第十二話 暴走する力! 老人達の乱舞!
「ヒャッハー!路上は俺達”喪巣萬”のもんだぜ!?」
「行こうぜスピードの向こうによう!?」
今時暴走族とは古風な連中だ。色も派手だし音もうるさい、遠くから見る分には面白いがまさかコンビニエンスストアを集団で襲う連中を生で見るとは思わなかった。
「すげぇ!?流石はゲヘナ高の伊達さんだぜ!?あのコーナーリング凄すぎだぜぃ!?」
…もしかしたらと思っていたが、やっぱりうちの生徒か…他の高校の奴もいるみたいなのが救いか。
「行きますよ廻」
「え?暴走族まで倒すんですか?警察の仕事じゃないんですか?」
「さっきも言いましたが、ゲヘナに潜む殺人鬼を探すのが私達の仕事です。彼らは違うようですが、私は彼等を止めます」
真達はそのためにゲヘナに来たらしい。それで俺の世話も焼いたらしいが、殺人鬼ねぇ…というか最初はそんな目で見られていたのか。俺に前科なんて無いのにな。
「はぁ…じゃあ倒しますけどね…」
「うぉ!?」
「!?」
「!?」
!?多いな、まぁいいけど。倒した男達は路上に並べておいて退散した。
「ふむ、時速70Kmでも問題無く糸を使えるみたいですね」
ちなみに今の俺の姿はバイクである。簡単に云うと蜘蛛形態になってある種のポリマーで出来た板等を体にまとって真を頭胸部と腹部の間に乗せて走っている。前後の車輪を2本ずつある第一脚と第四脚で回して走りながらコーナーを曲がるのは結構大変だ。
「これで本当に強くなれるんですか?」
「まずは自分以外を真似る事です。廻は自分の能力をまるで知らないのですからありえない行動をすることで自分自身を知ってください」
「分かりました。貴方に従うと決めた以上何でもやりますよ」
それに尻の感触が気持ちいいから悪くない。
「では走りながら世間話でもしましょう。勿論スピードは落とさないでください、事故も起こさない様に」
「了解。ゲヘナの周りをグルグル回る感じで良いんですか?」
真は笑顔で頷いた、ヘルメットから覗く顔はなんだか嬉しそうだ。俺の体の感触はそんなにいいんだろうか?どうでもいいんだが道交法とかどうなってるんだろうか、俺は原動機なんて積んでないが速度制限とか無いんだろうか。能力者法は暗誦できるが、ヒーローは街中で事故さえ起こさなければどれだけ早く動いても構わないが、俺はヒーロー登録してないんだよな。
「柳沢さんと坂井…燕尾服の男はそれぞれの罪で立件されましたよ」
燕尾服はそんな名前だったのか、しかしどの位入る事になったんだろうか。どっちも大した罪を犯したわけではなさそうだが。
「それと昨日の少女ですが、無事に病院に居ますよ。能力者ではなかったようですが、どうも記憶を一部失ったようです」
「催眠の影響ですか?」
「恐らく、それと貴方が能力者被害救済病院に運んだ紫の神子という人は完全に記憶を失っていました」
「…戦わない方が良かったですか?」
ちょっと後悔する。回復はしないかもしれないな、俺を殺そうとした奴では有るが、俺と同じく被害者の立場なのは確かだ。
「どうでしょうね、星の子供達というのは皆洗脳を受けている様ですし。教団の過去の事件を見ましたが、似たような事があったのですね?能力者・非能力者に関わらず催眠を施した」
「えぇ、今回の事も催眠能力を鍛え上げたサシュガという奴の仕業だと思います」
「恐らくですが、何かの実験だと思います。教団は人間にイデア能力を強制的に植え付ける方法を研究しているのでしょう?」
「そうですね、俺も材料みたいなものでした」
しかしゲヘナの周りは道路がいいな、柳沢の破壊の跡ももう片付いている。
「気にしない事です。悪い連中の事など考えずに幸せになりなさい、それが本当の復讐です」
「幸せになりたいので俺と恋人になってくれますか?」
「もっと魅力を磨きなさい。そうしたら考えます」
考えてくれるのか、結構うれしい。魅力か…さてどうやって磨くかな、捉えどころの無い言葉だからなぁ。
「…ふむ、連絡が入りました。現場に行きますよ廻」
触肢に付けたクォクに真が情報を送ってきた。此処からは結構遠いな。
「何kmまで出していいですか?」
「折角だから100までいきなさい。道交法は気にしなくてよいですよ」
「了解」
「それと…他のメンバーに貴方の能力は教え無い方がいいですよ」
「何故ですか?理由を教えてください」
「貴方の事は上司にも教えないつもりです。彼女達の口から何か洩れても困るでしょう?」
確かに困る。別に俺は復讐を諦めた訳ではないのだから。しかし彼女は俺をどうしたいのだろうか、仕事を手伝わせたいだけか?まぁ夜にでも聞いてみよう。そしてあわよくば…ふふっ。
「『星の子供達』が次々にやられていると聞いたが…こんな普通人女にか、フンっ」
黒髪の怪しげな雰囲気を身に纏った青白い肌の男は真を侮蔑的な目で見下ろした。目つきも口元も動作も全てがこの世の物ではないのではないかというほどに怪しい男だ。
「サシュガ様、私は絶対に負けません」
「そうだと良いのですがね」
サシュガとルナが住宅街の中にある公園の宙に浮いている。紫の神子もそうだったがなんで浮いてるんだ?みんな浮遊能力持ちか?
「彼らの背中に集中しなさい。コンバットスーツです。廻なら分かるはずです。集中力の使い方を覚えなさい」
おや本当だ、何かついている。あれが浮力を発生させているのか。
「何を独り言を言っているのやら…」
「あのバイクには受け答えするAIが付いているのでしょうね、サシュガ様、私にお任せを。あの程度の女には負けません」
「その前に警告しますサシュガさん。貴方は刑期を満了して出てきたはずなのになぜこんな事をするのですか?」
「おやおや、こんな事と言うのは老人の家の老人達を健康な体にした事ですか?サシュガはいい事をしているのですがね」
老人の家という施設の人たちを使って公園でマスゲームをさせるのはいい事とは思えない。やっぱりこいつも教団らしい人間だな。教義のためなら何でも許されると思っている連中だ。
『俺も話していいか?』
「駄目です。私に任せなさい」
「…?どういう意味ですか?」
「貴方はA級ハザードに認定されました。張須医師の娘を洗脳したのも貴方ですね」
「洗脳…?どういうことですかサシュガ様?吉美ちゃんが?」
ルナは知り合いなのか、奇妙な人間関係だな。
「ほう…少しはサシュガの事を御存知なのですね、しかしどうやって知ったのですか?教団に関する事件簿にも私の事など載っていなかったでしょうに」
「いたいけな少年少女を洗脳して何をするつもりなのですか?」
「いいでしょう、折角だから教えて上げましょう」
話すのか、まぁこいつらはそういう連中だ。自分が正しい事をしていると思っているから、自分の行いを話すことを危険なことだとは微塵も思わない。むしろ理解してもらえるとさえ思っている。
「『星の子供達』というのは才能値の低い子供達をイデアに覚醒させる試みです」
「才能値とはあなた方教団の長が提唱した理論にも関わる事ではないのですか?低いものなら能力は使えないのでは?」
「理論とは常に刷新されるものですよ。とにかくです、あの日我々はゼロに負けました」
そう…負けた連中だ。そいつ等が敗者復活戦をやりに娑婆に出てきた。
「世間ではそう言われますが真実は違います。あの御方はゼロとゼロの0級ヒーローの仲間達を完全に下した」
「負け惜しみではないのですか?」
『俺に聞いているのか?まぁそうだね、あの日奴は0級5人相手に1人で勝った』
「勿論違います。あの日あの御方が敗北したのは、さしたる才能値を持たない虹の御子だったのです」
ふん…俺一人に負けたわけではないから、サシュガは真実を捉えているわけではないな、自分にとって都合のいい真実を語っているだけだ。
「そう…虹の御子…あの子供の情報は秘匿されていたので幹部である私達『青の両手』さえあの日初めて知ったのです」
「話は簡潔にお願いします。関係無い話は聞く必要も無いので」
確かに、しかしルナはさっきから黙ってしまっているが青い顔だ。何を考えているのやら。
「そうですね、普通人に説明するには簡単にしなくては」
コホンと咳払いをして説明を再開する。
「要するに人為的に虹の御子を作る計画ですよ。催眠でイデアを覚醒させ、イデア技術応用兵器を使わせて、力を覚醒させる」
「わかりませんね、虹の御子はまだ生きているのでしょう?何故新しく作るのですか?」
「あの御方は『私は虹の御子と戦う運命にある』と仰っていました」
未来予知か、奴なら使えても不思議では無いが制限のある刑務所でそんな事が出来るとは流石だ。
「しかし…負けるかもしれないとも言っておられた。なので献身の精神を持つ私が虹の御子を殺すために星の子供達を作ったのです。上手くすれば虹の御子の代わりにもなるかもしれない」
間接的とは言え俺の所為で不幸になった人間がいるのか、胸糞が悪くなるな。だが…奴が負けるかも知れないと言っていた…?もしや刑務所生活で力が弱くなったのだろうか?俺に勝機があるのか、奴の言葉なら信用できるな。奴は嘘を言わない男だ。
「さて、話はこのくらいでいいでしょう。行きなさい!戦闘員達よ!」
そう言ってマスゲームをしていた老人達を働かせようとするが、老人達は動かない。不可視の糸で縛っているせいだ。
「俺も行くよ。戦闘員なんだろ?」
「廻は仲間です。ですが…変身は解いても構いません。言いたい事も有るでしょう」
そう言って真が俺から降りたので、俺も変身を解いて二足歩行のただの人間の姿になる。服が生成されるわけではないのでバイクのパーツを身にまとっている以外は裸だ。尤もバイクのパーツはコンバットスーツの代わりにもなり、露出は全くない。ヘルメットをとって顔を出す。
「あ…貴方は!?もしや…」
「廻…」
宙に浮く二人はそれぞれ違った表情だ。男は青ざめ、女は笑顔だ。
「10年ぶりだなサシュガ、両親の仇、此処で討たせてくれるのか?」
「仇だったのですか?」
「奴が両親を洗脳して教団に入れて洗脳で殺したと聞いている」
「廻っ!!」
ルナが何故か俺の傍まで降りてきて抱きついた。敵ではないのか?
「廻、お前が…お前が私の運命の人なんだろ?だからお前が助けに来てくれた…催眠を解きに…」
なんか唐突だな、偽の記憶を植えつけられてたんだから当たり前なんだろうか?呼び捨てにされるほどの中でもないのだが。
「…まさか貴方がここにいるとは、それにしても両親の仇とはね、くくっ」
「何がおかしい?自分に責任が無いと思っているのか?」
「真実を何も知らない者には教える必要も無いでしょう。まぁいいです。私は貴方と直接戦う気は在りませんので失礼しますよ。そうそう、あの御方は来週の日曜日には出てきますので、それまで精々力と心を磨きなさい。念のため言っておきますが明日の日曜じゃありませんよ8日後の日曜です」
そういって消えた、正確に言うとスーツの機能で周囲の景色と同化したみたいだ。ちょっと見えるな、俺の糸の方が性能がいい。結構ゆっくり飛んでるので打ち落とせそうだ。だが奴の台詞が気になるな、真実?しかし来週の日曜か、早すぎるな…
「うぅ~ん」
「あれ、わし等は一体…」
「トミ子さんや飯はまだかの?」
老人達の洗脳が解けたらしい。態々解除したんだろうか?というか何のためにこんなことしたんだろうか?老人を縛る趣味はないので糸を分解する。
「どうやら終わったようですね。火野宮さん、お話を伺いたいのですが?」
「うるさいっ!私と廻の邪魔をするなっ!」
まだ会って二回目だというのに、俺に抱きついて離れないな。情熱的だ。
「今日のパトロールは終わりですね。お疲れ様でした」
「お疲れ様。じゃあ後は家まで送れば良いのか?」
「貴方の家でも有るのですから一緒に帰るのです」
あぁそうだったか、しかしすっかり夜だな。事態の収拾は警察に任せたが、結局ルナからは大した情報をもらえなかったので催眠が解けているか確認するために彼女は病院に送った。彼女は嫌がったが俺が頼むとアドレスを交換する条件で許諾してくれた。どっちも得したな。
なんとなく真と話す気にはなれなかったのでそのまま帰宅した。
「貴方の所為ではありませんよ」
居間に座った真はそんな事を言い出した。俺は学校指定のジャージを着ながら聞く。
「気にしてませんよ」
「気にしています」
そう見えるのだろうか?
「それよりも8日後か…間に合うかな?」
「復讐を止める気はないのですか?」
「無いですね、聞きたかったんですが俺に何をさせようとしているんですか?」
俺の事を上司に報告する気も無いみたいだし、同情して復讐を手伝うわけでも無し。一体どういうつもりなんだろうか?
「そうですね…以前教師になりたかったと言ったのは覚えていますね」
勿論だと頷く。
「私はそれなりの名家の生まれです。教師になる夢を叶えるのには障害がありました」
そんなもんか、大変だな。俺には縁の無い話だ。
「元々私が今の職に就いたのはある御曹司と結婚するためでした。箔を付けたかったのでしょう」
ん?年齢からいって結婚してなきゃおかしい気がするが…家の意向に逆らったのだろうか?
「会った事もない御曹司は私の会った事の無い人と駆け落ちしました。まぁそれは構わなかったのです」
駆け落ちか、ロマンだな。お陰で俺は美人教師と同棲できるわけだ。名前も知らない御曹司に感謝する。
「その後も両親は見合いを勧めましたが、私は仕事が楽しかったので断りました」
その割に左遷されて学生の正義の味方チームの指揮か、お世辞にも結婚を犠牲にした女の仕事ではない。真は若いし美人だから貰い手は幾らでもいるだろうからまだ全然遅くは無いが。
「それで両親は上司に私を左遷するように申し出たのです。そして仮の姿とはいえ念願の教師に成れた訳です」
「夢が叶って良かったですね。そもそも何で教師になりたかったんですか?」
「貴方のような捻くれ者をまともにしたかったのです」
真は笑顔で俺の頭を撫でる。年上の人間に殴られた事は一杯あったが撫でられるのは初めてだ。
「貴方はどうすれば幸せになりますか?さっきの答えはね、貴方を幸せにしたいのです。貴方は不幸だったから幸福にならなくてはならない」
「なら俺と一晩共にしてくれますか?」
「それで傷は癒えますか?」
「薬は塗るまで分からないでしょう?」
「そうですか、では…」
服を脱ぎ始める、彼女は悪くないのだが吐き気がする。
「申し訳ないんですが背広を着たままお願いします」
「何故です?」
「昔色々あったので裸の美女が怖いのです」
「分かりました。少しづつ直していきましょう。慌てる事はありません…長い付き合いになるわけですからね…」
高級な背広を着たまま俺に寄りかかる…幸せな時間の始まりだ。傷が癒えれば良いのだが…真も俺の傷が癒えれば嬉しいのだろうか?だから俺に親身になってくれるのだろうか?俺は人をあまり信用しないが彼女は信用できるのか?まぁゆっくりお互いを知るとしよう。
「はぁはぁ…」
風馬が激しく息を吐く。
『次の角を右だ』
「なんなんださっきから!??」
『ヤクザから逃げたいんだろう?』
「く!」
探査糸の先端を震わせる事で真の家の寝室に居ながらにして30kmほど遠くの男に指示を出せる。我ながら素晴らしい力だ。
「オイっ!?行き止まりじゃないか!?」
『そうだけど?』
「そうだけどって…」
「焼きが回ったな風馬」
「確かに、それじゃあ殺しますか須雁」
「待て、待ってくれ。金は返しただろ?なんで?なんでだ!?」
『たぶんやりすぎたんだろうな、セコいなりに満足してりゃあいいのに欲を掻くから悪い』
「うるさい黙れっ!嘘を教えやがって!?」
『お前は嘘を吐き続けた人間だ。こういう最後もいいだろう?』
復讐について考えるのは俺の日課だ。どうすれば俺は満足するのか?殺せば良いのか?もしくは罪を償わせるのか?それを知るために他人に裁かせるというわけだ。
「ひ、ひひぃ、頼む助けてくれ!?」
風馬は路地のどぶに手をついて謝るが許してくれそうな気配はない。
「ガサ入れの情報を入れなかったのは兎も角、お前は刑事でもなくなったからな」
「そうだな盛田、こいつは殺す価値もない癖に余計な事は知っている」
「待ってくれ!殺す価値がないんだろ?なんでもする、なんなら靴だって尻の穴だってっ…」
「これ以上聞くと耳が悪くなりそうだな」
路地に小石を踏んだ様な音がした、空気式銃だ。風馬は小指の爪より小さい弾丸で死んだようだ。
「お仕事は終わりだな」
「ヤクザになってから初めて世の中の為になる事をしたんじゃないか?」
「そうだな、気分も晴れやかだ」
俺の気分は…ふむ、特に何も感じないな。俺に入るべき金を9年間盗み続けた男の死は俺に何の感情ももたらさない。復讐はやはり自分の手で行わなくてはならないようだ。良くも悪くも俺の人生の決着を付けるんだからやはり自分の手で行わなくてはならないな。どぶの中で死んでいる汚い男から糸を分解しながらそんな事を考える。
「もう日付は日曜日か、奴は俺に負けるかもしれないと言ったらしいが…それに真実?謎が多いな、まぁいい…ゆっくりと解決しよう。まだ時間はあるのだから」
怪人図鑑No.11
名前─サシュガ
本名─不明
扇動力─1000万人の人間を特定の状況で同時に操れる
戦闘能力─本人には皆無だが他人の能力を引き出せる
特殊能力─オーソドックスな催眠能力だが極意を習得したと主張している
成長性─修行により完成と主張
カラー分類─紫
総合評価─世界を恐怖に陥れた『教団』の幹部の1人。新興神の右の人差し指といわれる。戦闘能力はA級としては低い。ヒーローとして活動した過去在り




