第一話 ヤクザ屋敷大炎上!蜘蛛魔人爆誕!
教室の外には深紅の太陽が光っている。実に良い天気だ。
「有馬田谷…有馬田谷 廻!耳栓を取れ」
我ながらすごい名前だ。アリマタヤ カイって…耳栓を取る。何だろうか?
「何ですか小田先生?」
担任の小田は黒板を指差す。問題を解けと言うことらしい。
『7×7+7=』
…からかってるのか…もしやいじめだろうか?いや此処は名前を書けなくても入学できる『芸経成高校』である。掛け算がテストに出ても何の不思議も無いところ…多分ギャグでもいじめでも無い。
「56です」
「正解だ。ゴローちゃんだ、ハハッハ」
教室の学ラン集団がざわめく、寒いダジャレ?に反応したのではなく、俺が正解したことに驚く声だ…お前ら…この学校で勉強するたびにバカになっていく気がする。
キンコンカンコンと終了を告げる鐘が鳴る。2800年も近いというのにこんな音を使ってるのは此処くらいだ。黒板にいたっては化石としての価値が有るのではなかろうかと云うくらいに古びている。
「お、終わったか。HRは何も無いから帰っていいぞ。有馬田谷は藤田の係だ。あいつは保健室に行ってるから、ちょっと待っててくれ。すぐ来るから」
めんどーくせ~俺以外の連中は小田も含めてさっさと帰宅する。もっとも小田以外の殆どはパート労働に行くので家には帰らない奴も多い。この学校に通う学友達は貧困階層の人間が多い、学費が無料なのでそう云う人間が多いのだ。
もっとも一部中流階級の人間も居ることは居る。そいつが俺に話しかけてきた。
「よう根暗!藤田係なんてついてねぇなぁ~」
豊臣秀世士である。ギャグではなくそう云う名前だ。別に小男でも猿顔でもなく、なんちゃってイケメン風の顔で170cm弱の汚い茶髪男だ。
「クラスメイトを差別して陰口言うお前の方が根暗じゃねーか」
豊臣が笑い転げる、しかしこいつも良く笑う奴だ。人生楽しそうで羨ましい。もう1人残った眼鏡の小太り男がやってきた。クラスに残って居るのは汚い茶髪と汚い眼鏡と豊臣曰く根暗の俺の3人か…さっさと帰りたい。
「相変わらず秀世士殿は笑い上戸でゴザルな。廻殿~今日もツッコミが冴えているゴザルな!」
ツッコミ?あれをツッコミと認めたら漫才師の幽霊に取り殺されるぞ。
いまどき珍しい眼鏡着用男は黒田…いつもメガネと呼ぶから下の名を忘れてしまった。この2人はそこそこ仲の良い奴等だ。2人とも俺と違って金は有るが、多少は友情を感じている。
「つーかお前らさっさと帰れよ。何時までも残ってるとホモに襲われるぞ?」
豊臣の笑いがピタッと止まる。
「それもそうだな、じゃな廻、藤田係頑張れよ」
「そうでゴザルね。今日は平成アニメーション回顧特集も有るでゴザルし、では廻殿また明日!」
「じゃあな、また明日。帰りに保健室見て行ってくれよ、藤田の奴が実は先に帰ってたなんてのは勘弁して欲しいからな」
2人が分かったと言い、教室を出る。ホモに襲われる危険性を認識するのは入学して2ヶ月も経てば充分実感する。ここの卒業生は1割が刑務所入所、2割がヤクザ、3割が無職、4割がまともに就職、5割がホモに成って巣立って行くと云う話だ。在学中に強姦で捕まるホモも居る。大学に進むのは1年に1人居るか居ないかだ。1学年は約1000人なので進学率0.1%である。もちろん0の年も有る、ひでぇな…
ちなみに此処は名目上共学だが男だけだ、女教師も居ない。望んで来る奴は少ない。
「なんでこんな高校に…内申点さえ有れば天上に…いや今更言っても仕方ないか」
しかし藤田は遅いな、ん?クォ-クメールが届いた。豊臣達か?いや…バイトの連絡か…今日は厄日みたいだ。結局30分待ってようやく藤田が入ってきた。中肉中背の特徴の無い男だ。
「来たか、じゃあ行くぞ藤田くん」
「えぇと君は?なんで僕の…」
「俺はクラスメイトの有馬田谷 廻だ。一緒に下校する友達だ」
「あ…あぁそうだったね、じゃあ帰ろうか」
自分の鞄を持って帰る。藤田もきょろきょろしながらついてくる。校門どころか学校のグラウンドにさえ人が居ない。この高校で居残りする者は希少だ、部活も盛んで無い。教師さえ5時前には全員帰宅する。
「じゃあ車呼ぶからそれに乗って帰りな、住所は母中町の5番地13号だったな」
「く、車?タクシーなの?住所は合ってるけどなんで…」
全自動車が一台来て扉が開く。あぁ…此処からが長いんだ…
「これに乗れば家まで帰れるから、じゃあ俺はこれで」
「ちょ、ちょっと待ってよ、人が乗って無いよ?」
全自動車なんだから当たり前だろうに。
「これは全自動車だ。手動車免許は要らないから」
「全自動車?ちょっと待って…いま何時…何年なの?」
面倒くさいな、まぁバイト行きたくないから、少しは付き合うか、一応同期の桜だ。
「2797年だ」
これ云うの何回目だろ、驚く顔も見飽きたな。
「700年後!?」
またその反応か、激昂して喋り出す。
「嘘を吐かないでくれっ!今年は西暦2013年だろ?周りだって…そんなに経っているようには…」
「なんで西暦なんだ?」
今年は西暦で云うとだいたい2100年くらいだが、別に教える意味は無い。何回も教えたのに覚えないのだから徒労である。
「な、なんでって…」
「西暦…グレゴリオ暦が地球の全世界で使われてた日なんて歴史上1日も無いんだ。日本だって元号が有るし、他の文化にもヒジュラに仏滅紀…今は新世界暦なんてのも、他にも色々あるんだから、日本で西暦使わなくてもいいだろ?」
実際今時は閏年なんて使う暦は無いので、ある意味では連続した暦と云うのは消滅していると云えない事も無い。科学の進歩万歳である。科学が神も悪魔も殺すのだ。
「なんで…だって…」
ちょっと混乱しているな、どうせ忘れてしまうんだろうが言っておくか。
「藤田君、君は記憶や知識を失い続ける病気らしい。だからそう云う状態になるんだ。でも大丈夫だ。その内治る」
いい加減面倒になってきたので、混乱している藤田を全自動車に押し込めて退散する。流石に週一でこんな事していると一々付き合っていられない。俺は介護士ではない、金を貰えれば喜んでやるが、無償な上に、海岸の砂を数える事にも匹敵するこの無益な行為には付き合えない。
「じゃあまた明日、藤田君、いい加減俺の名前を覚えてくれ、有馬田谷 廻だ。人からは良く覚えやすい名字だと言われる」
全自動車に手を振って、さっさと帰宅する。バイトか…死なないと良いのだが。
「そーれ今日は前歯何本折れるかな?」
右フックを喰らったので、頭がくらくらする。地面を見ると歯が何本も落ちている。口の中が鉄の味で一杯になる。なんで自宅の庭先でこんな事されなきゃならんのだ。
「なんでだって顔だな、慰謝料の所為さ。お前は金を払わなきゃいけない。だから殴られる」
今度は左のアッパーである。我ながら良く気絶しないな、フラフラになって塀に激突し、へたり込む。足がガタガタ震えている。歯は奥歯以外残っていないので噛み合わせが悪い。
「まぁこんなもんか、しかし相変わらず目だけは1人前だな」
俺は目の前の奇矯な格好の男からずっと目を離していない。アッパーを喰らった時は流石に一瞬意識が飛んだので目を離したが、それでも心の目はずっと奴を見ている。
「ぼばべばぶぅ、ぐぶぅ」
言葉にならない嫌味を言う、口が切れていたい。視界も赤いし鼻血もひどいので息が苦しい。息をするたびに痛みが走る。
「ははっ、何言ってるかさっぱりだ。まぁ度胸は認めるよ。そいじゃあ回復してやるよ」
目の前の金色の全身タイツを着た奴を医者だと思う人は居ないだろう。まぁこいつは医者ではないが、俺の傷を治せるのは確かだ。
「キャッシュ・トレード!」
金優戦士キャッシャーはバカみたいな言葉を叫ぶと、キャッシャーの財布から日本銀行券と硬貨が飛んできて俺の口や顎に付着する。歯や顎の傷が元通りに治っていく。夢でも見ている様だが、現実だ。これがこいつの能力マネー・トレードだ。
天空に輝く太陽系第二の恒星、幻の星イデアに依り与えられた超能力だ。
「今日は…5,704円だな、残りは99,830,750円だな、頑張れよ」
キャッシャーが去っていく。こんだけ殴られて5千円強か、酷いな。借金を返す方法にこんなのを選んだのは俺ではないが、あまりにも割が良くない。だからってこの方法以外で返す手立ても無い。回復するからまぁ良いだろう。疲労は回復していないので緩慢に立ち上がる。
「ふぅ…バイトは3時間後か、さて庭の血や汚れを落とすか」
日常茶飯事だ、悔しいのは確かだが、奴はC級と云えどヒーローである。戦闘力は第二次大戦時代の戦車よりやや弱いくらいの性能だ、手加減はされているらしいが流石に勝てない。
掃除が終わり、一軒家の中に入る。名義は亡くなった両親の物だが、借金の関係で俺は実際にはただの管理人にすぎない。家の中に入り、玄関に置いてある何の変哲も無い紙を掴む。紙の表面に数字が出現する。
「才能値は…相変わらず4か…」
才能紙は自分の才能を数値化するものだ。あくまでも目安と言われるが、日本人の平均値は5だ。俺は少し足りない。もっとも才能値は試験の得点や肉体の才能には関係無い。
あくまでもイデアとの反応値なので、本来は才能を示す数値ではないのだが、高い奴は概ね優れた人間である。
「イデアは見えるのにな~」
あの星は突如出現した太陽系2番目の恒星だ。もっとも天体望遠鏡には映らないので天文学者はいまだにあの星に名前を付けていない。能力を持つ者だけが見える星だ。ただし、ほとんどの能力者は太陽の明かりの弱い夜にしか見えない。
「俺は昼間でも視えるのに…それこそガキの頃から…」
だがなんの能力も使えない。イデアが視えるものは大なり小なり力を使えるが、俺は使えない。イデアの力が何なのかを説明する理論は『カラーチャート理論』や『PSYベクトル根元論』等が提唱されたが、明確な答えは出ていない。何に由来する力なのかもわからないし、何故使えるのか分からない力だ。
「早く目覚めてくれないと、いつか弾みで死んじまうぞ…」
能力が覚醒する事のある状況はいろいろ体験した。危機に在る少女を自らの危険を顧みず助けたり、雷に直撃したり、能力者に殺されかけたりしたが目覚めない。藤田も能力者かもしれないと云う思いから世話を焼くが、奴のはただの病気かもしれない。
「復讐は…今のままではできないかもな…」
俺の人生はマイナスから始まり、ずっと下降線を辿っている。まぁ産まれてすぐ死ななかっただけましであると云えばそうだが、日常的に気絶寸前まで殴られる状況を幸福だとは思えない。
「まぁいいさ、復讐できなくてもシケた生き方する必要は無いんだ。さて飯食うかー」
独り言がひどいが、殴打されまくったので混乱しているのだから仕方ない。正直泣きそうだ。台所の鉢で育てている『アグラ社視肉mkⅢ』を鉢からちぎって採取してそのまま手掴みで食べる。箸の使い方を忘れそうだ。
「いただきます。今日の味は…うん、この味だ」
あれの味だ。いつものことだが吐き出さないのは、自分で言うのもなんだがすごい根性だと思う。視肉は飢餓を救う為に開発された発明で、大気中の水を吸収して成長し、人体に必要な栄養素がすべて入った究極完全栄養食品だ。これを食べれば歯や内臓も再生するらしい、まぁ歯はさっき再生したばかりだが。
「ただ…味が酷い…酷スギル…」
とにかく酷い、毎日食べれば慣れそうなものだが、視肉は毎日味や臭いが不味い方向に変わるので絶対に慣れない。相変わらずヨーロッパでは毎年100万人くらい餓死しているらしい。役に立たない発明だ。何とか食い終わる。
「たらふく食ったな、さてバイト行くか」
そう宣言し、血の付いた学ランから安物の普段着に着替えてから、戦闘員スーツ他の支給品を脇に抱えて出発する。今日の現場は山奥らしい。全自動車に早めに乗るか、30分前行動を心掛けよう。5K仕事とは言え金を貰っているのだから真面目にやろう。
「と、言う訳でガソリンを運んできてもらいました。これを何に使うか分かる?」
会社で戦闘員スーツに着替えてからデビルサタン派遣から借りた手動車に乗って、山奥の無牢組所有のヤクザ屋敷に到着した俺は、ハイオク・レギュラー・軽油・灯油と書かれた中身入りの30Lタンクを運び、トラックから降ろしていた。そこにストライプスーツを着たヤクザの坊っちゃんが話しかけてきた。
坊ちゃんと云っても30中盤くらいのハゲだが、心の中でだけ坊ちゃんと呼ぶことにする。バイト中はテキトーなあだ名をつけるのが趣味なのだ。
「いえ、知りません。これ石油なんですか?初めて見ました」
歴史の授業では習った事が有る。これが産業を担っていた時代もあったという油か、結構重いもんだ。まぁ戦闘員スーツを着ているおかげで体力が1%上昇しているのであまり重くない…関係無いか1パーじゃな。
この屋敷の燃料だろうか?これだけあれば10年くらい持ちそうな量だ、まぁ石油のエネルギー効率なんて詳しくは知らない。
「そうだろうねぇ…ヒヒッ!まぁ中庭に持って行ってよ。とりあえずハイオク2つだけね」
ヤクザの坊っちゃんが先導するのでタンクを持ってついていく…なんでこんなバイトせにゃならんのやら。慰謝料を払うためとはいえ、俺はまだ高校生だ。留年も浪人もしてないのに…中庭に着いた。広いなーちょっとした運動場だ、高そうな彫刻も沢山ある。なぜか彫刻が焦げている…嫌な予感が…
ヤクザがこんなに儲かってる世の中はおかしいと思うが仕方ない、何時の日か見返してやる。運動場の中央に真っ赤な男が居る。空には相変わらず深紅のイデアが輝く、綺麗なもんだ。
「じゃあ、あの人の前まで持って行ってくれ」
ヤクザの坊っちゃんは不快な笑顔だ…嫌な予感がする。こういう時の予感は大体当たる。逃げたいがもう遅い、周囲はヤクザだらけだ。腹を括ってガソリンを運ぶ、しかし赤い男だ、髪も赤いし、赤い背広なんて有るんだな。ん?どこかで見たような…
「よう!俺のこと知ってる?」
彫りの深い西洋人が低い声で日本語をしゃべ…フレアコンドルだ。元0級ヒーロー…ゼロ…隔絶の証明…
「フレアコンドルさんですよね、本名は…ジャック・カーライルさん」
別名焼き鳥だ。なんでこんなとこに?落ちぶれたのは知っているが、ヤクザの用心棒にしては戦闘能力が高すぎる。
「へぇ、知ってるんだ。あいつらの仕切りも悪くないな」
笑顔になった。獲物をいたぶる類の笑顔だ。持っているタンクが何か見えない物に切り裂かれ、中身の液体が噴き出て、俺の脚にかかる。嫌な臭いだ…発火能力者+燃える液体+ヤクザの土地+ヒーロー落伍者=ヤバイ、殺される。
上半分だけのタンクをその場に捨て、一気に方向転換してヤクザの坊っちゃんの下に全速力で駆ける、奴の近くなら燃やせないだろう。
目の前に真っ赤な男が出現した、瞬間移動能力ではなく単に速く動いたのだ。このくらいはB級でもできるはずだ。こいつは降格されたとは言え隔絶の証明たる0…この程度は簡単にできるらしい。
「悪くない判断速度だが、能力が足りないな。遅すぎる」
ドォゴ!という轟音が聞こえたと思うと、真っ赤な男が後ろに下がって…いや俺が飛んでるのか。ちょうどさっきまでフレアコンドルの居た辺りに激突する。
「へぇ手加減したのは確かだけどまだ生きてやがる。お前良い火元だな」
胸を蹴られたのだろうか?胸が足の形に凹んでいる。全然痛くないのは感覚がマヒして…すげぇ痛くなってきた。麻痺するなんて甘かった。痛みで全く動けない…
「げほっ!なんで…」
疑問が多いが、ハッキリとしているのは殺されそうだということだ。わざわざ派遣会社に頼むこと無いのに、ヤクザなんだから適当に浮浪者でも拉致ってくりゃいいのに。
「なんでかって?まぁ聞きたいことはあるんだろうが…強いて言うならバースデーケーキの蝋燭さ」
フレアコンドルが何か言うと俺に火がついた。比喩ではない、本当に燃えている。
「0級の生活は一度味わったら止めれない」
なんか言っているが、燃えているせいか周囲の空気が歪んでいるらしく良く聞こえない。
「それでヤクザの用心棒…正直給料は全然足りねえ」
もっとでかい声で喋ってほしい、全然聞こえない。
「それでしょうがねえから、こうやって遊ぶのさ」
…寒い、比喩ではなく本当に凍えるように寒い。燃えてるのに何故だ?
「ガソリン遊びは金もかからないし派手だ」
周囲の熱が変化したせいだろうか、酷く寒い、燃えているのに極寒の大地より寒い気がする。
「で、お前みたいな俺の元ファンを燃やすと、元ファンの悲鳴が楽しめるわけだ」
なんでサムいんだろう…いかん体温が変化しているせいか頭が回らなくなってきた。
「…しかしお前叫ばないな、強く蹴りすぎたかな?」
なぜさむい、そうだ、ひにあたろう、まわりがひだ すっげぇちかい ひはいらないな
「つまんねーな、もう燃えカスにしちまうか。フェニックスボンバー!」
うえにはきれいなほしがある あか…いや青くなった。深海の色だ…周囲が爆発しているな。よく見ると…視界が広いな、なんでだろ。すぐ傍に赤い液体でできた馬並のサイズの鳥が居る。炎を液体状にして操るのはB級でも中々出来ないことらしい。いつの間にか空のイデアが完全に変色している。真っ赤から真っ青だ。
「…イデアが青くなったか…好きじゃない色だが…」
爆音で言葉は聞こえないはずだが、周囲の声が聞こえる。ヤクザの下卑た笑い声がいっぱいだ。
「耳が良くなっている?いやこれは…」
自分の体を見る。変貌している。指が虫のように攻撃的な爪になり、全身真っ黒な体…いや幾つもの色が蠢いている。どうなっているんだ?そんなことよりひどく腹がすいている。なにか食べよう。立ち上がり、焼き鳥を食べる。不味いな、視肉より不味い。
「ウギャーーー!な、何だお前?」
「殺しかけといて忘れるなんてひどい奴だ」
焼き鳥の腹を殴打する。勢い余って貫通した。
「ゲボォ…お、お前…ゼ、0級だぞ俺は、お前なんかに…俺は…いつか返り咲いて…」
死んだか、御丁寧に最期のセリフまで日本語で通じるように言ってくれた。意外に良い人だったのか?道を踏み外したばっかりに…
「一応言っとくが俺は別にファンじゃない」
ちゃんと聞こえていたのだ…いや違うな、残った音を聞いた?いや…なんだろうかこの感覚は、庭に音達が居る。
『やめてくれよぉ!』
『借金はたった10万だろ?なんでこんなこと…ぎゃっ!』
『あちいよ~おかあちゃん~』
へばりついた音を聞いているのか?奇妙な感覚だ。これも能力か?今時は1人1能力と云う時代でもないから変身+感覚強化+サイコメトリー、3つ持っていても不思議は無い。
「な、何だお前?蜘蛛?蜘蛛人間か?」
どうやら蜘蛛らしい、後で鏡を見るか。
「ついに変身できたか、完全変身型でないといいんだが…いや贅沢か」
手を開いたり閉じたりする。足元から石を拾って掴むとサラサラの砂になった、凄まじいパワーを感じる。坊ちゃんが叫ぶ。
「お…お前?フレアコンドルを?殺したのか?どっどうだうちと新しく契約…」
「すると思うか?常識で考えろよ?」
人を焼き殺そうとする奴とは普通契約しないだろう。
「ヒッ!お、お前ら撃て、撃ちまくれ!」
バンバン撃ってきたな、いまどき火薬式の拳銃なんてあるんだ。弾は止まって見えたので掴んでみたが、潰れてしまった…もっと繊細なコントロールが必要だな、原形を留めたまま掴めたのはたった2個だ。
まだ諦めないのかヤクザは新しい武器を…お、バズーカだ。昔の戦争映画で見たことある。ゆっくりと直撃したが効果は無いようだ。耐久力はB級ヒーロー相当か、この力さえあれば…
「やっと…やっと手に入れた…明日を掴むための力を…やっと復讐ができる…この力が有れば…マイナスから0を目指せる…」
「ふ、復讐!?」
別にお前に復讐するとは言ってないが、と云うかどうしようかこの状況。どうせこいつらは俺のことなど何も知らないから殺す気も無い。俺を殺そうとしたのはあくまでも焼き鳥だけだ。
目には目を歯には歯を、過剰な報復は必要ない、まぁ現在進行形で撃たれてるが、気にしない。向こうも利くとは思ってない。
…弾が切れたのかヤクザ子分達は次々に逃げだしているが、坊っちゃんはポケットから何か取り出した。
「ば、化け物っ!これが何か分かるか?核爆弾の自爆スイッチだ!某国から流出したもんだ!」
アブねえな、もし間違って押したらどうするんだ?まぁまさか本物じゃないだろう。
「押せばいいじゃないか、どうせ押せるわけ…」
「んだっと!?あっ」
「あっ」
押しやがった。
世界がしろい光に包まれる。音も光も一切なくなって、俺は白い空間を吹っ飛ぶ。これが爆心地の光景か…或いは死後の光景かもしれない…いや、上空には真っ青なイデアが変わらず見えるので、どうやら俺は生きているらしい。耐久力の評価をA級以上に上方修正する。本当に核兵器ならの話だが。
随分吹き飛んだが、本能のままに人差し指から糸を伸ばし地面を掴む。できる事が増えたが、できない事も増えたのだろうか?力の確認はすぐやっておかなくては復讐計画に支障が出る。
「人間の姿には戻れるかな…いや放射能の影響を考えるとやめておいた方が無難か」
まだ戻れるかは分からないが、戻れるもんなら戻れる方が都合が良い。周りはすっかり景色が変わっている。木も草も薙ぎ払われて燃えている、まさに焼け野原である。
「ヤクザが核兵器を持つなんてまったく物騒な時代になったものだ」
怪人図鑑No.1
名前─マダラオニクモ怪人
本名─アリマタヤ・カイ
握力─マウンテンゴリラ100頭分を凌駕する
ダッシュ力及び飛行力─第三次大戦期の飛行戦闘機を凌駕する
特殊能力─特殊繊維生成及び数多の能力
成長性─不明
カラー分類─不明
総合評価─最低でもA級以上、0級に成長する危険度大