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罠猟師のおっさん、手懐ける



黒影獣の呻き声が、徐々に細くなっていく。

夜の静寂が戻り、ただ満月だけが戦いの跡を見下ろしていた。


健一は息を整えながら、矢の刺さった脚を慎重に確認する。

矢には返しがついており、容易には抜けない。獣が暴れれば暴れるほど、出血は増える。


「……もう大丈夫だ。息はあるが、もう立てやしねぇ」


リーナが駆け寄る。

「でも、このままじゃ……!」


「殺す気はねぇよ」

健一は腰から小瓶を取り出し、傷口に振りかけた。白い煙が上がり、肉がじわりと閉じていく。

「村を襲う理由があるかもしれねぇ。まずは話を聞く……まあ、話せるならな」


村人たちがざわつく。

「話す? 魔物が?」

「お頭、正気か……?」


健一は肩をすくめた。

「この世界、俺が知ってる常識じゃ通用しねぇんだ。試す価値はあるだろ」


すると、その場の空気が凍った。

黒影獣の口がわずかに開き、低い声が漏れる。


「……人間……わたしの森を……なぜ、奪う……」


リーナが目を見開いた。

「しゃ、喋った……!」


健一はゆっくりとしゃがみ込み、獣の瞳を覗き込む。

「俺たちは森を奪っちゃいねぇ。だが、お前が村を襲えば、村は生き残れない。……交渉しようじゃないか」


獣はしばらく沈黙し、やがて首を垂れた。

「……森の奥……闇が広がっている……それが、わたしを狂わせた……」


健一はリーナと視線を交わす。

闇──それは魔王が死んだ後も、まだこの世界に残る脅威なのかもしれない。


「……わかった。その闇を調べる。だが条件がある。もう村を襲わないって誓え」


黒影獣は、かすかな声で答えた。

「……誓う……人間の……罠師よ」


健一は立ち上がり、村人たちに向けて言った。

「こいつは敵じゃなくなった。……仲間になるかもしれねぇ」


村は驚きと戸惑いに包まれたが、リーナだけは嬉しそうに微笑んだ。

「健一さんって……やっぱりすごい人だね」


健一は頭をかき、空を見上げた。

満月の光の下、黒影獣の背で揺れる影が、どこか誇らしげに見えた。


──そして翌朝、健一たちは森の奥、闇の源へと足を踏み入れる。

新たな狩りの始まりを告げる、罠師の目が静かに光っていた

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