第三話 驚嘆の能力!地下洞窟の秘密とは?
「蜘蛛にも色々いるもんだ」
夜中の三時にニューロネットで自分に似た性質の蜘蛛でも居ないものかと、ネットから蜘蛛図鑑を腕輪型端末に保存してから閲覧したが、俺は蜘蛛についてかなり無知だったと思い知った。昆虫で無いことくらいは知っていたが、その位しか知らないと気付いた。自分が蜘蛛風に変身したからには、もっと知らなくてはならない。意味が有るかは分からないが。
「へー蜘蛛の巣にも種類が在るんだな、皆同じだと思ってた」
皿網なんてあるんだな、俺は巣なんて作らないと思うが能力とかに応用しよう。自然は人間が発達するヒントを大いに与えてくれるのだ。
「へぇー集団生活する種類も居るのか」
色々居るんだな。爪の数とかで色々分類しているが、俺の近縁種はいそうに無い。
「まぁ俺みたいな蜘蛛は居ないか」
鏡の性質を持たせた糸を土壁に張り巡らせた擬似鏡には、体表の色が一定せずに蠢く2本足の蜘蛛風の容姿の怪物が写っている。古代の蜘蛛は1m位あったのがいたらしいが、それでも俺よりかなり小さい。
「そもそも足が2本に腕が2本の蜘蛛なんていないしな。複眼持ってる蜘蛛も居ないみたいだし、そういや髪が抜けたりして無いから放射線も平気みたいだな、よかったよかった」
更に睡眠は1日当たり5分程度で良い、我ながら超性能である。しかし声の篭る空間だ。此処は自宅1階和室の床下から地下1km位の位置に掘った洞窟である。別に特殊能力は関係なく普通に腕で掘った。崩れないように糸で坑道を補強したが、掘ったのは単純な腕力によるものだ。地下でも明かりが見えるのは変身する前から出来た事なので明かりは必要無かった。
どの位掘れるか試していたらこんなになった。家がその内崩れるかもしれない。だが別に持ち家じゃないから問題無い、崩れて怪我した事にすれば家主から逆に金を取れるかもしれない。まぁ崩れないように掘ったから大丈夫のはずだ。
「酸素無しでも活動可能みたいだな、此処火も付かないから多分酸素無いだろう。だけど食い物が今までの百倍くらい要るな、業務用の視肉を買っておくかな、此処でも栽培できるかな?」
自宅の中で能力を確認していて来客が来たら困るので此処を訓練場にしたのだ。今日キャッシャーは何故か来なかった。まぁ奴は朝昼晩と来る時も有れば3ヶ月間続けて来ない時もある。
別に会いたくは無い奴だ、奴は復讐対象というわけでもない。奴は依頼を受けただけで依頼者こそ復讐対象だ。復讐相手は選ぶ。俺は悪人かもしれないが狂人ではない、殺す相手を選ぶ理性は在るのだ。
「変身段階は…2本足の蜘蛛怪人から…」
左右の横腹に2本づつある小さな足を伸ばす。二足歩行の蜘蛛怪人から徐々に一般的な蜘蛛の外見に近づいていく。
「視点が低くなったな…糸は…普通に使えるな、体型が変わるだけか?なにか能力が増えたわけでもないのか?パワーは…そんなに変った気はしないな」
完全に蜘蛛になったので図鑑から似たような外見は居ないか確認すると、東南アジアに生息する派手な色彩のハエトリグモ科の蜘蛛、クリシラ・ラウタことELGANT JUMPING SPIDERが割りと近い印象だ。まぁ色も大きさも全然違うが。そもそも俺は全身に色が蠢いているのだからこんな生き物自然界にいないだろう。
「いや案外いるのかもな、宇宙は広いんだ」
宇宙はロマンだ…しかし我ながら独り言が多い。1人暮らしが長い所為か、長年の虐待に因る精神の磨耗の所為か…優しい彼女欲しい…誰かに癒してほしい…全ての復讐を終えたら年上の彼女が欲しいな~
「呼び出しだ有馬田谷、2階いくぞ」
本多がなぜか俺を呼ぶ。もうすぐHRだぞ、流石に生徒が襲われた翌日くらいは小田も定時に来るだろうに。
「吉良さんか?」
本多が頷く。呼び出す奴なんて他に居ないか、仕方ないので席を立つ。教室の後ろの冷蔵庫から飲み物を10本取り出して抱えながら教室の外に出ようとすると、教卓の前の席に座るペリーに声をかけられた。
「アリー君?もうすぐHRよ?」
「有馬田谷は俺と一緒に2年に挨拶に行くんだよ」
俺の代わりに本多が答える。
「そう言う訳だから、1時限目には間に合うから安心しろ」
ペリーが頷く。素直だな、昨日の事で信頼されたのだろうか?教室を出る。
「有馬田谷、呼び出し理由は何なんだ?呼ぶ時は昼に呼ぶだろ?」
「十中八九あの2人の事だろうな、他に思い当たらない」
「特定学習指導交換留学生…だっけ?長すぎだよな」
確かに長い、昨日の蚯蚓騒動の後で校舎に帰ってきた俺たちに、小田が黒船とペリーのことを説明してくれた。なんでも彼女たちは10上学園の学生だが、1年間このゲヘナに週に1~2回位来て一緒に勉強すると言った。
まぁ嘘なんだがな、小田も知らないようだが彼女達は勉強に来たわけではない。こんな底辺高校に日本有数の進学校の生徒が来る意味は全くない。
「でもよぅ有馬田谷、あいつらの事聞かれたからって何答えりゃいいんだ?」
「小田の言った事答えりゃいいんだよ。知らない事なんて答えよう無いんだから」
確かにそうだと本多は頷く。2階の科学室前に着く。
「うっす!1年1組本多 正人!と有馬田谷 廻!両名呼び出しに応じましたっ」
体育会系だな、本多よ。準備室の扉が開き、中から入れという声が聞こえる。
「うっす、失礼します」
「失礼します」
薬品臭い部屋の中には2人の男が居た。1人はアロハシャツを着た長身の男、俺と同じ中学の先輩である吉良だ。もう一人の学ランは他県から引っ越してきた麻野だ。どっちも2年生の先輩である。
2人に持ってきた飲み物を渡す。それぞれ番茶とピーチジュースを2本づつ取った。いつもそれですね先輩方。残ったのは視肉の栽培用に持って帰ろう。
視力が発達したので、どちらも目が濁っているのがよく分かる。こんな高校に長く居るからそうなる。
「おう、良く来たな。聞きたいことは分かるよな?」
神妙な顔で吉良が口を開く。吉良の頭は金髪で、凶暴そうな風貌をしている。体型は一見ひょろいが、背が190あり、見かけと違って力が強く、見かけと同じく喧嘩が強い。
いまどき喧嘩なんてするのは貧乏人ぐらいだが、此処の9割は貧乏だ。娯楽代わりに喧嘩する事もある様な所だ。こう云う奴が2年の顔役になるのも当然と云えば当然だ。
「うっす、新顔の事ですね。あいつらは特定学習指導交換留学生っす」
「何だそれ?」
吉良が首をかしげる。
「あれ、違うことをお聞きしたいんっすか?」
「いや、女の事だ。その特定なんとかが女か?」
此処は女日照りだから女の事を知りたいんだろう。無理も無い。
「うっす、摩周 ペリーナのことですね」
「そいつは美人だよな、有馬、どうだ?」
「金髪黒目で痩せ形の美人ですよ。上から82・59・84ってとこですね」
吉良は神妙な表情で頷いている。これを聞く為にわざわざ呼び出したのか、おいおい。
「特定学習指導交換留学生は週2回位来るそうですから、そのたびに連絡しますよ。好みなんかも聞き出します」
「よしっ、本多と有馬お前達は偉い。後輩の鑑だ。よっしもう帰っていいぞ」
早いな、いつもの事だが麻野は一言も口を利かない。
「うっす、ありがとうございました。お疲れ様ですっす」
「ごくろうさまでした」
2人でお辞儀をして準備室を出る。さっさと自分たちの教室に戻る。
「結局何の用だったんだ有馬田谷?」
「こんなとこに女が来たらそうなるさ、多分あの人が代表して聞く事になったんだろう。水面下でペリー争奪戦が始まってるのかもな」
そんなもんかと本多が頷く。こいつは良い奴だが、女にあまり興味がない。だからって性的に男が好きなわけではない。友達の方が好きなタイプの男だ。
『キ-ンコーン』
朝の予鈴が鳴る。教室の前に戻ってきたが、人ゴミだ。
「レベルたけぇ~」
「おいおいおい…女が居るぜ…初めて見た…」
「いや流石にそれは無いだろ」
「美人だなオイ…やりてー」
まさにゴミである。気持ちは分かるが。そいつらの間を縫って進むのは大変そうなので、不可視の糸を使って微妙にけだもの達を彼らに覚られない様に操作して進み、教室に入る。能力は日常的に使うことで磨くのだ。
「遅刻だぞ、本多に有馬田谷ーこれで皆勤賞は無しだぞ、不真面目め」
二日酔いで学校休む奴に言われてしまった。大体まだHRの時間でもないだろうに。
「まじっすか勘弁してくださいよ小田さん」
お前こんなところで皆勤しても自慢にならないぞ。だいたいまともに出欠取る授業の方が少ないじゃないか。
「ハハハっ、さっさと座れ。もうすぐHRだ」
しかしやけに身ぎれいにしているな、髭も剃って髪も久しぶりに切ったみたいだ。俺たちが入学してから伸ばしっぱなしだった筈だ。
自分の席に座る。俺は出席番号2番なので廊下側の前から2番目に座る。名前的にこの席になる事が多いのだ。一番になる事はあまり無い、ナンバーワンよりオンリーワン優先、それが楽しい生き方だ。
「おし、みんな座ったな。教室の外にいる連中は無視しろよ」
気になるが仕方ない。というかさっきより増えてるな、どんどん増えてる。教室のガラス戸の向こうは学ランで真っ黒だ。実に不気味な光景だ、俺は人ごみに恐怖しない人間だが、さすがにこれは怖い。
「昨日も説明したが、新しく人が入った。週に2回位だがみんな仲良くやれ」
ちなみに昨日黒船とペリーは病院で検査するために2限以降には出なかった。事実上今日が初登校日だ、しかし何故ランニングなんてしたのかは未だに分からない。
「それと特別教師も赴任した。彼女はこのクラスの専属ってわけじゃないがな。1時限目が彼女の担当だから俺も同席する」
いやあんた関係無いだろ。1限は日本史だぞ。
「と、言う訳だから。HRは終わりだ」
そう言って教室の後ろに行き、休みの田安の席に座る。どうでもいいんだが教室の中に別のクラスの奴が居るのに気付かないのはどうなんだ?隣のクラスの藤原がペリーの真後ろに座ってるぞ。中野はどこいった…聴覚を集中すると、学食を掃除していたと分かった。バイトか?
「アリー君、此処の日本史ってどこまで進んでるの?教科書はどのバージョン?」
椅子に座ったままペリーが振り向いて、左斜め前から話しかけてきた。藤原は振り返ったペリーの胸元を凝視している。お前間違いなくふっ飛ばされるぞ、と云うかいい加減帰れや、授業まで受けてくのか?意外にまじめだな。出席にはならないと思うが、勉強に本来そんな事は関係無いのかもしれない…目から鱗だな。
ペリーを見て、さっきの吉良の頼みを思い出した、別に頼みなんて聞く必要もないが仲良くなるのは悪くないことだ。仲良くなってから色々聞くとしよう。
「お前もすぐに分かると思うが、ここのレベルに教科書なんて関係ない。まぁ特別教師がどんな授業するかは分からないけどな」
「そうだよペリーちゃん。言いたかないけど此処で勉強なんて出来る訳無いから。俺と一緒に校外学習しようぜ?」
左後ろの豊臣の意見も一理…なんで私服?あぁ服のセンスを見せたいのか。でもプレスリーが着ている様な服はどう考えてもセンス無いぞ、そのビラビラが似合う人間は大物だけだ。お前は名前以外に大物要素は無い。
「お断りします」
ハッキリしてるな。外見はともかく中身は好感が持てる。
教室のドアが開き、背広姿で女にしては背の高い特別教師とやらが入ってきた。まだ1限目の時間ではないが真面目な堅物らしい。外見もお堅そうな、ショートカットで黒髪の美人だ。バイクに乗っていた時も分かったが良い体だ。96・73・97と言った所か。体格が良いので胸の大きさはそれほどでもないが、俺にとっては充分なサイズだ。
「皆さんおはようございます…返事が有りませんね。貴方達は死人ですか?おはようございます」
「「おはよーございまっす」」
本多と黒船だけがあいさつした。2人ともでかい声だ。流石に50人分とはいかないが。
「2人しか生きていないのですか、まぁ良いでしょう。私の名前は今和泉 真。イマイズミ マコトです」
黒板には何も書かないが、クォクにメールが送られてきた。それが普通だ、今時手書きで授業なんてしない、まぁ此処と天上は手書きもやるがそれは稀有な例だ。メールには名前と経歴が書いてある。
「すげー日本一の大学卒業してるよ、こんなとこに良く来たなぁ」
「27歳か、全然ストライクゾーンだぜぇ」
「おいおーい、教室の美人指数がまぁた上がったよーいったいどこまで上昇するんだ?」
「キテルね…俺の時代キテルね…」
来て無いと思うぞ…ん?メガネからもメールが来た。
『昨日のバイク嬢と体型パターンや声紋が総合的に視て今和泉氏と85%一致しているでゴザル。イデア能力者が2人も来て、さらに射撃能力を有した道具を所持していると思われる特別教師…何か御存じでゴザルか?』
おそらく似たようなメールを他の人間にも送っている事だろう。俺は勿論ある程度は知っているが、言う必要もない。この学校が変わろうとしているのは確かだが、俺にはあまり関係ない。普通に暮らすだけだ。
俺にとって重要なのは復讐だ。恋愛も勉強も身を入れるのは復讐の為になる場合だけだ。童貞でも無いのに焦る事は無いさ、1つ1つ達成して行こう。俺の復讐相手はアイリアから渡辺まで数えて43人も居るのだから。
怪人図鑑No.3
名前─フレア・コンドル
本名─ジャック・カーライル
燃焼温度─太陽のコロナに匹敵
飛行スピード─10分で地球を一周できる
特殊能力─命ある炎を操る強力な力を持つ
成長性─死亡したため成長しないが0級に戻れる期待値があったと思われる
カラー分類─赤
総合評価─国際機関の発行した正式なヒーロー名鑑を参照した方が正確である。本ヒーローを記述するのは前述のNo.1が本ヒーローを殺害したため