第七話 明かされる過去! 怪物蜘蛛の謎多き生涯!(前編)
柳沢との対決から一夜明けた。洞窟の解体を行った後に近所の24時間営業の喫茶店で朝までコーヒー一杯で過ごした、蜘蛛はコーヒーで酔うらしいが俺は酔わないらしい。家が崩れてしまったので、喫茶店で過ごすしかなかった。しかしこう云う場合って何すりゃいいんだろうか?家主に連絡する気は無いし親類も居ないので連絡する人はいない。
勿論蜘蛛の力を使えば瓦礫を片付けるのはわけないが、目立つ気は無い。まぁ役所が何とかするだろう、どうせ死人は居ないんだから焦る事も無い。
学校に行く途中に、道すがら吉良先輩に会ってしまった。未だ8時だというのに、真面目な不良だ。
「珍しいな、こんな時間に会うなんて」
「こっちのセリフですよ。こんなに早く行って何するんですか?まさかお勉強ですか?」
ハッはと笑う。吉良は暴力的だが理不尽な男ではない。突然理由も無く殴りかかってくる事は無い。気に入らない顔をした男の顔面を陥没させた事は有るが、俺には関係ない話だ。
「早く行けばシャワー使えるからな、いつもはホモ共が多くて使えないからな」
「なるほど吉良さんでもホモは怖いんですね」
「病気が怖いんだ、金掛かるからな」
なるほど合理的な人だ。シャワーか、悪くないな。
「御一緒していいですか、いえ、同じシャワーは使いませんよ」
「そんな事したら殺すぞ。そういや例の女どうだ?」
「未だ何も、何せ毎回一限で居なくなるので無理ですね。女教師の方はお堅いので生徒とは付き合わないかもしれませんね」
俺は付き合いたいが無理かもしれない。
「そっか、まぁ早めに頼むぜ。気の短い奴が女浚うような事になると困るだろ?」
この男はそこまではやらないと思うが、他の連中はやりかねないな。
「誰かが狙ってるんですか?」
「イデア使いを浚おうとするバカなんて限られるだろ?当ててみな」
「うちは馬鹿しかいないと思いますがね。ん~グラビィティーノこと重野ですか」
「違う、もっとバカだ」
学食に配達された食料を100人分平らげる奴よりバカか、流石にそれ以下は中々いない。
「馬場は…入院してましたか。もしかしてトリオですか?」
「正解。連中は此処でも指折りのバカだからな。此処で留年するくらいなら刑務所入ったほうが未だましだ、今度婦女暴行で入るかもな」
確かに、しかしダブりトリオか、1年屈指のバカである成人高校生達が相手なら、友達の少ないペリーでも勝てるかもな。
「おい廻、今日はえらく早いな。お前の家が潰れたからか?良かったな~保険金が降りるぞ」
シャワーを浴びた後に教室に来たら大石と仲間達が居た。俺とは馬の合わない連中だ。別に復讐する相手では無いが、話したい相手でも無い。
「家が潰れたのは確かだが、保険なんて掛けてないな。どうせ持ち家でもないしな」
「へっ、お前の最初で最後の家が潰れたのに平気な顔だな。失うものが無い奴ってのは怖いねぇ」
こいつは典型的な自分より下を見下す中流だ。此処に来たのは何かの間違いだとよく仲間達に語っているようだ。仲間の方はこいつを財布だと思って居るようだが、それも又友情だ。
その仲間達が焦った顔をしている。俺のことは、何考えてるのか分からないからいきなり刺してきそうな男だと思う連中も居るらしい。流石にそんな奇襲をしたのはこれまでの人生で2回だけだ。
「今日はえらく突っかかってくるな、ペリーの方か?それとも教師の方か?」
こいつとは合わないが、口喧嘩するほどの相手でも無い。どうせ女の事だろう。
「もちろんぺリーちゃんだ。お前仲いいな?」
「アドレスも知らないぞ、それに金髪は好きじゃない」
「本当か?証拠を見せろ」
「ふむ、証拠か。俺のクォクには働く女性の色んな映像・画像が入っているが金髪は1人も居ない」
「見せろ、いや見せてくれ頼む!」
嫌だ、大体高校生の見て良い映像ではない。大石も基本的にバカの1人だ、男子高校生なんて皆そうだ。馬は合わないが同期の桜にそんな奴が1人居ても良い。
同期の紅一点が入ってきた。皆早いな、HRまで後30分くらいあるぞ?それまで何する気なんだ?
「おはよう、アリー君。外すごいねー何があったんだろ?」
知らない振りか、まぁフルチンのおっさんが暴れたなんて言うわけにもいかないが。
「おはようペリー。大石とお前の話をしていたところだ。言ってやれ大石」
「え、えっとおおはようマシューさん」
口の割りに女が苦手な奴だ、まぁ此処は皆そんなもんだ。お陰で非童貞自慢をする奴が週に一度のペースで発生して、自分のモテっぷりをフィクションを交えて話すが、何処まで本当なのかを考えるのが楽しい娯楽だ。
「おはようございます大石さん、そっちの方達は…」
名前覚えてもらって無いらしい。それでも取り巻きは嬉しそうな顔だ、美少女と話せるのが嬉しいのだろう。しかし今日も来たのか、天上の授業に着いていけなくなるぞ。
ペリーが入ってきた後から、結構な数が教室に入ってくる。お前等何時からそんなに真面目になったんだ?ペリーはちょっとした女王だな。
「席貸してくれよ有馬田谷」
1年5組第一のイケメンであり、校内ホモ人気ランキング第三位の男に言われては貸さざるを得ない。何時も貞操の心配をしている男だから、偶には女と話していい目を見たいだろう。
さて外の空気でも吸ってくるか、時間はあまり無いがトレーニングルームにでも行くかな。
「あれ、アリー君は?」
「飲み物買って来てくれるんだってさ、本当あいつ昔からいい奴なんだよ。俺とは中学の時から一緒でさぁ」
買って来ないぞ、勝手に冷蔵庫から開けて飲め。
「そうなんだ。アリー君ってどんな中学生だったの?ずっとああなの?」
どういう意味だ。
「ははっそうだねぇじゃあ何から話っそか」
どうでもいいけどお前俺と同じ中学じゃないじゃないか。じゃない×2だ。女と話すのが久しぶりだからって嘘つくと自分の首を絞める事になるぞ。何話すつもりだ一体。
まぁ風評被害を恐れる俺ではない、第一本当に中学時代を話されたほうがよっぽど風評被害だ。
『有馬田谷くん 応接室にお願いします。お客様がお待ちです』
他のクラスや学年に有馬田谷って居ないんだろうか。まぁこれまでの人生で一度も他の有馬田谷とは会わなかった。両親も含めて…しかしなんでこんな朝早くから俺が居ると分かったんだ?もしや家主だろうか、家が崩れた事に対して連絡していないが、そのことか?まぁ細かい事は役所が何とかするだろう。別に自分で解決する気は無い、俺はあくまで高校生だ。余計な行動をする気は無い。
「早いな有馬田谷。中でお客さんがお待ちだ」
小田が応接室の前でホクホク顔だ。
「おはようございます小田先生。何かいい事あったんですか?」
「うぅ~ん。ふふっ、ヒ・ミ・ツ」
オイこいつから殺していいか。中年男がこんなことしたら殺されても文句は言えないぞ。
無視して応接室に入る。中には…のっぽとデブか…出てきやがったか。
「「おはようございます。虹の御子様」」
体型が違うのに声を合わせる姿は不気味も良いところだ。
「小田先生、中にはペンとか尖った物有りますか?」
右後ろに振り向いて小田に聞く。
「いや、無いはずだ。此処の生徒にそんな物持たせ…」
良かった。衝動的に刺していたなんて事にはならなそうだ。小田が走ってどこかに行くがどうでもいい。糸を付ける必要も無い。
応接室に入り、ドアを閉める。中にはデブとのっぽの他に赤い髪の美少女が居る。全員教団の白いローブだ。女は別に好みではないからどうでもいい。デブとのっぽの行動を視るために全ての感覚を集中して椅子に座る。対面にはデブとのっぽも座っている。女は立ったままだが別にどうでもいい。
「だいたい10年振りか、昔はもっと太って見えたがな、痩せたのかデブ?」
「「虹の御子様が御無事に成長されて、我等は何よりの幸福を感じてしまいます」」
「どうやって出てきたんだ?金か賄賂か?」
女が威圧するような顔をしているが気にしない。
「「信心のお陰です。正確には日々の労働と4日前に起こった核爆発のお陰です」」
あれの影響か、こいつ等は強力な特化型能力者だ。A級ハザードの中でもベテランといえる。昨日の奴より特殊能力は劣るかもしれないが、戦闘能力は高い。恐らく柳沢では相手になら無いだろう。
「なるほどな、お前等みたいな犯罪者どもにまで協力を仰ぐとは、全く無能な連中が多い上に弱腰政府だ。たかが核爆発程度の案件でお前等程度のザコ能力者にまで話が行くんだからな」
「きっ貴様!」
「「おお虹の御子よ。全く素晴らしい成長振りです。我等感動いたしました。背丈と同様に大きな心をお持ちだ。さて、今は何色ですか」」
「青だ。お前等の上司も冬の野良犬みたいに喜んで庭を駆け回るだろうよ」
「貴様っ!あのお方を…」
跳びかかってきそうな顔だ。それに対して、のっぽとデブは2人とも満面の笑顔だ。表情までは同じでは無いが、顔の雰囲気が似ているので一層気持ち悪い。
「「おおそうして居られる事でしょう。あの方こそが貴方の息災を何よりも喜んでおられるはずです」」
「そうかい、奴も出てくるのか?」
「「無論です。それについて申し上げる事がございます」」
右腕で袖の上から左二の腕を掴む。もう出てきやがるとはな。
「「虹の御子様に日本社会の云う所の慰謝料を受け取っていただきたい。それこそが、かの御方の御来光を妨げる壁なのです」」
大方裁判所命令か、釈放審議の条件なんだろう。これまでビタ一文払わなかったくせに。
「成る程な、幾らだ?」
「「10年前の平均生涯年収試算である3億円を3人分虹の御子様に差し上げます。無論他の連中にもいくらか包みます」」
相変わらず金持ちだ、反吐が出ないのが不思議だ。意外に冷静だな俺。
「そうかい…口座なんて無いが貰っておくよ。慰謝料には税金が掛からないんだったな、何時貰えるんだ?」
「「賢明です虹の御子様。一億をお先にどうぞ。まずはお納めください」」
そう言うと応接室のテーブルの上に金の入っているであろうケースが出現した。意外に小さいサイズのケースだな、本当に一億入っているんだろうか?中身を確かめると、確かに聖徳太子だ。本名は違うがそういう敬称の人だ。彼が一万人入っているのか。何枚か取り出し、クォクで日本銀行サイトの紙幣検査機能を使う…怪しい金ではないようだ。
「お前等と違って綺麗な金だ。貰っておくが礼は言わない。当然の事だしな。他の被害者達にも必ず渡せよ」
「「虹の御子様のお仕事を考えれば当然の事です。残りの浄財も後日お届けします。では御来光を健やかな気持ちでお待ちください」」
そう言って3人は消えていく。のっぽの能力だ。テレポーテーション兼アポートだ。要するに物質を移動させる力だが、のっぽは衛星軌道上の物体さえも自由にこの場に呼び出せる強力な使い手だ。テレポとアポに関しては世界でも5本の指に入る男だ。
「…5年待つつもりだったがな、金を俺に渡した事を後悔させてやる」
この金でもっと強くなるとしよう。しかし核が波紋を呼ぶな、腐っても嘗ての最終兵器か。
応接室にもう用は無いので帰るとしよう。もうゲヘナにも用は無いと云えば無い、準備しに行くとしよう。外に出ると4人組が居た。一体何の用なのやら。
「有馬田谷くんっ!?その左腕はどうしたんだい?」
黒船が問いかけてきたので左腕を見るが、別に血が流れているわけでは無い、まぁ左腕の皮膚が一部右手の形に無くなって筋肉が露出しているがどうでもいい。袖で隠れて見えない上に服も破れていないしな。感覚を強化しているから分かるんだろうが無粋な奴だ。まぁ俺も似たような事はしたので人の事は強く言えない。
「どうしたのアリー君?怪我したの」
「別に大した事でも無い、早退するが気にしないでくれ」
「早退って…まだ朝だよ?大丈夫なの?救急車呼ぶ?」
一限しか出ない奴等に言われる謂われは無い。首を振る、もし怪我でも自前で歩けるなら歩いて病院に行く。尤も病院は嫌いだが。
「…本当に平気なの?悪いけど見せてもら…っえ!?」
PSYベクトルを使って左袖を捲られて左腕が露出した、スケベめ…怪我した腕フェチか?難儀な性癖だな、それで友達少ないのかもな。
男と女どちらの性欲が強いのかはよく議論されるが、ペリーと真は隠れスケベだ、性欲は強い。間違い無い、そう云う下着や体型だ。きっとスケベだ。
筋肉が露出しているのは二の腕なのでそれは見えない程度に捲られた。成る程俺の体ではないからPSYベクトルが利くのか、新しい発見だな。
「その腕…」
「なんで、そんな…」
4人とも息を飲んでいる。全員水揚げした魚みたいに口を開けている。間抜けな光景だ。開いた口に何かを入れたくなるな、金魚とかコインが一杯入りそうだ。
「腕が珍しいのか?この地球には同じ物を持ってる生物は大勢居ると思うが」
まぁ中には無い人も居るんだろうが少数派だろう。
「説明して貰えますか?貴方は何者なのですか?」
神妙な顔の女教師に聞かれたら何もかも答えたくなるな。
「答える必要があるのか?人の秘密を暴く者達に?」
真は苦渋の顔だ。女教師にはイジワルしたくなるのが俺の性癖だ。復讐とは別にこういう事もしなくてはメリハリが無い。人生は楽しまなくてはなくては損だ。
「有馬田谷君っ!僕達は…」
黒船はからかっても面白くないな、男だし。
「友達じゃないのは確かだな、仮にそうでもこの腕を侮辱した人間は絶交する事にしている。まぁ腕だけじゃ無いがな、折角だし胴体の方も見るか?」
全員固唾を呑んでいる、侮辱したと云う認識が有るらしい。こっちはパンチラした程度の気分だがな、しかもスカートの中に短パンを穿いた状態の女子の如く見せても良いパンツを見せた時と同様の心持だ。何の痛手もない、むしろ見たほうが『え、えぇ…』って気分になる。
しかし美人をからかうのは面白い。正直そこまでスゴイ体でもない。廊下には他の人も居るから脱がないけどね、金ももらえないに脱ぐ必要は無い。まぁ幾ら貰っても脱ぐ気は無い、あんなのもう二度とやりたくない。
「…全身がそうなのですか?有馬田谷君…貴方はどんな人生を…」
「傷痕がそんなに珍しいのか?これくらいの傷持った奴なら隣町の工業高校とかにも居るだろうよ。やっぱり裕福な人間は違うな、こんなもんが珍しいんだから」
俺の腕には傷痕が有るだけだ、興奮した所為で血の巡りがよくなって、それが顕になっただけだ。
「そんなに大量の傷痕が珍しくないのですか?どういう人生送ったらそんな価値観に…」
まぁ彼女達に見えている部分だけで120箇所くらい傷痕が在るのは珍しいかもな、まぁ傷の上に傷が在るので数えるのは無意味だが。尤も心の傷の方がずっと深いのだが、体の傷を気にするとは繊細な連中だ。こんなもんもう痛く無いのにな。銭湯に入れないのがちょっと困るが、基本俺はシャワーが好きだから別に構わないし、男の裸を見に行く趣味も無い。
だが傷を見ると色々思い出す…必ず勝たなくてはならないと静かに決意する。新興神…かつて世界を征服した怪物に…勝てるかな?
怪人図鑑No.7
名前─ヌォル
本名─不明
転送距離─地球上のあらゆる場所に移動・転送できる
転送規模─小規模な町を1つ2000km離れた太平洋の海面に転送した記録がある
特殊能力─オーソドックスな転送能力だが極意を習得したと主張している
成長性─修行により完成と主張
カラー分類─青
総合評価─世界を恐怖に陥れた『教団』の幹部の1人。新興神の左の薬指といわれる。戦闘能力はA級でも屈指。ヒーローとして活動した過去在り