第九章 同居生活五日目 朝(二)
今回もよろしくお願いします。
「ねぇ、どうかしら?私の話を聞いて、体、譲ってくれる気になってくれた?」
彼女はそう言いつつ近づいてくる。まずいな…。このままでは本当に体を奪われてしまうかもしれない。彼女の顔は喜びに満ちている。『彼』に会える瞬間が近づいているからだろう。まぁ、それは俺が体を譲ればの話なのだが…。
もちろん、俺は体を譲る気などない。そして、どうやら来てくれたようだ。
「ご主人様!無事ですか!?」
そう、俺の愛するたった一人のメイド、コロンだ。コロンは俺を見て顔を輝かせる。
「ご主人様!やっと見つけましたよ!大丈夫ですか?」
「ああ、縛られてるだけで、怪我はしてないよ。」
俺はそう答える。
「よかった~!ご主人様に何かあったら…私…うぅ…」
コロンはそれを聞いて目に涙を浮かべてしまう。それがまた愛しくて、俺は少し、笑みが出てしまう。
「今助けますね。待っててください。」
そう言ってコロンは構える。コロンの手には不良たちと戦ったときに使った薙刀が握られている。
「………邪魔をするの?なら、戦うしかないわね。異世界から来たメイドさん…ね。ふふっ…異世界の人と戦うのは初めてよ…。」
彼女はコロンに向き合う。彼女の周りに魔方陣のようなものが展開していく。
「これが、魔法…。」
俺の口から呟きが漏れる。これが魔法というものなのだろうか?コロンも非現実的な存在ではあるが、彼女もまた、非現実的な存在のようだ。
「ふふっ…私の名前はリル。魔法の国から来た魔法使いよ。メイドさん、あなたの名前を教えて頂戴?」
「私はコロン、コロン=アズケイトです。ご主人様は返してもらいます。」
二人が名前を名乗りあう。それはまるで戦場で決闘をする武士のように…。二人のそれぞれの思いをぶつけ合う戦いが始まる。
「行きます!やぁっ!」
コロンは声を上げながらリルに向かって突進し、薙刀を突きの形で繰り出す。
「守護」
そうリルが呟くと、彼女の前に光の壁が現れ、コロンの薙刀を受け止めてしまう。
「っ…。」
コロンは後ろに大きく跳ぶ。
「あら、魔法使いから距離を取るのはミスよ?近接のほうが有利だったと思うんだけどなぁ…?」
リルはそれを見て不敵に笑う。まずいな。俺はそう思って、
「コロン!リルと距離を詰めろ!」
そう叫んだ。だがもうすでに遅かった。リルの魔方陣は大きく広がってしまっている。そして彼女は口を開く。
「風圧」
彼女がそう呟くと、コロンに向かって風の柱が降り注ぐ。
俺は思わず目を閉じてしまった。
「ふぅん?」
だが、リルの声を聞いて目を開ける。コロンは風の柱をかわすことができたようだ。
「すごい横っ飛びだねぇ…でも、力技じゃあかわしきれないよ?」
なるほど。コロンはどうやら無理やり横方向に向かって跳ぶことで、風の柱をかわしたようだ。だが、体に負担がかかってしまったのか、体制が崩れている。
「うぅ…。」
コロンはそう声を漏らしつつも、薙刀を構えてリルに突進する。今度は迷うことなく連続で突きを繰り出す。残像が見えるような速さの突き。だが、
「守護」
リルがそう呟くだけで光の壁によってコロンの攻撃は防がれる。
「だめね。近接武器と魔法じゃ話にならないわ…。これで終わりかもね?」
リルは余裕の表情で次の魔法を発動しようとする…。俺は縛られていて身動きが取れない。コロンを庇ってやりたいのに、盾になってあげることさえできない。そんな自分の無力さを身に受けながら、それでも俺は二人の戦いを見続ける。
「交差・氷炎槍」
そうリルが呟くと、彼女の左右に展開した魔方陣から氷と炎が出現し、互いに絡み合った槍となってコロンに襲い掛かる。
「コロン!」
俺は思わず叫んでいた。だが、俺の手はコロンに届かない…。
「…状態変化」
そう、コロンは呟いた。すると、コロンの手に握られていた薙刀が光となって消え、代わりにコロンの目の前に分厚い壁が出現した。
「なっ…そんなっ!」
リルの動揺する声が聞こえる。コロンの目の前に出現した壁がリルの繰り出した氷と炎を槍を防ぎきったからだ。
「状態・双刀」
コロンがそう呟くとコロンの目の前の壁が薙刀と同じように光となって消え、コロンの両手に刀が出現している。
「これって…魔法…なのか?」
俺は思わず、声を漏らしてしまう。
「私は、この魔法あんまり使いたくないんですけどね…」
コロンは俺の声に答える。
「変わった魔法、ね…。あなたの世界にしかない魔法なんでしょうね…?興味があるわ…もっと見せて頂戴!」
リルはどうやら、コロンの魔法に興味を抱いたようだ。
リルの周りの魔方陣がより大きなものになる。
「行くわよ…。」
リルはそう言って魔法を叫ぶ…。
最後まで読んでいただきありがとうございました。次回も読んでいただけたら嬉しいです。




