第二十一章 同居生活六日目 昼(二)
今回もよろしくお願いします。
「さて、君たちを地上に帰すわけには行かない。だから、命令だ。大人しく拘束されたまえ。それが最善だよ。」
「それはできない。俺たちは地上に…我が家に帰るんだ!」
「そうか…。ならば仕方あるまい。ここで終わりだ。」
「コロン、リル!突破するぞ!」
「はい!行きましょう!」
「言われなくても、そうするわよ。早く帰りましょう。」
コロンとリルが構える。神王は平然と佇んでいる。
「行くわよ、空を駆ける弾丸!」
リルの背後に魔法陣が広がり、そこから無数の空気の弾丸が神王へと放たれる。
「無駄だということを教えてやろう。」
神王はそう言いながらただ腕を振るった。
その瞬間、リルの魔法陣と、無数の空気の弾丸が消え去った。
「なっ!嘘でしょう!認識できなければ意味薙は使えないはずじゃ…。」
「我は神だぞ?認識できないものなど、あるはずがないだろう?」
神王は動かない。まるで動く必要などないかと言うように、リルの攻撃を一瞬にして無効化した。
「なら、私が!疾風連突!」
コロンの鞭が神王に襲い掛かる。
「それも無駄だよ。」
神王はコロンの鞭を持っている手元を睨みつけた。
「えっ!きゃあっ!」
見ると、コロンの手から鞭が消え去り、コロンは吹き飛ばされた。
「無駄な抵抗だというのに…。もういい、ひれ伏していろ。」
そう言って神王が俺たちに向かって腕を振るった。
「がっ…!」
おもわずうめき声が漏れる。俺たちはその瞬間、地面に叩き付けられた…正確には立っていられなくなった。
「君たちの『立っている』という意味を無効化しただけだ。そう簡単には起き上がれまい。」
「うっ…くそっ!なんで立ち上がれないんだ…。」
神王の言葉を聞きつつ俺は腕を地面に立てて、なんとか起き上がろうとする。だが、体が立ち上がらない。これが神王の力だとでもいうのだろうか。
「さて、どうしてくれようかな。最早、この世に存在しているという意味を無効化して消し去ってしまってもよいのだが…。」
「う…やめろっ…。」
俺は必死に声を出す。体が重い。重力で押しつぶされているかのようだ。
「お父様…やめてください…。」
凛が神王に言葉を投げる。その目は涙で濡れていた。その涙を見た瞬間、俺は悔しさと怒りを覚えると共に苦しくなる。俺がリルに捕まって戻ってきたときコロンが流した涙、レイスが消えてリルが流した涙…。その記憶がよみがえり、俺の心を締め付ける…。
『俺は…なにもできないのか…。』
心の中でそう声を漏らしながら、俯く。俺には何の力もないのだ。コロンを愛したい、リルを守りたい、凛を助けたい。なのに…俺には…何の力もないのだ…。
もう、終わりなのだろうか…。もう、コロンやリルと暖かい日常を過ごすことはできないのだろうか…。
「さて、もう意味がない。さっさと消えてもらうとしようか。所詮君たちでは我を突破することはできないのだよ。」
神王がそう言い放ち、俺たちに向かって腕を振るおうとする。
ここまでか…。俺はただ、目を閉じる。何もできずにここで消されてしまうのだろう…。
「コロン…リル…凛…ごめんな…。」
俺はただそう言葉を漏らした。そうすることしかできない。
「さよならだ。意味なき人々よ。」
神王が腕を振るう。だが、その動きが突然止まった。
「なっ…!」
神王が驚きの声を漏らした。俺は神王の方を見る。
カツン…カツン…。
高い音が響く。神王の目の前に赤い髪の背の高い女性が立っていた。
「貴様…どこから現れたっ…!」
「フフ…不意を突かれて驚いているのね?いいわ。そのまま止まっていなさい。彼らを消されては困るのよ。」
女性は神王にそう言い放ち、俺たちの方に歩いてきた。
カツン…カツン…。
彼女の履いているハイヒールが高い音を立てる。そして女性は俺の前に立った。
「さっさと立ち上がりなさいな坊や。それとも、もう立つことさえできないのかい?」
女性は俺にそう言う。俺は脚に力を入れる。体が起き上がり、立ち上がることができた。
「いい子だねぇ。アタシはね、誰かを守ろうと頑張る人間が大好きなんだよ。いや、それは建前か…。まぁいいのさ。」
「あの…あなたは…?」
「アタシ?アタシはただの通りすがりのお姉さんさ。そこの二人とはすでに面識があるよ。ねぇ、お二人さん?」
そう言いながら女性はコロンとリルのほうを見る。二人も立ち上がり、女性と向き合った。
「えっと…貴方は…私たちを天界に送ってくれた…。」
「みなまで言わなくていいさね。それより、地上に戻りたいんだろう?もちろん、アタシがまた送ってもいいんだが…。四人となるとちときついのさね。だからここは君、それとそこの子。二人でそこの神王を打ち負かしたまえよ。」
そう言いながら女性は俺と凛を指差した。
「え…俺?」
「私…ですか?」
俺と凛が女性に向かって聞き返す。
「そう、あんたらだよ。まぁ君…えっと…。」
「雄我だ。浜崎雄我。」
「ああ、雄我君か。君には私が力をあげよう。彼女たちを守れる力、共に戦える力が欲しいだろう?」
「もちろんだ。俺は三人を守りたい。」
「よく言った。そういう男は好きだよ。君はどうかな?」
「私は…戦うなんて…。」
「甘えるんじゃねぇよ、やれや。」
凛が言いよどむと、女性の口調が変わる。いきなりすぎて怖い。
「あっ…はい。私にできることなら…。」
「いいだろう。君には意味薙がある。そこの神王と同等の力だ。そうだろう?」
「は、はい…。そうですけど…。」
「なら戸惑うな、遠慮するな。自分の全力を出すのは案外気持ちのいいものだよ。」
そう言いながら、女性は凛の頭を撫でる。
「さて、雄我君、この槍にを君に託そう。」
そして、俺に向き直った女性の手には闇を纏った槍が握られていた。
「あれ…どこかで見たような…。」
「あら、覚えてた?弟がごめんなさいね。少し甘やかしすぎたわ。こんないいものを持たせたのに、使いこなせないんですもの。」
弟…?
「ってええええええええええええ!」
俺は叫んでしまう。純粋に驚いた。あの中二病患者のお姉さんだったのか・・・。
「驚いたかい?まぁ、今はどうでもいいことさ。さて、雄我君。この槍は呪槍・黒竜。この槍は相手の力を無効化…食い潰す事ができる能力を持っている。その力を使うためには代償として自身の精神を食わせなければならない。普通の人間なら触れただけで精神崩壊を起こすさ。」
「そ、そんなに強力な槍なのか…。」
「まぁ聞きたまえ。だが君ならこの槍を使える。君はずいぶん愛されているじゃないか。その愛が君の精神を守ってくれるさね。君なら黒竜に食われることはないだろう。だから、君にこの槍を託したい。どうかな?」
俺はコロンとリルのほうを見る。コロンが俺に注いでくれる愛…。リルからの俺への信頼…。
「わかった。その槍、使わせてもらう!」
俺はコロンとリルを信じる。二人を守るために、そして、凛を守るために…その力、受け取ろうではないか…!
「フフ…ハッハッハッ!いいねぇ、いい目だ!期待しているよ。雄我君。」
彼女は俺に呪槍・黒竜を渡して、消えた。
「雄我、大丈夫なのね?」
三人が俺を見つめてくる。俺はまずリルの頭を撫でながら、決意を込めて
「大丈夫だ。言ったろ?俺がお前を守るってさ。」
「あら、かっこいいこというようになったわね…。ふふっ…嬉しいわ。私はずっと、貴方の傍にいる。私のこと、ちゃんと守って頂戴。」
「おう、任せろ。」
リルは俺に笑顔を見せてくれる。それだけでいい。リルを守る。それが俺の責任だ。
「ご主人様…。」
コロンが不安そうに俺を見つめてくる。俺はコロンの頭を撫でながら
「大丈夫だよ、コロン。俺もお前の力になりたいんだ。」
「でも…精神を食わせるなんて…。」
「心配するなって。お前が俺を愛してくれるなら、それでいい。それだけで、俺は強くなれる。だから、な?」
「うぅ…わかりました…。愛してます、ご主人様…。」
「よしよし、早く帰って、また一緒に寝ような。」
「そっ、そういうことここで言わないでくださいよっ!もうっ!」
コロンは真っ赤になって、そっぽを向いてしまう。可愛い。コロンがいてくれれば、それだけで俺は戦える。そう思えた。
「雄我さん…。」
凛も俺に不安そうな目を向けている。俺はただ、凛の目を真っ直ぐ見つめて、
「大丈夫だ。神王を打ち負かすには、凛、君の力が必要だ。頼めるか?」
「もちろんです…。私でよろしいなら…。」
「ありがとう、もう君を泣かせたりしない。行くぞっ!」
そう言いながら俺は神王に向き直り、呪槍・黒竜を構えた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。次回も読んでくれると嬉しいです。




