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罠猟師のおっさん、罠が通じず
三日後の夜。
森の奥で、鳴子が“鳴らなかった”。
「……おかしいな」
健一が巡回していた罠域の東側で、異様な気配が立ち込めていた。
足音も、風も、鳥の声もない。
空気が張り詰め、まるで自然そのものが息を潜めているかのようだった。
突然、バキンッ!という破壊音。
「……!」
駆けつけた健一が見たのは、破壊された《落とし穴》と、折られた鳴子の支柱。
しかも、足跡がない。
(“飛んで”やがる……!)
音も気配もなく空を飛び、罠を無視して接近する魔物。
その姿を、討伐隊の斥候が目撃していた。
「黒い羽を持った四足獣。まるで影が具現化したような……やつです」
その魔物は、《黒影獣》と呼ばれた。
高い知能を持ち、動きも素早く、しかも罠の場所を認識して迂回する。
健一の罠が通じない初めての相手だった。
「つまり……普通の“獣”じゃねぇってわけか」
罠猟師・佐藤健一、ここにきて最大の壁にぶち当たる。