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記念作品シリーズ

皇国戦記10万PV記念作品「ゴルフ」

作者: 尚文産商堂

日本皇国側と欧州連盟側に分かれて戦った戦争が起こった直後、ワシントンに駐在していた皇国大使に連絡が入った。

それは条約に基づいて、中央捕虜情報局を設置したという話だった。

国際赤十字委員会も、この情報局にかかわっているようだ。


「『ジュネーブ第三条約[捕虜条約]』、第123条によって設置されました。このことは、すでに欧州連合側にも連絡が行っているはずですよ」

北米条約連合外務省から派遣された連絡官が、いろいろと知らせてくれた。

「確か、貴国には捕虜科がありましたね」

大使館のすぐそばにあるゴルフ場を回りながら、彼が話した。

「ええ、日本皇国の情報部の中に捕虜科はありますよ」

戦時以外は閑職として知られている捕虜科だが、ひとたび戦争がおこると、すべての情報がそこに集中するために、非常に重要な組織となる。

その捕虜科は、情報部の別の科と共同で任務にあたることが多く、今回は、共通部隊の捕虜科と、それぞれの軍に属している捕虜科の代表者が、中央捕虜情報局へ派遣されている。

「それで、これから忙しくなると思うのですが、どうでしょう、面白いお話でも…」

思わず力んでしまって、スライスしたボールを歩いて追いかけていく。

「どのような…?」

周りに人がいないことを確認して、大使が聞く。

キャディは、今回はつけていないため、その心配をする必要はなかった。

「今のところ、我が国は中立を保っています。表向きは」

「…何が言いたいので?」

「貴国の出方次第では、敵にも味方にもなるということです。さて、前置きはそれぐらいにしまして」

彼は、持っていたゴルフバックからA4サイズの茶封筒を取り出し大使に渡した。

「その中には、我が国が欧州より信頼における情報源よりもたらされた潜水艦の設計図があります。貴国が太平洋戦争中に建造されたイ号より大型であり、原子力電源を搭載、さらには、イージス機能もあり、これは貴国のシーレーンにおける脅威となるのでは?」

微笑みかけながら、彼が話した。

「…なにか見返りを求める気でしょうね」

「あなたの国で開発されたウブスナガミの基礎情報、またはその設計図で十分です。もちろん、欧州に漏らすことはありませんよ」

「ならば、この茶封筒はお返ししましょう。おそらく、設計図はお渡しすることはできませんし、基礎情報自身、私が知ることはできないでしょう」

「それでよろしいのですか?」

彼は、相変わらず、さっきの表情のままで大使を見ていた。

「あなたの国は、海に囲まれている。それゆえに、潜水艦や機雷による海上封鎖を、現実的問題としてとらえる必要があるのでは?とくに、この潜水艦は、あなた方が出会ったことのない新しい種類。太平洋戦争中にあったとしても、現物はすでに失われておりますよね」

「…ウブスナガミの情報は渡すことはできません。どうか、お引き取りを」

大使は茶封筒を彼に渡した。

だが、彼はその封筒を受け取ろうとしなかった。

「ならば、別のものでいいですよ」

「…たとえば?」

「あなた方が持っている軍事兵器、とかは?」

日本皇国は、欧米に先駆けてさまざまな軍事上利用可能な兵器を作り続けていた。

その中でも、通常は衛星として地球周回軌道に乗せ、有事になると隕石として落とすということが可能な衛星を複数配置しており、全世界のどこでも空爆をすることを可能としていた。

通称"衛星爆弾"と呼ばれ、その破壊力は、着弾地点より半径250mは完全に破壊しつくすというものだった。

精度も世界一であり、その誤差は着地予定地点より半径500mとされている。

世界で唯一、日本だけが持っている兵器であり、それにより、今次の戦争は日本側が有利に終わるだろうという理由の一つとされていた。

「…衛星爆弾のことを言っているのでしたら、すでに知っておられるのでは?」

「原理が分かっているのと、それを実行に移すのでは、天と地ほどの差がありますよ」

彼は、ゴルフバックにチャックを閉め、笑っていた。

「技術革新は戦争のたびにとてつもない速度で進みだす、そして、ひとたび終われば、すぐに緩やかになる。我が国は、そのとてつもない速度が普通なだけです」

そう言って、大使は茶封筒の中を見ないままに、彼に押し渡した。

「残念ながら、お引き取りを。それよりも、ゴルフボールが見つかったので、ホールの続きと行きませんか?」

大使は、彼に素振りをして見せていった。

これ以上何をしても情報を渡してくれないと判断をした彼は、茶封筒を再びバックの中に入れて、クラブを取り出した。

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