第一章 同居生活初日 昼
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「ん…。」
目が覚めた。カーテンは開いていて、窓から太陽の光が差し込んでいる。
「あれ?カーテン開けたっけ?」
おかしい。カーテンを開けた覚えなどない。そういえば昨日変な夢を見ていた気がする。そう、あれは確か…と考え始めようとしたところで自室の扉が開く音がした。
「お目覚めですか、ご主人様っ♪」
扉から覗いてきているのはメイド服を着た、黒い髪をポニーテールにした少女だった。彼女を見たとたん、嫌な記憶がよみがえる。そうだった、彼女は昨日突然現れ、突然俺の事をご主人様と呼び、異世界から来たとか愛して欲しいんだろうだとかと言ってきたメイドだった。考えてみれば彼女との出会いは夢ではなかった。何故なら俺はまず一人暮らしだからだ。両親は俺を生んでから破局してしまい、行方をくらましてしまった。俺は両親の親…言ってしまえば祖母と祖父に育ててもらい、今は彼らからの仕送りで生活できている。だから今家には自分しかいない。カーテンを開けた覚えがないのに開いているのは明らかにこのメイドの仕業だろう。
「契約はしないって言わなかったか?」
メイド…コロンを見て問いかける。
「えっ?契約してくれないんですか!?そんなぁ…」
コロンは本気で落ち込んでしまった。だが当然契約をする気はない。なぜなら俺はコロンを愛することができないからだ。当たり前だろう。なんで出会って間もない女の子を愛し、愛されなければならないのだろう。別に彼女の事が嫌いだとかそういうわけではない。彼女は一般的に見れば可愛いと思うし、普通の男子だったら愛して欲しいかなんて聞かれたら悩まず受け入れるだろう。だが俺はそうはいかない。愛し合うならもっとお互いの事を知ってからがいいし、軽々しく愛してしまうのは無責任だろう。考えすぎと言われるかもしれないが俺はそういう性質なのだ。
「私のどこがダメなんですか…」
コロンはしょんぼりとした様子で聞いてくる。
「どこがダメとかじゃないよ。コロンは十分魅力的だ。俺が君を愛す気がないだけだよ。」
そう返答する。冷たいかもしれないが、変に飾り立てるよりはいいだろう。
「だからもう帰ってもいいよ。俺の家にいる意味もないだろう?」
だがコロンは
「いいえ!愛されなくてもいいのでここに居させてくださいっ!私が絶対ご主人様を振り向かせますから !」
…どうしてそこまで俺にこだわるのだろうか?俺はそこまで魅力的な人間ではないはずだ。
「どうしてそこまで俺にこだわるんだ?」
また問いかける。するとコロンはいきなり頬を赤くしてすこしもじもじしながら
「えっと…ご主人様の事が…好きだから…」
………やはり早く帰ってもらうべきだろう。なんだか毒されてしまいそうな気がする。
「まったく、いいから帰れ。俺はまだ外に出る気もないし、ここにいても何も楽しくないぞ?」
「そんなことないですっ!私はご主人様といたいんですっ!ダメ…ですか?」
どうしようか…。帰ってくれる気配を感じない。だんだん帰らせようとするのも面倒になってきた。仕方ない。ここは妥協してしまおうか…。
「わかったよ。ここにいてもいい。だけど、俺は君と契約する気なんてないからな?そこは覚えておけよ?」
コロンはそれを聞いてぱあっと明るい笑顔になった。本当にうれしいみたいだ。なんとなくこちらも微笑んでしまった。するとコロンは
「やった!ご主人様がやっと笑ってくれました!嬉しいです!私と会ってからずっと笑ってくれなかったから、心配だったんです。」
意外だった。コロンは俺の事をよく見てくれていたようだ。それは素直にうれしかった。
「それで?コロンはどこに住む気なんだ?まさか俺と同居なんてことは…」
「もちろん、ここに住みますよ?ダメですか…?」
…ですよねー。いや、落ち着こう。まぁ当然だ。異世界から来たコロンに宿などあるわけがないだろう。
「いやでも、男と一つ屋根の下だぞ?本当にいいのか?」
普通の女の子なら意識するところだが…
「え?私は構いませんよ?むしろご主人様とずっと一緒にいたいです…。」
頬を染めるな…。心の中でツッコミを入れるが、口には出さない。
「じゃあ、とりあえず、好きな部屋を使っていいよ。ただし、俺の部屋以外な?」
「うぅ…。一緒の部屋にしようとしたのを読まれました…。わかりました。ご主人様がそういうなら仕方ないです…。寂しかったらいつでも来てくださいねっ!」
行くことはないがな。声には出さず心の中でつぶやく。
そのあと、家の中を一通り案内するとちょうどお昼時になっていた。今日の昼食を何にするかを考えてみる。食材は買い込んである。そうでなければ一週間も引きこもれないだろう。サンドイッチで軽く済ませてしまうのが妥当だなと考えをまとめてキッチンに立とうとする。すると、
「あれ?ご主人様お腹がすいてるんですか?確かにお昼時ですからね、私が昼食をご用意します!ご主 人様は待っていてください。すぐに作りますから。」
任せて大丈夫だろうか?いや、コロンも一応メイドだし、問題はないだろう。
「わかった。悪いけど任せるよ。」
そう言って、椅子をひいてテーブルにつく。キッチンのコロンを見ていると彼女はとても嬉しそうに料理をしていた。こうしてみていると本当に好きな男の子のために料理を作っている女の子に見える。その相手が俺でなければ本当に微笑ましいが、もし相手が俺でなければ今の彼女を見ることはできないだろう。
「ご主人様、できましたよ。」
そう言ってコロンはお皿の上に乗ったサンドイッチをトレイで運んでくる。見るとサンドイッチにはハム・チーズ・レタス・トマトが挟まれていた。とてもおいしそうだ。
「いただきます。」
そういってサンドイッチを食べてみる。普通においしい。彼女は料理がしっかりできるメイドのようだ。もしこれが下手だったら笑えないことになっていたが、そんなことにはならなかったのでホッとした。
「おいしいよ。料理がうまいんだな。」
素直に感想を告げる。するとコロンは嬉しそうに
「ご主人様に喜んでいただけてうれしいですっ!よかったぁ…お口に合うか心配だったから…。」
コロンは本当に安心したようだった。そこまで自分に気を使ってくれるのはとてもうれしい。
「ごちそうさま。」
サンドイッチを食べ終わる。するとすばやくコロンガお皿を回収してくれる。そしてそれをキッチンで洗い始めた。
「さて、午後は何をしようかな…。」
そんなことをつぶやきながら俺はなんとなくコロンを見ていた。とりあえず掃除でもしようかなどと考えつつ、俺はコロンがお皿を洗い終わるのを待つことにした。
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