1.瞬きの間の追憶
よろしくお願いします
風が笑っている。
木の葉が笑う風を乗りこなしながら踊り、歌っている。
雲は歌う木の葉を興味なさげに見てあくびをしている。
宙は怠惰な雲に何も言わずにただ黙っている。
俺・・・僕はたくさんの幼馴染と一緒に丘の上で寝そべりながら、夜明け近くの夜空を見上げている。
「まだかな?まだかな?まだかな?」
この中で誰よりも足が速く、二か月前から今夜を待ち望み続けていた一人は多大な期待が伴っている声を上げる。足や腕を振り回しているせいで、彼女の隣にいる僕に当たる。正直すごく痛い。
「遅い!!遅い!!」
この中で誰よりも腕っぷしが強く、夜への期待が大きすぎて昨日の昼に唯一昼寝ができなかった一人が、少々の怒りを含んだ声を上げる。少しだけうるさい。
「あれがあれで、それがそれで、これがこれ」
この中の誰よりも知識を持つ一人が、ソレが来るときまで知識を総動員して暇つぶしをしていた。詳しく聞く気はないけど、彼女の発言はどれもこれもすごい抽象的だ。
「~♪♪~」
この中で誰よりも魔術の才能がある一人が、少し音程が外れた鼻歌を歌いながら氷の彫像を作ってソレが来るまで暇つぶしをしていた。花の氷像だ。あとでもらえないかなぁ?
風の音のほかにカンカンと音がする。この中で誰よりも「剣が俺のすべて!!俺のすべてが剣だ!!」という意味の分からない言葉が口癖な一人が寝そべりながら丘の先にある大木に向かって木刀を当てていた。
この中で誰よりもかくれんぼがうまい子は、この中で誰よりも大きく守るのが上手な子の腹の上で寝ている。腹の上に少女を乗せている子もまた寝息を立てながら寝ている。
この中で一番回復魔法が上手な子が隣で寝ている二人にちょっかいをかけ、苦笑していた。
僕は・・・・みんなができることがちょっとずつできる。それだけだ。みんなはそんな僕をバカにすることはない。とても心地がいい。
そして、僕は先ほどからずっと閉じていた目を開き、夜空を見上げた。
その時は、唐突に訪れた。
日の出が近い夜空は少しだけ明るかった。そんな夜空にきらっと動く何かを見つけた。
僕は思わず叫んだ。
「来た!!」
僕の声を聴いたみんなはいっせいに夜空を見上げた。
そして、僕らは見た。夜空に浮かぶ神秘的な芸術を。
『クインクェ流星群』。25年に一度見れる星空の芸術。
これを見るために僕たちは苦労した。
僕たちが住む田舎にはその流星群に関する本が少なすぎた。
だから、みんなで協力して日付を特定した。大人たちはみんな信じなかったけど、僕たちは僕たちが出した結論を信じて今日、集まったというわけだ。
「きれ~い!!」
「スッゲェ!!」
「うおぉ!!」
「「!!!!」」
「ふぉああぁ!!」
「25,31、45・・・・」
「おぉ!!」
反応は十人十色。かくいう僕もこの芸術をみて絶句している。
『・・・・・』
『・・・・・・・・』
『・・・・』
『・・・・・・・・・・』
流星が何かを叫んでいるが、何を言っているかが分からない。
「すべて斬る!すべて斬る!!すべて斬る!!!くそー!!」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
急に木刀を持った一人が三回叫んだあと、非常に悔しそうな顔をしながら叫んだ。
「何してるの?」
彼を除くうちの一人が、すっごい形容しがたい顔をしながら叫んだ彼に問う。
「知らないのか?一つの流星が消える前に三回願いを言えればその願いが叶うらしいぜ?」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
そういえば彼は、みんなで集めていたほんの一冊を注意深く読んでいた。その本に書いてあったのだろう。
彼の発言を聞いたみんなの反応はとてつもなくわかりやすかった。
「速くなりたい速くなりたい速くなりたい!!!!!!」
「魔法を覚えたい魔法を覚えたい魔法を覚えちゃい!!!あっ!!」
「筋肉筋肉筋肉!!パワァァァァ!!!!!!!!」
「キメラキメラキメラ!!!あぁ!!」
「・・・・!!・・・!!・・・・・・!!!あぁ・・・・」
「守護魔法と身長、守護魔法と身長、守護魔法と身長!!!!よし。」
「赤ちゃん赤ちゃん赤ちゃん!!むりぃ!!」
なんか変なのが混ざっていたような気がする・・・・まぁいいか。
僕もやろう
「○○○○〇、○○○○〇、○○○○〇!!よしっ!!」
その後も、みんなは星の芸術そっちのけで、たくさん挑戦してたくさん叫んだ。
そして、流星群が終わった。
剣が大好きな子が一番に立ち上がった?
「お前ら出来たか?」
「むりぃ!!」
「出来たぜ!!」
「まぁ何とか」
「・・・無理だった・・・・声が小さい」
「できなかったです」
「できたぁ!!」
「できたぞ」
「お前はどうなんだ?エル」
彼は僕にも聞いてきたので素直に答える
「僕もできたよ」
その言葉を聞いてみんなが僕の方を見る。
「なんて願ったんだ?」
「○○〇○○!!」
あれなぜだろう?
ちゃんと喋ったはずなのに、しゃべった言葉を認識できない。
「そりゃいいな!!」
「それいいね!!」
「すごくいい!!」
「うんうん」
「・・・・いいと思う」
どうやら彼らには聞こえていたようで、僕の言ったことをすごく肯定してくれる。でもごめん。僕は何て喋ったか覚えてない。
「なら今のうち決めた方がいいんじゃないか?」
「そうだね。どういう名前にしようか?」
「今日の出来事を名前にすればいいんじゃな~い?」
「「「「それいい!!!!」」」」
僕が心の中で謝罪しているうちに話が進んでしまった。
「じゃあ何て名前にしようか?」
「今の時刻は・・・・夜明けですね」
「夜明けはなんかいや~!!」
「なら、○○にしましょう」
「決定!!!!」
「でもそれだけじゃ変じゃない?」
「そうか?」
「我も変だと思うぞ!!」
話が追いついた。
何かの名前を決めているようだ。でもなぜだろう?僕にはこれ以外ありえないというまるで未来がい待っているような絶対の答えがある。
「ねぇ、みんな」
そんなことを考えているうちに、僕は・・・俺はその答えを発表する。
「『○○○○〇』なんてどう?」
皆がはっとした表情をする。
そして、一斉に叫ぶ。
「「「「「「「それだ!!!!!!!!!!!」」」」」」」
皆の合わさった声は、俺の耳がつんざくほどの大声。
そこから俺の意識が揺れる。
その間も俺の幼馴染たちは話を続けている。
「どうすれば達成できるかな?」
「たとえ・・・・」
「それ・・・・・」
「え、・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
そして、俺の意識が途切れた。