第十三話 友の思い! 廻の決意!
「同い年以下の子供には絶対に手を出さないでください」
起き抜けに美人教師は寝癖がついた髪でそんな事を言い出した。
「なんでですか?」
「昨日の廻は…」
赤くなってしまった。昨夜と同じで可愛いな。
「コホン、とにかくです。子供にはまだ早すぎます。人生が狂うかもしれません」
そこまで言うか、いや褒められているんだろうか?
「真にならいいのか?」
そう言って朝一番のキスをする。俺の方が背が高いので少し屈んで顔を近づける。
「ん…」
唇も口の中も実に柔らかい。接吻を続けるに従って彼女の方から俺の頑健な体に豊満な体を真から押し付けてくる。心地よい感触を楽しみながら目を薄開きにすると、真は目をつぶって真っ赤になっている。真の全てをたっぷり楽しんだので、唇を離す。唇を離した瞬間の真は実に残念そうな顔だった。
「真はキスも好きなんだな」
「…一応言っておきます。私は都合のいい女にはなりません。次は1週間後です。キスも一日一回までです」
「えぇ~真も喜んでるじゃないか?」
「先生です」
喜んでるくせに、まぁそういうところも含めて好きなんだが。一週間か、まぁ昨夜の調子なら今日の夜にでも求めてくるだろうな。来なかったら…俺は1人で自分を慰めるしかない。
「分かりました、今和泉先生。朝ご飯の用意が出来ているのでどうぞ」
ついでに昨日一晩中家の清掃もしておいたが態々言う事でも無い。同居する以上当たり前のことだ。それから庭の井戸の地下1kmに特訓するための洞窟を作ったが、それは昨日了承を貰っていたので問題ない。
2人で食堂に向かう。食卓には1人分の食事を用意しかないが問題ない。俺はいつものように地下で視肉を貪ったので問題ない。いつものように不味かったが問題ない。
「気が利きますね。いただきます」
真は手を合わせて食べ始める。
「一緒に住むわけですしね。それと…今日は病院に見舞いに行っていいですか」
「構いません。今日は仕事もありませんからね」
そう言いながら鮭の塩焼きを頬張っている。美味そうに食べるな、作った甲斐があったというものだ。別に自分で買ってきた材料ではないのだが、なんとなく嬉しい。
「東京なのにまるで静岡だな、ドームの中だから空気がいい」
「…」
「お前の顔写真をニューロネットで検索したよ、該当する人は居なかったが、一応行方不明者捜索サイトに載せておいたから家族に見つかるといいな」
「…」
医者の話では紫の神子の記憶はもう戻らないそうだ。液体椅子の上に乗る俺とそう年の変わらない少年の顔と体には一切の力が無かった。生きている死体と言った有様だ、流石に衝撃的な光景だ。
「お前には悪いんだが、俺は止めないぞ」
記憶を失った事に俺の責任が全くないとは言わない。俺の行動が記憶喪失に繋がったのは確かなことだ。
『元々な…俺には顧みる家族なんて誰もいない。だから俺の行動はただの自己満足だ。これからもお前のような犠牲者が出るかもな』
液体椅子には記録装置が付いているので、心の中で呟く。
『復讐のためなら誰が巻き添えで死んでも良いと思っていたし、お前の姿を見てもそれは変わらない』
紫の神子には何の反応も無い。ピクリとも動かない。
『俺は自分が納得したいだけだ。俺を恨んでくれてもいい。それが俺の生き方だ』
そう心の中で宣言して立ち去る。そう、やる事は変わらない。
回復不能の人間で満たされたドームを出て渡り廊下を進んで能力者被害救済病院の一般病棟に入る。
「君は…まさか有馬田谷君か?」
誰だ?黒髪の壮年の男だが…見た事の無い男だ。
「どちらさまですか?」
「失礼…火野宮 長人です」
「ルナさんのお父さんですか、はじめまして」
「ルナを知っているんですか?」
「最近2回ほど会いましたが…彼女も此処に入院しているんでしたよね、大丈夫ですか?」
「いや…まぁ大丈夫なんだが…」
歯切れが悪いな、なんなんだろうか?もしや…
「時間がおありなら静かなところで話しますか?ここは人の目も在りますから」
「あの時の子供が…立派になったね」
火野宮は教団のスポンサーの1人だったみたいだが、俺の事を知っていたのか?2人で病院の外に出て会話を再開する。
「あれから10年か…本当に立派になったね」
「俺を知ってるんですか?しかし良く分かりましたね」
10年経って随分伸びたはずだが、それに俺は広域ニュースに出るような事もなかったから俺の名前はニューロネットの片隅にしかないはずだから、検索しても個人情報が出るかは怪しい。
「教団に御両親の写真があったからね、それに君の事は毎年思い出すんだ」
「そうですか、俺は両親とは会った事が無いんですが似てますか?」
火野宮は頷く。そうか、似ているのか。しかし聞きたい事が在るがはたして聞くべきなのだろうか?
「火野宮さんは信者の方ですか?」
「いや…催眠で操られていただけだ、信じてはもらえないだろうが」
「そうですか…娘さんまで操られてしまうなんて…なんて言葉をおかけしたら良いか…」
火野宮はイヤイヤと首を振る。
「君に比べれば大した事でも無いよ」
「…御存知ですか?あいつがもうすぐ出て来るそうですよ。それに教団の幹部達も続々と出てきています」
「…ヒーローとしての実績からいってそうなるとは思ったがあまりにも早いな」
火野宮はため息を吐く。彼にとっても予想はしていたが来て欲しくない日だったんだろう。肝心の質問をする。
「お聞きしたいのですが、あいつは悪人だと思いますか?」
「間違い無く善人だね。世界平和実現まであと1日だったのだから」
「でしょうね、俺があいつに復讐したい言ったらどう思いますか?」
「当然の事だと思うよ。私は小市民だからね世界平和のために自分を生贄にされても断るんだ。尤もあの人に言われたら私には断る自信は無い」
「お父さん!?なんで廻と話してるの?」
娘が来たか、味気ない入院服ではなく最初に会った時の動きやすそうな服だ。
「あぁルナ、世間話だよ」
「お父さん、廻に変なこと話したしてないよね?」
「いや、火野宮さんからはルナはすごく良い子だって聞いたよ」
俺がそう言うとルナは赤くなった。しかし髪も瞳も赤いのに父親はどっちも黒だ。まぁ色んな事情があるんだろう。余計な詮索は控えよう
「火野宮さーん、退院手続きはまだ終わってませんよー」
病院から看護師が呼びかけてきた。というかもう退院か、早いな。
「あ、はーい。お父さん退院手続きすぐして帰ろ?」
そういってルナは病院に戻っていく。
「有馬田谷くん、娘は君の事を…」
「催眠によって幼馴染か何かだと思ってますね」
催眠は解けたようだが記憶の方はあまり戻っていないらしい。まぁその内戻るだろう。
「迷惑をかけると思うが…よろしく頼む」
構わないと頷くと、火野宮父も病院に入っていく。俺も帰るかな、たまには見舞いに来るか。
「ここが廻の下宿?ふぅんそこそこの大きい家ね」
何故かルナがついてきてしまった。父親の方は全自動車で帰ってしまった。今時手動車を持っていないのは普通だが、退院したての娘を放っておいていいんだろうか?
「ただいま帰りました」
そういって家の中に入る。居間には何故か結構な数の人が居た。チームの顔ぶれが全員いる。まぁ外からでも分かっていたのだが一応驚いた顔をしておく。
「アリー君、本当に先生の家に下宿してるんだ…」
「おはよう有馬田谷君」
「うむ、気持ちの良い朝だね有馬田谷君!これからよろしく!」
「皆集まりましたね、では道場に行きます」
この家に道場があるのは知っているが何でそこに行くのやら。
「火野宮も連れて行くんですか?」
「彼女も廻と同様経過観察が必要なのでチームメンバーになります。貴方と違ってイデア能力を持ちますが」
「廻だってすぐに能力に目覚めるわよ。見る目の無いおばさんね」
真は特に反応は無い、大人だな。しかしルナは俺がバイクから変形した事についてどう思っているんだろうか?単にスーツを着た人間だと思ったのか?
「廻、貴方は倉庫から貴方用のバトルスーツを持ってきなさい」
どうやら本当に俺の能力を明かす気はないようだ。昨日も言っていたが俺が更生したら俺の口から話させるつもりらしい。
「我々チームの目的は全員もう知っていますね」
畳張りの道場に座る藤田以外の全員が頷く。ルナはどうやら入院中に勧誘されたらしい。彼女も天上の学生らしいから好都合だったのだろう。
「あの…なんで僕がその、貴方達のチームに?知り合いも有馬田谷君しか…」
相変わらずだなこいつは、小耳に挟んだが今日も黒船に半強制的に連れて来られたらしい。
「…そうですか。廻、説明をお願いします」
貴方の事ならおぼえているでしょうと促された。
「では、今和泉先生の代わりに説明させてもらいます」
立ち上がって真の方に進んで、学生達に向かって説明を開始する。
「芸経成高校には以前から犯罪者になる可能性を持った生徒があまりにも多いという教育委員会の懸念から改革が叫ばれていました」
まぁ色んな意味で遅い気がするが、変えようとするのは良い事だ。
「しかし頭ごなしに変えようとするのは如何にも拙いということから、イデア能力を持った優秀な学生を送り込む事で改革と生徒自身に因る解決を図る計画が提案され、この度実行に移されました」
「ようするに風紀委員会みたいなこと?」
「まぁそんなところなんだが、違うのはイデア能力を犯罪に使うもの…つまりハザードの対応も行う。ゲヘナにはハザードが複数存在すると思われる為、その調査と可能ならば更生を行う事も期待されている」
まぁ実際には刑務所送りなんだがな。俺も調査リストに載っていたらしいので適当な罪をなすり付けられて捕まる可能性もあったらしい。真のお陰でそんな事は無くなったが。
「なんで僕が?チームに?イデアなんて使えないよ」
「藤田君については要観察の生徒として指定されたためです。廻も同様です。チームメンバーについての説明をお願いします」
「了解しました。チームメンバーについては10上学園から選抜され、必要に応じてゲヘナの生徒を徴用する。俺と藤田の事だな。他に何か言う事ありましたっけ?」
「大体そんなものですね。ありがとうございました」
終わったらしいので元居た場所に戻る。
「では皆さんの能力を見るので火野宮さんとペリーナは弓道場にお願いします。黒船と廻は組み手をお願いします。藤田君は自由に見学しなさい。私は弓道場にいますが、監視装置がついているので道場の事も分かります」
『いいですか、能力は決して使わずに制しなさい』
メールで俺個人への指示も来たか、恐らく他のメンバーにも行っているのだろう。いい先生だ。女子勢が外に出たので、小さな体育館ほどの広さの道場には男だけだ。
「ではやるか黒船」
「うむ!さぁ有馬田谷くん!スーツを着たまえ!」
スーツ?まぁとりあえず着替えながら話し始める。
「で?黒船は誰が好きなんだよ?」
「…?何の話だい?」
「とぼけるなよ、あんな美女・美少女がいたら1人くらい好みなのがいるだろう?」
真狙いなら困るが…もしや男が好きなのだろうか、それでゲヘナに来たのか?
「何の話なのかさっぱりだが?」
「いや、俺と違って黒船は志願してチームに入ったんだろ?ペリー狙いじゃないのか?名前的にもお似合いだぞ」
「僕は単に自分の能力を鍛えたくて入ったんだが?」
「ならゲヘナの授業に面食らっただろ。というか能力を鍛えるなら天上の方がいいだろ?態々チームに入らなくったていいだろ?」
黒船は難しい顔をしている。なんか悪い事聞いたかな?
『早く始めなさい』
ちゃんと見てるんだな。さてスーツも着終わった事だし、始めるか。
「さて、んじゃルールとかどうする?自由組み手か?」
「うむ、いつものやつでいこう!」
お前と組み手やるの初めてなんだけど。
『急所への一撃は寸止めというだけの3分試合ルールです』
メールには急所についての一覧もついて来た。目玉と肛門に金的か、他にも殺すような事はくれぐれも止めろと書いてある。当然の配慮だな、俺は既に人を殺した事があるのだから。
「じゃあ藤田三分計ってくれ」
「分かった。それじゃあ始めるよ」
藤田は道場にある古風な時計を見ながら時間を計るようだ。さて黒船と互いに礼をして組み手を始めるが…黒船はボクシングスタイルで構えているが動かない。
「有馬田谷くん。まずは君から仕掛けたまえ、僕はB級だから勿論手加減する」
「そうか、分かった」
そう言って黒船のむき出しの顔面に牽制の左ジャブを直撃させる。
「グワッ!?」
恐らく黒船には俺の拳が突然接近したように感じたのだろう。俺はアクリシアさんの技を盗んだお陰で全く隙の無い動きが出来るので、黒船程度の技量なら完封できる。
「成る程…かなりやるようだね、では今度はこちらから!」
そういって右ストレートを放つが左腕でパリングする。分かりやすい動きだ。だが全身に纏った赤い光の所為かかなりのスピードだ。恐らく時速80kmくらいの拳だな、当たると思ったらしく驚いた顔だ。
がら空きの顔面にカウンターの右ストレートを放ち直撃させる。
「ぐふっ!」
そんな3分間の攻防を10回繰り返したが、結局俺の完勝だった。分かった事といえば黒船が負けず嫌いだったことくらいだ。俺の収穫は…まぁ変身しなくてもB級下位くらいの戦闘力はあるらしい。スーツは実質防御としての鎧なので力を補助する機能はない。
「はぁはぁあ…まだまだ…」
「そこまで、いったん休憩です」
真達女子組が戻ってきた。男連中と違って晴れやかな顔だ。色々助言を貰ったんだろう。
「まぁ…まだまだぁ」
「それ以上やっても意味がありません。助言を聞けば少しは勝てる可能性もあります」
そう言われて納得したのか、黒船がその場にへたり込んだ。
「先程も言いましたが火野宮さんはコントロールを身に付けなさい。ペリーナはもっと柔軟な使い方を覚えなさい。2人とも折角便利な力なのですから」
女子2人が真剣な顔で頷いた。無能力者の真を尊敬の眼で見ている。それだけ真の教え方が上手いのだろう。
「黒船、貴方は能力に驕っています。使い続けて力を磨きなさい。貴方の力は使うほどに成長すると何度も言っているでしょう」
「ですが…有馬田谷くんは…」
「非能力者であっても対抗手段のある者がいます。この間の張須さんもそうでしたが、遠慮なく力を使えば倒せていた人間でした。折角の身体強化能力です。貴方はチームで一番強くなれるかもしれないのですから不断の努力を心がけなさい」
黒船はシュンとしている。心当たりがあるのだろう。確かに黒船はあまり力を使っていなかったので組み手の意味があまり無い。
「組み手は本気でやらなくては実戦の役には立ちません。そういう意味では廻。貴方が今日一番酷い生徒です」
怒られてしまった。表情からいって本気で怒っている。真のこんな顔は初めて見た。
「貴方は最初の組み手で油断した黒船を一撃で沈める事も出来た。さらに言うならこの30分間で黒船を倒せたと感じた回数はどの位ですか?」
「100回以上でしょうかね?一回の組み手の中で」
「そんなものでしょうね。黒船が本気にならなかったのは貴方の所為でもある。実験も結構ですが本気でやりなさい。本気にならなくては何も成長しない、格下をいたぶるだけでは尚更です」
自覚はあったのだが、確かに俺は本気の力で実験していないきらいがある。今日も5分の力くらいで黒船の相手をしていた。
「ですが…現状の戦闘能力はスーツ込みとはいえチーム内最強です。そのスーツを使いこなしているのはすごいことです。もっと強くなれる可能性が在るのだからこれからは常に本気で力を磨き続けなさい」
「はい今和泉先生。これからは何事も本気でやります!」
確かに最近の俺は他の人間を下に見る節があったが、そもそも俺の復讐しようとしている人間達はかつての俺よりも強いやつばかりなのだ。
『初心を忘れていたか…』
右手で首の動脈を撫でながらそんな事を考える。人を助けるにも憎むにも全力だった頃の事を思い出す…首に注射器を自らの手で刺した時はもっと本気だった。そう…取り戻すのだ、俺の人生を…その為には常に本気にならなくてはならないな。
『キスは本気でやらなくてもいいですよ。それからキスを今以上に上手くなる必要なんてありません』
そんなメールも着たがそんな事は関係ない。これからも本気で唇だけで真面目堅物女を蕩かせるよう努力しよう。そして一週間1回や一日1回の制限を自分から解除させてやる。常に本気で楽しもう。それが俺の人生を取り戻す道だ。
芸経成高校調査チーム
一番 黒船 四人 B級ブースト能力者
二番 磨周 ペリーナ B級 PSYベクトル能力者
三番 藤田 光 要観察者 イデア能力があるか調査中
四番 有馬田谷 廻 無能力者 要観察者 特定指定警戒者の為監督の家に同居して監視を行う
五番 火野宮 ルナ A級の潜在能力を持つ発火能力者
監督 今和泉 真 無能力者 第二恒星調査局イデア能力者調査係主任としてチームを監督




