表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なんちゃって世界征服?

作者: 空戯言

「大抵の物語は、「そして皆は幸せに暮らしました。めでたしめでたし」で終わるだろう?それが俺は嫌なんだ。」


たった十年生きただけの子供が、そう言った。

目の前に散らばっているのは、子供向けに書かれた絵本の残骸。


―――あーあ、此処での俺の唯一の楽しみだったのに。


子供の手の中にあるのは、何処かの高尚な誰かが書いた論文をまとめた一冊の本。

きっといらなくなったからといって此処に放り込んだのだろう。

定期的に放り込まれる本の中にはいつも二、三冊はそういった本が紛れ込んでいた。

生憎と俺はそういった本は表紙だけで読む気をなくすため、大抵は目の前の子供が読むことになる。

とても子供の読む物ではないが、その慣れた異質さよりも、その時の俺は子供の言葉の異質さの方に反応した。

どうしてかと尋ねると、子供は小さく鼻を鳴らした。

子供にとっては、どうやら答え飽きた質問だったらしい。


「だって、その“皆”の中に悪役(おれたち)は含まれていないじゃないか。」


存外拗ねたような声音だったので、思わず噴出した。

じろりとねめつける様な視線すらも、目の前の子供が元来寂しがりやな性格をしていることを知っているために全く怖くない。


「“皆”は悪役(おれたち)の思いなんか汲み取ってくれないしねぇ。」


笑って誤魔化して、「けど、」と呟く。

子供は数秒前に拗ねたことを忘れ、こちらに視線を向けて視線を促す。

ああ本当に―――どこまでも子供らしい子供。


「“皆”の中に悪役(おれたち)は含まれていないけど、“皆”が悪者(おれたち)とは考えないの?」


きょとり、子供が目を瞬く。

なるほど、やはり考えたことはなかったらしい。


「根底を覆してもいいと思うな。・・・俺達は本当に“悪”なのか、とか。“悪”とは本当にわるいもの、なのか・・・とかね。」


屁理屈である。

自分が唱えるのは、すべて屁理屈であるが――――――子供はぱあっと表情を明るくした。

子供はいつだって純粋なものだ。それは、目の前の子供も例外ではなかったらしい。


「そうかそうか、そうだよな!それなら悪者(おれたち)が“皆”に成り代わってもいいんだよな!」


ああうんいいんじゃないかな、投げやりに答えた言葉に子供はさらに喜色を濃くしていく。


「じゃあ、此処に閉じ込められてる必要もないわけだよな!」


その言葉に答える前に、世界が弾けた。

ぱちん、なんて可愛らしい音なんかじゃなく、耳が聞こえなくなるくらいの轟音を撒き散らして、世界が弾けた。






ケラリケラケラと、何にもなくなった世界で一人の子供が笑い声を上げた。

傍らにはしょうがなさそうに後をついて行くもう一人の子供。


彼らがその後どこに行ったのかも。

後をついて行った子供の手に絵本が抱えられていたことも。

当人達以外は誰も知らない。

何しろ、彼ら以外世界にはもう何もないのだから。





そして(かれら)は幸せに暮らしました。めでたしめでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ