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出会い

この話は前作から少し続いているので、よければそちらも読んでみて下さい。

「好きです!付き合ってください!」


「...ごめん、僕...好きな人がいるんだ...」


「そ、そっか...わかった、ごめんね...」


「.....」


「じゃあ、私、もう行くね...」


「...うん...」


「またね、これからも友だちでいてね!」






という場面を、俺は今見ていた。



男は終始やりづらそうにそわそわしていて、女の子の、無理して作った最後の笑顔は、俺の胸を痛めるに十分だった。






恋はいつか散る。そう、必ず。

少なくとも俺はそう思っている。なぜかって?簡単なことだ。今までがそうだったからだ。




だけど、誰だって新しい恋をした時に、最後の恋になるように祈るだろう。

最初から、これも経験だと、誰かを踏み台にしようという気持ちでいたとしたら、それは恋ではない。当たり前のことだが。




もう一つ気になるのは、愛だ。

愛とは何なのか。多分誰もが通る悩みだ。

「カタチのないもの」であるのも確かなようだし、「何よりも大切」なのも、そうかもしれないと思う。

でも、ではそれは何なのかと、考えたところで、なかなかわかるものではないらしい。




そもそも、人は愛の内に生まれてくるはずではなかったか。生きているうちに、わからなくなってしまうのだろうか?




俺は、学校帰りの公園で、煙草の煙を吐き出した。

こんなこと考えるより、今度の定期テストで馬鹿馬鹿しい点を取らないように、勉強でもしておいた方がいいかもな。そう思って、俺は煙草を携帯灰皿にねじ込み、公園を後にした。




家に帰ると、涼子さんがキッチンで仏頂面をしていた。包丁片手に。


「ただいま、今日のごはん何?」

「お帰りなさい、それがなかなか献立が決まらなくてね、何か食べたいものある?」

「...じゃあカレー」

「あんた昨日もそう言ったわよね...」

「カレーうまいじゃん」

俺はカレーライスは総合栄養食だと思っている。


「毎日毎日カレーばっか食べてたら飽きるわよもう...じゃあ今日はカレーにするけど、明日は違うの考えてよね!」

「へーい」



涼子さんがカレーを作るために冷蔵庫を開けるのを見届けて、俺はポテチとジュースを持って自室にこもる。




ちなみに涼子さんとは、母さんの名前である。両親が離婚してから、なんとなく俺は母さんと呼びづらくなり、名前で呼んでいる。ただ、今はもう母さんと呼んでもいいのだが、涼子さんがそう呼ばれるのを気に入っているらしく、なんとなく定着してしまった。



父さんにはもう長いこと会っていない。それもまあ、別にいいかと最近では思っている。



離婚ということで思い出したが、いとこの両親がこの間離婚した。

いとこの名前すら覚えていないが、わりとかわいい子だったような気がする。背が小っちゃくて。



いかん。勉強せねば。







その日は朝から、気が滅入るほど暑かった。



「永井!よっ!」クラスメイトの高橋が声をかけてきた。

「よう、今日暑いな」

「ああ、まったく、まだ五月なのになんでこんな暑いんだよー」

「太陽に聞いてくれ」

本当に太陽に聞きたい。

「なあー永井ー職員室にかけあって五月からエアコン入れられるようにしてくれよー!」



今日がテストだってのに、関係のない話題でここまで盛り上がれるその神経が俺にはわからない。振ったのは俺だが。周りのみんなはわりとピリピリした奴ばかりだというのに、高橋は俺にしがみついて離れない。



「ひっつくな!余計暑い!」

「だって職員室はエアコンついてんだぜ?ふこーへーだー!!」

「わかったから離れろ!」



俺は高橋を引っぺがし、席に着くと、早速教科書を広げる。

第一日目は現国、政経、数A、科学だ。何で一日目がこんなにウエイトが重いんだ。



テストが始まり、答案用紙を前にするが、なかなか解けない。やはり勉強量が足らなかったか。今更後悔しても遅いが。ああ、覆水盆に返らず。





数Aと科学はたぶんなんとかなっただろう。しかし、現国と政経がわけがわからなかった。俺は頭が悪いのだろうか、落ち込むところではあるが、やはりそこは勉強が足らなかっただけなんだろう。





いつものように、公園の人目につかない木陰のベンチで煙草に火をつける。先輩に教わったマルボロである。学校帰りに一服するのが最近の楽しみだ。



テストはなかなか解けないし、暑いし、今日はあまりいい日に思えない気がした。木陰だというのに、コンクリートの地面から昇る熱で台無しである。



ふと見ると、公園の真ん中で、女の子が鳩に餌をやっていた。小さなパンをちぎりながら、鳩に投げつけている。食べさせたいのか攻撃したいのか、はっきりしてほしい。


女の子は、手元のパンが半分くらいになると、しゃがみこんで、そのパンを食べ始めた。これもあまり見ない光景だ。でも、それを見て、きっといい子なんだろうなと思った。


パンを食べながら、同じくパンの欠片を啄む鳩やら雀やらを見つめている。


その子は、どこかの学校の制服を着ていた。見かけたことがないものだ。きっと、この辺の子ではないんだろう。


背が小さくて、制服のスカートがかなり長く見えるその子は、鳩に、おいしい?と話しかけていた。ああ。



俺は、気がつくと煙草を投げ捨て、その子に駆け寄っていた。



「あの、こんにちは」

「こ、こんにちは」


少し驚かれたが、返事が返ってきた。それはそうか。見ず知らずの他人が声をかけてくれば、警戒するだろう。


「あの、僕はこの辺に住んでいますが、あなたは、この辺の人なんですか?」

「あ、いいえ、ちょっと遠いです...」

「そうなんですか...」


ああ、何か話さなければ。間を持たせたい。

しかし、初対面で話せることなんて限られてる。



俺がそわそわしていると、彼女は、持っていたスクールバッグから、もう一つ、小さなパンを取り出した。そしてまた、ちぎったパンを、楽しそうに鳩に投げつける。何か鳩が気の毒になってきた...



「あなたもあげますか?」

彼女は、パンを半分に割って、俺に差し出す。

「いいんですか?」

「どうぞ」


パンを受け取るときに、少しだけ指が触れた。顔が熱くなりそうなのを抑える。



俺はパンをできるだけ小さくちぎって鳩にやった。

彼女の手元のパンがなくなってしまった後は、気が気でなかった。




だけど、その時は来てしまうものだ。

突然、彼女のスクールバッグの中で、ケータイが鳴った。


「もしもし、あ、終わった?...うん、うん、わかった、じゃあ駅に行くねーはーい」

彼女がケータイを閉じる。

「じゃあ私はこれで...」


「あの、また会えませんか?」

俺は言った。

「えっ...」

「いつでもいいです、また、会えませんか?」

かなり無理な話だとはわかっている。でも、俺はこの人とまた会いたい。


「...すみません、私...ここにはいつも来てるわけじゃなくて...」

彼女は申し訳なさそうに、うつむいた。


「俺、永井竜也っていいます、俺、またあなたと会いたいです!」

俺たちの視線が初めて繋がった、ような気がした。



彼女は控えめに、こう言った。

「....私は、佐々木、愛です...えっと...次にいつ来るか、わからないんです...」

「じゃあ、連絡先教えて下さい!」

彼女は少し戸惑っていた。

「お願いします!」


「じゃあ、メルアドでいいですか?」

彼女は頬を染めて、ケータイを開いた。

「はい!!」

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