3.理想と現実
さてさて、なぜ俺が王国で知らぬものがいないほどの馬鹿でかギルドの副団長になったのか。
それはさっき見た夢の続きから喋るのがよいだろう。
俺はたくさんの幼馴染と夜空の芸術を見た。
そして願った。「みんなと歴史に残るようなスゲェ奴になる」と。
マジな話をすると実際に何を願ったかは覚えていない。だがそんなニュアンスのことを願った。
そしたら、幼馴染の一人の剣術馬鹿もとい脳が刃物でできている幼馴染が俺の願いに乗ってきた。
元々、幼馴染全員で何かスゲェことをしようとは決めていた。
夢ではだいぶカットされていたが、あのあとみんなで話し合った。
そして決めた。俺たちは冒険者になろうと。
はっきり言って、その選択は絶対に間違ってなかったと思う。
話を戻すと、成人になる少し前のこと、俺たちは親などの世話になった大人に手紙を残し故郷の田舎町からの大脱走を敢行。こうして俺たちは冒険者になった。
パーティ名は、あの日の夜空の芸術からとって『黎明の流星群』となった。
最初はいろいろ迷った。食糧不足で死にかけるという、今ではくだらない笑い話になる死地エピソードなんかは腐るほどある。メンバーの八割が毒キノコを食ったとかな・・・・ハハハハハ。
だが、そんな失敗もありながらも俺たちはめきめきと頭角を現した。俺も多大な成長をこの身で感じていた。あの感覚は一生忘れないし、一生腐らない思い出だ。正直メッチャ楽しかった。
そんな成長途中のあるとき、俺は気づいた。 気づいてしまった。俺の居場所がないと・・・
いや、あるにはあるんだ。みんなができないことを俺は結構できる。たとえば料理とかね。劇物だらけのクソまずスープなどこっちから願い下げだね。ペッ!!
俺の幼馴染たちは超優秀だ。一人一つの分野において隔絶した才能を持っているし、今でもその成長が止まったことは一度もない。終生成長期というべきだろうか。まぁ、はっきり言えば化け物だ。
俺はそんな彼らの才能に何一つ勝てなかった。
俺も確かにある程度優秀だ。それは理解している。じゃなきゃ死んでるシーンがいくらでも思いつく。・・・谷底真っ逆さまとか二度と経験したくないね。
でも、優秀じゃダメなんだ。彼らに勝てる者はないかと必死に探した。
・・・別に仲が悪くなったことはない。普通に彼らの相談にも笑顔で応対したし、彼らにいろいろとコツを聞いた回数なんて片手で数えられないほどだ。
それでもダメだった。何一つとして勝てる点がなかったのだ。
だから、脱退を決意した。脱退して超後衛・・・・みんなの家で「おかえり」っていうくらいの位置を期待していた。
だが、彼らは許さなかった。僕の脱退に真っ向から反論してきたのだ。
語彙力が欠けている脳みそ木剣な幼馴染は「絶対に許さない」と連呼し、いつも笑顔を絶やさない治癒神官の顔がしかめっ面になったのは今でも覚えている。
結果、大喧嘩した。
お互いに罵り合ったからか口論は水掛け論だった。
脳みそ木剣な幼馴染が「表出ろ」といったことが皮切りとなり、「俺VSすべての幼馴染」という不毛もいいところな半殺し合いの喧嘩が始まった。
もちろん、惨敗した。
だが、彼らも俺を力でねじ伏せるのは性に合ってなかったようだ。
結局「過半数のメンバーの出動要請があれば、強制連行」という条件の元、俺は引退した。
引退といっても、人々に話しただけで、冒険者資格の提出などはしなかった。それだと条件が守れないからだ。
勘違いしないでほしいのは、彼らとの関係。今も昔と変わらず、良好な関係だ。
変化があったとすれば、俺を含めて全員に教えられない秘密はあれど、本心をあまり隠さなくなった。
まぁ、それで喧嘩が少々増えたのは言うまでもないだろう。喧嘩するのは昔からの話だから、俺含めてあんまり気にしてない。
そんで、民衆から俺の引退を聞いて、何を血迷ったか、冒険者協会から「ギルド設立」と「副団長就任」の打診が入った。バカだった俺は二つ返事で了承した。「条件」が緩和されるとでも思ったのだろう。今思えば、海千山千の公営機関がそんな甘い蜜を差し出すわけがないのだ。
ギルドの設立はとんとん拍子で進み、ギルドに入りたがるパーティは日に日に増えていった。まぁ、俺たちのパーティも結構有名だった・・・・「悪名高い」という枕詞が付くときもあるが・・・・
ギルドで一番驚いたのは、ヒヒイロカネ級冒険者の団長就任だな。あれは終生トップファイブに必ず入る。
徐々にギルドが大きくなった。
で、今に至る。