罠猟師のおっさん、捕獲する
その夜。
満月が輝き、風も鳴らぬ森の中。
“それ”は来た。
黒い影が音もなく降下し、村の外れにあるミリ樹へと向かう。
だが──次の瞬間、足元でパチッと鳴子が跳ねた。
《チリリッ……!》
音が空へと響き、隠してあった跳ね罠が自動で発動。
黒影獣は身をひねって回避──だが、その動作を読み切っていたかのように、横から丸太が激突。
「一撃じゃ無理だ……!次だ!」
村人が引いたロープで、森の奥の枝が跳ね上がる。
振り子状に吊るされた火のついた籠が宙を舞い、影を照らす。
「目を焼け……!」
黒影獣が顔をそむけた一瞬、健一が引いていたメインの《連動弓装置》が作動する。
ギュイン──シュッ!
放たれた石矢が、黒影獣の右前脚を貫いた。
ガァアアッ!
黒い影がのたうち、罠域へと転がり込む。
その足元には、村の子供たちが仕込んだ最後の《杭罠》。
ズブッ!
杭が脚に突き刺さり、黒影獣はついに、地に伏した。
「……よし……ッ! 落ちた!!」
健一は叫び、村人たちが歓声を上げた。
リーナはその中で、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「……お父さん、見てた……? この人、すごいよ。罠だけで、魔物を……!」
無口な父・ガルドは黙って頷き、健一の肩を軽く叩いた。
「……師匠、だな」
「ちょ、やめろって! それ流行らせんな!」
そう言いながらも、健一の頬は照れくさく緩んでいた。