罠猟師のおっさん、日本へ帰る
闇を封じた結晶を手にした健一は、森の出口で足を止めた。
──その瞬間、脳内に再びあの声が響く。
《メインクエスト完了。転送を開始します》
「……転送?」
問い返す暇もなく、視界が白く染まった。
足元の感触が消え、風も匂いも音もなくなる。
目を開けると、そこは……
「……え? 俺の山小屋?」
見慣れた木の壁、釘の曲がった道具掛け、焚き火跡のストーブ。
だが違和感があった。外の空気が妙に澄み切っていて、どこか現実離れしている。
ポケットには結晶がそのまま入っていた。
手の中に冷たい感触を感じた瞬間──再び声が響く。
《転生特典:ステータス機能を保持しました》
《現代フィールドを解放しました》
「……現代フィールド?」
健一が山小屋を出ると、そこは見慣れた日本の山林……のはずだった。
しかし、獣道の奥に見えるのは、見たこともない巨大な影。
鹿のようだが、角は枝分かれし、身体からは微かな黒い霧が立ち上る。
《サブクエスト発生:異界獣の討伐》
健一は、思わず苦笑した。
「……ったく、帰ってきても狩りかよ」
腰の罠袋を締め直し、矢を番える。
かつて異世界で学んだ技と、この世界で培った経験──
二つを合わせた「現代版の罠師」が、いま動き出した。
ここから先は、もう異世界でも現実でも関係ない。
ただ一人、獲物を狩る者として──