罠猟師のおっさん、獲物を狩る
闇を狩る罠
闇の人型は、四本の腕を広げ、まるで霧のように形を変えながら健一たちを囲い込んだ。
その速度は、健一がこれまで相手にしてきたどんな獣よりも速い。
第一段階の囲い罠は、杭ごとねじ切られて無効化された。
「……やっぱり正面からは無理か」
健一は低く呟き、網縄を手繰る。
その指先は冷静だが、額にはじっとりと汗がにじむ。
闇の影がリーナに迫った瞬間──ルガが跳び込んだ。
しかし、その前脚は鋭い腕に貫かれる。
「ルガッ!」
リーナが叫ぶが、ルガは血を吐きながらも影を噛み離さない。
「行け……罠師……」
健一の脳裏で、何かが閃く。
罠は“生きた駒”も利用できる──そう教えてくれたのは、この世界で学んだ仲間たちだ。
「……わかった。ルガ、少しだけ耐えろ!」
健一は腰の道具袋から最後の仕掛け──三重連動罠を取り出す。
一つ目は、地面の下に仕込んだ魔力封じの檻。
二つ目は、その上に吊るした大岩。
そして三つ目は、大岩の落下を合図に作動する火薬仕掛けの爆裂矢。
影がルガを振り払った瞬間、健一は鳴子の縄を全力で引いた。
《チリリリッ!》──音が響き、足元の地面が崩れる。
影が落ちる。
直後、頭上から岩が落下し、檻の中に押し込む形で蓋をする。
闇の体が檻に触れた瞬間、全身から黒い霧が吹き出した。
「ぐっ……この檻……動け……!」
「まだ終わりじゃねぇ!」
健一は弓装置の引き金を引く。
岩に仕込まれた火薬が連動し、四方から爆裂矢が突き刺さる。
轟音と閃光。
黒い霧が四散し、影は耳を裂くような悲鳴を上げた。
「……これで……終わりだ」
爆煙が晴れると、そこにあったのは、ただの小さな黒い結晶。
健一はそれを拾い上げ、深く息を吐いた。
ルガがよろよろと近づく。
「……見事だ……罠師」
健一は苦笑しながら、結晶をリーナに渡す。
「こいつが闇の源だ。……村は、もう襲われねぇ」
リーナの頬に涙が伝う。
「ありがとう……健一さん」
夜が明け、森に光が差し込む。
腐っていた土が少しずつ色を取り戻し、鳥たちの声が戻ってきた。
健一は道具袋を背負い直し、静かに呟く。
「よし……次の獲物を探すか」
そして彼の瞳には、また新しい狩りの炎が宿っていた──。
──完