第十一話 最強チーム結成!!(後編)
「相変わらず汚い顔だな、中学入学以来だが順調に汚れていってる。その内ゴミ山と間違られて口の中にごみを捨てられるぞ」
「だまれっ!糞がキっ!」
口角から泡を飛ばして怒っているな、怒りたいのはこっちの方だ、お前の汚い顔を見て殴らない様にすのは苦労するんだぞ。
「はいはい。で?何の用だ風馬、金なら有るが自殺用のロープでも買うのか?迷惑掛けない様に精々うまく死ねよ」
「…てめぇ、まぁいい。聞いたぞ、バケモノに家がぶっ壊されたんだってな、保険金でも入ったのか?」
「以前の俺に保険入る金なんてあるわけ無いだろ、お前が俺の児童手当を横取りし続けたお陰で固定資産税まで自腹で払ってたんだぞ」
俺は夜でも明るいから光熱費は必要無かったが、どっち道未成年のやる事じゃない。
「児童手当だ!?あンなもん酒代にもならねえぞ!」
「そうかよ、どうせ刑事の立場を利用してタダで飲み食いしてるんだからいいじゃないか」
俺が刑事と言った瞬間に妙な顔をした。そういうことか。
「なるほどようやく首になったか、ヤクザから小遣い貰ってたから当たり前か。大方この間の核爆発で無牢組に手が入ったんでお前の悪事も漏れたんだろう。自業自得とはこのことだな」
「…てめぇ、昔と同じで口だけは一丁前だなっ!」
応接室のテーブルに乗って顔に殴りかかってきたので右の目玉で受けた。変身する必要さえ無い、時速20km程度の貧弱パンチだ。殴った方の風馬が反動で椅子に戻る。作用反作用である。
「な!?」
「わかったか?俺は目覚めた。0に成る事にした。法曹関係の職に就いてお前らを訴えるつもりだったが、復讐開始を7年ほど前倒しできるわけだ」
「…分かってるのか?俺がお前がバケモノになったとあいつらに知らせたら…お前より強いバケモノのA級が大挙してくるんだぞ」
「望むところだ」
実は少し期待している。そうすれば多少は経験になる。新興神を倒すのになりふりを構う必要は無い。どっちみち奴が出てきたら世界は変わるのだから、最新の神の理想世界では俺の復讐は果たせない。
「お前…俺に受けた恩を忘れたか?」
「恩ねぇ…お前が見逃した犯罪は幾つある?俺がどんな目に有ったのかを覚えていたらそんな台詞は言えないな…ほう、首になったからヤクザにも命狙われてるのか」
「…!?なぜわかる!?」
「心も読めるのさ、安心しなよ、盛田と須雁には殺させないからよ」
大分困惑しているな、こいつの情報を収集したが、ヤクザはこいつを殺すほどの意気込みは無い。精々金を返せと思っているだけだ、殺されるほどの額でも無い。もしかすると気晴らしに殺されるかもしれないが。
「俺を守るのか?」
「そう云う事だ、折角だから金もくれてやるよ。今の借金は…だいたい312万か」
鞄から札束を調度取り出して渡す。贈与税とか発生しそうだが、別にいいか、一応こいつは書類上は保護者だから問題ない気がする。
「糞ガキ…お前一体…いや、もっと寄こせ」
「いやです」
むしろ金返してほしいくらいだ。探査糸を付けてからさっさと応接室を出る。もう用は無い。こいつへの復讐はゆっくりできる。むしろ金を急いで懐に入れる哀れな姿を見ると復讐した気分になる。
「だが、どういう復讐をするか決めるのは新興神を殺してからだな、どうせいつでも殺せるんだから焦る事も無い」
「…意外ですね。殺すのではないかと思いました」
「こんにちは、真先生。後で職員室に会いに行こうかと思っていましたが先生から来てくれてうれしいですよ」
本音だ、汚い顔を見た後なのでいつも以上に美しく見える。あの汚物にも価値が有ったか。
「…何の話をしたいのですか?」
「中の話は?」
「だいたい聞いてました。応接室の話は聞く事が出来るので」
やっぱりそんな機能が有ったか、この学校には監視システムが無いのにそんなのは有るんだな。
「新興神について、それから俺自身の事をお話したいのです」
「そうですか、藤田君を送るので貴方も一緒に帰りますか?」
勿論ですと頷く、藤田と一緒というのが気に入らないが美女と車内で一緒になれるなら構わない。さて教室のロッカーに昨日買ってきたものを入れてある。それを持って来てはやく楽しいドライブをしたい。
「有馬田谷君、そもそもイデアの力ってなんなの?」
車中の藤田はそんな事を言ってきた。運転席の真を見たが、困惑した顔をしている。何回も教えたんだろうな。
「念動力とかだ」
「いや、そうじゃなくて…どういう由来の力なの?」
「ふむ、昨日も話したがカラーサークル理論と云うのが有る。それによるとイデアの光が力の源らしい。もちろん仮説だから異論もある。ビッグバン理論みたいにその内誰も語らない理論になるかもな」
「じゃあ…仮説でもいいから何か教えてくれない?勿論わかる範囲で」
教えろと言われてもな、興味本位だろうか?なら話す事も無いのだが、真にコミュニケーション能力が有ると示したいし時間も有るから暇潰しに話すかな。
「分かった、カラーサークル理論とは力の源はイデア恒星にあるという理論だ。あの星は現在赤・青・黄・緑・紫・白・黒の7色が確認されている。能力もその7つの種類に分類されている。カラーサークル理論とは主に能力者のための実用理論であり、能力の種類を示すものなんだ」
「なんで使えるのかとかは分かって無いの?その…コンピューターとかで分からないの?」
「その辺も関わってくるんだ。今の計測器はすごい性能だ、無限のエネルギーを持つらしい粒子も発見された位だからな」
無限ということは半径うん百億光年の宇宙より総エネルギー量が多い事になるわけだが不思議な話だ。
「とにかくだ。能力を実体として計測できるのは緑位なんだ」
「なんで?なんで緑だけ分かるの?」
「順を追って説明しよう。赤は創造、青はPSYベクトルの流れを生み出して操る力、黄は知性拡張、緑は増幅、紫は論理支配、白は空間操作、黒が時間に係わる力だ。勿論あくまでカラーサークル理論での話だ。PSYベクトル根元論によれば全てのイデア能力はPSYベクトルで説明できるそうだ。勿論どちらの理論も矛盾が有る」
「黒が時間…まだ解明されていないんだ…イデアが現れたのが50年前なのに?」
「正確には見える人間が現れたのがそのころだ。それ以前も無かったかと云うと分からないんだ。なにせ望遠鏡に映らないからな、さて何故解明されていないのかを説明しよう」
仕切り直すか、俺の能力にもかかわる事な訳だから人に話すと何か整理できるかもしれない。
「赤が創造と言ったが、赤はな、何もないところから炎や水を出したりできる。この現象を機械で計測するとな、一個の原子や粒子も何も無いところに突然出現するんだ。これを根拠にイデアの力は神の力と云う人も居る」
もっともそこまでの大それた力を持つ者はあまり居ない、宇宙を生み出すほどの能力者も今のところ確認されていない。
「それに対して緑は元々有ったものを増やすだけだ。炎や水を増やす。機械で計測すると量が増えたと分かる。まぁどうやって増えているのかは分からない能力も多いんだが」
変身型は多くが緑に分類される。つまり体組織が異常な増え方をするのだ。中には不定形のゲル状の肉になる者も居る。
「しかし緑以外が全て機械では観測できないことから、分類に意味がないと云うのが反論者達の定番の返しだ。緑以外は発見できない力だと云う事で共通点が有るからな」
「じゃぁ分類に意味が無いの?」
「そうでもないが、たとえば発火能力者が何も無い所から火を出すのもPSYベクトルを使って火をおこしても結果は同じだが、機械で計測できないとは云え、能力者達にとっては自分の力の色を理解するほどに力が強くなるとされる。カラーサークル理論は自分の能力を解明して強化するための手引なんだ。勿論今話したのは理論の序論くらいで、能力を強化するための本論がさらに続くのだ」
「そうなんだ…うん教えてくれてありがとう」
礼を言われたが何を聞きたかったんだろうか?大した事は話していないと思うが。
「藤田君、家に着いたので降りてください」
何時の間にやら周囲には瓦屋根の家が立ち並ぶ街並みになっていた。良い所に住んでいるな。
「あ、はい。ありがとうございました。えぇと…」
「今和泉 真です。用が有ればまた連絡します」
真は嫌な顔1つせず自己紹介した。しかしなんで俺の事だけ覚えるんだろうか?やはり記憶喪失は演技で俺と特別な関係になりたいんだろうか、もしや貞操を狙われているんだろうか?だったらもう話したくない。
「では有馬田谷君も送りますが…今貴方はどこに住んでいるんですか?」
「どこにも住んでませんよ。昨日は一晩中ぶらついてました。それから朝学校に来てシャワー浴びました」
「…これからどうするつもりなんですか?」
「何とかなりますよ。これまでもそうだったのでね、逞しく生きますよ。うちの学校には橋の下に住んでる人もいますからね」
「保護者の人は…どういう人なんですか?」
「汚職をしていた元刑事ですよ。奴の家なんて行く気は無いですし、もう離婚した妻の物になっている様ですから奴も家無しです」
「何故そんな人が保護者に?」
「ふむ…色々話したいのは山々なんですが…何せ長い話になるし…聞きたい事も沢山有るんで…」
「そうですね。私の家はすぐそこなので、そこで話しましょう」
ふむ、事前に調査していたので真の家が近くなのは知っていたが、まさか上げてくれるとはな、良いんだろうか俺は野良犬とそう変わらない性欲を持つ男子高校生なのに。
「今お茶を出します」
「どうぞお構いなく」
真の家はなかなかでかい、昔の武家屋敷と言った様相だ。道場に畳の部屋、古き良き日本だな。こんな家に1人で住んでいるとは金持ちだ。
「それでは…私達の事をお話ししましょうか?」
「いえその前にですね、お見せしたいものが有ります」
そう言って鞄の中から鉛筆を取り出して自分の首に刺す。
「なにを!?」
驚いているな、まぁ首から血の代わりに白い糸が出てくれば誰でも驚くか。まぁ事前に糸を仕込んでいただけなので、別に血が流れてないわけではないのだが。
「イデアですか、いつ目覚めたのですか?」
「色々と隠していて申し訳ありませんが、何もかも話すので許してくれますか?」
「内容次第です」
「では、まずは変身して話すとしましょうか」
そう言って変身したが、大層驚いている。ふふふ気付かれていなかったか。そうして月曜から土曜までの事を話してみた。百面相が楽しめたので話した甲斐があった。
「核爆発は貴方のせいだったのですか?」
「自爆スイッチを押すのを止めなかったのは確かですが…どうなんでしょうね?」
「まぁ…多少の責任は有ると思っていてください。勿論持ちこんで爆発させた人が悪いですし、貴方の罪と云えないかもしれませんが」
どうなんだろうか?死者はヤクザ位しか居なかったそうだが、それでも拙い気はする。俺はスイッチを押さなかったが、だからって坊っちゃんが押したのは多少俺の責任も有るかもしれない。
「それで廻君は私に何をさせたいのですか?何故私に正体を明かしたんですか?」
「新興神が出てくるわけですからね。奴とは戦うつもりでしたが、勝てるかどうか分からない。だから迎え撃つか倒しに行くかを決めかねているんです」
「つまり…能力者監獄に入りたいのですか?」
「あそこなら奴も紫の頂点に立つ『 ニート・ニート・ジャンク』の力によって力を制限される。迎え撃つより勝機があるかもしれない」
「無理ですね。勝てる見込みは有りません」
やっぱりそうかな。まぁ今日この事を話したのは、迎え撃つには戦力が無い、しかし突入しても無い。どっちも無いならどっちを選んでも変わらないと思ったから話したのだ。だから彼女に決めてもらおうかと思ったのだが…我ながら焦っているな、選択を人の手にゆだねるなんて。
「…通報されるとは思わなかったのですか?」
「どっちでもいいんですよ。復讐のためなら刑務所に入ったって構わない」
「いい加減にしなさい」
静かに怒っているな、腹の底が冷えそうな声だ。
「貴方の人生は想像するだけでも辛いものです。正直言って地獄でしょう。とても同じ人生を歩む気にはなりません」
俺も歩みたくは無かったな。だからできればこれからは幸せになりたい。
「ですが自分を粗末にするのはやめなさい。例え貴方を通報しても大した罪を犯していない上に証拠も無いから刑務所には入れないでしょう。ならば貴方はどうしますか?」
「勿論犯罪を犯します。復讐のために」
「それが駄目だと言っているのです。いいですか、これからはハザード狩りをやめなさい」
「構いませんよ、ただ実験と修業はしますが」
「実験と言いましたが、ちゃんとした実験をしているとはとても思えません」
そうかもしれない。糸を作った時のレポートにも気温や日付、その日の体調やイデアの色を記録していないから人に見せられるものではない。どんな糸が作れるか調べただけだ。
「よく分かりました。貴方をチームに入れます。目を離すと何をしでかすか分からない」
「そんなこと言われても…」
「今日から此処に住みなさい。拒否しても許しません。いいですか?0級を目指すなら私に従いなさい。いいですね?返事は?」
「分かりました。よろしくお願いします今和泉 真さん。敷金とかいらないですか?家賃は御幾らですか?」
「そんなものいりません。私が新しい保護者になります。代わりに私の監督下に入ってもらいます」
なし崩しに美人女教師との同棲が決まってしまったな、最近やっぱりツイてるな。上手い事行くと良いんだが、死ぬ前にいろいろ楽しみたい。
怪人図鑑No.11
名前─張須 吉子
本名─同上
イデア能力─無し
戦闘能力─無し
特殊能力─無し
成長性─10上の学年学力テストで30位から落ちたことは無い
カラー分類─無し
総合評価─世界を恐怖に陥れた『教団』に操られていたイデア能力を持たない少女。能力者被害救済組織にて治療中




