6.新人推薦会の日の朝
俺の朝はとてつもなく不規則だ。
仕事が忙しかったり忙しくなかったりするからだ。
パーティメンバーと一緒の時はまた更に乱れる。
とてつもなく健康に悪い。
今日は早起きだ。
今日は気分がいいので、おそらくより良い会話ができると思い、鍛冶場に行くことにした。
ギルドハウスから少し離れたところに、『黎明の蒼狼』が独占契約している鍛冶場がある。
ここを契約した理由は主に二つ。
一つがこの鍛冶場でつくられる武器や武具は上級冒険者をうならせるほどの品質を保っているからだ。
もう一つが、俺が武器や武具を作る場所として借りるためだ。
少々歩き、鍛冶場に到着する。
結構早い時間だというのに、鍛冶場からは黙々と煙が出ていた。俺以上の働き者だ。
「親方!!いる?」
「なんだ!!今日は来たんかい!!」
この鍛冶場のボス。ドワーフの鍛冶師。通称は親方。
親方とは独占契約のサインをするときに会った時以来の付き合いなので、割と厳しめなこと言ってくる。
「盛況?」
「おうよ。お前さんのおかげで売り上げが右肩上がりよ」
「ぼったくるなよ?」
「誰に物を言ってんだ?小僧。ん?」
「悪かった」
くだらない小突きあいをしつつ、俺は作業場の方をちらりと見る。
「借りても?」
「聞くまでもないだろう?」
「悪い悪い」
俺は作業場に近づき、人差し指にはめていた指輪を外す。
そして、親方がすっと用意してくれた鉄を打つ。
カァン!!カァン!!表現があっている気がしないがそんな感じの音がする。
というか、俺にその音はあんまり聞えてない。その代わり、別の声が聞こえる。
『・・・!!・・』
『・・!!・・・・!!!・・・・』
突然だが、この世界には『異能』と呼ばれる特殊能力を持つ者が存在する。
その者たちは大体世間から嫌われるし、宗教関係に突き出せば金がもらえる場合もあるなど結構ひどい扱いを受けている。
話の筋からわかる通り、俺は『異能者』だ。
俺の異能は「万物との会話ができる」というものだ。割とくだらない。
使い勝手がいいかと言われるとそうでもないと答えるのが常だ。聞いてくる奴なんていないのだが・・・
なんせ、パーティメンバーにすら喋ったことがない。怖いのだ。宗教関係者もいるしな。
さっき外した指輪がなければ、常に騒音の中暮らしていくことになる。結構苦痛だ。
聞き分けることもできなくはないのだが、それはそれで脳のリソースを食うから嫌いだ。
田舎に住んでた時は「心地いいなぁ、木の葉の声とか面白いなぁ」程度だったのに、大都市に住んでみれば「うるっせェェエエ!!」になるんだからなぁ・・・・
まぁ、いいことも結構あるにはある。例えば、鍛冶師にとっては最高の異能だ。
なぜなら・・・・
『そこ打つんじゃねぇ!!もっと右だ!!右!!』
『痛ってぇなぁ!!もっと力弱めろよ!!力かけ過ぎなんだよ!!』
こんな風に、「どう鋼を打てばいいかが分かる」・・・というより、「教えてくれる」から。
親方が俺の様子にケチ付けて来ないのもそれが理由だ。まぁ、親方の方が腕前が上だし、平均値とれば俺なんて塵芥なのだが・・・・
「そういや数日前、ここらで見ねぇガキがここに来たぞ?」
「・・・・・」
唐突に会話が始まる。大丈夫。聞こえてる。
「「『黎明の蒼狼』に入るんだ。俺の武器を打てることを光栄に思え!!」とか抜かしたガキもいたなぁ。ここがその『黎明の蒼狼』と独占契約してること知らねぇんだろうな。なぁ副団長様よ」
聞かなかったことにできないだろうか?無理か。
「俺はその時寝てたからなぁ」
「・・・・いつものか」
「そう。いつもの・・・・」
俺が過労で数日寝こけるというのは、ギルド関係者の間で知られていることだ。
知ってんなら俺が過労にならないように仕事を振れってんだ!!
「悪かった。まさか一日でどうにかなるとは思わないだろ」
「王国中に伝わり、話題の中身がお前さんのところのギルドとなればそうなるだろうな」
シェア率を上げた理由って何だったけ?パーティメンバーの適当発言が発端だった気がする。
「まぁ、多分何とかなるよ」
「どうしてそう言い切れる?」
「その卵どもを今日、選別するからだ!!」
今日鉄を打ってきた中で一番大きく振りかぶり、鉄に向かって振り下ろす。
『痛ッてぇなぁ!!どこ打ってんだ!!』
そんで鉄に怒られた。