過ごしたい。
「じゃあ、私ご飯の用意をしてきますね!」
そう言ってコロンはキッチンに向かった。
俺はただ、楽しそうに料理をする女の子を…俺の事を愛してくれた、そして俺にとって大切なコロンの姿を見つめながら料理が出来上がるのを待つのだった。
今回はかなり長くなってしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございました。