罠猟師のおっさん、酔いどれ知らず
その夜。
罠の成果を祝って、村の広場ではささやかな宴が開かれた。
焚き火を囲み、焼いた獣肉と、果実酒が配られる。
健一も例に漏れず、木のカップに注がれた酒をぐいっとあおった。
「ぷはーっ! くぅ〜〜〜〜〜〜! ひっさびさのアルコール!!」
普段どこか控えめな健一の声が、やけにでかい。
「この香り!この喉越し!文明!いや酒造文化最高ッ……!」
隣にいたリーナが吹き出す。
「な、なにそれ!さっきまであんな静かだったのに!」
「ふふふ……猟師ってのはな……山じゃ孤独との戦いなんだ……。喋る木、喋る罠、喋る空気……俺ぁ酒がないと正気を保てん体なんだよ……!」
「いや嘘でしょ!? 正気じゃないの!? 普段から喋ってないの!?」
「ちなみに俺の得意技は“しゃべり罠”だ!喋って油断させてから落とす! ハッハー!」
「ぜったい罠よりしゃべりのほうがヤバい!」
リーナが笑い転げる。
健一は焚き火を見つめながら、ちょっと真面目な顔になった。
「……でもな、リーナ。誰かが笑ってくれるってだけで、猟師なんて救われるもんさ」
リーナは、はっとして目を見開く。
「俺さ……人の役に立つなんて、自分にゃ無理だって思ってた。でも、あんたが“助けて”って言ってくれてさ……なんか、うれしかったんだよ。……だから、ありがとな」
「……こちらこそ」
しばらく、焚き火のパチパチという音だけが響いた。
そして──
「よっしゃあああああ!! 二杯目いくぞおおおおぉぉぉ!!」
「台無しすぎるーーー!!」
その夜、健一はリーナと一緒に、酒と笑いと焚き火の煙に包まれながら──
ほんの少しだけ、この異世界を“居場所”だと思った。